「47+1 新生 New Year Rock Festival」特集 HIRØ(カイキゲッショク)インタビュー|内田裕也の思いを引き継いで伝えた、今ロックがやれること

ラッパーとして20年間貫き通している

──今回の「NYRF」は総合演出で映画監督の薗田賢次さんが関わられていたんですね。

カイキゲッショク©石橋俊治

pecchini(薗田)監督はカイキゲッショクの映像担当メンバーなんです。「KILL COVID」をpecchini監督と緊急事態宣言中の誰もいない東京で撮影したり、長渕剛さんとAIちゃんの「しゃくなげ色の空」の監督も務めていたり、家族ぐるみで薗田監督とは関わっています。2008年から銀座博品館劇場でやってきた「NYRF」ですけれども、今年は生配信ということで、神田明神ホールという神社の境内の中にある会場からお届けしました。新しい「NYRF」の幕開けという意味でも縁起がいいなと思って、オープニングアクトのカイキゲッショクから僕とZeebraとT×BONEで神田明神に入っていくところからスタートしようって。カイキゲッショクのメンバーだったJESSEは今回アコースティックで歌ったんですけど、近年いろいろあった彼が床に座ってギター1本で歌う姿は刺さりましたね。「これからがんばっていくんだ」という彼の気持ちがすごく出てたステージだったと思います。次のKYONO(WAGDUG、T.C.L)もアコースティックで、ちょうどJESSEもいたので一緒に「BREED feat. JESSE」をセッションしてましたね。KYONOはアコースティックでも歌がうまいですよね。いつかTHE MAD CAPSULE MARKETSの復活ライブを「NYRF」でやってもらいたいですね。Zeebraには僕のリクエストでDABO、UZI、G.K.MARYANと一緒に日本のヒップホップクラシック「城南ハスラー2」をやってもらいました。2001年の曲ですけど、みんなラッパーとして20年間貫き通しているメンバーなので。まだご覧になっていない方はぜひ。枠にはまらない人たちが変わらずやり続けている姿って魅力的ですよね。

追悼の思いを込めて

──晋平太さんとONODUBさんは、志村けんさんについて歌った楽曲「大丈夫だぁ」を披露されていました。

晋平太くんとはレコーディングスタジオのエンジニアが一緒なんです。「KILL COVID」のリリックは、僕がもう1つやっているバンドの湾岸の羊の「都会の森」という曲をレコーディングをする予定だった日の朝、志村けんさんが亡くなったことで生まれたんです。僕がONODUBさんのスタジオに行くため家を出ようとしたとき突然AIちゃんの泣き声が聞こえてきて、「ああ、亡くなったんだ」ってわかりました。みんなにこんなつらい思いをさせるコロナウイルスがすごく憎くて、スタジオに着くまでの車で1時間くらいの間に歌詞を考えて録音したんです。晋平太くんは狭山出身、志村さんと同じ東村山在住だからいっそうくやしい思いがあったはずで、ONODUBさんに「大丈夫だぁ」という曲を聴かせてもらって、すぐ大晦日のスケジュールを空けてほしいとお伝えしました。

──コロナではアラン・メリルも去年亡くなりましたよね。

それで高木完さんが何年か前の「NYRF」でVodka Collinsの「Sands Of Time」をカバーしてたのを僕は覚えてたので、アラン追悼の意も込めて完さんにこの曲を演奏してくれないかとリクエストして。

──いろんな思いが選曲に反映されていたんですね。

今回配信だからできることとして、亡くなった先輩たちのアーカイブライブ映像をお届けしたんですけど、美勇士には「ひさしぶりにお父さんと共演だからな」と、桑名正博さんの「月のあかり」を歌ってもらいました。一昨年、兄弟を名乗る人がいきなり現れたときも彼はすごく大人な優しい対応をしてたので、カッコよかったよと伝えて。原田喧太率いるKATAMALIのライブでは、ジョー山中さんの息子・レイ山中がフラワー・トラベリン・バンドの「Woman(Shadows of Lost Days)」を歌ってくれました。まだまだ荒削りですけど、お父さん譲りのポテンシャルはさすがだなと思ってます。

──そして新月灯花。THE NEWSの流れを汲む彼女たちも「NYRF」にはME-ISM時代から長く出演されてますね。

瓜田純士©石橋俊治

東日本大震災のあと新月灯花が「透明な闇」という曲を出して。あれから10年経った今もずっと彼女たちは福島の子供たちにライブを届ける活動を続けているんです。バリバリの社会派バンドだったTHE NEWSのイズムを受け継いだ、本当にカッコいいバンドですよね。ああいうなでしこバンド、もっと出てきてほしいですね。そこからの瓜田夫婦。キングオブアウトローを名乗る瓜田純士は最近YouTuberとして活動して賛否両論を集めてますが、僕は昔から仲よくさせてもらっているんです。彼は当初自分のアンチに対する「ファック・ザ・アンチ」という曲をレコーディングするはずだったらしいんですけど、僕の「都会の森」を聴いて考え方を改めて、できたのが「Never Forget~ずっと忘れない~」という曲です。純士こそ昔の「NYRF」のメンバーに一番近い匂いがあると思うんです。なのでいろんな期待値も込めて、瓜田夫婦の初ステージを俺にプロデュースさせてくれということでオファーしました。

湾岸の羊©石橋俊治

──湾岸の羊のパフォーマンスはどうでしたか?

湾岸の羊は、AURAのREDSだったり、GASTUNKのTATSUだったり、マーティ・フリードマンと世界中を回ってきたドラマーのCHARGEEEEEE...だったりがメンバーで、ある意味、湾岸の羊が今年の「NYRF」のキーマンだったなと思うところがすごくあるんです。先ほどもお話しした通り「KILL COVID」の原型の「都会の森」からすべては始まったと僕は思っていて。フィーチャリングでFlorence 13というストリートギャングから更生して日本でラッパーを続けているGDXakaSHUに参加してもらったことも見どころの1つですね。

心強いTOSHI-LOWと細美武士

──BRAHMAN feat. ILL-BOSSTINO、細美武士(ELLEGARDEN、the HIATUS、MONOEYES)、GASTUNKという並びは圧巻ですね。

豪華ですよね。TOSHI-LOW(BRAHMAN、OAU)とは東日本大震災のときから場所は違えどずっとともに闘ってきてて、今回コロナショックになったときもいろいろ話をしました。最初はアコースティックで参加予定だったんですけど、そのあと「CLUSTER BLASTER」というBOSSとのコラボ楽曲を聴いて、これはBRAHMANじゃないと、という話を。札幌のBOSSも東京まで来てくれました。TOSHI-LOWと細美くんが今年の「NYRF」に出てくれたことは俺の中ですごく心強かったし、勇気をいただきましたね。そして満を持して今回「NYRF」初登場のGASTUNK。ギターのTATSUは湾岸の羊のメンバーですし、2003年にRISING SUNで発表した「BAD BOY」という曲もTATSUと一緒に作った曲なんです。ちょうどGASTUNKが復活して勢いに乗ってましたし、YouTubeでやった「KILL COVID」の企画にBAKI(GASTUNK)さんが出てくれたのもうれしかったですね。

──カウントダウンはSHEENA & THE ROKKETS w/LUCY MIRRORでした。大晦日に「レモンティー」を聴かずに年を越せない人は多いと思います。

LUCYがどんどんシーナさんに似てきてるんですよね。僕が「NYRF」に初めて出たときから1年も休まず出演している先輩は、鮎川さんと白竜さんだけなんです。「NYRF」の歴史の証人としてカウントダウンをおまかせできるのは鮎川さんしかいないと思って相談させてもらいました。実は毎年5、6分の誤差があって、年を越しても「この会場だけはまだだ!」みたいな感じでやってたんですけど(笑)、今回は生中継なのでそこもスタッフ一同、がんばったところです。新年一発目は仲野茂(LTD EXHAUST II / 亜無亜危異)さん率いるLTD EXHAUST II。仲野茂は僕のアイドルで、中学生のときに初めて学園祭でやったのも亜無亜危異のコピーなんです。開催に向けてプレッシャーで眠れない日々が続いた時期、茂さんが「HIRØ、失敗したっていいじゃねぇかよ。また来年やればいいんだからさ」って言ってくれて。それで俺、スーッと楽になって数カ月ぶりに熟睡できたんです。60歳ですよ? うちの嫁はすごく音楽的にうるさいんですけど、「茂さんは歌がうまい。あんなに激しく動き回っているのにピッチが正確な人はいない」といつも言ってます。若い人にはぜひこの赤いモヒカンを立てた還暦のパンクスを、ぜひ観てもらいたいです。DJ MASTERKEYはニューヨークでDJ活動後、日本に帰国してBUDDHA BRANDでデビューするわけですけれども、たまたま僕もニューヨークにいたときに通っていた空手道場が一緒で、夢を語り合いながら道場で突いたり蹴ったりし合ってた仲なんです。2001年にMASTERKEYが出した「DADDY'S HOUSE Vol.1」というアルバムの中に当時活動休止中だったRage Against the Machineのザック・デ・ラ・ロッチャばりのラッパーがいて、「すごくカッコいいね! これ誰?」って聞いたら、NITRO MICROPHONE UNDERGROUNDのDELIだよって。それが「RUMBLE feat. DELI」という曲です。DELIはいま松戸市の市議会議員を2期やってるんですよ。「20年前の歌だよ? 俺あれ以来歌ってないから大丈夫かな?」なんて言いながらバリバリに歌ってくれました。DABOも「えっ、『RUMBLE』やるんですか?」と驚いた幻の名曲です。


2021年4月10日更新