曲がゲームに自然と寄り添う

──使用する楽曲はどのようなやりとりで決めていますか？

岡村　基本的には最初、作品の大まかな資料やテーマをお伝えして相談します。それから楽曲をいただいて。

南壽　私の場合は詳しいテーマを聞く前に自分の未発表曲の中から選んで送ることが多いです。最初にピアノと歌だけのデモを聴いてもらってます。

岡村　南壽さんが送ってくださる楽曲は「アトリエ」とのタイアップであるということを外しても、ちゃんと南壽さんのオリジナル曲として完成されていて。でも「アトリエ」内で使われているところを聴くと作品のイメージとちゃんとマッチしているんです。

南壽　ゲームに寄せるというわけでなく、自然と寄り添うというか。違和感が生まれないように意識して曲を仕上げていくようにしています。

岡村　「アトリエ」に参加していただくアーティストさんには毎回、ご自身のテイストや音楽性で「アトリエ」の世界を表現していただきたいとお願いしているんです。歌詞だけはゲームの世界観があるので、「アトリエ」の世界に存在しないものが書かれている場合は調節してもらっていますが、こちらでお願いするのはそれくらいで。あとは自由に作っていただいたものを使わせていただいています。

1曲に絞れなかった

──最新作「フィリスのアトリエ」では「flora」「このごろ、そのひぐらしで」の2曲が使用されます。「flora」は4月のライブツアーで初披露された曲ですよね。

南壽　今年の1月くらいに完成して、同時期に「フィリスのアトリエ」のテーマソングのオファーをいただいたんです。オープニングテーマなので突き進んでいく感じが欲しいと思ったんですけど、リズミカルな曲は私のレパートリーの中では限られていたので、ちょうど完成した「flora」と未発表曲の中からアップテンポな曲をいくつかお渡ししました。「このごろ、そのひぐらしで」は「flora」と一緒に送った曲の1つです。

岡村　最初は南壽さんの歌を1曲使わせてもらうつもりだったんですけど、1曲に絞れなかったんです（笑）。それで今回は2曲使わせていただきたいと相談して、こういう形になりました。デモを聴いたときから、曲がどう仕上がるか楽しみでした。

南壽　「flora」は4月から行われたツアーで披露したんですが、たくさんの方が気に入ってくれたみたいで。「一聴しただけですぐ覚えられた」って言ってくれた人もいました。

岡村　「flora」の視聴動画が公開されたときの反響も大きかったんです。ゲームのオープニング映像は曲をいただいてから制作しているので、曲展開とリンクした映像に仕上がっています。ぜひとも観ていただきたいですね。

──聴き手がオープニングテーマに触れるタイミングによって、楽曲の印象が変わってくるかもしれませんね。

岡村　特にRPGはクリアまで何十時間もかかりますから、オープニングテーマって何度も聴くことになるんです。その分ユーザーの皆さんの思い入れも強くなると思います。

南壽　曲を聴き返すだけでゲームのシーンを思い出すこともあるでしょうし。

岡村　ゲームに関連したライブイベントが行われるときも、オープニングテーマが披露されると盛り上がりがすごくて。ゲームを通して、楽曲を提供してくださったアーティストさんを好きになってくれるのはうれしいですね。その分、私たちもいただいた楽曲を魅力的に感じてもらえるよう努力する責任があります。

──「flora」の歌詞は、南壽さんが“自分の知らない土地で起こる悲しいできごと”に対して何ができるのか考えつつ、“平和を願う気持ち”で描いた“旅立ちの唄”とブログで紹介していました。「フィリスのアトリエ」のストーリーは“地中世界から外の世界に旅に出る”というものになっていて、どちらも「旅」というテーマが共通していますね。

岡村　こちらから特別お願いしていたわけではなく、偶然のシンクロだったんですよね。

南壽　自分が描きたかった内容が歌詞にそのまま反映されていて。

岡村　歌詞もほとんど変更していないですね。