ナタリー PowerPush - OVERGROUND ACOUSTIC UNDERGROUND
TOSHI-LOWが語る 震災、音楽、自分の変化
OVERGROUND ACOUSTIC UNDERGROUNDが、約1年半ぶりの新作となるミニアルバム「夢の跡」を6月1日にリリースした。今作は、元々4月6日に発売される予定だった作品だが、東日本大震災の影響によりリリース延期となっていたアイテムだ。
震災の直後から、バンドが所属するtactics recordsは被災地に対し積極的な支援活動を展開。取材時は米を始めとする物資を募集し、数回に分け東北各地へ届けていた。またメンバーも現地に足を運び、ボランティア活動のみならず“音楽家の自分たちならではのできること”として、キャンセルが相次いだ被災直後のライブハウスでステージに立っている。その姿は、ラジオやCS放送などのメディアによる報道を通じて、音楽ファンを勇気づけるものとなった。
今回ナタリーでは、バンドの中心人物であるTOSHI-LOW(Vo, G)にインタビューを実施。彼を突き動かすものはなんなのか、震災前に制作した作品に対して今どう思うのか。熱い思いの丈を赤裸々に明かしてもらった。
取材・文/高橋美穂 インタビュー撮影/中西求
眉毛を剃ってSIONのライブに出ようと思って
──いきなりですけど、TOSHI-LOWさん、眉毛剃りましたよね?
SIONの25周年ライブ(5月4日にSHIBUYA-AXで行われたスペシャルライブ)に誘われたんだけど、始めは恥ずかしいっていうか、SIONの歌はSIONにしか歌えないから嫌だって言ってたんだよね。だけど、衣装ある?って訊いたら、1着だけ昔のがあると。だから、それを貸してくれるなら出てもいいかなって。それと、着るならちゃんとやりたいから、俺のイメージの中のSIONにしたんだよね。髪は半剃りで、眉毛なくて、ここ(目の周り)真っ黒にして。それをコンプリートして、ライブに出させていただいたの。
──SIONさんはどんな反応だったんですか?
ステージ上で爆笑してたよ。俺はやるんなら徹底的にやりたいほうなので。
──TOSHI-LOWさんらしい経緯ですけど、向き合って話すのは怖いというか……。
慣れるよ、5分くらいで。
──そうですか(笑)。ではまず、今日は「米騒動」(BRAHMAN、OVERGROUND ACOUSTIC UNDERGROUNDが所属するtactics recordsは、取材日である5月12日から22日まで、東日本大震災の被災地に送る米を募集していた)初日のところ、ありがとうございます。素朴な疑問なのは、米どころの被災地に対して、なんでお米を送ろうと思ったのかなって。
そう思うでしょ。確かに場所によっては足りなくないんだよ。だけど、被災しても、自宅が半壊とかで家にいる人は店で買ってるの。それで気がついたのね。米って生きてく上で絶対に必要だし、その人たちに米を配ることができたら、米以外のものを買えるじゃん。おかずとか、流されてしまった家電とか。米って、変な話、日本人のライフラインというか、米があることで、2次的な豊かさが得られると思うんだよね。
震災が起きてもびっくりしていない
──では前置きが長くなりましたが、早速ミニアルバム「夢の跡」について訊いていきたいんですけど、改めてドキッとしましたね。今このメロディで、この歌詞で……。
しかもジャケそれでしょ。
──そうですよね。
だから、誤解を恐れずに言えば、震災が起きても、びっくりしていないんですよ。いつかくると思っていたから。それは、地震がくるとか、津波がくるとかっていうことじゃなくて、自分が生きている間に、大それたことが起きる予感があったんで……というか、日々そう思って生きているので、ついにきたか、思ったより早かったかなっていうだけの話でしたね。だって、信号守っていたって突っ切ってくる車もいるし、どうやって死ぬかはわからないわけで。健康に気を使ってますとか、マスクしてますっていうことじゃないじゃん、生き死にって。なんの偶然かわからないようないたずらで、人間はぶっつりいなくなる。そういう人の生き死にを見てきたので実感もあるというか。ただ、その実感を人に言っても、伝わらなかったりして。「まぁそう言っても俺は死なないっすよ」みたいに言われたり。それで、もしかして俺がズレてるのかな?ってなんとなく自分に自信をなくしていた矢先に、震災が起きたんだよね。だけど、そら言ったことか、とは思わないし、起きないでいてほしかったと思うけれど、ついにきたかっていうのはあったよ。
──TOSHI-LOWさんって、今までも生き死にについて表現してきたと思うんですけれど、今作は、すべてがシンクロしていますよね。
ね。こういうのが偶然なんだろうね。曲は全部去年の暮れくらいに書いたんだけど、それを呼び起こすものがなんとなくあったのかもしれないし。でも予感があったわりには、自分が歌ってていいのかなって思ってたぐらい自信がなかったときの歌詞なんだけど。自分が持っているリアリティが、もしかしたら本当のリアルじゃないのかもしれない、俺は日々を「今日が最後の日」みたいに思って生きているけれど……もちろんブレるしダラけるけどね、でもそういう生き方自体が間違っているのかもしれないって、書いているときは思っていたから。
今作で創作活動が終わる可能性もあった
──今まで、そういうふうに自信をなくすことはあったんですか?
そういう思いに対してはなかったよ。なかったから続けてこれた。自分が折れそうになるたびに悲しい出来事があって、気付かされて、それが糧になることが多かったから、それ以外を歌う気にならなかったのが事実で。愛は永遠で生きていくんだぜ、なんて歌はピンとこないし、そういうものを歌いたいと思ったことも1回もないし。だけど、自信を失いかけてる中で、最後に何を歌うかっていったら、こういう言葉が出てきて。結局俺はこういうことしか歌えないで終わっていくんだな、って思ったけど、それに悔いはなかったんだよね。
──極端な話ですけど、今作で創作活動が終わる可能性もあったんですか?
あったと思う。今年の1月とか2月とかは、もちろんがんばろうとしてたけど、自分としては体も意識もついていかないなって思っていたし、何よりも情熱が燃え尽きかけていたというか。何に対して歌っていいかわからなかった。自分の歌っていることが嘘になってしまうとするならば、歌う理由がないじゃないかって。嘘を歌ってまで、別に続けたくないし。音楽を単なる職業にしたくないから。できる人はいいと思うんだよ。でも俺は歌がうまいわけではないし、器用なわけでもないから、人の歌を歌うのは無理だろうなって。だいたいさ、スナック行くと俺より歌がうまいおじさんが5人ぐらいいるからね(笑)。歌がうまいっていうのは、そういうことだと思う。ただ、歌が伝わるっていうのは、違うことだけど……。
──今作ができあがってからは、歌いたい欲求や自信は戻ってきたんですか?
でもこれはさ、震災前に作ったものでしょ。「夢の跡」なんかは、新しい手ごたえもあったし、良かったと思ったけど、不安を打ち消すくらいの曲になったとは思っていない。ちょっと延命されただけで。
NOFRAMES PRESENTS
meet in the park
2011年7月10日(日)
東京都 日比谷野外大音楽堂
<出演者>
EGO-WRAPPIN' / OVERGROUND ACOUSTIC UNDERGROUND
チケット一般発売:2011年6月4日(土)
New Acoustic Camp
2011年10月15日(土)・16日(日)
山梨県 道志の森キャンプ場
早割チケット発売:2011年6月11日(土)
OVERGROUND ACOUSTIC UNDERGROUND(おーばーぐらうんどあこーすてぃっくあんだーぐらうんど)
BRAHMANのメンバー4人とスコットランド系アメリカ人のMARTIN(Vo, Violin, G)、KAKUEI(Per)の6人から成るアコースティックバンド。TOSHI-LOW(BRAHMAN)とMARTINを中心に、2005年6月に結成される。2005年にオムニバス盤「The Basement Tracks-10YEARS SOUND TRACK OF 7STARS」に初音源「Dissonant Melody」を提供し、2006年に1stアルバム「OVERGROUND ACOUSTIC UNDERGROUND」にてデビュー。「FUJI ROCK FESTIVAL '06」や「ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2006」をはじめとする各地のロックフェスティバルに出演し、多くの観客を魅了した。
その後もBRAHMANや個々の活動と並行し、定期的なライブツアーを実施。また2007年にミニアルバム「all the way」を、2009年にフルアルバム「New Acoustic Tale」をリリース。さらに2010年には、10月に道志の森キャンプ場(山梨県)にてキャンプイベント「New Acoustic Camp」を実施し、成功に収めた。2011年6月、新作ミニアルバム「夢の跡」を発表。