ナナヲアカリ|ピノキオピー、かいりきベア、煮ル果実と語るナナヲの内面と2020年の動画音楽シーン

ナナヲアカリが新作フルアルバム「七転七起」を12月9日にリリースする。

計15曲入りの「七転七起」の制作にはナユタセイジ(ナユタン星人)、朝日(ネクライトーキー)、ピノキオピー、煮ル果実、大沼パセリといった兼ねてからナナヲに楽曲を提供してきたクリエイターのほか、玉屋2060% (Wienners)、橋本絵莉子(ex. チャットモンチー)、山内総一郎(フジファブリック)といったアーティストが参加。バラエティに富んだ作家陣による計15曲を通して、「七回転んだら七回だけちょうどよく起き上がる」という彼女なりのポジティブなメッセージを届けるアルバムに仕上がっている。

アルバムのリリースを記念して、音楽ナタリーではナナヲと、本作への楽曲提供を行ったピノキオピー、かいりきベア、煮ル果実を招いたリモートでの座談会を実施。それぞれの楽曲提供について、また目まぐるしくトレンドが移り変わるネットの音楽シーンに関して、それぞれに思うことを語り合ってもらった。

取材・文 / 倉嶌孝彦 撮影 / 堀内彩香

気が滅入る前に運動を

──今回の取材ではリモートでボカロPの3人の方にお集まりいただきました。それぞれの楽曲の制作に関してもリモートで?

ピノキオピー
かいりきベア
煮ル果実

ナナヲアカリ そうですね。果実さんとの制作が一番“リモート感”があったと思います。レコーディングのディレクションもリモートでしてもらったんですよ。

煮ル果実 住まいが遠いこともあって、基本的にリモートで制作に携わらせていただきました。

ピノキオピー 僕らはもともと家にこもりがちな人種なので、自粛期間などがあっても暮らし向きはあまり変わらなかったかもしれないですね。

ナナヲ ナナヲも基本引きこもりがちなので生活は変わらなかったんですが、2020年は心がすごく疲れた1年でした。それはもちろん新型コロナウイルスのせいでいろんなことができなくなってしまったことも原因にあるんですが、それに加えていろんな嫌なことをネット上で見てしまうことが多くて。特に煮ル果実さんに曲を書いてもらう際にお話ししたんですが、ネガティブなSNSの書き込みに惑わされてすごく疲弊してしまったんですよね。

かいりきベア わかります。気が滅入ることがたくさんありましたよね。僕は運動していないと気が滅入ると思い、ネットで運動の重要性を調べまくって筋トレなど体を動かすことを始めました。

ピノキオピー わかるなあ。僕は最近エアロバイクを買ってずっと漕いでます。家にいると体がなまっちゃうし、体がなまると心も疲弊しちゃうんですよね。

ナナヲ 以前かいりきさんは「座って作業しない」と言ってましたよね。

ピノキオピー スタンディングですか? 珍しい。

かいりきベア 一時期立ってパソコン作業をしていたんですが、今はちょっといい椅子を買いまして、座って作業するようになりました。確かに立って作業していたのは体の血が止まらずに健康になると聞いたからですね。

煮ル果実 僕はあまり健康に気を遣わなかったから、腰を痛めてしまって。もうこのまま一生治らないかと心配したんですが、ちゃんとお湯を張って浸かるようにしたら腰がよくなったんです。それにお風呂に入っていると曲のインスピレーションが湧いてくることも多くて、まさしくナナヲさんに提供した「ランダーワンド」もお風呂の中でぼんやり考えていたことから生まれた曲で。最近はお風呂がちょっとしたクリエイティブスペースになっています。

ナナヲ 皆さんすごく健康を気にして曲作りをしているんですね(笑)。

バイトはとりあえず一週間

──ナナヲさんの楽曲を書くクリエイターはすべてナナヲさん自身が選んでいるんですよね?

ナナヲ はい。ナナヲの憧れのクリエイターに声をかけさせていただいています。順番に話していくと、今日集まっていただいた皆さんの中で最初にお声かけしたのはピノキオピーさんですね。「おばけのウケねらい」(2017年8月発売のミニアルバム「ネクラロイドのあいしかた」に収録)のときから曲を書いていただいていて。今回のアルバムに収録されている「オトナのピーターパン」を書いていただく前に一度打ち合わせをしたんですけど、それがすごく楽しかった。

ピノキオピー 打ち合わせでお話させていただいて、ナナヲさんって面白い人だなと思ったんですよ。その面白い内面がもっと出たらといいなと思っていたところに、新たな書き下ろしのお話をいただいたので、「オトナのピーターパン」という曲を作りました。曲作りにあたっては、地下のカフェでいろいろ聞かせてもらいました。

ナナヲアカリ

ナナヲ そのときにお話をしたのが、いわゆる“社会つらい”的な話で、「ゴミ出しができない」とか「東京は家賃が高い!」みたいな(笑)。ピノさんにもお話したんですけど、自分が思い描いていた大人像と、現実の自分の姿の違いに気付いたとき「嘘だろ?」と思って絶望したんですよ。いつまで経ってもゴミ出しはまともにできないし……。「オトナのピーターパン」は、そういうナナヲの精神をそのまま曲にしていただいたと思っていて。「ゴミ出し忘れちゃって 泣ける」とか「初バイトきつくない?」は本当にお話したままのことが歌詞になっています。今でも大人になれている気がしない!

ピノキオピー 実を言うと僕も一人暮らしをし始めた頃は酷い生活を送っていたんですよ。それこそゴミ出しを何度も忘れちゃうグダグダ具合で。確か、お互いがアルバイトで失敗した話もしたよね?

ナナヲ はい。アルバイトが本当に続かなかったんですよ。上京してきて初めてのバイトが全然うまくいかなくて無理だった。そうしたらピノさんも……

ピノキオピー 僕も初めてのアルバイトを1週間で辞めてますね(笑)。

かいりきベア 実は僕もカラオケのバイトを1週間で辞めたことがあります。

ピノキオピー ハハハ!(笑)とりあえず1週間みたいなところがあるんですかね。

ナナヲ すごく失礼な言い方をしてしまうと、ピノさんやかいりきさんも社会不適合者であることがわかって安心したんです(笑)。

ピノキオピー だからナナヲさんの話にすごくシンパシーを感じて。話を聞きながらメモを取って、そのまま曲にしました。僕の作詞ではあるんですけど、「原案:ナナヲアカリ」って書いてあってもいいくらい、話した内容がそのまま歌詞になってますね。

リッケンバッカーのギターが似合う人

ナナヲ かいりきさんには「DAMELEON」(2019年10月発売のミニアルバム)のときに、「ベノム」に代表されるような疾走感のあるギターサウンドを書いてほしい!と思ってお声かけさせていただいたんです。ちょうど当時のメンタルがまさに“ダメレオン”状態で、「変わりたいのに自分に自信がない」みたいなときで、歌うときくらいとにかくアガる曲を書いてもらいたくて。

かいりきベア ご依頼いただいてとてもうれしかったですね。以前からナナヲさんはいろんなクリエイターさんと組んでオリジナル曲を発表していたので、そこに仲間入りさせていただける喜びがありました。ナナヲさんは自分のことを「ダメレオン」とか言いますけど、すごくカッコいいシンガーだと僕は捉えていて。僕のイメージではリッケンバッカーのギターが似合う人、ですね。それと「リセットセット」を書くにあたってはライブをすごくイメージしました。僕もレコーディングに参加してガヤを入れさせていただいて……。

──「逆走少女」のコーラスにも作曲者であるみきとPさんの声が入っていましたよね(参照:ナナヲアカリ「マンガみたいな恋人がほしい」特集 ナナヲアカリ×みきとP×からめるインタビュー)。ナナヲさんの曲には作曲者の声が入りがちだなと思いました。

ナナヲ レコーディング中にお願いするんですよ。「みんな参加してください!」って(笑)。

ナナヲアカリ

かいりきベア それと、制作中にどんどんキーが上がっていったのが印象的でした。

ナナヲ そうそう! もっと強く、もっとハジけるように!と思って歌っていたらどんどん上がっちゃって。

ピノキオピー サビのトップ音、はち切れそうなくらい高い。最初に聴いたときビックリしました。

ナナヲ この曲がきっかけでオーダーするときのキーのレンジがおかしくなった気がします(笑)。「リセットセット」以降の曲は、すごく高い曲が増えました。