大橋彩香|大橋彩香はなぜ愛されるのか?水野良樹(いきものがかり)、DECO*27、e-ZUKA(GRANRODEO)との対談3本で徹底解明

大橋彩香が3rdアルバム「WINGS」を12月16日にリリースする。

「アイドルマスター シンデレラガールズ」「BanG Dream!」「マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝」などの人気作に声優出演する一方で、ソロアーティストとしても活躍している大橋。昨年アーティストデビュー5周年を迎えた彼女が、アニバーサリーイヤーの締めくくりとして本作を発表する。アルバムには「ハイライト」「ダイスキ。」「NOISY LOVE POWER☆」「Give Me Five!!!!! ~Thanks my family♡~」といったシングル曲のほか、水野良樹(いきものがかり)提供のリード曲「START DASH」、e-ZUKA(GRANRODEO)が作編曲を手がけた「MASK」、DECO*27提供の「HOWL」など、豪華作家陣が制作した新曲も収録。デビュー5周年以降も未来に向かってさらに羽ばたいていく大橋の意思が楽曲を通して表現されている。

音楽ナタリーではアルバムの発売を記念して、大橋と水野良樹、DECO*27、e-ZUKAそれぞれとの対談を掲載。なぜ大橋が多くのファンから愛されるのか、3者から見た魅力を感じ取れるトーク内容となった。

取材・文 / 須藤輝 撮影 / 曽我美芽

大橋彩香×水野良樹(いきものがかり)

3年越しの願いが叶った

──今回、どういう経緯で水野さんが大橋さんの曲を作ることになったんですか?

大橋彩香 実は3年ぐらい前から、大橋彩香チーム内で「いきものがかりの水野さんに曲を書いてもらいたいね」という話をしていて。これはあとで聞いたんですけど、プロデューサーさんが水面下でお友達を介して水野さんにコンタクトを取って、ラブコールを送り続けてくださったり事務所側からもアタックしたりしてくれていたそうなんですよ。

水野良樹 恵比寿のコーヒー屋さんでたまたまプロデューサーさんとお会いしたときとかも「水野さん、今お忙しいですよね?」みたいに言ってくださって(笑)。

大橋 わあ、それも知りませんでした(笑)。でも、その3年越しの思いが、今回ついに実現したという格好で。

水野 「3年越し」というのは今初めてお聞きしたんですけど、曲を作る前に知らされてたらめっちゃハードル上がってたなと(笑)。こちらこそお手伝いできて光栄です。

左から大橋彩香、水野良樹(いきものがかり)。

──大橋さんとしては、なぜ水野さんに曲を書いてもらいたかったんですか?

大橋 水野さんの曲はメッセージ性が強くて、なおかつエールソングと言いますか、元気をもらえる曲が多いんです。大橋彩香としてアーティスト活動をするうえで「皆さんに元気を届けたい」というポリシーみたいなものがあるので、水野さんはぴったりじゃないかなと大橋チームで話していたんです。

水野 そういうふうに期待していただけること自体が幸せなことなので、僕としてもすごくやりがいを感じていました。最初の打ち合わせのとき、スケジュールの都合で大橋さんは遅れて合流する形だったので、それまでにチームの皆さんとお話ししたんですけど、熱意がすごくて。

──「水野さん、逃がしませんよ」みたいな?

水野 それもあったのかもしれないですけど(笑)、「去年、大橋彩香はアーティスト活動5周年という1つの区切りを迎えたので、ここから再スタートを切るような気持ちで、さらに羽ばたいていきたい」という説明を熱く、丁寧にしてくださって。それを聞かせてもらっているときに、チームが大橋さんを中心に大きな渦になっているのを感じたので、そういうチームに参加させてもらえるというのもありがたかったですね。

大橋 うれしい。

水野 でも一番面白かったのは、今言ったように作品のコンセプトとかを真剣に語っていたチームの皆さんが、打ち合わせに大橋さんが到着した瞬間にメロメロになって。

大橋 あはははは(笑)。

水野 それまでけっこうピリピリしたムードだったんですけど、急に「彩香ちゃーん」みたいになって、どんだけ大橋さんのこと好きなんだよと(笑)。でも、それがすごく微笑ましいというか、チームとして彼女を愛しているんだなって。自分のグループを出して恐縮ですけど、うちの吉岡(聖恵)も、そこにいるだけでなんとなく周りが明るくなるんですよ。やっぱり真ん中に立つ人ってそういう力を持ってるのかなと思って、僕もなんだか楽しい気分になりました。

お前、よくわかってるな!

──その打ち合わせで、お二人はどんなお話をされたんですか?

大橋 基本的には自分のパーソナリティとか、普段考えていることとか、仕事をするうえで大事にしていることとかをお伝えして……あと、私も水野さんもよくエゴサをするという話にもなりましたよね?

水野 そうでしたね(笑)。

大橋 私はエゴサの検索ワードも「大橋彩香」「はっしー」「へごちん」と抜かりないです。

水野 そうやってエゴサをする人間は、共通して心の奥底に抱えているものがあるんじゃないかとか、そんな話をして。

大橋 私はみんなが私のことをどう思っているのかを客観的に見たくて。みんなの期待に応えられそうなものには応えたいなと思っています。

左から大橋彩香、水野良樹(いきものがかり)。

水野 それこそ、今回僕が作った「START DASH」のミュージックビデオが先行してYouTubeにアップされたので、それに対するファンの皆さんのツイートを僕もエゴサしているんですけど、その中に「水野は大橋彩香の伸びるハイトーンが好きすぎるだろ」っていうのがあって。

大橋 私もそれ見たかも(笑)。

水野 「そうなんだよ! お前、よくわかってるな!」と思って、ついリツイートしそうになりました(笑)。実際、僕も大橋さんの持ち味はハイトーンの明るさだったり、あるいはメロディが跳躍したりしてもしっかりと躍動感を持って歌えるところだと思いながら曲を作っていたので。

──「START DASH」は曲調にしろ歌詞にしろ、大橋さんの「明るくて元気」というパブリックイメージと見事に合致している曲だなと。

大橋 うんうん。水野さんとは短い時間しかお話しできなかったんですけど、「超能力でもあるのかな?」と思うぐらい、私のことをわかってくださっているというか。最初に歌詞を拝見したときも、今の私が思っていることだったり、私の性格の絶対に変えられない部分だったりが全部入っていて、めちゃくちゃびっくりしました。特に2番Aメロの歌詞がそうだなって思うんですけど。

──「完全無欠のAIじゃないから バグったりして 何度もミスしちゃうけれど」。

大橋 「それがわたしだと 受け入れたときに 誰かのことも 愛せるはず」という歌詞を見たときに「わあああ!」と思って。だからこの曲は、もちろんみんなに向けてのエールソングなんですけど、実は私が一番元気をもらっているみたいな。

水野 大橋さんの「明るくて元気」というイメージはファンの皆さんの間でも共有されていると思うんですけど、彼女自身がこれまでたどってきた道は決して平坦ではなかったというか、必ずしも楽しいことばかりではなかったと思うんですね。要は、明るく元気でいるためにがんばっている部分もある人なんだなというのもご本人とお話しして感じたので、そのへんが滲み出たらいいなと。あと、その大橋さんのたどってきた道を、ファンの皆さんも一緒に歩んできたわけじゃないですか。だから、これからそれは変わらないというか、一緒に羽ばたいていくみたいな、“共に”感のある曲にしたかったんですよね。

大橋 その感じ、めちゃくちゃ出てます!

水野 最後の「LA LA LA…」にしても、ライブでお客さんもシンガロングしているところをイメージしたんです。大橋さんが1人で歌っていた曲が、いつの間にかみんなの曲になっているというか、みんなで共有する感じが出たらいいなと。

ずっと歌ってる病

──「WINGS」には従来の大橋さんのイメージとはだいぶ異なる曲もいくつか収録されています。そんなアルバムの1曲目に、リード曲として「START DASH」という王道的な曲があるというのは重要なことかなと。

大橋 うんうん。アルバムを出すたびにいろんなジャンルに挑戦させてもらってきたんですけど、ふと「大橋彩香としての軸がブレているんじゃないか?」と不安になることもあるんです。でも、やっぱりみんなにエールを送るような楽曲というのが自分の立ち返るべき原点だと思っていて。今回は「START DASH」が大事な位置にいてくれるので、もう、ブレようがないみたいな(笑)。

──レコーディングでもスムーズに歌えました?

大橋 いつも最初に、声出しも兼ねて1回通して歌うんですけど、そのときに意外と休むところがない曲だということに気付いて。

水野 (小声で)そうなんですよ。

大橋 「あれ? ずっと歌ってるかも?」って。

水野 “ずっと歌ってる病”なんですよ、僕の曲は。

大橋 ずっと歌ってる病(笑)。そう、まさに最初から最後まで駆け抜けて行くような感じがあって。私はレコーディングのときにライブで歌うときのことも考えるんですけど、特にこの曲は「全力でフルコーラス歌い切りたい」と強く思いました。あと、「START DASH」はファンのみんなとの関係性も表れている楽曲だから、自ずとみんなのことを考えていましたね。やっぱりアーティスト活動をする中で、自分1人で悩みすぎて勝手に落ち込んじゃうこともあるんですけど、そういうときはみんなからのファンレターとかにすごく助けられていて。それに対する感謝の気持ちも込めながら歌いました。

左から大橋彩香、水野良樹(いきものがかり)。

水野 これは歌のうまいヘタとは関係なく、曲の中心になれる人となれない人がいるんですけど、大橋さんは明らかに前者なんです。やっぱりあれだけオケが加わっても大橋さんの歌声が曲の軸になっていて。あと、言わずもがなですけど、やっぱり本当に元気な人なんだなって思いました(笑)。

大橋 あはは(笑)。

水野 例えばちょっと切ない感じのメロディや言葉でも、大橋さんが歌うと明るく聞こえるんですよ。特にDメロなんかは普通に朗読するとダウナーで弱々しい感じになりそうだけど、大橋さんの場合はむしろそこからどんどん力強くなっていくんです。

大橋 Dメロは絶対に力強く歌おうと、最初に曲をいただいたときから思っていました。例え苦しい状況にあっても、「絶対にくじけないぞ」みたいな気持ちで。

水野 実はそうやって開けていく感じも曲作りのときに意識していたというか、やっぱり大きい曲にしたかったんです。

大橋 大きい曲?

水野 たぶん、この曲は大サビとか最後の「LA LA LA…」とかを付けなくても成立するというか、もうちょっとコンパクトにまとめることもできたと思うんです。でもそうじゃなくて、さっきご本人もおっしゃったように「ずっと歌ってる」からこそ、歌い終わったときにゴールテープを切るようなフルサイズ感があったほうが、より“再スタート”というアルバムコンセプトに合うんじゃないかと。

大橋 確かにゴールテープを切った感はすごくありました。あと完成形を聴いたのが、ちょうど「バンドリ!」(「BanG Dream!」)のバンド練習が終わった直後で。スマホを見たら「『START DASH』が完成しました」というメールが来てて、即イヤホンで聴いて泣きそうになったんですよ。バンド練で疲れ果てて、駅のホームでぐったりしている自分に染みたというか、「がんばろう!」って奮い立ったのを鮮明に覚えています。

大人としてより説得力のある歌を歌っていきたい

──水野さんから“再スタート”という言葉が出ましたが、この「WINGS」のコンセプトを大橋さんなりの言葉で具体的に表すとしたら、どうなります?

大橋 去年アーティストデビュー5周年を迎えて、今6年目なんですけど、やっぱり“5”って大きい数字というか、自分の中では第1フェーズが終わった感じがあって。年齢的にも、20歳でアーティストデビューした私が今26歳になって、これから20代後半の5年間を歩んでいくので、大人としてより説得力のある歌を歌っていきたいという気持ちがあるんです。なおかつ、デビューから5年経った今の自分だからできるやり方でみんなに元気を届けたい。そういう意味で“再スタート”を切りたいし、さらに羽ばたきたいと思っています。

──今言われて気付いたのですが、「START DASH」は大橋さんらしいエールソングでありつつも、従来のそれと比べるとキャピキャピしすぎていないというか、落ち着きも感じられますね。

大橋 今回の「START DASH」は“見守ってる”感がすごくあって。ミュージックビデオも3人の学生ががんばっている姿が描かれている一方で、私は海辺からエールを送っている描写もあったりして。うん、以前よりも大人っぽい表現になったかなというのは思いました。「26歳になったんだな」って。

水野 僕は大人っぽさというのは正直あまり意識していませんでしたけど、今おっしゃった通りキャピキャピしてないほうがいいというのは思ったかもしれないですね。要は、何も考えずにジャンプする感じの飛躍ではないはずだと。ちょっと迷って、でも踏ん張って「さあ、行くぞ」みたいな。そういうある種の切なさが、もしかしたら大人っぽさにつながっているのかも。

大橋 地に足がついている……いや、「WINGS」だから羽ばたいていかなきゃいけないんですけど(笑)、しっかり大地を踏みしめている感じがあるなって。だから私も「自立した大人になります」みたいな気持ちになれたんだと思います。

左から大橋彩香、水野良樹(いきものがかり)。

水野 大橋さんはたびたび「エールソング」とおっしゃっていましたけど、僕は26歳のときに「YELL」を書いてるんです。

大橋 おおお! 確かに、私が中学生ぐらいのときに「YELL」聴いてました。

水野 だからなんだって話なんですけど、だんだんそういう世代の人たちともこうして普通に現場で会うようになって。その1人である大橋さんの「みんなにエールを送りたい」という気持ちとつながって、こうやって曲になったということが、すごくうれしいです。

大橋 こちらこそ! アルバムのコンセプトにも、今の自分にも完璧に合致する最高の曲をいただけて、私もすごく幸せです。早くライブでみんなと歌いたいです!

水野良樹(ミズノヨシキ)
水野良樹
いきものがかりのリーダー。1982年12月生まれ、神奈川県出身。1999年2月に小・中・高校と同じ学校に通っていた山下穂尊といきものがかりを結成し、同年11月に吉岡聖恵を迎え3人編成で活動を開始する。2006年にシングル「SAKURA」でメジャーデビュー。ギタリスト兼ソングライターとして、「ありがとう」「YELL」「じょいふる」「風が吹いている」「ブルーバード」といったヒット曲を多数生み出す。2018年11月の“集牧宣言”後、2019年には5作の配信シングルを発表し、12月に8thオリジナルアルバム「WE DO」をリリースした。2020年3月に「生きる」、8月に「きらきらにひかる」と配信シングルを発表。2021年2月にテレビアニメ「BORUTO-ボルト- NARUTO NEXT GENERATIONS」のオープニングテーマ「BAKU」を表題曲としたニューシングルをリリースする。