大橋彩香「Lumière」インタビュー|初のアコースティックアルバムで見せた、新たな表情

大橋彩香が初のアコースティックミニアルバム「Lumière」を12月22日にリリースした。

“Lumière=光”をコンセプトにした本作には、元気で明るい楽曲にアコースティックアレンジを施した音源を収録。TAKUYAが作詞作曲、本間昭光が編曲を手がけた新曲「Esprit De Lumière」も収められる。

来春には“星”をテーマにした2枚目のアコースティックミニアルバム「Étoile」がリリースされることも決定している大橋。音楽ナタリーでは、彼女の歌の魅力を堪能できるアコースティック作品について本人にじっくりと解説してもらった。

取材・文 / 須藤輝

明るく元気な、“光”の楽曲

──アコースティックアルバムを作るという構想は以前からあったんですか?

「作ってみたいね」というふわっとした話は、けっこう前から大橋彩香チーム内でしていました。ワンマンライブでよくアコースティックコーナーを設けていて、ファンの方からの評判もよかったので。でも実際に動き出したのは……確か「START DASH」(2020年12月発売の3rdアルバム「WINGS」リード曲)を作っているときに「じゃあ、やりますか」となったんですけど、具体的に企画が固まったのは今年の6月ぐらいだったので、わりとバタバタしていました(笑)。

──大橋さんのライブでは「勇気のツバサ」(2016年5月発売の1stアルバム「起動~Start Up!~」収録曲)や「彩りPlace」(2018年5月発売の2ndアルバム「PROGRESS」収録曲)といった比較的アップテンポな曲もアコースティックアレンジで披露されていましたが、本作「Lumière」の選曲はちょっと意外でした。

「Lumière」はフランス語で“光”を意味しているので、今回は私の楽曲の中でも特に明るく元気な楽曲をセレクトしていて。シングルA面曲も回収しつつ、なるべくライブでアコースティックバージョンを披露していない、音源として残っていない曲を選びました。ただ、打ち合わせで私がアルバムに入れたい曲を列挙していったら膨大な量になってしまったので、2枚に分けることに。

──2枚に分ける?

あ、まだ情報解禁してないですね。たぶん今夜解禁になるんですけど(※本インタビューは12月頭に実施)、来年の4月にもう1枚のアコースティックアルバム「Étoile」をリリースします。「Étoile」は“星”という意味で、そちらにはダークでカッコいい曲を集めているんですよ。だから“光”と“星”で対になっていて、かなりギャップがあるかなと。

──それは楽しみですね。「Lumière」を聴いて、もっとアコースティックバージョンを聴きたいと思ったので。

やった! 「Étoile」のほうは、私がカッコいい路線の曲を歌い始めたのが2017年ぐらいなのでわりと最近……いや、言うても4年前か。まあ、音楽活動の前半か後半かで言ったら後半の楽曲が多くなってくるんですけど、今回の「Lumière」にはデビュー曲の「YES!!」(2014年8月発売の1stシングル表題曲)やそのカップリング「明日の風よ」も入っていれば、最新アルバム「WINGS」の収録曲も入っているので、年代的には幅広くカバーできているんじゃないかと思います。

大橋彩香

大橋彩香

どう歌っても当時とは違うものになる

──各曲をアコースティックアレンジするにあたり、大橋さんから要望を出したりは?

しました。チームのみんなで案出しをする中で、例えば「明日の風よ」はアコースティックギターだけがいいとか、「ミラハ」(2017年1月発売の5thシングル表題曲「ワガママMIRROR HEART」)はバンド編成でやりたいとか。

──1曲目「明日の風よ」のアレンジはSAMOYEDさんで、最大で3本重ねていると思いますが、おっしゃる通り楽器はアコギのみ。ポップで軽快だった原曲をフォーキーなバラードに落とし込んでいますね。

「明日の風よ」は1stワンマン(2016年)でアコースティックバージョンを披露したことがあるんですけど、そのときはフルバンドでやっていたので今回は違う形にしようと。レコーディングもギターを弾いてくださっているSAMOYEDさんと一緒に「いっせーの」で、クリックも流さずにお互いの呼吸感だけで録ったので、テイクの差し替えができないというヤバいやつでした(笑)。

──クリアで伸びのある歌声が生きていると思いました。

ありがとうございます。すごく生感のある仕上がりになったなと思います。

──ここまで楽曲のテンポを落とすと、自ずと歌い方も変わってきますよね。

全然違いますね。今言ったように「いっせーの」で録るからフルコーラス一気に歌い切らなきゃいけなかったんですけど、このテンポだと呼吸が続かなくて。歌唱表現としても息が多めなので余計に苦しくて、もう最後のほうはベロベロにバテていましたね。

──ベロベロに。

ゆっくり歌うとめちゃくちゃ大変な曲なんだというのを実感しました。

──先ほど大橋さんもおっしゃったように「明日の風よ」はデビュー曲のカップリングです。アレンジ違いとはいえ、またライブでも歌ってきているとはいえ、もう一度正式な音源として残すという点で過去の自分と対峙するみたいな感覚はありました?

ああ。むしろどう歌っても絶対に当時とは違うものになるから、特に何も考えずフラットな状態で臨めましたね。逆に最近の曲のほうが、今とあんまり変わってないから「どうなるのかな?」みたいな悩みがちょっとありました。

──「明日の風よ」のアコギのみのアレンジは、アルバムの導入としても効果的ですね。

うんうん。最初は「YES!!」か「明日の風よ」かで迷ったんですけど、1曲目に置くなら「明日の風よ」のほうがインパクトがあるかなと。2曲目以降、楽器も増えてより壮大になっていくような流れにもできたんじゃないかと思いますね。

以前は背伸びしていた感じだったのが、ようやくしっくりきた

──2曲目の「ダイスキ。」はmonologさんによるハモンドオルガンをフィーチャーしたジャズファンク風のアレンジで、原曲はアッパーなEDMだったのでやはり印象が大きく違います。

私は完全に四つ打ちの「ダイスキ。」が体に染み込んでいたので、最初はなかなかうまくリズムに乗ることができなくて。ムード的にはリラックスしているんですけど、テンポは原曲よりちょっと速くなってもいるので。

──そうだったんですね。後ノリのリズムでややルーズに歌う大橋さんは新鮮でしたし、こういうボーカルももっと聴きたいと思いました。

おお、うれしい。レコーディングではかなり苦戦したので、そう言っていただけると救われます。原曲がデジタルな音だった分、アコースティックアレンジによって温かみも出ているし、バーで流れていそうな、お酒が似合いそうなおしゃれな曲に生まれ変わったと思いますね。

──本作の収録曲は6曲目の「流星タンバリン」(1stアルバム「起動~Start Up!~」収録曲)を除いてすべて原曲は打ち込みの曲なんですよね。なので余計にアコースティックバージョンとの差が際立つのかなと。

うんうん、確かにそうですね。そもそも私の曲でバンドアレンジの曲というと、ロック寄りのカッコいい系の曲になると思うんですよ。だから明るく元気な曲を中心に選んだ結果、打ち込みが多くなったのかもしれませんけど、デジタルをアナログに変換した感じがよく出ているんじゃないかなあ。

──続いて、Carlos K.さんがアレンジを手がけた「YES!!」も同じくリラックスしたムードですが、ウクレレでKAIKIさんが参加していることもあり……。

めちゃくちゃトロピカルですよね。「YES!!」も配信ライブでアコースティックバージョンを披露したことがあるんですけど、「デビュー曲だし、録ろう!」と。そのときのアレンジとは趣向を変えて、今言ったように南国風にアレンジしていただきました。今回のアルバムでは自分でハモリを録っていなくて、「YES!!」では別の方がハモリを入れてくださっているんですけど、そのハモリが入って曲の印象がガラッと変わったんですよ。最初、自分の歌だけのラフミックスを聴いたときは「わりと静かだな」と思って、それはそれで気に入ってたんです。でも、ハモリ入りのファイナルミックスを聴いたらグッと厚みと明るさが出ていて驚きました。

──前回のインタビューで大橋さんは「デビュー当初の“明るく元気”から大人の“明るく元気”にシフトさせていく必要がある」というお話をされていました(参照:大橋彩香 a.k.a HASSY「#HASHTAG ME」インタビュー)。

はいはい。

──そのシフトが、デビュー曲の「YES!!」および「明日の風よ」でナチュラルにできているのではないかと。

ああ、確かに。「YES!!」も何も考えないで歌ったんですけど、ライブを経て徐々に歌い方が自然体になっている気はしていて。「私も『YES!!』を乱暴に歌うようになったなあ」みたいな。

──乱暴(笑)。

言い方が悪かったですね(笑)。奔放というか、型にハマらない感じで。あと、初期の曲はキーが低くて歌いやすいです。

──逆に言えば当時より音域が広がっているということですよね。一方、改めて原曲の「YES!!」を聴くと非常にみずみずしいです。

若いですよね。8年前、19歳のときに録っているので……ひえええ。ぜひ皆さんも聴き比べていただきたいです。当然「明日の風よ」も同時期に録っているんですけど、この曲は当時「1stシングルにしては大人っぽい曲になったね」「ライブで歌い続けていけば、年齢を重ねるにつれて味が出てくるんじゃないか」という話をしていて。だから「明日の風よ」は定期的に歌うことにしていましたし、今回アコースティックアレンジで、8つ歳を重ねた大橋で歌ったことで、当時より歌に説得力を持たせられたと思います。以前は背伸びしていた感じだったのが、ようやくしっくりきた。なのでこのタイミングで録れてよかったかもしれないですね。うん。