新東京インタビュー|枠を作ることで手に入れた自由、貫き続ける“洗練”という美学

2021年8月に「Cynical City」でデビューして以降、約1年半の間に15曲もの楽曲をリリースしてきた新東京。昨年には自らが運営する新東京合同会社を設立し、「SUMMER SONIC 2022」への出演を果たすなど、精力的に活動を展開している。音楽ナタリーでは、2ndシングル「The Few」リリース時以来、1年半ぶりに彼らにインタビュー。創作に対するアティチュードについて話を聞きつつ、これまでリリースした3作のEPを振り返ってもらった。

取材・文 / 天野史彬撮影 / NORBERTO RUBEN

新東京以前の生き方

──新東京は昨年、田中さんが代表となって新東京合同会社を設立されていますし、音源制作においてはミックスやマスタリングまでご自分たちで行っていますよね。そうした活動からは、自らの手でバンドの方向性や制作物をしっかりコントロールしていこうという意思を感じるのですが、こうした活動方針はどのように決められているのですか?

田中利幸(Key) 今の僕らのやり方は、メジャーレーベルの手を借りたうえでガツガツ曲を作って戦っていくよりは、自分たちでそれができたらいいよね、という思いから始めた活動の仕方で。レーベルからお声がけをいただくこともあったんですけど、いろいろな条件を見ていくうちに、僕らは自分たちでバンドを動かしながら、対等な立場でつながってくれる人を探して一緒にやっていくほうが向いているのかなと思ったんです。今、ディストリビューションをやってくださっているArtLed / NexToneの方々は、そういう意思のもとでつながったんですよね。

新東京

新東京

──そうした活動方針に関しては、強いこだわりを持って決断したという感覚なのか、それとも自然とそうなったという感覚なのか、いかがでしょうか。

田中 自分たちが作るものにほかの人から指示を出されて、よくない方向に変えるようなことをしたくない、というこだわりは強くありました。特に曲作り、クリエイティブ面での自由度を求めたというか、やりたいことをすぐにやれる環境にいたかったんです。

田中利幸(Key)

田中利幸(Key)

──バンドで会社を設立されるとなると、音楽活動は皆さんの生き方自体にも密接につながるものになりますよね。新東京の活動からは「敷かれたレールの上を歩きたくない」というような意志も感じますが、2021年に新東京を結成されてから現在までの2年間、あるいはそれ以前のお話も含めて、皆さんがどのような考え方をもって生きてこられたのかを知りたいです。

杉田春音(Vo) 僕は、新東京を始める前はギラギラしたタイプというか。受験もがんばったし、大学に入ってからは就活もがんばって同期で一番いい会社に入って、何歳でいくらくらい稼いで……という野望がある人間でしたね。大学でトシ(田中)と会うまでは、今と比べると正反対だったかもしれないです。

──杉田さんは、Twitterに弾き語り動画を上げていたところを同じ大学の田中さんに誘われて、新東京に参加されたんですよね。

杉田 トシの感性はそれまでの自分があまり触れてこなかったものだから輝いて見えたし、自分の表現を肯定してくれる人がいるということ自体も新鮮でした。それまでの自分の生き方のまま突き進んでいると、自分の感性を無駄にしてしまうこともあったかもしれないけど、自分の感性を欲してくれる人がいて、表現する場所があるのであれば、その場所でがんばればいいんじゃないかって。今は新東京加入前に比べると真逆という感じがしますね。お金のこともけっこうどうでもよくなったし、ワークライフバランスでいうと“ライフ”が9割8分くらいを占めているような感じがします(笑)。いろんな経験からインスピレーションを受けているし、何気ない1日をゆったりと過ごすことが楽しいし、自分にとって価値があるものになったなって。

──保田さんはいかがですか?

保田優真(Dr) さっきおっしゃっていた「敷かれたレールの上を歩きたくない」という気持ちはずっと持っていましたね。だからこそ、音楽をやり始めたのも自然な流れで。根本的な考え方や性質はバンドを始める前から変わっていないかもしれないです。

保田優真(Dr)

保田優真(Dr)

──大倉さんはどうですか?

大倉倫太郎(B) そうですね……僕は、物事を深く考えないタチで(笑)。ただただ楽器が好きで、「楽器好きだなあ」と思っていたら、今のようになった感じです。そういう意味では、僕も「変わっていない」と言えるかもしれないですけど。

田中 でも、ちゃんと受験もがんばって、京都の大学に行ったじゃん。そのときはどんなふうに考えていたの?

大倉 京都の大学に行ったのは、京都に住みたかっただけです。

一同 (笑)。

大倉 そうやって、「いいな」と思う方向に進んでいたら、いつの間にかここにいたという感じですね(笑)。結果的には、成功です!

──(笑)。田中さんはどうですか?

田中 大学で新東京を組む前から、「どういう形であれ音楽はやるだろう」と思っていました。そのために大学に入ったんですよね。音楽で成功しなかった場合も、大学を卒業したあとは仕事をしながら趣味で音楽を続けていくだろうと。そこから、いざ音楽を始めてみたら、やっぱり楽しくて。バンドメンバー募集の掲示板で優真を見つけたんですけど、優真とスタジオに入ってセッションしていたら、「またバンドやりたいな」という気持ちが湧き上がってきたんですよね。それでTwitterで春音を見つけてきて、高校時代のバンドメンバーだった大倉を京都から無理やり連れ戻して……そうやって組んだ新東京を2年間やってきて。結局、やっぱり音楽で生きていきたいって気持ちが強くなって大学は自主退学してしまいましたが、普通に大学に通っていたよりは、きっと100倍楽しい毎日を生きることができているんじゃないかと思います。それに今は、成功するかしないか以上に、音楽をやり続けていきたいという気持ちが勝っていますね。

メンバーがもがき苦しんでいるのを見るのが好き

──田中さんはきっと、お一人で音源を作り上げることも可能なのだろうと思うのですが、バンドという表現形態に惹かれたのはなぜですか?

田中 バンドってカッコいいじゃないですか(笑)。それぞれが専門性を持っているところもいいなと思う。僕のパートはピアノですけど、演奏に特化してるわけではなく、どちらかと言えば曲作りの方に特化してる人間なんです。だからこそ、自分以外の3人はそれぞれの道を突き詰めている人たちという感じがして、カッコいいなと思う。それに、「これ叩けるか?」「これ弾けるか?」と難しいフレーズを提示して、それでメンバーがもがき苦しんでいるのを見るのも、好きなんですよね……。

大倉 意地悪(笑)。

保田 意地悪だなあ。

杉田 大富豪の遊びじゃん。

──(笑)。田中さんは、メンバーのことを見るのが好きなんですね。

田中 好きですね。「カッコいいなあ」って思います。

──過去のインタビューで曲作りの仕方について話しているのを読ませていただきましたが、曲のもとになるテーマや、杉田さんの書かれる歌詞など、前提に“言葉”を据えたうえで曲作りをされているんですよね。独特な曲の作り方だと思うのですが、どのようにしてこの制作方法に行き着いたのでしょうか?

田中 春音はゼロからイチを生み出すのが得意だけど、僕は苦手なんです。海の中からメロディを探すより、歌詞やテーマがあって、そこからメロディや曲の方向性を決めていくほうがやりやすい。そういうところから生まれた作り方ですね。

杉田 僕はトシから「歌詞をください」という連絡をもらってから、歌詞を書いています。その前提となるテーマは、僕かトシのどちらかが持っていて、そのうえで方針を2人で話し合うことが多いですね。「暗いのが続いたから、次は肩の力を抜こうか」とか。

──歌詞は、どのような状況で書かれることが多いですか?

杉田 毎日、急に思いついた言葉や文章をメモっています。「書こう」となったら、ベッドでゴロゴロしながら書くか、電車の中で書くことが多いです。電車の中って歌詞を書くのがはかどるんですよね。遠くへ向かう途中の電車の中で1番が大体できちゃうこともあります。

杉田春音(Vo)

杉田春音(Vo)

“洗練”という美学

──活動を始めてからこれまで、4曲ごとに楽曲をコンパイルしたEPをリリースされていますよね。「新東京 #1」「新東京 #2」「新東京 #3」と、これまで3作の4曲入りEPをリリースされていて、こうしたリリース形態にも形式美を感じます。この4曲入りEPというフォーマットはどのように決められたのでしょうか?

田中 “洗練”というのが、僕の美学としてあって。とにかく削ぎ落として、制作物を構成する要素や、それを説明する単語はできるだけ少なくしたいんです。ただ、そうは言っても、やりたいこともたくさんある。そこが矛盾しちゃうんですよね。そこで「枠を決めてやればいいんじゃないか」と思ったんです。枠を設けることで、秩序を損なわず、EPごとにやりたいことができるという。4曲という曲数はその絶妙なバランスを保てるベストを探究してたどり着いた数です。

──なるほど。洗練を目指す感性というのは、田中さんに元来あるものなのでしょうか?

田中 たぶん、そうですね。例えばデザインで、「もっと色を加えたい」と思ったときに、新しい色相を増やすんじゃなくて、すでに使っている色の明度をちょっと変えて試してみる、みたいな。それで多少物足りなく感じても構わないから、可能な限りすでにある要素を使って完成させます。映画でも、登場人物が多すぎる作品は嫌だと思っちゃう。逆に人物やモチーフを下手に増やさず繰り返して使うというこだわりを感じる作品は大好きです。ワンシチュエーション映画なんかは大好物。とにかくシンプルで、1つの要素がいろんな方法で使われている作品が好き。音楽もそうですね。サイン波からシンセの音を作るのではなくて、その曲ですでに使っているピアノの音にエフェクターをかけることで変化をもたらそうとしたり、そもそもあるベースにシンセベースを加えるのではなくて、ベースにエフェクターをかけることによって変化をもたらそうとしたり。そうやってトラック数を減らそうとするところもありますね。

──3人から見て、そういった田中さんの感性はどのように映りますか?

杉田 トシの基本的なルールとして、「この4人で出せない音は出さない」というものがあるんです。僕らの手が増えなきゃいけないようなものは作らない。それに、僕らはギターレスの4ピースバンドですけど、今の音楽シーンで、ギターなしでこれだけの作品を作ることができるのはトシの感覚があるからこそだと思います。

田中 「ギター欲しいな」と思うことはないの?(笑)

杉田 そういう観点では考えないよ。「ギターが欲しい」とかは思わない。このギターレスの4ピースでやっているからこそ、ドラムやベースのフレーズも豊かになるし、それぞれの楽器を単体で聴いても満足感がある仕上がりになっていると思うし。

保田 田中は曲だけじゃなくて、生活のことでも、きれいなものとか、洗練されているものが好きなんだろうなって思うよね。

大倉 僕は高校からずっと一緒にいるのでわかりますけど、いつも同じものを食ってたり、ずっと同じ曲を聴いてたりするんです。一貫した哲学じゃないけど、思考の芯みたいなものがあるんだろうなと感じますね。

大倉倫太郎(B)

大倉倫太郎(B)

──大倉さんは、田中さんのそうした部分に惹かれることもあるんですか?

大倉 いや、京都にいた僕を呼び寄せたのはこいつ(田中)なので、こいつが僕に惹かれています。

一同 (笑)。