西岡秀記|ポジティブなシンガーソングライターが明るく語る不器用すぎる半生

「ブリッ」。年商8億。波乱万丈な西岡秀記のプレリュード

──西岡さんはすごく素直な方なんですね。そのストレートさや優しい人間性は歌詞にも表れている。では、ヨウジさんに一喝されたことでシンガーソングライターの道に進むわけですね。

西岡秀記

いや、その前にテレアポの仕事をするんですよ。通話料が安くなるマイラインの電話営業ですね。この仕事が大きな転機になりました。テレアポってトークのマニュアルがあるんですけど、僕は全然契約が取れなかったんですよ。そんな僕に、ある上司は「テレアポは運だ」って言うし、別の上司は「テレアポは実力だ」って言う。どうしていいかわかりませんでした。そんな中で契約が取れないからクビ寸前のところまで追い込まれてしまったんです。そしたら「テレアポは実力」と言ってた上司が、「1回だけ俺の言う通りにやってみろ」ってアドバイスをくれたんです。これが僕にとっては忘れられない体験になりました。

──ほう。

いつものように電話をかけて、マニュアル通りに営業したんです。でも営業電話って正直うっとうしいじゃないですか。いつもある程度のところで相手に「はいはい。大丈夫です」って切られちゃってたんですよ。でもその上司は「切られそうになったら『ブリッ』って言え」と言うんです。意味わかんないでしょ? 僕は「え……、無理です」って拒否したけど、上司は「責任は俺が持つから、電話を切られそうになったらとにかく『ブリッ』と言ってみて」と曲げない。どうせ、ここで契約取れなければクビだし、しかたなく言ったんです。「ブリッ」って。

──営業の電話がかかってきて、そんなこと言われたら普通誰でも戸惑いますよ。

そのときの相手もめちゃくちゃ戸惑ってました。でもいつもなら電話を切られちゃうのに、相手が食いついてきたんです。「何? なんなの?」って。そこで僕は改めて営業の内容を伝えました。そしたらちゃんと話を聞いてくれて、しかも契約まで取れたんですよ。そして上司はこう言いました。「営業電話なんていつもいろんなところからかかってくる。みんなうんざりしてて、普通のことをしてては誰も俺らの話なんて聞いてくれない。西岡は最初『ブリッ』って言ったら相手に怒られると思ったろ? 社会人としてダメとか、失礼とか。でもお前の『ブリッ』は誰も損させてないんだよ。むしろ、相手はマイラインを入れて通話料が安くなったし、俺らも契約が取れた。世の中結果がすべて。結果が『ブリッ』を正義にしたんだ」って。そこから僕は1日16件とか契約が取れるようになりました。

──マニュアル通りに生きるのではなく、失敗を恐れずチャレンジすることをテレアポの仕事から学んだわけですね。ではその経験を経て、HIDEKI名義で歌手デビューって感じですかね?

いや、まだですね(笑)。そこから稼ぐ楽しみを知ってしまいまして。当時ちょうど光ファイバーの新規参入事業がすごくもうかる時期だったんですよ。テレアポからそっちに転職して、契約が取れるたびに信じられないぐらい歩合がもらえるので、「これは自分でやったほうがもっともうかるのではないか?」と思って自分で起業しました。このタイミングでHIDEKI名義で歌手を始めてるんですけど、事業のほうが儲かりすぎてあまりちゃんとやってませんでした。一時期は年商8億とかあって、北新地のクラブとかハシゴしまくってひと晩に300万使ったりしてましたから。このときは本気でソフトバンクを超えられると思ってた。でも2年くらいしたら一気に市場が埋まって一気に景気が悪くなって、売り上げも激落ちしちゃってこのままじゃもうダメだと思い、光ファイバーの事業を辞めることになりました。

──それで西岡秀記としてシンガーソングライターに力を入れるんですね。

いや、その後もう1回窮地に陥るんですよ(笑)。そこで本格的にシンガーソングライターとして生きていくことを決めるんです。

──波乱万丈ですね。

西岡秀記

新しい事業として店舗型ビジネスをされている経営者向けのコンサルティングサービスの事業を立ち上げて、なんとか一度会社を立て直すことに成功しました。でも光ファイバーで儲かったお金は派手に全部使っちゃって自爆したのがトラウマになり、「できるだけお金は使わないでおこう……」と守りに入った経営をしていて、思い切ったことができなかったんですよ。そしたらせっかく回復した業績がどんどん落ちて行って、営業も僕以外誰も契約が取れない感じになってしまった。完全に自転車操業です。しかもそんなひどい状況の中で僕が投資詐欺に引っかかって損失拡大させたり、同時に妻の浮気が発覚して離婚の裁判が始まったり……。もうどん底になったので、全部いったんゼロにリセットしたいと思って社員やバイトもみんな辞めてもらいました。会社を守るためにもそうせざるを得ない状況で。正直、当時のことはよく覚えてないんです。このときの僕はうつ病みたいな状態だったと思う。夜も眠れなくて、1カ月間は毎晩夜の街に繰り出して遊び歩いていました。やっぱり人間守りに入るといろんなことがどんどん衰退していきます。現状維持なんてそもそも不可能なんだと気付いたので非常にいい勉強になりました。

──本当につらいときは自分でも想像だにしない大胆なことや、側から観たら意味不明な行動をとってしまうんですよね。その感覚は理解できます。

本当にそんな感じ。何かしてないとダメだったんですよ。どんどん病んでいきました。何かを変えなきゃいけないと思って、改めて経営者としての10年を振り返ったんです。なんでこんな状況になったのかを考えてみた。いろんな状況はあったにせよ、最終的にその状況を作ったのは自分自身なので僕の責任です。と言うか、あの状況で誰かに責任を転嫁したら、自分はもう前に進めないと思ったんです。それを認めたうえで、じゃあ次に経営者としてやりたい事業はあるかと考えたとき、何もなかった。さすがに2回も失敗していますからね。でも経営者としてではなく、人間・西岡秀記としては本当にやりたいことは何1つ実現させてないことに気付いたんですよ。

──起業はやりたいことじゃなかったんですか?

起業は「やりたいこと」と言うより、お金稼ぎの面白さを追求してた感じでしたね。だからお金をかけた遊びをやったけど、そういうことではなくて「自分が人生の中で本当にしたいことは何か?」と向き合ってみたんです。そこで最初に思い付いたのが音楽でした。20歳頃から作詞作曲とライブ活動を始めて。訳のわからない芸能事務所にCDデビューの詐欺に遭ったりもしたし、音楽活動をやめていた時期もありましたが、2015年に約10年ぶりにやったライブでまた人とのつながりができて、音楽活動を再開することができました。今までの人生で唯一の後悔は競馬の騎手になれなかったことだったので、音楽で同じ後悔はもうしたくないと思ったんです。他人から見たら僕の人生は本当にしっちゃかめっちゃかかもしれないけれど、この程度でネガティブになってたら前に進めないし、いろいろな経験を重ねたことによってどの生き方を選んでも生きて行けることに気付いた。今は毎日納得のいくように好きなことをして生きてる。自分の幸せは自分で選べばいい。それを伝えたいなって。

不器用な男、西岡秀記の野望

──西岡さんの半生を聞いたあとだと、「やりたいようにやればいい」の説得力がすごいです。

その思いが「Treasure」に詰め込まれてるんですよ(笑)。僕はどちらかというと、生きたいように生きるのが遅すぎた。僕は本気でみんなに自由に人生を選択していき、今という時間を納得のいくように過ごしてもらいたいと思ってるんです。

──お金が好きなのに、もうからないシンガーソングライターをするのは苦じゃないんですか?

売れればもうかるんでしょうけどね(笑)。でも根本的には金なんてなくても別にいいって思ってるんでまったく苦にならないですね。お金の稼ぎ方は知ってるので、どうしてもお金がほしいってなれば、稼げることをやってほしいだけ稼いだらいい。極端な話、僕はCDの販売だけで活動を完結させるつもりはないんですよ。今大阪のコミュニティFM・YES-fmでやっているラジオ番組「音楽に夢中!」にはスポンサーが付いてくれています。CD1枚売ることはものすごく大事だけど、活動を継続し、支えていくためにはそういうことも考えないと。

──営業や経営者としての経験が生かされているんですね。

はい。僕にとっては、企業に喜んでもらえるような提案をすることと、オーディエンスを前に歌うことは等価なんですよね。

──では最後に西岡さんが目指している具体的な目標を教えてください。

全国ネット番組のエンドロールで僕の曲が流れるようにします。僕は大阪城ホールでコンサートをするのが夢なので、夢を実現するための実績作りです。営業マインドでテレアポします。向こうから声がかかるのを待ってるのは、時間がもったいないので。ただ待っていて「僕の曲は評価されない」って落ち込むより、向かって行くほうがいい。それでダメって言われたら、企業が望む作品を作ります。なんかあったらとりあえず「ブリッ」って(笑)。そしたら契約は絶対取れる!

西岡秀記
西岡秀記「Treasure」
2018年10月1日発売
WIN MUSIC ENTERTAINMANT
西岡秀記「Treasure」初回限定盤

[CD] 3240円
WIN-00004

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収録曲
  1. Treasure
  2. ゼラニウム
  3. Let's again
  4. Revival
  5. Tactics
  6. 深海
  7. センチメンタルブルー
  8. 光の翼
  9. 夏が終わる前に
西岡秀記(ニシオカヒデキ)
西岡秀記
1982年生まれのシンガーソングライター。2002年に音楽活動を始め、2005年には個人事務所WINGROUPを設立する。2005年12月、1stシングル「Last Christmas~With You~」でCDデビュー。2012年12月に1stアルバム「いつまでも、いつの日か、いつの日も」をHIDEKI名義で配信リリースした。2016年10月に2ndシングル「不滅の絆」を発表。表題曲は航空母艦“瑞鶴”の追悼イメージソングとして制作され、同月、奈良県橿原神宮で行われた瑞鶴の慰霊祭で披露された。2017年4月には3rdシングル「追憶 / 陽があたる場所 / tsu...tsu...tsu...情熱!」でキングレコードよりメジャーデビュー。同年8月にYES-fmにて自身初の冠ラジオ番組「西岡秀記の11時に夢中!」をスタートさせる。11月1日には2ndアルバム「君が人生の刻」と3rdアルバム「境界線上の愛の詩」を2作同時リリース。2018年10月1日に4thアルバム「Treasure」を発表し、表題曲がABCテレビ「今ちゃんの『実は…』」9月度エンディングテーマに採用された。12月には兵庫県・尼崎アルカイックホールで単独ライブ「GOLDEN CHRISTMAS SHOW2018」を開催する。なお「西岡秀記の11時に夢中!」は 2018年6月より「音楽に夢中!」とタイトルを変えて継続中。