シンガーソングライターの西岡秀記が10月1日にニューアルバム「Treasure」をリリースした。今回の作品には、さまざまなストレスを抱える現代人のために歌われた10曲を収録。ポジティブで発想も力強く、「落ち込んでいる時間があるなら前へ進め」と鼓舞するナンバーがそろっている。
今回のインタビューでは西岡がなぜ現代人をストレスから解放したいと思うようになったのかを探るため、彼の半生にスポットライトを当てた。すると西岡は、このうえなく陽気な口調で波乱万丈な半生を話し出した。
取材・文 / 宮崎敬太 撮影 / 西槇太一
人生の意味を考える前に、まず生きたいように生きればいい
──新作アルバム「Treasure」はものすごくポジティブな作品ですね。
そうですね。最近は生き方に迷ってる人が多いじゃないですか。働くことに意味を見出せなかったりとか。でも僕は意味とかではなく、みんなやりたいようにやればいい、生きたいように生きればいいと思うんです。そしたら今の世の中にある窮屈感なんてなくなるし、もっと楽しい世界になりますよ。「Treasure」という作品には、自分の実体験にもとづいて書いた曲が収録されています。この作品を1人でも多くの人に聴いてもらって、何かを変えるきっかけになるように、みんなの心に火を点けたいんです。
──この作品はどのように制作したんですか?
僕は作曲するとき、まずギターで簡単なオケを作ります。歌詞はその曲を聴きながら、インスピレーションのまま書いていきます。僕は歌詞を一番大事にしているんです。作り話は書けないから、すべて実体験をもとにアウトプットしています。僕の歌には、1つも嘘はないです。
──西岡さんは経営者でありながら、シンガーソングライターでもあります。経営者として現実的にお金を稼がなくてはいけないという事実が、創作活動を邪魔することはないのですか?
それはないですね。みんなよく「お金がない」って言うけど、それは贅沢するお金がないってことだと思うんです。いい車に乗りたいとか、大きい家に住みたいとか。普通に暮らすんだったら、お金はそんなに必要ない。だったらもっと自由に生きればいいのにって思っちゃう。
──理屈としてはわかるんですが、実践するのは難しいですね……。
お金のためにやりたくないことをやってストレスを溜めて生きるより、好きなことをしたほうがよくないですか? 人生って絶対に楽しいものだし、好きなことだったら努力も苦にならない。例えば今作の表題曲「Treasure」は、テレビ朝日系のバラエティ番組「今ちゃんの『実は…』」の9月度エンディングテーマに決定したんですよ。その契約だって、僕が自分で音楽出版の会社に電話かけて取りましたから。
──えっ!? 西岡さんが自ら売り込みの電話をしたんですか?
そうそう。テレビで自分の歌を流したいなってずっと思ってて知り合いのテレビ番組制作会社の人に「番組のタイアップってどうやって取るの?」って聞いたら、「音楽出版社で決めてる」と教えてくれて。翌日、音楽出版社に「自分はこういう者だけど、なんかタイアップできる番組とかありませんか?」って電話したんですよ。それで実際に打ち合わせをしたら何個か候補を挙げてくれて、すぐに決まりました。タイアップも一見難しそうだけど、やってみると意外と簡単なんですよ。僕は“したいと思ったこと”を有言実行していき、実現できないことなんて何ひとつないということを行動で示していきたい。その姿を少しでもたくさんの人に見てもらって一歩踏み出す勇気を分け与えたい。冷めがちなみんなの心に火を点けたいんです。動かなきゃ動かせないって。
競馬騎手に憧れ続けた、中途半端な十代後半
──その異常なポジティブマインドは生まれつきですか?
いや、昔はめっちゃネガティブでしたよ。僕、ほんまは競馬の騎手になりたかったんです。おじいちゃんの影響で小学5年生の頃に競馬を知って、武豊を見てジョッキーになりたいと思いました。だから中学を卒業したら競馬学校に行って騎手になるための勉強をしたかったんです。でも全然勉強ができなかったから、親に反対されるのが怖くて「競馬学校に行きたい」と言い出せず、流れで公立高校を受験しました。そこは名前を書けば入学できると評判の学区内で一番バカな学校でした。それで入試で本当に答案に名前だけ書いて出したら、その年はなぜか応募者が多くて落ちてしまったんですよ。
──話と違いますね(笑)。
本当ですよ! しかもうちの中学でその学校を落ちたのは僕だけ。その段階で行けるのは高等専門学校しかなくて。しかも高専は私学だから公立高校に比べて入学金が高いんですよ。うちは全然裕福じゃなかったから、父が趣味で集めていた貴重な化石を売って、僕の入学金を作ってくれたんです。
──行きたくもない学校に行くためのお金を作るために、お父さんが大切なものを売ってしまったというのはなんとも言えない気分ですね。
それが僕にとってものすごい後悔になったんです。あのとき僕がちゃんと自分の意志を貫き通して、批判も覚悟して親とちゃんと話し合えば違う未来があったかもしれない。高専での3年間を騎手になるための勉強に費やせたかもしれないって。そこからは本当にネガティブでした。
──グレたりしなかったんですか?
高専の最初の頃、一瞬グレかけました。周りには暴走族とかもたくさんおったし。ノリで1回単車の後ろに乗って大阪の大正区というところに行ったら、暴走族のケンカに巻き込まれてしまったことがあるんですよ。もちろんビビッて急いで逃げたんだけど、気づくと腰の辺りが血だらけで。よく見たら切り傷でした。刀みたいなもので切られたみたいだったけど、逃げるのに夢中でいつやられたのか覚えてない(笑)。いまだに切られた傷跡が残ってます。それで「こういう世界は自分に向いてない」とそっち方面との関わりをすべて断ち切りました。
──その後はどうしたんですか?
勉強は相変わらず嫌いだったから、バイトばっかりしてましたね。僕、高校2年から寿司屋でバイトをしてたんですけど、当時の口癖は「ダルい」「眠たい」「しんどい」「帰りたい」。ずっと「騎手になれたかも」という思いを引きずってました。バイトは高専を卒業したあともなんとなく続けてたんですが、ある日、19歳くらいの頃かな? ヨウジさんというすごく仕事ができる先輩に食事に誘われたんです。そこで「お前、仕事のことどう思っとんねん」と聞かれました。僕、仕事は嫌いだけどお金は好きだったから、「お金のためにやってます」と答えました。
──まだ若いし、状況的にはそんなふうにも考えてしまいそうですね。
そしたら「お金もらうってどういうことかわかってる?」って。僕は「そんなん、働いてるんだから(お金もらうのは)当然でしょ」ってやり返しました。でもヨウジさんは「そのお金も店が払ってんねん」と詰めてくるんです。さらに「お前、よくほかの板前のこと批判してるよな。言ってることは確かに的を得てるよ。けど、店がのっぴきならないことになったら切られるのはお前やで」って言われたんですよ。で、極め付けは「お前は突っ張って生きてるけど後ろ向きや。どうせなら前向いて突っ張れ」ってひと言。もうぐうの音も出なくて。「自分の実力も見えてないやつが他人の批判してどうする」とも言われて、本当に恥ずかしかった。自分にもムカついたし。でも同時に救われた感じもしました。
──「あのときこうしてたら」という過去の可能性にしがみついてた当時の西岡さんを、そのひと言が解放してくれたのかもしれませんね。
そうかもしれない。その日から一切マイナスなことは言わないようになりました。そしたら自然と人生も楽しくなってきたんです。
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「ブリッ」。年商8億。波乱万丈な西岡秀記のプレリュード
- 西岡秀記「Treasure」
- 2018年10月1日発売
WIN MUSIC ENTERTAINMANT -
[CD] 3240円
WIN-00004
- 収録曲
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- Treasure
- ゼラニウム
- Let's again
- Revival
- Tactics
- 深海
- センチメンタルブルー
- 光の翼
- 夏が終わる前に
- 道
- 西岡秀記(ニシオカヒデキ)
- 1982年生まれのシンガーソングライター。2002年に音楽活動を始め、2005年には個人事務所WINGROUPを設立する。2005年12月、1stシングル「Last Christmas~With You~」でCDデビュー。2012年12月に1stアルバム「いつまでも、いつの日か、いつの日も」をHIDEKI名義で配信リリースした。2016年10月に2ndシングル「不滅の絆」を発表。表題曲は航空母艦“瑞鶴”の追悼イメージソングとして制作され、同月、奈良県橿原神宮で行われた瑞鶴の慰霊祭で披露された。2017年4月には3rdシングル「追憶 / 陽があたる場所 / tsu...tsu...tsu...情熱!」でキングレコードよりメジャーデビュー。同年8月にYES-fmにて自身初の冠ラジオ番組「西岡秀記の11時に夢中!」をスタートさせる。11月1日には2ndアルバム「君が人生の刻」と3rdアルバム「境界線上の愛の詩」を2作同時リリース。2018年10月1日に4thアルバム「Treasure」を発表し、表題曲がABCテレビ「今ちゃんの『実は…』」9月度エンディングテーマに採用された。12月には兵庫県・尼崎アルカイックホールで単独ライブ「GOLDEN CHRISTMAS SHOW2018」を開催する。なお「西岡秀記の11時に夢中!」は 2018年6月より「音楽に夢中!」とタイトルを変えて継続中。