新東京インタビュー|現役大学生4人が描く、都市の持つ美しさと残酷さ

新東京が2ndシングル「The Few」を配信リリースした。

杉田春音(Vo)、田中利幸(Key)、保田優真(Dr)、大倉倫太郎(B)という弱冠20歳の現役大学生4人からなるバンド・新東京。彼らは今年4月の結成後、6月にEggsが主催する23歳以下限定の音楽コンテスト・TOKYO MUSIC RISEでグランプリを獲得するなど、耳の早いリスナーを中心に話題を呼んでいる。このたびリリースされた「The Few」は、8月に発表されたデビューシングル「Cynical City」同様、複雑なコードワークやメロディが特徴的な1曲で、早くも新東京というバンドの色が確立されつつあることを窺わせる。

音楽ナタリーは「The Few」のリリースを機に新東京にインタビュー。メディアでのインタビューは初めてだという彼らに、結成の経緯やそれぞれの音楽ルーツ、「Cynical City」「The Few」に込めた思いを語ってもらった。

取材・文 / 石井佑来撮影 / 草野庸子

「2週間後にZeppに立てない?」

──まずは新東京というバンドがどのように結成されたのか教えていただけますか?

田中利幸(Key) もともと僕と大倉は静岡の高校でバンドを組んでいたんですけど、大学進学のタイミングで僕は東京、大倉は京都に引っ越すことになって。なので、そのバンドは解散せざるを得なくなったんです。でも東京に行ってもバンド自体はやりたかったから、バンドメンバーを募集する掲示板で、一緒にできそうな人を探して。そこで出会ったのがドラムの優真です。

保田優真(Dr) 僕はいろんな人から同じようなコメントが来ていてずっと無視してたんですけど(笑)、とし(田中)は送ってくれた曲がとにかくカッコよくて。「この人はすごい人だな」と思ってすぐに連絡を取りました。

田中 それから保田とは、お互いにいろんな人を連れて来つつスタジオでセッションしていて。それと同時期に、同じ大学の杉田がTwitterに弾き語り動画を上げているのを見つけて、仲よくなったんです。最初は一緒に古着を買いに行ったり家に泊まったりする普通の友達だったんですけど、俺と保田はとにかく早くバンドを始めたかったから「とりあえず3人で曲を作ってみよう」と言って、のちに1stシングルとしてリリースする「Cynical City」を作りました。

左から杉田春音(Vo)、保田優真(Dr)、田中利幸(Key)。

左から杉田春音(Vo)、保田優真(Dr)、田中利幸(Key)。

──「Cynical City」を作った頃には、大倉さんはまだ加入していなかったんですね。

大倉倫太郎(B) そうなんです。

杉田春音(Vo) 実はそのあとに別のベーシストが加入するんですけど、どうにも足並みがそろわなくて辞めちゃったんです。僕たち3人は就活までに結果を残したかったから、在学中はとにかくバンドに集中して、スピード感を持って活動していきたいと思っていたんですが、そのあたりの考え方が違ったようで。

田中 しかも辞めるという話が出たのが、Zepp Tokyoでの初ライブ(東放学園主催のイベント「コンサートのつくりかた」)の2週間前だったんですよ。これはヤバいと思って、大倉に電話で「2週間後にZeppに立てない?」と言って(笑)。

大倉 僕、京都にいたんですよ? わけわかんなくないですか?

──でも大倉さんは、その急な誘いを承諾されたんですよね。

大倉 まあ、暇だったんで……(笑)。僕は大学に入ったものの、どうしても勉強がしたくなくて、休学しようと思ってたんですよ。どうせ休学するなら、ついでにバンドをやれたら楽しそうだなと思って。加入したのが8月だったので、まだ1カ月くらいしか経ってないですね(※取材は9月末に実施)。京都にいる大学生が1カ月後にいきなりこんなインタビューを受けるとは思ってなかったです(笑)。

このバンドにかけてみる価値があるんじゃないか

──皆さんはもともと仲間内でバンド活動を続けるのではなく、作品をコンスタントにリリースして、バンドとして本格的に活動していくつもりだったんですか?

田中 結成のタイミングでは正直そこまで考えてはいなくて。Eggsが主催しているTOKYO MUSIC RISEという大会でグランプリに選んでいただいて、そこで初めて「このバンドいけるな」という手応えを感じました。それでバンドに集中しようと、みんなで大学を休学して。

新東京

新東京

──休学という選択は皆さんからしてみれば大きな決断ですよね。

杉田 もちろん最初は「本当に大丈夫なのか?」という怖さもあったんですけど、1stシングルの「Cynical City」が予想以上にいろんな人に聴いていただけたので、「これは1年間このバンドにかけてみる価値があるんじゃないか」と。大学に通いながら中途半端な形で続けるのはもったいないなって。

──今はコロナ禍の影響でバンド活動に制限が出てしまう部分もあると思うんですけど、そんな中でバンド活動に集中するという決断を下すことに不安はなかったですか?

田中 バンド活動に関しては、コロナ禍の影響を受けているという実感があまりないんですよね。変な話、コロナの影響で家にいる時間が多いので、その分曲作りに時間をかけられるんですよ。「Cynical City」なんかは、毎日のように1日中PCの前に張り付いて完成させた曲なので。あと、そもそもこの4人が出会えたというのも、変な言い方ですけど、コロナ禍のおかげという気がします。普通に大学に通っていたら、受動的に作られたコミュニティに落ち着いちゃうと思うんですけど、自分から友人を見つけていかないといけないという状況で、趣味や波長が合う人とつながれたというのはすごくプラスなことだなと。

保田 俺なんて大学で1人も友達いないもん(笑)。あの掲示板で田中と出会ってなかったら、人間関係が何もなかったかもしれない。掲示板に救われました(笑)。

流行りに乗っかるだけでは面白くない

──新東京というバンド名には、どのような意味が込められているんですか?

田中 覚えやすさやインパクト、検索に引っかかりやすいかどうかなど、いろんな要素を踏まえて付けた名前なので、「新東京」という言葉の意味は後付けになっちゃうんですよね……ちょっとスマホを見てもいいですか?(笑)

──どうぞ(笑)。

田中 えー、「往年のシティポップが再評価された昨今の音楽シーンで、一石を投じるような新しい形のシティポップを提示したい」という意味です(笑)。

──なるほど(笑)。

杉田 まあ意味自体は後付けで考えたんですけど(笑)、結果的にバンドとして持っているスタンスが凝縮されていると思います。洗練された都会的な音楽を作りたいと思っているけど、流行りに乗っかるだけでは面白くないと思うので。

新東京

新東京

──もともと皆さんはどのような音楽に影響を受けてきたんですか?

田中 僕は1つのジャンルに絞るのが難しくて。いろんなジャンルの音楽を聴くんですけど、おしゃれな曲が好きだというのは一貫しているかもしれないです。そしてそれは新東京として作る音楽のムードにも反映されていると思います。その中でも特に好きなアーティストを強いて挙げるなら、坂本龍一さんですね。小4くらいからずっとYMOを聴いていて、今でも大好きです。

大倉 僕も本当になんでも聴くんですけど、最近はタブラ奏者にハマってます(笑)。あとはチベットやアフリカの民族音楽ばっかり聴いていて。民族音楽って、メロディがない分、独特なリズムの強弱がすごく発展していて、それがすごく面白い。

田中 民族音楽、面白いよね。そういう要素も、新東京の曲にどんどん取り入れていきたいと思ってます。

──保田さんと杉田さんはどうですか?

保田 僕は今では幅広く聴くんですが、ルーツをたどれば、曲よりもドラムの演奏が好きで、海外のプレイヤーのソロやインスト曲を聴いて育ちました。歌モノのバンドなどは高校に入るまで全然聴いてなかったですね。

杉田 僕はceroやYogee New Wavesが好きです。曲を聴くだけで情景が浮かんできて、その中に自分も溶け込めるような雰囲気が心地いいなと思って。歌詞の比喩表現だったり、細かいところにいろんな美しいポイントがちりばめられていて、そういう部分は作詞にも影響を受けていると思います。

複雑さとキャッチーさ

──ここからは作品について具体的にお聞きします。「Cynical City」や新曲「The Few」は、バンドの特徴でもある複雑なコード感や楽器の手数の多さが際立ちつつ、サビはものすごくキャッチーに作られているというのが印象的でした。特に「Cynical City」は一度聴いたらすぐに口ずさめるような繰り返しのフレーズで構成されていて。そのあたりのキャッチーさは意識してますか?

田中 意識してますね。やっぱり、いろんな人に聴いてもらえないと意味がないので。僕はジェットコースターのような曲が大好きで、1曲の中に隙間なく展開を入れたいんです。それが結果的に、コードやメロディの複雑さにつながっているんだと思います。でも、そういう自分のエゴを入れつつも、全体の仕上がりとしてはキャッチーにしたくて。そういった部分を新東京というバンドの色として確立させたいです。

──それこそ先ほど「民族音楽の要素を取り入れたい」というお話もありましたけど、そういった要素を取り入れれば取り入れるほど、楽曲はどんどん複雑になっていくじゃないですか。ただ、いろんな音楽の要素を入れつつキャッチーさはキープしていきたいと思っていると。

田中 はい。自分たちが作りたい音楽、カッコいいと思う音楽を突き詰めたいという気持ちもありますけど、やっぱり独りよがりなものでは意味がないと思うんです。「Cynical City」をリリースして、自分たちの曲は思ったよりもいろんな層の方に聴いていただけているということが初めてわかって。Eggsのリスナー層は女子高生が主なんですけど、Spotifyでのリスナーは40代、50代の男性が中心だったり。そうやっていろんな層の方に聴いていただけるというのは、すごくありがたいし大切なことだと思ってます。もちろん自分自身、民族音楽のようなマニアックな音楽だけではなくてJ-POPも聴きますし。

──あえてサビをキャッチーにしているのは、コアなファンだけに向けて活動するのではなく、もっと開けたメジャーなシーンで戦っていきたいという意思の表れでもあるわけですね。

田中 そうですね。

──それは田中さんだけではなく、バンドとして共通のモットーなんですか?

田中 (大倉のことを見ながら)彼以外は……。

──(笑)。

田中 彼は「カッコいいことだけやってればいいじゃん」という考え方なので(笑)。

大倉 いやいやいや(笑)。音楽的にカッコいいことを突き詰めたいという思いは実際ありますけど、もちろん新東京として売れたいですし、キャッチーな曲が嫌いなわけではないので、この方針に反対してるとか、そういうことではないですよ(笑)。