うるさくて変なギターの音がないと、ちょっと物足りない
──そしてリード曲「テノヒラ」の作編曲は、ヒヨコ労働組合(夏川のサポートバンド)のギタリストでもある川口圭太さんですね。
圭太兄さんも夏川楽曲ではおなじみの作編曲家なんですけど、兄さんの楽曲が表題曲やリード曲になったことはなくて。いつもシングルのカップリング曲か、アルバムの中の1曲を書いてもらっていたんですよね。
──カップリング曲は、「passable :(」(2022年11月発売の6thシングル「ササクレ」カップリング曲)と「だりむくり」を聴いて「いい仕事するなあ」と思いました。
我々も圭太兄さんのそういうバランス感覚が大好きなんですけど、1回、兄さんの曲を表題かリードにしたくて。そこで今回「EP作るんで、リード曲書いてください」という、雑な投げ方をしました。
──それ以外に細かいオーダーなどは?
していないですね。今までもしたことないし、こういう言い方は失礼かもしれないけど「したところで、作りたいものを作ってくるだろうな」という感じなんですよ(笑)。圭太兄さんこそ“マイペース・オブ・マイペース”な人だし、だいたい「今、夏川椎菜に新曲を書くとしたらどんな曲?」とざっくり投げて、送られてきた楽曲を聴いて、一晩寝かせて「さて、どうしようか」とみんなで膝を突き合わせる。その制作の過程が面白いし、今回もそんな感じでしたね。ただ「テノヒラ」は、方向性としてはいつものオルタナ路線なんですけど、過去に書いてもらった楽曲に比べるとキラキラ感、前向き感が明確にあって。
──メロディもきれいですよね。
そうなんですよ。展開もドラマチックだし、おそらく「光ってるもの」からがサビなんですけど、「やっと気づいた 散々ぱら 言われてたこった」のあたりとかはすごくキャッチーだったりして。ひょっとしたら、圭太兄さんなりに「リード曲」というオーダーを汲み取ってくれたのかもしれない。
──ただ、せっかくきれいなメロディなのに、アレンジで汚すという。
そうそうそう。すぐ汚すんですよ、あの人。でも、圭太兄さんには「ラブリルブラ」(2018年7月発売の3rdシングル「パレイド」カップリング曲)のアレンジをしてもらって以降、ことあるごとにお世話になっていて。だから兄さんのアレンジが私のアーティスト活動に刷り込まれているというか、ここまで来ると、兄さんのアレンジが夏川らしさの一部になっているとすら思いますね。しかも、ヒヨコ労働組合のメンバーとしてライブでも演奏してもらっているから、あのうるさくて変なギターの音がないと、夏川椎菜の楽曲としてちょっと物足りなく感じてしまうかも。
私は、私の目の前にいる人を楽しませたいだけ
──「テノヒラ」の作詞は夏川さんですが、ある種のステートメントのように読める歌詞だと思いました。
私はライブでよく「自分の目の届く範囲、声の届く範囲を楽しませることが一番大事だ」みたいなことを言っていて。まさにライブにおいてはそれを全うしなきゃいけないし、そういう過去の自分のMCとかも反映しながら詞を書いていきました。あと、中盤に「どんな外野に『身の程を知ったんだ』って 言われても」というフレーズがあるんですけど……。
──言われたことあるんですか? 「夏川さん、身の程を知ったね」とか。
そんな失礼な人には会ったことないです(笑)。でも、卑屈な考え方かもしれないけど「そういうふうに思われてるかもしれない」と思っちゃうこともあるんですよ。ここで言う「外野」というのは私の目の届く範囲にいない、私とはなんの関わりもない、私から遠い人たちのことで。そんな人たちからどんなことを言われたとしても「私は、私の目の前にいる人を楽しませたいだけ」と、ドヤ顔で返すだけ。
──その「範囲」を象徴しているのが「手のひら」であり、自分の手のひらからは何ひとつこぼさないぞと。
曲の最後に「映えてる 手のひら」と叫ぶところがあるんですけど、ここは音に合わせて4文字のエモい言葉を2つ入れたいと思ったんですよ。そこで「体の部位とかエモくなりそうだな。手のひらはどうだろう?」みたいな。例えば手のひらを空にかざしている絵面って、エモいじゃないですか。じゃあ「手のひら」に意味を持たせるにはどうしたらいいんだろうかと考えて、そこから今お話ししたような自分の考えとかを絡めながら歌詞を組み立てていったんですよ。
──最後の「映えてる 手のひら」のシャウトは聴いていて本当にスカッとしますし、EPのクロージング曲としても余韻が心地いいです。
このままエンドロールが流れてきそうな、我ながらさわやかな終わり方をしたなと思います。
──そんなEPを引っさげて「417の日」に臨むわけですが……いや、引っさげるんですかね? なにしろサブタイトルが……。
「夏川椎菜の萌え萌え大作戦 悶絶可愛いカバーライブしちゃうもん♡」ですからね。あんまり引っさげていないかもしれません。
──「萌え萌え」って、もう誰も言わなくなりましたよね。平成かと思いました。
確かにそうかも(笑)。去年の12月に、私が演じているmonaというキャラクターのライブ(「LAWSON presents HoneyWorks 10th Anniversary 夏川椎菜 as mona ワンマンライブ#超絶あざといファンサしちゃうぞ♡」)があったんですよ。そこで私はmonaとして、ソロはもちろんTrySailでもやらない、ブリブリかわいいアイドルソングをたくさん歌ったんですけど、それがすごく楽しかったし、お客さんにも好評だったので味を占めました。「萌え萌え大作戦」という看板に偽りなしの、あざといイベントになるでしょう。
──前回が「『417の日』史上最高傑作」でしたし、より期待値が上がっているのでは?(参照:夏川椎菜、今年の「417の日」は謎解き!一張羅を奪われた417Pはどうなる?物語は衝撃の結末へ……)
自らハードルを上げていくスタイルなのでね。でも、今回はベクトルが全然違うので、楽しみ方も違ってくると思います。「417の日」は毎年、いい大人が集まってバカげたことを真剣に議論し合うところからすでに面白いし、まさしく「手のひら」だけを見つめているイベントだから、今年も皆さんが満足できるものを提供できるよう全力でがんばります。
公演情報
LAWSON presents 令和7年度 417の日
夏川椎菜の萌え萌え大作戦 悶絶可愛いカバーライブしちゃうもん♡
2025年4月17日(木)千葉県 森のホール21
[1回目]OPEN 14:30 / START 15:30
[2回目]OPEN 18:00 / START 19:00
プロフィール
夏川椎菜(ナツカワシイナ)
1996年7月18日生まれの声優、アーティスト。2011年に開催された「第2回ミュージックレインスーパー声優オーディション」に合格し、翌年より声優として活動を開始。2015年に同じミュージックレインに所属する麻倉もも、雨宮天とともに声優ユニット・TrySailを結成した。2017年4月に1stシングル「グレープフルーツムーン」で自身の名義にてソロデビュー。2019年4月には1stアルバム「ログライン」をリリースし、9月より初のツアー「LAWSON presents 夏川椎菜 1st Live Tour 2019 プロットポイント」を行った。2022年2月に2ndアルバム「コンポジット」、2023年11月に3rdアルバム「ケーブルサラダ」を発表。2024年4月にシングル「シャドウボクサー」をリリースし、7月にライブツアー「LAWSON presents 夏川椎菜 Revenge Live "re-2nd"」を行った。10月に9thシングル「『 later 』」をリリース。2025年4月に新作EP「Ep04」を発表した。
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夏川椎菜 Shiina Natsukawa artist official (@Natsukawa_Staff) | X