「ジャンルがわからない」=褒め言葉
──「One coin advice」は僕の中で前半のハイライトです。大橋さん独特の折衷感というか、ジャンルがなんなのかもはやわからない。
ありがとうございます。うれしいですね。褒め言葉です、それは(笑)。
──イントロがすごくジャジーで、ビートが打ち込みっぽい。
ドラムは全部打ち込みです。デモを作ってるときは打ち込みを使うことがけっこう多いんですよ。「One coin advice」はなんでこうなったか、きっかけは覚えてないんですけど、面白くなったから「ロックじゃないけどな」と思いながらディレクターに送ったら「いいね、聴いたことないね」と言われて、「じゃあこれも入れましょうか」と。
──高木大丈夫さんがギターで参加されていますね。
ちゃんとジャズギターを弾ける人に入ってもらおうかなって。「HONEY(2026)」にペダルスティールを入れてもらったので、「ついでだから、これも弾いてって」と。聴く人が聴けば、Pat Metheny Groupが打ち込みをやり出したアルバム(1995年発売の「We Live Here」)っぽいと感じる人はいると思います。大好きな時期なんで。あとは、ちょっと細野(晴臣)さんライクなゆるボーカル、みたいな。
──次の「Lady Cinema」も素晴らしいです。僕のイメージではジャズファンクなんですが。
ですよね。僕の大好きなジャンル、四つ打ちのアフロ。最初、ファイル名は「アフロ」でした(笑)。
──アフロというと、フェラ・クティなんかのイメージですか?
最近、昔のソウルをすごくおしゃれに盛り込んでる人がけっこういますよね。Khruangbinとか。フジロックで観ましたけど、方向性はそれかなって。この感じで僕が一番好きなのはShakatakなんです。
──おー。まさにジャズファンクですね。
彼らはピアノでメロディを奏でますけどね。Shakatakは自分の音楽を語るうえで外せない存在です。父親がいつも大音量で聴いてました。ドライブソングのキングですね。1stアルバムの「Drivin' Hard」が、ジャケもタイトルも完全にドライブなんですよ。「Lady Cinema」もドライブソングとして聴くと気持ちいいと思います。免許を持ってない人に「この曲を車で聴くために免許取ってください」と言いたいぐらい。ドラムが気持ちよく録れたので大満足ですけど、ロックかどうか、論争の余地はあります(笑)。
「A BAND」楽器のMVPは
──「水中のメトロ」は唯一の3ピースということでしたが。
3ピースというテーマを真面目に守った曲ですね。「ピアノだったらなんとかなるかな」と絞り出して。本当はギターで3ピースが理想だったんですけど、僕はギタリストではないんだな、と改めて思いました。
──大橋さんにとって何が一番エッセンシャルな楽器ですか?
幅広くやれるのはピアノですけど……エレキギターではないですね。アコギはもしかしたらピアノより得意かもしれないな、とか思いますけど、曲を作るときは結局、最近は鍵盤を使います。キーボーディストとは言えないし、ピアニストと言うのはおこがましいけど。
──いろんな楽器ができるから、そのときどきでこだわったり凝ったりするものはありそうですよね。この曲ではドラム、とか。
それで言うと今回、「水中のメトロ」は違いますけど、ウクレレベースをたくさん使ってます。ウクレレぐらいのサイズのゴム弦のアコースティックベースなんですけど、ライブで使ってみたらめちゃくちゃよくて。ウッドベースみたいな、でももうちょい粒がちゃんと見える感じの音で、ローもすごい気持ちいい。今作の相棒、MVPはこいつです。ベースっていつもドラムとの棲み分けに苦労するんですけど、今回は好みのところにそれぞれ存在してくれてますね。
──次の「ドアーズ」にはTocagoのお二人(沖ちづる、森飛鳥)が参加されているほか、作曲が神谷さんとの連名になっていますね。
デモの段階でメロがなくて、トラックだけできちゃったんです。「ダサいメロしか思いつかないから、とりあえずこれだけ送ります」とディレクターに送ったら、それを神谷が聴いて「いいじゃないですか」と言うので、神谷にメロを入れてもらいました。「俺もう時間ないから、この曲は任せるから勝手にやって」って(笑)。
──最近のアメリカのインディーフォーク / ロックみたいな雰囲気ですよね。赤い靴(神谷と東川亜希子の音楽制作ユニット)っぽさも感じるような。
神谷、オルタナ少年なんで。けど、意外にこぢんまりと「従来の大橋トリオの1曲」みたいな感じでまとめてきたんですよ。「神谷がやるんだったらこういうことじゃないでしょ。もっとオルタナ感出してこうぜ」と言って、時間ないのに家まで行って、一緒にミックスしてこうなりました。
──そして「HONEY(2026)」。大丈夫さんのペダルスティールが入って、元バージョンとはだいぶ変わりました。
ペダルスティールの曲ですね、これは。曲を書き出すとき、あるトラックをミュートしてたのを外し忘れる、ってことがたまにあるんですけど、そのケースじゃないかって思うぐらいペダルスティールばっか目立ってる。「あれ? もうちょっとほかの要素なかったっけ? まあいいか」と(笑)。
大橋トリオに満足せず、違うことを取り入れて
──今回もいいアルバムになったんじゃないかと思いますが、ご本人的にはいかがですか?
結果、粒ぞろいにはなったと思いますけど、すごく苦しんで作りました。とにかくテーマに苦しめられたというか、「これじゃないよな、これでもないよな」っていう。テーマがないとやりがいもないので、あったほうがいいのは間違いないんですけど。締切もそうじゃないですか。苦しいけど、ないとやる気が起きない。
──おっしゃる通りです(笑)。今回も作詞家陣が多彩ですね。歌詞は前作あたりからすごくよくなったと個人的には思っています。抽象性の高い言葉が大橋さんの声に合っている気がするので。
これでも「もうちょっとテーマがないと」ってやりとりをめちゃくちゃしたんですよ。羊毛とおはなの市川(和則)くんが書いた歌詞はほぼほぼまんまですけど、コジちゃん(kojikoji)とかKitriちゃんとは「結局これ、テーマは何?」みたいな話をだいぶしましたね。「Lady Cinema」を作詞したRed-Tは今回もコンペで参加が決まりました。言葉遊びみたいな曲なんで、それをちゃんと理解して作ってくれてるなと。これは僕の中で重要な曲だと思っているので、さらにアップグレードするために、相当詰めましたけどね。
──Red-Tさんがコンペで採用された、前作(2024年「GOLD HOUR」)収録の「空とぶタクシー」がよかったから発注したわけじゃなくて、今回もコンペだったんですね。
曲の毛色が違いますしね。こういう曲ってあんまりないような気がするんですよ。
──前作の「季節によせて」もそうでしたが、ソウルっぽい曲と言ってもなんだかんだ大橋さんらしい曲になりますよね。
やっぱりこの制限だらけの声のせいじゃないですか?(笑) それによってメロの幅も決まってくるので。
──ほかのアーティストに曲を書くときはそういう制限は外れますか?
そうなんですけど、意外と音域で言うと僕、広いんです。裏声がけっこう高いとこまで出るし、低い声もめっちゃ出る。だから「これぐらいで作っときゃ大丈夫かな」と思って作ったら、意外と皆さんそれより狭かったりします。
──女性の声域だと低いところが難しいですもんね。
キーを変えればいい話でしょ、ってわけにもいかないことが多くて、メロを変えなきゃダメか、みたいな。
──最初にインタビューしたときから再三おっしゃっていますよね。声が音楽性を決めていると。
声だし、歌唱力と言っちゃってもいい気がします。張る歌をトレーニングしてないんですよね。それをしてこなかったのが自分のダメなところだけど、結果オーライとも言えるのかな。
──これは伺ったことがない気がしますが、ボーカリストとして影響を受けた人っていますか?
玉置浩二さんみたいに歌えたら気持ちいいだろうな、とは思いますけど……。カラオケの十八番は「メロディー」ですから。
──それは聴いてみたいな。日本には大橋さんのような歌い方のシンガーは少ない気がします。
J-POPは歌謡曲として成立しないといけないですから、もうちょっと歌い上げるスタイルになりますよね。僕の場合「自分の声でも歌えそう」という意識が入ってきちゃうんで、影響を受けた人はいないんですよ。自分を突き詰めるしかない。
──さっきライブのことを心配されていましたが、6月からはホールツアーが開催されますね。
歌のハードルが高い曲が増えちゃったんで、マジでボイトレに行かないと、と思ってます。大橋トリオがずっと大橋トリオじゃいけないと僕は思っているんですよ。何か違うことを取り入れていかないと。パフォーマンスできて、お客さんが来てくれるうちはがんばるつもりです。
公演情報
ohashiTrio HALL TOUR 2026 -A BAND-
- 2026年6月11日(木)宮城県 若林区文化センター
- 2026年6月13日(土)北海道 札幌市教育文化会館 大ホール
- 2026年6月19日(金)大阪府 NHK大阪ホール
- 2026年7月9日(木)岡山県 岡山芸術創造劇場ハレノワ 中劇場
- 2026年7月11日(土)福岡県 福岡市民ホール 大ホール
- 2026年7月24日(金)愛知県 Niterra日本特殊陶業市民会館 ビレッジホール
- 2026年7月31日(金)東京都 NHKホール
プロフィール
大橋トリオ(オオハシトリオ)
2007年にアルバム「PRETAPORTER」でデビュー。ボーカル、さまざまな楽器演奏、作曲、編曲など1人で何役もこなすマルチプレイヤー。シンガーソングライターとしてコンスタントに作品を発表する傍ら、テレビドラマ、CM、映画音楽の作家としても活躍しており、代表作には映画「余命1ヶ月の花嫁」「雷桜」「PとJK」の劇伴や、NHK土曜ドラマ「探偵ロマンス」の音楽などがある。近年は上白石萌音やlily(石田ゆり子)らの楽曲のプロデュースも担当。2026年3月に17枚目のフルアルバム「A BAND」をリリースした。
大橋トリオ ohashiTrio Official Website





