これはあんまり言わないほうがいいんですけど……
──それと今作は歌がすごくよくなった気がします。
マイクがいつもと違うからかもしれないですね。そうすると歌い方も変わるんですよ。モニターで聞こえてくる音が違うから。あ、でもそうじゃない曲もあるな。なんでしょうね。ここ2、3年ぐらいで「歌は大事だな」っていうモードに変わったのは大きいかなと思います。前作でもそういうふうに言っていたけど、そこからさらに増している気がするので、そうかなと思いますね。
──さらに色っぽくなっている感じがしますよ。
フフフ……何かあったんですかね?
──何かあったのか僕が聞きたいです(笑)。
何もないはずなんですけどね(笑)。
──去年の10月にお話をうかがったとき、「気持ちを込めよう、言葉をちゃんと言おうという意識で歌に取り組むようになった」とおっしゃっていましたよね。「STEREO」で特に気持ちを込めて歌った曲やフレーズはありますか?
「birth」とか「スノーマン」とか、メロウな曲はだいたいそうですね。これはあんまり言わないほうがいいんですけど、自分で歌詞を書いていないので、あんまり思い入れることができないというのが正直なところでして。それくらいの距離感がちょうどいいのかなと思いつつ、それではいかんなと思ったりもしますけど、ずっとこの感じでいくんだろうなと。曲自体が重い方向にシフトしているということでもないし。
──僕はそのことはむしろいい方向に働いている気がするんですよね。
ツアーを回るじゃないですか。去年は19カ所回ったから、単純計算で19回歌うわけです。リハーサルとかも入れたらそれどころじゃない回数ですよね。その過程で自分の中で消化していける部分があるんですよ。ひとツアー回って、やっと自分の曲になるみたいな。今回はわかりやすい歌詞が多いかな。
──それもストレートだと感じた理由なのかな。
そうかもしれないですね。
ライブをやると、少しだけど自信が持てる
──その比重の大きい音楽の構成要素について、前回のインタビューでお訊ねしたとき、「メロディ、コード、グルーヴ、あと音質」とおっしゃっていました(参照:大橋トリオ「鳥のように」インタビュー)。
その中でも音質をすごく大事にしていますね。音質がいいとグルーヴがよくなるので。メロディはその次。だから音質はかなり上です。ただ今回は、そこまで音質にはこだわっていなくて。ソフトウェア音源のピアノをそのまま使っているのもあるぐらいですから。でも意外と気にならないんですよね。音質の部分はクリアできていて、もっとよくしたいと思わなかったからそのまま使ったんだと思うので。デモの段階からいい塩梅で作れていたんだろうなって。
──大橋さんって、理知的に緻密に音楽を組み立てて作っているようなイメージがあるんですけど……。
勢いでしかやってないですね。組み立てるなんてことは一切ないかもしれないです。今回に関しては、時間がない中での爆発力がすごかったのかもですね(笑)。この時間でやり切らなきゃいけないっていう縛りがあるから、最初に弾いたやつがイケてるみたいな。そういうケースが多い気はします。
──なるほど。火事場の馬鹿力アルバムみたいな?
そう……そうです!
──それでいいんですか?(笑)
でもその言い方だとお客さんにはよく聞こえないですよね。「要は適当に作ったってことでしょ?」みたいな。
──そんなことはないわけですからね。
でも、今回勢いで作ってみて、音楽ってこういうことでいいのかな、とも思いました。当然ちゃんと考えてやっていかなきゃいけないんだけれども、それがすべてではないなと。勢いで出てくるものこそアーティストの作品だな、と。なんてカッコいいことを言ってみましたけど、やっぱり違うかなとどこかで思いながら。
──大橋さんが「STEREO」で解禁したことは何かありますか?
んー……パッション? 瞬発力ですかね。頭を固くしすぎずにいく。
──最後に、大橋さんは「ありきたりのJ-POPとは一線を画したい」とおっしゃる一方で、「自分はJ-POP歌手だ」みたいな意識も強いですよね。その葛藤みたいなものをどう解消していらっしゃいますか?
ライブをやると、「自分は自分だな」ってすごく感じるんですよ。少しだけど自信が持てる。「自分がやっていることは間違ってないんだな」という確認作業になるんです。今はバンドのメンバーも最高なので、それがグレードアップしている最中ですね。自分がやっていることが何ひとつ苦しくないし、僕自身もメンバーやスタッフやお客さんのおかげでだいぶ丸くなったと思います。いい人でいなきゃいけないということは前から常に意識しているんですけど、でもアーティストとしてはこだわりがないといけない。その住み分けがうまくできているんじゃないのかなと。皆さんのおかげです、本当に。
- 大橋トリオ「STEREO」
- 2018年2月14日発売 / rhythm zone
-
[CD+Blu-ray]
5400円 / RZCD-86480/B -
[CD+DVD]
5076円 / RZCD-86479/B -
[CD]
3240円 / RZCD-86481
- CD収録曲
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- VENUS
- Embark
- タイミング
- 面白きかな人生
- SHE
- 双子の約束
- birth
- STEREO
- スノーマン
- 鳥のように
ボーナストラック
- SHE -SIRUP Remix-
- Blu-ray / DVD収録内容
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ohashiTrio 10th ANNIVERSARY SPECIAL CONCERT "TRIO ERA" 2017.12.08 at TOKYO INTERNATIONAL HALL
スペシャルゲスト:持田香織(Every Little Thing) / 布袋寅泰
- はじまりの唄
- SHE
- Baumkuchen
- マチルダ
- バンドメドレー(摩天楼バタフライ~GOLD FUNK~CLAMCHOWDER~Happy Trail~僕らのこの声が君に届くかい)
- トリドリ
- A BIRD
- 静かな夜
- 宇宙からやってきたにゃんぼー
- Fairy
- 月の裏の鏡
- 鳥のように
- Battle Without Honor Or Humanity
- バンビーナ
- Embark
- MAGIC
- アネモネが鳴いた
- HONEY
- Bing Bang
- 生まれた日
VENUS (music video)
- 大橋トリオ(オオハシトリオ)
- マルチプレイヤー大橋好規によるソロプロジェクト。音楽大学を卒業後、2003年に映画「この世の外へ クラブ進駐軍」にピアノ演奏とビッグバンドアレンジで参加。その後も映画やCMの音楽制作や楽曲提供、サポート演奏などで幅広く活躍する。2007年に大橋トリオ名義のアルバム「PRETAPOTER」を発表し、2009年にはミニアルバム「A BIRD」でメジャーデビュー。以降もコンスタントに作品をリリースし、2010年3月にカバーアルバムシリーズ「FAKE BOOK」をスタートさせた。2017年には活動10周年を記念し、3カ月連続で配信シングルをリリース。第1弾として8月にキリン「淡麗グリーンラベル」のCMソング「SHE」、第2弾として9月に本人役で出演している映画「AMY SAID エイミー・セッド」のテーマ曲「AMY SAID」、そして第3弾として10月にTBSテレビ系「世界遺産」のテーマソング「鳥のように」をリリース。12月に活動10周年記念ライブを東京・東京国際フォーラム ホールAで行った。2018年2月にニューアルバム「STEREO」発売。