ナナヲアカリ|ピノキオピー、かいりきベア、煮ル果実と語るナナヲの内面と2020年の動画音楽シーン

憑りつかれたように書いた

ナナヲ 最後に果実さんの「ランダーワンド」ですね。果実さんに曲を書いてもらうのは2回目なんですけど、打ち合わせをしてから曲が上がってくるまでのスピードが爆速なんですよ。「えっ? こんな小説のような素敵な歌詞の曲をこれだけの日数で?」とビックリしました。

煮ル果実 普段から曲を書くのが速いわけじゃないんですよ。ナナヲさんとお話させていただいたときに、すごくシンパシーを感じて。もう話しているときから徐々に曲を作っていたような感覚があったんです。

ナナヲアカリ

ナナヲ 打ち合わせのときはちょうど自粛期間中で、取材の冒頭で話したような「心が疲弊している」って話を果実さんに延々と聞いてもらったんです。

煮ル果実 ナナヲさんがSNSを見て感じていることが、自分の考えていることと似ていたんですよね。お話をしながら「この曲の歌詞は僕が書かなくちゃダメだ」と使命感のようなものを感じて。そんな憑りつかれたような感覚があって、最後まで一気に書き上げられました。

ナナヲ ナナヲのフラストレーションが曲になったので、最初はちょっと荒廃した世界観の曲だったんです。今回は編曲をはるまき(ごはん)くんにお願いしていて、アレンジですごく素敵な“キラキラエッセンス”を入れてもらいました。荒廃した世界の中に、希望を感じさせる音が入ったというか。

煮ル果実 世界の荒廃を憂いているだけじゃいけなくて、こういう世界でも生きていかなきゃいけない、ということを伝えたかったんです。僕だけだったらそれを音楽で感じさせることは難しかったかもしれないので、今回はるまきさんの力を借りることにしました。すごく盛大なオケを作ってくれて、感謝しかないですね。

ピノキオピー 元の荒廃したバージョンと比較してみたいですね。

煮ル果実 あとで送りますから、ぜひ聴いてください(笑)。

二次創作がはかどった2020年

──2020年はいろんな方がYouTubeで動画を投稿し始め、動画投稿という表現が改めて注目された1年だったと感じています。皆さんは2020年の動画投稿のトレンドをどうとらえていますか?

ナナヲアカリ

ナナヲ 二次創作が“はかどっている”イメージがありますね。今の時代、誰もが動画を投稿できるようになって、しかもそれがオリジナルに限らず、“歌ってみた”とか“演奏してみた”とか、それぞれがただ楽しみたいから動画を作って投稿している印象があります。特に今年は自粛期間があったからか、二次創作の数が多いだけじゃなくて、そのクオリティもすごく高くなっていると思います。もうね、普通に中学生や高校生がTikTokとかで動画を投稿しているところを見ると「うおー、こんな時代知らないぞ!」って驚きますね。

ピノキオピー それこそ、ナナヲさんの曲をもとにいろんな二次創作が生まれていますよね。

ナナヲ 特に「チューリングラブ feat. Sou」が多いですね。どちらかと言うとナナヲもカバーをする側の人間ではあるので、楽曲制作者の皆さんが二次創作されることについてどう思っているのかは気になりますね。

ピノキオピー 僕は二次創作をしてもらいたいタイプですね。ただ拡散されるものと、人の心に残るものは違うのかな、と感じることがあって。瞬間的に共有したいもの、しやすいものは拡散されやすいけど、それだけじゃなくて自分らしさとオリジナリティを加えていくと、みんなの心に残る作品になる。だけど、後者に力を入れていくと広がりにくいものになってしまうのかなと。僕の場合、自分の伝えたいことをやりすぎる傾向にあるから、あまり二次創作が広がらないんですよね。伝えたいことを盛り込みすぎると広がらないから、そのちょうどいい塩梅みたいなものをネットの音楽の作り手たちは探っているのかな、みたいに考えています。

ナナヲ まさにそう! ずっと感じていたことをしっかり言葉にしてくれた!

煮ル果実 僕も“歌ってみた”から曲を知ってもらう機会が多いので、二次創作の文化には助けられています。ただ、僕の曲は人が歌うことを前提にしていない曲が多いので、二次創作に派生しにくい気もするんですよね。先ほどのピノキオピーさんの話で言うと、僕は1曲に伝えたいことを詰め込んでストーリーを完結させる形が多いので、二次創作として手が出しにくいのかなとも思いました。

ナナヲアカリ

ナナヲ かいりきさんは「ベノム」がものすごく拡散されていますが、どう感じていますか?

かいりきベア 僕は二次創作されることを意識している部分もあるんですよ。「ベノム」はそれがハマった曲だったからか、いろんなところで拡散された1曲ですね。僕もなかなか二次創作をしてもらえない時代があって、ピノキオピーさんに相談したこともあったんですよ。

ピノキオピー 確か当時は「一枚絵で動画を投稿するのを続けるか」についても迷っていましたよね。僕、かいりきさんの動画はあの一枚絵で確固たる個性を確立していると思ったので意外だったんですよ。

かいりきベア 運がよかっただけだとは思うんですが、結果としてスタイルを貫いてよかったです。

ピノキオピー 僕は作りたくなっちゃうから動画を作るんですけど、二次創作のしやすさという点で考えると、一枚絵のほうが派生を生みやすいとは感じていて。

──ボカロ曲や「歌ってみた」など、動画共有サイトで発表されるほとんどの曲が動画ありきで発表されるようになりつつありますが、動画と音楽がセットでなければいけないことに歯がゆさを感じる瞬間はありませんか?

ピノキオピー それはもちろんありますね。YouTubeやニコニコ動画で曲を発表する以上、それはもう避けられないことだとは思っています。逆に動画があるから聴いてくれている人もたくさんいるわけですから。