大橋彩香「Étoile」「Be My Friend!!!」インタビュー|アコースティックとメタル、対照的な2作品で見せる魅力 (2/3)

大橋家も推している曲です

──続く2曲、「バカだなぁ」(2018年5月発売の2ndアルバム「PROGRESS」収録曲)と「NOT YET」はいずれも失恋ソングです。なおかつメインの楽器もアコギからピアノになっていて、やはり歌詞の内容とアレンジの方向性に統一感があるように思います。個人的な話ですが、僕は「バカだなぁ」の原曲を聴いたとき、ボーカリストとしての大橋さんの株が爆上がりしたんですよ。

あっ、そうなんですか? うれしい。「バカだなぁ」はファン人気もすごく高くて、最初に「Étoile」の収録曲が発表されたときもファンのみんなが「『バカだなぁ』入ってる!」と盛り上がってくれて。大橋チーム内での人気も高いので、絶対に入れる気でいました。

──そのアコースティックバージョンはピアノ伴奏のみで、アレンジは西村奈央さんですね。

最初の会議のときから「『バカだなぁ』はピアノでしょ!」と、早々にホワイトボードに「ピアノ」と書かれていたのを覚えています。アレンジの西村奈央さんは、以前「アニソン・アンプラグド」という音楽番組で私が歌った曲のアレンジと伴奏をしてくださった方で。そのときすごくエモーショナルなピアノを弾いてくださったのをよく覚えていたので、私が「『バカだなぁ』のアレンジは奈央さんがいいです!」とお願いしたんです。そしたら本当に素敵な、感情が波打つようなピアノを今回も弾いてくださって、その波に身を委ねるようにして歌わせてもらいました。

大橋彩香

──原曲以上に没入感のある歌声だと思いました。ちなみに普段のレコーディングでも楽器の音に刺激を受けるタイプですか?

受けます。特にリズムとか音の強弱とかキメの感じとかは、オケに合わせるの大好きマンなのでめちゃめちゃ気にしますね。だからこの「バカだなぁ」も、ピアノ演奏の盛り上がりのおかげでこうなったと言ってもいいかもしれません。

──そして次が大橋さん最推しの「NOT YET」ですね。アレンジは「Lumière」で「ワガママMIRROR HEART」を担当された村山☆潤さんで、ピアノとチェロで重厚かつドラマチックに仕上げています。

めちゃくちゃいい。展開が多くて、ミュージカルみたいなストーリー性のあるアレンジがすごく刺さりましたし、リズムの変化とかでこんなに表情が変わるのかと驚きましたね。デモの時点でバチバチにキマった音源をいただいたので、特にこの曲はオケのリズムを気にしながら録っていて。ぴったり合わせていこうと、事前にスタッカートとかグッと溜める感じとか全部メモってからレコーディングに臨みました。

──僕はアコースティックバージョンの「NOT YET」を聴いて「こんなにいい曲だっけ!?」と驚きまして。いや、原曲も聴き直してちゃんといい曲だったのですが、より好きになりました。

それは、とてもよかったです。「NOT YET」はすごく化けたし、両親にアルバムを聴かせたら「『NOT YET』めっちゃいいじゃん!」と言ってくれたので、大橋家も推している曲ですね。うん、楽曲の切なさがすごい。たぶん、この曲順で聴いたら「NOT YET」でみんな蒸発しちゃうんじゃないかなって。

──蒸発(笑)。

「でもまだ『Étoile』あるよ」みたいな(笑)。かなり心が疲れる、感情的なアルバムになってしまったので、ちゃんと余裕のあるときに聴いてほしいです。

星を見て、私を思い出してください

──今おっしゃったように、このアルバムは曲が進むにつれて感情的に、重くシリアスになっていくという側面がありますが、最後に収録された新曲のバラード「Étoile」で気持ちが浄化される感じがあります。

ならよかったです。この曲順を提出したあと、通して聴いたプロデューサーが「俺、星になっちゃいそう」と言っていて(笑)。ぜひ、みんなも最後は星になってほしいです。

──「Étoile」の作詞・作曲・編曲は、先の「Winding Road」の原曲を手がけたKanata OkajimaさんとMEGさんのコンビです。特にOkajimaさんは、作詞面で大橋さんのダークサイドを描くことに定評のある方ですね。

そうなんです。Kanataさんは私の本質的な部分を歌詞にしてくださる能力が本当に高くて。「Lumière」に入っていた新曲「Esprit De Lumière」は大橋彩香のパブリックイメージに近い一面をTAKUYAさんと本間昭光さんが表現してくださったので、じゃあ「Étoile」は私の裏の顔を、私の闇を……と考えたとき、KanataさんとMEGさんのチームしかないなと。私からは“人の生き死に”みたいな重たいテーマでお願いしたんですけど、それがこんなにもきれいな、童話のような楽曲に。それまで私、このアルバムのテーマが“星”だったことをすっかり忘れていたんですけど、「Étoile」で思い出しました(笑)。

──まさに“星”な曲ですね。暗いけれど、真っ暗闇ではない感じ。

うんうん。きれいなのにどこか切なくて、涙が出そう。私は歌詞のオーダーをするときにいつも「やりすぎです」とスタッフさんから言われちゃうというか、危ない方向に行きがちなんですけど、Kanataさんはそれを上手に汲んで、ファンのみんながびっくりしないギリギリのラインを攻めてくださって。そのうえ考察のし甲斐もあって、「Étoile」のミュージックビデオが公開されたときにみんなのツイートがにぎわっていて面白かったです。

──どんな反応が面白かったですか?

「大橋彩香が星になってファンに語りかけてる」とか。確かに私もそうかなと思ったし、的を射ているのかなと。でも、いくらでも自由に解釈できるので、それぞれの解釈で楽しんでいただきたいですね。

──大橋さん自身は、自分のこととして歌ったんですか?

そうですね。私が星になってみんなに歌を届けるような、そんな気持ちで。「START DASH」(アルバム「WINGS」リード曲)のあたりから、私は孤高の人みたいなポジションで歌うことが多くなった気がしていて。寄り添い方がちょっと大人になってきたというか、昔は「みんなー! がんばってー!」とチアガール的な感じでキャッキャしていたんですけど、今は「皆様、ともにがんばりましょう」と、もはや菩薩のよう(目を閉じて胸の前で手を合わせながら)。

──星になるなら、そんなにキャッキャしてもいられないですもんね。

だから地上にいるファンのみんなに向けて「星を見て、私を思い出してください」「いつまでも私の歌を聴いてください」みたいな。

キャラの皮を剥いだ状態の歌唱を提示できた

──「Étoile」のアレンジは弦楽四重奏とアコギを軸に、打ち込みのビートで緩急を付けていますね。

サビのリズムが全部違っていて、特にラストのサビは疾走感がありますよね。私は曲の展開が単調だと飽きちゃうタイプで、作編曲に関してはいつも「面白い展開で」とお願いしているんですけど、「Étoile」はMEGさんのアレンジにそれが顕著に表れていて。例えばDメロのあとにコーラスパートがあったり、個人的にうれしかったのは、アウトロがないこと。私、アウトロや間奏が長い曲はライブで持て余しちゃうんですよ。「今、何しよ?」って。でも「Étoile」はスパッと終わるので、密かに「これはライブのときにいいぞ」と思っています(笑)。

──大橋さん本人、ひいては聴く人を飽きさせないというのは、大橋彩香楽曲の特徴の1つなのかなと、言われて気付きました。単純なAメロ、Bメロ、サビの繰り返しにはならない感じ。

なんならAメロ、Bメロ、C、D、E、F、G……でもいいし、全部のサビのキーが違ってもいいんですよ。遊びがある曲が大好きで、だからラスサビも転調しがちだしフェイクも入れがちだし、曲を盛り上げるための要素を詰め込みたがりますね。

──「Étoile」でもフェイクを重ね録りしていて、終盤の盛り上がりに拍車をかけていますね。

スタッフさんに「私、エモエモ厨なんでフェイク入れてください」とお願いしたら「いいよ!」と言ってくれて。実は、同時期に「Be My Friend!!!」のカップリングの「Nobody Knows」の制作も進行していて、つい数日前にも「『Nobody Knows』にフェイク入れてください」とお願いしたばかりだったんです。だから私がフェイクばっかりお願いする人みたいになっちゃうと思って、一応「しつこかったら入れなくて大丈夫です」と付け加えたんですけど、どちらも入れることができました。

──どちらも入れて正解だと思います。

正解ですよね! 全曲フェイク入れたい。ってしつこいですね(笑)。

──アコースティックミニアルバムも2枚にして大正解ですね。「Lumière」単体でも聴き応え十分でしたが、対になる「Étoile」と併せて深みが増した感もあり。

「Étoile」は、特にキャラソンでしか大橋彩香の歌を知らない人にぜひ聴いてほしいです。キャラソンの場合、私は当然キャラクターとして歌っているんですけど、今回は「キャラの皮を剥いだ状態の歌唱はこういう感じなんですよ」というのをより強く提示できたと思っているので。

大橋彩香

──大橋さんのオリジナル曲と比較しても、例えば「イカはイカすぜ☆クラーケン子ちゃん」(「2018年4月発売の7thシングル「NOISY LOVE POWER☆」カップリング曲)を歌っていた人とは別人のようで。

ああー。クラーケン子、懐かしいですね。私の楽曲は本当に幅が広いというか、悪く言えば一貫性がない。音楽的に熱しやすく冷めやすくて、いろんなジャンルをフラフラしちゃうところも楽曲に反映されていますね。もちろん私の中にはちゃんと軸があるんですけど、これからもいろんな音楽にハマりながらフラフラし続けると思うので、お付き合いください。

──そして「キャラの皮を剥いだ状態の歌唱」を直に聴けるであろうアコースティックライブが7月31日に……。

あります! まだ具体的なことは決まっていないんですけど、たぶんライブだと、アルバムとまったく同じ楽器編成にするのは難しいと思うんですよね。なので私自身も「どうなるんだろう?」と楽しみにしていますし、その日だけの、ライブならではのアコースティックアレンジをお届けできるんじゃないかなって。会場もBillboard Live YOKOHAMAという、すごくアコースティック向けな場所なので、そこも楽しみにしてほしいです。