ねごとが4月24日にベストアルバム「NEGOTO BEST」をリリースした。
2019年7月20日の東京・Zepp DiverCity TOKYO公演をもって解散することを発表しているねごと。彼女たちにとって最初で最後のベストアルバムとなる本作には、「ループ」「カロン」「sharp ♯」「シンクロマニカ」「アシンメトリ」などの代表曲のほか、未発表曲「雨」や新曲「LAST SCENE」など全35曲が収録され、約12年の軌跡を追体験できるアイテムに仕上がっている。
音楽ナタリーでは、メンバーの蒼山幸子(Vo, Key)、沙田瑞紀(G)、藤咲佑(B)、澤村小夜子(Dr)にインタビュー。メンバーの選曲による「NEGOTO BEST」の話題を軸にねごとのキャリアを振り返ってもらった。
取材・文 / 森朋之
この曲があったから音楽の道に来れた
──今回はベストアルバム「NEGOTO BEST」の収録曲の話題を中心に、ねごとの軌跡を振り返っていきたいと思います。ベストアルバムのDISC 1の1曲目は「ループ」です。2010年のメジャーデビュー作「Hello! "Z"」の1曲目に収録された曲ですが、リリースした当時のことは覚えていますか?
澤村小夜子(Dr) バタバタしててあまり覚えてないんですよ。
沙田瑞紀(G) 大学生だったし、音楽を職業にする実感もなくて。
藤咲佑(B) ミュージシャンに片足だけ突っ込んでる大学生という感じでした(笑)。
澤村 この頃の思い出は……ねごとのでっかいポスターの前で写真を撮ったこととか?
沙田 それは「メルシールー」のときだね。
澤村 そうか。記憶が曖昧になってますね(笑)。
──(笑)。「ループ」は、ねごとがデビューするきっかけになった「閃光ライオット2008」で演奏した曲ですよね。
沙田 はい。「閃光ライオット」のファイナリストでコンピレーションアルバムを作ることになって、そのためにレコーディングをして。
蒼山幸子(Vo, Key) ベスト盤にはそのときの音源をそのまま収録してるんですけど、それが初めてのレコーディングでした。
沙田「レコーディングはこうやるんだよ」と教えてもらいながら過ぎていった感じです(笑)。「クリックを聴いて演奏するんだよ」と言われたんだけどうまくできなくて、結局クリックを使わないで録音したんです。
蒼山 そうだったね(笑)。「ループ」はきっかけを作ってくれたというか、この曲があったから音楽の道に来れたんだと思います。
──当時のバンドに対するビジョンはどういうものでしたか?
蒼山 ビジョンは……正直、明確にはなかったですね(笑)。
澤村 ただのコピーバンドから始まって、楽しくやれればいいと思っていただけなので。
沙田 そもそも、ねごとのコンセプトが「世界の素晴らしい楽曲をコピーすること」だったんです。The FratellisやArctic Monkeysとか、邦楽だとゆらゆら帝国とかNUMBER GIRLとかをコピーしてただけだった。でも「閃光ライオット」の審査に通って、オリジナル曲がないと出られないということになって。
澤村 「ループ」もパッと作って、できた当日にライブでやったんです。
藤咲 「この構成でいいんだっけ?」ってステージで目配せしながら(笑)。
──「いい曲ができた」という手応えはあったんですか?
藤咲 そうでもなかった気がします(笑)。最初に3曲くらい作ったんですけど、私たちはほかの曲のほうがいいと思っていて。
沙田 そうだったかも。「閃光ライオット」の2次選考がスタジオライブで、そのとき「ループ」がすごい盛り上がりを見せて。レコード会社の方にも「いいね」って言われたけど、自分たちとしては「そうなんですか?」という(笑)。ただ、そのときにオリジナル曲を演奏することの喜びは感じてたかも。
シングル曲って何?
──2011年7月には1stフルアルバム「ex Negoto」をリリースしました。このアルバムには「カロン」「メルシールー」など、初期の代表曲が収録されています。
沙田 アルバムを作ること自体が初めてだったし、楽しみながら自由にやってました。アルバム全体の方向性もなくて、「この音、面白いね」とか「こういう流れよくない?」みたいなものを詰め込みながら1曲ずつ作って。そのプロセスが楽しかったんですよね。
藤咲 「カロン」を作ったときに合宿をして、そのときに初めて産みの苦しみを味わった気がしますね。瑞紀と幸子がメロディを作っていたんですけど、プロデューサーのいしわたり淳治さんと一緒に制作をする中で曲の形がどんどん変わっていって。「曲ってこうやって作るんだな」と知ったんだけど、今度は何が正解かわからなくなってきちゃった。
蒼山 2カ月くらい歌詞が書けなくて。感覚を言葉にできなかったというか。自分の中に書きたいものがあっても、具体的な形にできなかったんですよね。感覚的なものも大事だけど、それを具現化する力が必要なんだなって。
沙田 そもそも、「シングル曲を作りましょう」という目的のために行われた合宿だったんですよ。それもプレッシャーだったし、そもそも「シングル曲って何?」という(笑)。
蒼山 「四つ打ちがいいのか?」とか。
澤村 当時、「シングルは四つ打ちでしょ」という雰囲気があったんですよ。
沙田 私たちとしては自分たちがいいと思えればそれでよかったんですけど、スタッフの皆さんがいろいろな意見をくれて。「こうしたほうがいいんじゃない」というアドバイスをくださったり。その中に四つ打ちのアイデアもあったんですけど、自分たちはそういう曲を作ったことがなかったし、いいと思えなくて……まずはいろいろ試しながら「これはいい」「これは違う」と確かめていった感じですね。
──新しいトライをした時期だったと。
澤村 そうですね。「メルシールー」は河野圭さんと一緒に作ったんですけど、シンセの音使いがすごく新鮮でした。
沙田 キーボードをたくさん持ってきてくれて、アイデアも豊富で。すごいなと思いましたね。
蒼山 瑞紀が「メルシールー」のデモを持ってきたときに、「こういう曲にしたいんだよね」と参考になる曲も聴かせてくれて。それがシンセのリフが印象的な曲だったから、河野さんにお願いしようということになったんです。
沙田 そうそう。淡々としてるんだけど、エモーショナルにしたくて。仮タイトルは「淡々」でした(笑)。
──この時期の曲だと叙情的な「ふわりのこと」もいいですよね。
澤村 この曲はファンの間で人気No.1っぽいです。聴いていると幸子の地元の風景が浮かんでくるんです。
蒼山 地元の最寄り駅までの道を歌詞にしてますからね。そういう意味では等身大の曲なのかも。
沙田 歌謡曲、J-POPとしても成立している曲というのかな。私たちの中では「ふわりのこと」はお茶の間で流れてもいい曲だなと思うんです。
藤咲 リリースした当時はライブでもよくやってて、楽しそうに聴いている人もいれば、聴きながら泣いている人もいて。「『ふわりのこと』を聴くと泣いちゃうんです」という手紙をもらったこともあります。
蒼山 この曲もそうですけど、「ex Negoto」というアルバム自体を聴いてくれている人が多いみたいなんです。下の世代のバンドと話していて、「『ex Negoto』を聴いてました」と言われることも多いです。
沙田 「中学生のときに聴いてました」と言われると、「ヤバい!」って思いますけど(笑)。自分では「まだ28歳だもん」と思ってても、リリースから10年経ってるんですよね。
蒼山 うん(笑)。でもファンの方から「『サイダーの海』をコピーしてました」と言われることもあって、そういうのはうれしいですね。
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“暗黒期”を乗り越えて