どちらを先に聴くかによって見える結末が変わる

──今回、シングルとアルバムを同時リリースするというアイデアは、どういう経緯で生まれたんですか？

きっかけはたくさん曲ができたっていうこと。あと、ひとつのテーマが自分の中にあったとして、作品を作るときに2つの言い方ができた、つまりシングルとアルバムっていう形態で表現できたということがありますね。それに加えて時期的には、少し前に自分の友達や祖父が亡くなったりということが重なって、最後に決定打で震災がきて。今、出せることを惜しみなく形にできる機会って、実は限られてるんだなって思って。それで今出せるものは出さないと自分の中に後悔が残るだろうと思い始めたんですね。

──それは大きな理由ですね。

それからもうひとつの理由として、僕は毎回作品を出すときに「これはアルバムとして出そう」とか「これはシングルだ」「これはミニアルバムだ」って考えたことがそんなにないんです。世の中から見た役割ってのは置いといて、僕からすると、ただのボリュームの違いだと思うんですよ。シングルもアルバムも作品としての完結した形とか必然性、これ以上足したら字余りになるし、引いたら未完成っていうところまでいかないと出す気にはなれなかったんですね。で、今回は作ってる途中でもう、これはシングルとアルバムで出せるなと思いました。今回リリースする曲は、サウンド面も歌詞が伝えようとしていることも、「あれも言いたい」「これも言いたい」というよりは、同じことを言ってるんだけど見てる場所が違ってて、でも結末は一緒で。そういう関係性が両方の作品にいい影響を与えたので、同時のほうが面白いかなと思って、出すことにしました。

──今回はリスナーがシングルとアルバムのどっちを先に聴くかによって、見えてくる景色が違いますよね。

そう、そこが僕が面白いと思ったところで、これまでに受けたインタビューとかでは「シングルから聴いてアルバムに行き着くんじゃないか？」って言われることが多いんです。彼らは理由として「（前作の）『Misstopia』の音楽的な系譜を汲んでるのがシングルだから、『Misstopia』からこのアルバムに至る過程にシングルがあると思う」って言ってくれるんですね。でもその感想は僕にとっては意外というか、もちろんその解釈も全然いいと思うけど、僕の中で歌詞において自分の表現がさらに進んだなと思ったのは、どっちかというとシングルなんですよ。だから聴く人には好きな順番で聴いてもらったらいいし、順番によってそれぞれ見えてくる結末が違うのが面白いと思います。

“より良く生きる”ことを意識するようになった

──先程のお話の続きなんですが、ここ最近身近な方が亡くなったことは小林さんの音楽に何か変化をもたらしましたか？

そうですね。もう、僕にとっては生きることすべてというか、やること、選ぶものすべて。例えば「生きるってどういうことか？」とか、知っていたつもりなんだけど身をもってはわかってなかったんだなっていうのを、死んだ人が近くにいるっていうことで気付いたというか。これまでもいろんなアーティストの方が亡くなったりしてましたけど、「気の毒だな」というふうにしか思えなかったんです。だけど去年の「COUNTDOWN JAPAN」の日の朝に祖父が亡くなったっていう話を聞いて、その辺りからだんだんシリアスな気持ちが芽生えていったんです。「なんで人が死ぬと悲しいのかな」とか「健康的であることってなんだろう」とか「より豊かな気持ちになりたいな」「強くなるってどういうことだろう」ってことを考え始めたんですよね。元来生き物っていうのは生きるための強さや豊かさを自然と求めていくものだと思うんです。でもこの世の中では、それを堂々と求めるのはちょっと後ろめたかったり、少しカッコ悪いことみたいなところがあるんじゃないかって。

──そこに気が付いたんですね。

そういう価値転換がどこかで行われてたんじゃないかな？って思うようになったんですよね。だから一度そういう思い込みを解体して、「美しいものを見たらなんで感動するのかな」とか「健康的でいたいと思う気持ちはどこからくるんだろう」っていう気持ちを確認したいと思って。そしたら“より良く生きる”ってことをすごく大事にしたくなりましたね。