皆さんの心に直接踏み込みたい
──歌詞はスムーズに書けましたか?
そうですね。思ってたよりも文を書くのが好きみたいです。すごく言葉が詰まるとかはなく、逆に私の詞が先行しすぎて曲のフルサイズができる前に勝手に歌詞のフルサイズを上げちゃって。イメージが湧くうちに書いたほうが楽かなと思ったんですけど、書きすぎて「削らないと入らないよ」みたいな(笑)。
──じゃあ本当はもっとたくさん “かけがえのない瞬間”が……。
もっといっぱいあったんですよ! 渋々削りました。アイデアを出す作業よりも削っていく作業のほうが大変でしたね。
──この歌詞では小倉さんが切り取った日常生活の1つひとつのシーンが、リスナーに映像としてリアルに伝わってきますね。小倉さんが感じた匂いや聞いた音、見たもの、そういった五感で得た情報が丁寧に歌詞に落とし込まれているのは意識してのことですか? それとも自然に?
どっちもあるのかな。今回は私の思い出、日常をそのまま切り取って、聴いてくださる皆さんの心に直接踏み込みたいと思っていたんです。なので、よりリアリティのある歌詞にしようとは思ってました。だからそうやって思ってもらえたなら本当に大正解だという気がしつつ、それが練りに練って出てきたものかと言うと、自然と思い浮かんだ部分も大きいですね。
──きっと冷静に噛みしめながら学生生活を過ごしていく中で1つひとつのシーンが常日頃から小倉さんの頭の中に鮮明に残っていて、それをそのまま描写されてるのかなって。
それはあるかもしれない。歌詞がすぐにパッと浮かんでくるのは今までの自分の経験の中で積み重なって、ちゃんと溜めていたものがあるからだと思うので。あと私は今までずっとブログとかを書いてきて、もともと言葉選びが好きだったんです。同じ意味を伝えようと思っても、言葉の書き方によってすごく印象って変わるじゃないですか。そういうのを前々から不思議だなって思っていたんですよ。だから今回歌詞を書くときにこういうふうにしたら柔らかい表現になるんじゃないかなとか、言葉1つひとつの選び方を意識しましたね。
正直、手応えを感じてしまいました
──自分の気持ちを作詞によって人にさらけ出すことに対して、新鮮さはありました?
ありましたね。ただ、最近は自分の気持ちをちゃんと言うように心がけている部分もあるんです。違うなと思ったことはきちんと伝えようと思ったり。私は今まで感覚で感じ取ってもらいたい派だったので、あえて言葉にする必要もないかなと思ってたんですけど、今になって人間みんなに共通してある言葉というものを介して伝えるのも大事だなって(笑)。
──今回作詞をやってみて、今後も自分の表現方法の1つとしてやっていこうと思えました?
正直、手応えを感じてしまいました……!(笑) 作詞ってもっとハードルが高いものだと思っていたんですよ。でも今回やってみて、作業的に大変な部分もあったんですけど、決められた枠組みの中でどこまでできるかという部分では、今やっている作詞じゃないお仕事とも一貫する部分があるのかなと。そういう意味で作詞の作業は苦のものではなくて、やりがいがあるなと感じましたね。
──自分で書いた歌詞をレコーディングで歌うのは、今までとまた違う感覚がありましたか?
違いました。すごく愛着が湧いて。でもやっぱり「作詞家さんってすごいな」って改めて思いました。どうしても音のハマりがうまくいかない部分があって、レコーディング中でも最終調整したんですよ。
──今回小倉さんの歌声が1つひとつの瞬間を大切に思い返して振り返っていくような、柔らかくて優しいものになっている印象を受けました。「この歌詞のこの部分をこういう声でこういうふうに歌って」と意識的に表現してると言うよりは、小倉さんの中から自然に出てきた歌声なのかなと。
歌い方とか、まさにそうですね。技術的な部分で「ここはこうして歌い聴かせよう」というわけではなくて、語り口調と言いますか。私がその場で感じたことをぽつりぽつりと言葉に出して、それがそのまま皆さんの脳内で再生されるようなイメージで聴いてもらえたらいいなと思ったんです。だからあまり作り込みすぎずに、でもちゃんと気持ちに乗せて歌うということを意識して歌わせていただいたので、自然と歌い方も柔らかくなっていると思いますね。狙ってできないような絶妙なニュアンスも含まれているんじゃないかなと。それこそ心の紐をちょっと緩めて歌った感じですね。
お客さんとの相互関係
──曲調はバラバラですが3曲とも小倉さんの一面が反映されていて、3方向から“小倉唯”という人間を感じられる1枚になっているのが面白いですね。
今いろいろとお話をさせていただいて、自分で言っちゃうのも変ですけど、「素敵なシングルになったな」と思いました(笑)。栄養のグラフがあるとしたらちゃんと均等にそれぞれの栄養のバランスが取れている、みたいな。今の私自身のことをよくわかってもらえる、そして小倉唯という存在自体のヒントをより得られるようなシングルになったんじゃないかな。
──現在ツアーの真っ最中ですが、新曲の反応はどうですか?
「白く咲く花」は今までの曲とは全然違う反応で、お客さんは口を開けたままポカーンとひたすら私のパフォーマンスを見てくれているような雰囲気です(笑)。すごく新鮮ですね。今回はそれがちょっと狙いでもありました。もちろん盛り上がっていただいてもいいんですけど、私の楽曲の世界観に引き込めたら勝ちかなって。これから育っていく曲でもあると思うので、今後どういうふうになっていくのか楽しみですね。
──ツアー自体の感触はどうですか?
どんどん楽曲も増えてきているんですけど、お客さんがいろいろな楽曲に対して愛を持ってくださっているのをすごく感じます。今まではパフォーマンスするだけで精一杯なところもあったんですが、最近はお客さんとより意思疎通を図ってどこまで届けられるかとか、与える側として果たさなければいけないことに意識を向けていて。かつ、自分が楽しむという部分も大事にできるようになりました。パフォーマンスを見せるだけじゃなくて受け取ったものを返して、返したものからお客さんが受け取ってくださるものがあって……そういう相互関係になってきているのはツアーを通して感じていますね。
──今年は“前”という抱負を掲げて活動されていますよね。ソロデビュー6年目、今後表現者としてどこを目指していきたいですか?
私は日々がんばれることをがんばってきた積み重ねでここまできていると思うので、6年目に突入したからといって「新たにこれを目指します」というものはやっぱりないですね。でもここまで来られたということは、これから先もっともっとがんばっていかなきゃいけないと思っています。どんなことがやってきてもそれに堪え忍べるような土台というものを常にしっかりと持ってたいと思うので、変に駆け上がっていくよりも今はどんどん地層を積み上げていきたいです。新しい景色を見るために着実に力にできるものをどんどん吸収していって、その先で羽ばたける何かがあるといいなと思ってます。