大橋彩香「Please, please!」発売記念企画|7つのキーワードでパーソナリティと魅力に迫る

大橋彩香が7月26日にニューシングル「Please, please!」をリリースした。

表題曲は大橋自身がヒロイン・安達垣愛姫役で声優出演するテレビアニメ「政宗くんのリベンジR」のオープニング主題歌としてオンエアされている。「政宗くんのリベンジR」は、冴えなかった真壁政宗がイケメンへと変身し、かつて自身をこっぴどく振った愛姫にリベンジする姿を描いたラブコメディ。大橋は本作の主題歌「Please, please!」で「そばにいてよ お願い 一生のお願い!」と愛姫の思いとリンクする恋心をエネルギッシュに歌い上げている。

抜群の歌唱スキルと表現力を持つ大橋は、ラップからメタルまでさまざまなジャンルの楽曲に挑戦し、アーティストとしての活動の幅をどんどん広げている。音楽ナタリーでは7つのキーワードから大橋のパーソナリティや新曲に見える表現を紐解き、彼女のルーツや考え方に迫る。

取材・文 / 須藤輝撮影 / 星野耕作

キーワード1:ルーツ

──大橋さんの音楽的なルーツを挙げるとすれば、ロックになりますか?

完全に母の影響なんですけど、海外のちょっとヘビーなロックから入りましたね。お母さんはMötley CrüeとかDef Leppard、MR. BIGなんかをよく聴いていて……そう、MR. BIGといえば7月下旬に武道館ライブがあって、お母さんに「行こうよ」と誘われたので行ってきます。そういう中で幼い私が一番好きだったのがマリリン・マンソンで。眠くなったら自分でマンソンのアルバムを和室に持っていき、CDプレーヤーで再生して、2曲目の「The Beautiful People」で寝るっていう。だからその先の曲は知らないんです。

──そのマンソンのアルバムは「ANTICHRIST SUPERSTAR」ですね。

そうそう。あのジャケットと「The Beautiful People」だけ印象に残っていて。「彩香はあの曲を聴くとすぐ寝ちゃうからラクちんだった」とお母さんに言われます。

大橋彩香

──大橋さんは1994年生まれで、「ANTICHRIST SUPERSTAR」のリリースは96年なので、2歳ぐらいのとき?

たぶんそのぐらいですね。まだ浦和市(現・さいたま市)に住んでいて、幼稚園にも行っていなかったと思うので。お母さんは、まだ私がお腹の中にいるときからいろいろ聴かせていたらしいので、それもあってよく眠れたのかも。胎教みたいな(笑)。そこから始まって、物心ついてからはアヴリル・ラヴィーンとかLinkin ParkとかEvanescenceを聴くようになりました。邦楽だとZONEがすごく好きで、楽器を始めたきっかけもZONEだったんですよ。

──最初に始めた楽器はギターだったんですよね?

そう。ZONEモデルのギターを買って始めたんですけど、全然弾けるようにならないから「もうドラムにする!」と言ってドラム教室に通ったら、ドラムはちゃんと叩けたんです。だから高校の軽音部でバンドを組んだとき、ギターの子にそのZONEモデルをずっと貸していましたね。「うちにギター余ってるから、これ使いな」って。

──初めて自分のお小遣いで買ったCDって、覚えています?

たぶん、supercellの1stアルバム(2009年発表の「supercell」)かな。中学生のとき、そのCDを買いにアニメイト池袋本店へ行ったのをよく覚えています。

──中学時代はニコニコ動画に入り浸り、ボカロ曲を聴き漁っていたんですよね?

本当に入り浸っていました。ヤバかったです。1回ハマるとズブズブになっちゃうというか、音楽と全然関係ないんですけど、小学生のときは中学と高校の制服を見るのが日課で。毎日いろんな学校のサイトを巡回したり、受験案内の本を開いたりして制服をチェックしていましたね。たぶん私、制服を見ただけでだいたいの学校を当てられますよ。「あの制服は白百合(学園)。あれは東京女学館。あっちは品女(品川女子学院)」みたいな感じで。

──それもそこそこヤバいですね。

小学生時代はドラマのオタクでもあったので、毎週「ザテレビジョン」や「週刊TVガイド」を買っていて、年末年始はちょっと分厚い増刊号になるのがうれしくてはしゃいでいました。あと、毎クールの頭に載る人物相関図付きの新ドラマ紹介がめちゃめちゃ好きで、自分で切り抜いて新聞を作って友達に配ったりしていましたね。

──大橋さんの世代だと、どんなドラマを観ていたんですか?

「あいくるしい」「女王の教室」「いま、会いにゆきます」「花より男子」「マイ☆ボス マイ☆ヒーロー」……とりあえず毎日なんらかのドラマを観ていました。ただ、小学3年生ぐらいまでは夜10時以降に放送されるドラマを観ることを許されていなくて。だから「金曜ナイトドラマ」という、23時15分に始まる枠で放送された「時効警察」を初めて観たときは感動しまた。「私、夜更かししてる!」みたいな。お母さんも「次の日、土曜日だから起きてていいよ」って。

──本当に、ハマるとズブズブなんですね。

でも、中学からマンガとアニメとゲームが好きになったので、ドラマとは疎遠になり、今度は深夜アニメを観るようになりました。だから熱しやすく冷めやすいんですけど、ずっと何かのオタクではあって。音楽にしてもロックから入ってボカロに行って、そのあとK-POPにハマったりしているけれども、ロックがきっかけで始めたドラムが「BanG Dream!」のお仕事にもつながっているし、いろんなジャンルをフラフラしてきたこともアーティスト活動をするうえで役に立っていると思いますね。

キーワード2:声優

──大橋さんの本業は声優ですが、声優業とアーティスト業の相互作用みたいなものはありますか?

声優もキャラソンとかを歌うのが当たり前になってきていて、例えばキャラクターとして歌うスキルを大橋彩香の歌に生かせないかとか考えたり、勉強になることは多いですね。あと、アーティスト活動だと自分の好きなジャンルの曲ばっかり歌っちゃうんですけど、キャラソンだと普段聴かないような曲調の曲も歌うので、いろんな歌い方にも挑戦できたり。お互いにうまく作用し合っているというのは感じますね。

大橋彩香

──大橋さんはアーティストデビューする前から、「アイドルマスターシンデレラガールズ」の島村卯月や「ファンタジスタドール」の鵜野うずめとしてキャラソンを歌っています。いわゆる声優アーティストにインタビューすると、だいたいの人がアーティストデビュー前にキャラソンを経験していて、いざ自分名義で歌うとなると「自分の歌とは?」みたいな問題に直面する人もいるのですが、大橋さんは?

むしろ逆で、「キャラで歌うって何?」と戸惑いました。声優デビューする前から1人カラオケにめちゃめちゃ行っていたので、自分として歌うことに慣れきっていて。キャラの声だけ作っても、歌い方は普段の私の癖がそのまま反映されちゃったりして、ディレクターさんから「ちょっとキャラっぽくないね」と言われることも多かったです。特に初めてキャラソンを録ったときは「ビブラートかけないでください」「しゃくらないでください」「コブシ入れないでください」とか、禁止事項が多すぎて。あれもダメ、これもダメみたいな感じでわけわかめでした。

──最初のキャラソンって、島村卯月ですか?

そうです。島村卯月の「S(mile)ING!」(2012年発表)という曲で、レコーディングにめちゃめちゃ時間がかかったんですが、おかげで「キャラソンとはなんぞや」というのを丁寧に教えてもらえました。逆に、けっこうサクサク録っていく現場だったり、キャラソンだけど自分っぽく歌うことが許される現場もあるので、最初がじっくり録ってもらえる、しかも「絶対にキャラで歌ってください!」という厳しい現場だったのは、今思えばすごくよかったですね。

──島村卯月として歌うことの難しさって、言葉にできます?

島村卯月は、ド直球でかわいいキャラクターなんですよ。だからディレクションも「語尾に笑顔のニュアンスを乗せて」とか、とにかく「かわいく、かわいく!」と言われるんですけど、私はかわいく歌うのがめちゃめちゃ苦手で。いまだに「かわいさとは?」みたいな壁にぶち当たります。

──いまだにですか。

はい。「なんかここ、かわいくないんだよね」とか「今、かわいくしようとしすぎて乱暴になってたよ」と言われますし、私にもその自覚があるから「ああ、ですよね!」みたいな。だからいまだに勉強させてもらっていますし、この勉強は終わらないでしょうね。