アカリちゃんに“書かせてもらった”部分はかなりある
──ここからはアルバム収録曲について具体的にお聞きします。まずNeruさんは前出の「ハッピーになりたい」を含め計3曲書かれていますが、その中で曲作りのプランやアプローチなどが変わった部分はありますか?
Neru 強いて言うなら、アルバム11曲目の「一生奇跡に縋ってろ」(「ネクラロイドのつくりかた」に収録)はちょっと特殊だったかもしれないです。というのは、このときはアカリちゃんサイドから「エモい曲が欲しい」っていうオーダーがあったんですよ。だから、ほかの書き下ろし曲はわりとファンキーなノリなんですけど、この「一生奇跡に縋ってろ」は僕のフェイク野郎な部分じゃなくて、本質的な引き出しを開けて作った曲と言うか。作曲家という立場で書いた曲っていうよりは、純粋に自分の曲を書いてるテンションに近かったですね、この曲だけは。
──歌詞も強烈ですね。
Neru 普段はこういう方向性の歌詞を書いているので、ちょっと手癖が出ちゃった感じですね。自分の中で対立構造を作りたがる浅はかさと、それに対する自己嫌悪のぶつかり合いみたいな。
ナナヲ 私にとって「一生奇跡に縋ってろ」は怒りの歌なんですよ。もう、歌ってると自分も勝手に怒っちゃう。
Neru 音楽が音楽のみとして受け止められてしまうと、なんか薄っぺらいと言うか「じゃあ誰が書いても一緒じゃん」みたいな話になってしまうじゃないですか。でも、そこにアカリちゃんの言うように怒りっていう感情が乗ってくるのであれば、それは音楽それ自体とはまた別の角度から複眼的に切り取られたものだと思うので、そういう受け取り方をしてもらえると、自分が音楽をやる意味が初めて生まれると言うか。端的に言ってうれしいですね。
──もう1曲が、新曲の「お釈迦になる」。
Neru この曲は、打ち合わせで「4つ打ちではなく8ビートで」「ライブ映えする曲」みたいなざっくりした話があったと思うんですけど、頭の中ですぐに整理が……と言うか「整理」っていう言葉も使わなくていいぐらいするっと「こういう曲を書いたらいいのかな」という方向性が浮かびましたね。
ナナヲ 「お釈迦になる」はサビを聞いた瞬間に、完全にカオスじゃないとダメだと思ったんですよ。なおかつめちゃくちゃナナヲアカリらしいものじゃないといけないなって。もちろん衝撃的な歌詞にも驚いたんですけど、でも読めば読むほど「その通りだよな」としか思わないですよね、こんなの。
Neru 「こんなの」呼ばわり(笑)。
ナナヲ ホントに「なるほど」しかないし、そういうテンションで制作に臨んだので、MVもすごいカオスなものになってるし、ライブでさえもカオスな感じにしたい。みんなおかしくなったらいいし、ホントにだらけきったダメな自分を肯定して「みんなでパーティナイト!」みたいなことになればいいと思ってます(笑)。
キタニ 僕も、たぶん和田さんも、Neruっていう作家のファンなんですけど、ナナヲアカリに曲を提供するNeruさんは、普段とは作風がガラッと変わるんですよね。特に作詞において。それってさっき和田さんが言ってた「ユーモアのある音楽」にも通じるとめっちゃ思うし、こういう音楽がほかにあんまりないから……少なくとも俺は知らないから、見てて面白いし「器用な人だなあ」って。
Neru アカリちゃんに“書かせてもらった”っていう部分はかなりあると思います。ほかのアーティストにこういう曲を書けと言われたら、たぶん無理。
和田 「お釈迦になる」は歌詞で「死にたさがオーバードーズ」って言ってるけど、これって本当に死にたいわけじゃないですよね? たぶん「死にたい」には2種類あると思うんですよ。文字通りの「死にたい」と、無になりたいっていう意味の「死にたい」があって、この曲は後者かなって。それがすげえよくわかる。
Neru やらなきゃいけないことが増えると、自殺とか痛いから絶対イヤなんだけど、急に自分の家に隕石とか落ちてきて「知らない間に一瞬で死なねえかな」みたいに思うじゃないですか。あれに近い。
和田 うんうん。
Neru 必ずしもヒステリックだったりネガティブなものではないんですけど「死んだら仕事やらなくていいじゃん」みたいな。そういうことを考えながら書いてたのはよく覚えてますね。
2人の作家が同じ答えにたどり着き「やっぱりこいつ本物だな」
──続いて、和田さんの「マンネリライフ」について聞かせてください。
和田 「マンネリライフ」は、曲調は別として、歌詞は絶対に自分のボカロ曲ではこうは書かないですね。テーマは「引きこもり」なんですけど、最初の打ち合わせの「ナナヲアカリとは」のコーナーのときに、パッと思いついたのが、自分ではちゃんとしないといけないと思うし、そのために誰かの助けを借りたいけど、最終的に「やっぱいいです」みたいになるアカリちゃんだったんです。その「やっぱいいです」っていうワードから膨らませていった感じですね。
ナナヲ これはもう「まさに!」ですよ。ホントに怠惰で、ちょっとがんばろうと思ってるんだけど、結局できない感じ。あと「マンネリライフ」には裏テーマがあると言うか、これは感動恐怖症の女の子の歌だって和田さんに聞いて。
和田 ああ、そうそう。
ナナヲ 歌詞にある「読み終わったマンガを読んでいる」って、私自身もよくやるんですよ。でも、この子は単に面白かったシーンをまた読み返したくなったのではなくて、新しい刺激を避けているんだと考えると見方も受け取り方も変わるし。その裏テーマを聞いてさらに楽しい、深みのある歌になりました。
キタニ これも歌詞が好きなんだよなあ。「囚われの身さ \3食・冷暖房 完備!/」とか、うまいっすよねえ。「グッモーニン!今何時? \たぶん午前か午後6時/」っていうのも、超酔っ払ったときの次の日とかにめっちゃなるもん。
一同 ははは(笑)。
Neru さっきの“書かせてもらった”っていうのとちょっと話が被ってしまうんですけど、普段、和田たけあきさんというアーティストが持っている引き出しと、僕が持ってる引き出しって、まったく毛色が違うものだと思うんです。だけど、それをナナヲアカリっていうフレームワークの中で開けると、なんか……。
和田 ああ、似てくるっていうのは確かにあるかも。
Neru だから、言葉は悪いかもしれないけど、ファッション引きこもりみたいなのをウリにしてるアーティストってたぶん世の中にごまんといると思うんです。でも、毛色の違う作家を2人呼んで書かせて、同じ答えにたどり着いてるから、「やっぱりこいつ本物だな」って。それがこの曲で僕はわかりましたし、この曲によってナナヲアカリの説得力がすごく増したなと思いました。
シリアスナなナナヲアカリをもっと見たかった
──では、キタニさん作編曲の「眠らない街、眠りたい僕」について。この曲は、アルバムの中では比較的ストレートなロックナンバーで、しかも速い曲が多い中で……。
キタニ おっそいすね。僕は、このアルバムには収録されてないんですけど、最初に書かせてもらった「化物は幸福を望んだ」(2017年8月発売のミニアルバム「ネクラロイドのあいしかた」に収録)の打ち合わせのときに「こういう方向性もナナヲアカリに合うと思うんですよねえ。どうっすか?」って。
ナナヲ キタニくんのプレゼンコーナーでね。
キタニ それで、アカリさんチームのオーダーに沿って作った「化物は幸福を望んだ」と、それとは方向性の違う「眠らない街、眠りたい僕」のデモを2つ提出して。結局そのときは「化物」のほうが通ったんですけど「こっちもいいから預かっていい?」と言ってもらって、「眠らない街」は次のミニアルバム(2018年2月発売の「いろいろいうけど『♡』(いいね)がほしい」)に入れてもらうことになったんですよね。
──なぜ「眠らない街、眠りたい僕」がナナヲさんに合うと思ったんですか?
キタニ やっぱり「ハッピーになりたい」みたいな代表曲から、コミカルなイメージが定着しつつあると思ってたんです。もちろん僕はコミカルなナナヲアカリも好きなんですけど、そうじゃなくてシリアスナなナナヲアカリをもっと見たいなと。本人めっちゃオシャレだし、歌声もめっちゃひねくれてるじゃないですか。
ナナヲ 「ひねくれてる」……(笑)。
キタニ それがすごい好きで、そっちのナナヲアカリを個人的に推してえって思ってるんですね。コミカルな中にそういうのがちょっと見えたらきっと面白いし。あと細かいところだと、ナナヲアカリってそれまでポエトリーをやってたんですけど、もうちょっとラップに寄せて、ラップとポエトリーの中間くらいのことをしてほしくて。だから「ここはラップしてください」ってメモして曲を送りました。で、作詞はアカリさんに全部投げて。
ナナヲ 「眠らない街」を書いてもらったのは、2017年だよね。たぶんあんまりよくなかった時期なんですよ、自分の精神状態と、日常のもろもろが。で、この曲もさっきの「一生奇跡に縋ってろ」に近いと言うか、私にとってはあきらめと怒りの歌で。やっぱり自分は表向きはコミカルにポップに生きてるんですけど、どこかで「本当の自分に気付いてほしい」みたいな訴えを常に抱えてて、それが極まってた時期だったので、すごい書きやすかったです。もう、なんの救いもないっす(笑)。
──歌声も、やさぐれていると言っては言葉が悪いかもしれませんが……。
キタニ ちょっと目つき悪い感じの歌ですよね。自動的にそうなったんだよね?
ナナヲ うん。
──ちなみにレコーディングには、皆さんご自分の曲のときは立ち会われている?
Neru・和田・キタニ はい。
──それぞれどういったディレクションをされるんですか?
ナナヲ 基本的には、言葉運びを調整してもらったりとか、技術的なアドバイスをもらうことが多いのかな。
キタニ そうだね。エモ的なところは本人に任せてる感じです。
ナナヲ だからいつもそんなに難航はしていないと言うか、早口のパートで舌が回らないことはあるんですけど「今日は帰れないよー!」みたいなことはないです(笑)。
キタニ 声優的な側面なのかわかんないけど、彼女はけっこういろんな声色を持っていて。コミカルめの曲でいろいろ使い分けることができるし、「眠らない街」みたいにやさぐれることもできる。でも、全部ちゃんとナナヲアカリだから聴いてて戸惑うこともないし、純粋に曲に合わせられる、あるいは曲を乗っ取る力があると思います。
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「kidding」は完全に等身大の自分の歌
- ナナヲアカリ「フライングベスト~知らないの?巷で噂のダメ天使~」
- 2018年10月3日発売 / Sony Music Associated Records
-
初回生産限定盤A [CD+DVD]
3780円 / AICL-3555~6 -
初回生産限定盤B [CD+DVD]
3456円 / AICL-3557~8 -
通常盤 [CD]
2970円 / AICL-3559
- CD収録曲
-
- ダダダダ天使
- ハッピーになりたい(2018ver.)
- マンネリライフ
- ハノ
- 眠らない街、眠りたい僕
- お釈迦になる
- なんとかなるくない?
- kidding
- 妄想ハッピーエンド
- ワンルームシュガーライフ
- 一生奇跡に縋ってろ
- ひとりごと
- インスタントヘヴン feat. Eve
- んなわけないけど
- メルヘル小惑星
- 初回生産限定盤A DVD収録内容
-
ナナヲアカリはじめてのとうめいはん「♡(いいね)」収穫ツアー@渋谷WWW 2018.3.5
- ドッペルアリー
- んなわけないけど
- ハッピーになりたい
- 一生奇跡に縋ってろ
- 東京秒針
- ハノ
- Yunomi×ナナヲアカリ Special Mix(キラキラキライ / マンネリライフ / 事象と空想 / オバケのウケねらい)
- プラネタリー・メッセージ
- ギヴミー「♡(いいね)」!!ドル活☆DAYS
- 私の中の痛い子さん
- ダダダダ天使
- インスタントヘヴン feat. Eve
- メルヘル小惑星
- ビビっちゃいない
- 初回限定盤B DVD収録内容
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MUSIC VIDEO
- ハッピーになりたい
- ビビっちゃいない
- ディスコミュ星人
- マンネリライフ
- 私の中の痛い子さん
- 一生奇跡に縋ってろ
- ダダダダ天使
- んなわけないけど
- メルヘル小惑星
- ドッペルアリー
- インスタントヘヴン feat. Eve
- ワンルームシュガーライフ
- ツアー情報
ナナヲアカリフライングツアー ~こんにちは!巷で噂のダメ天使~ -
- 2018年10月26日(金) 広島県 HIROSHIMA 4.14
- 2018年10月28日(日) 福岡県 INSA
- 2018年11月4日(日) 大阪府 心斎橋FANJ
- 2018年11月8日(木) 東京都 WWW
- 2018年11月23日(金・祝) 愛知県 ell.SIZE
- ナナヲアカリ
- 2016年にニコニコ動画でNeruの作詞作曲による「ハッピーになりたい」を発表し、現在の名義での音楽活動をスタート。同年9月には東京・原宿の古着店「Business As Usual」にて通販限定、CD付きの“1stTシャツ”「しあわせになりたい」を発売した。2018年8月にテレビアニメ「ハッピーシュガーライフ」のオープニングテーマを含むシングル「ワンルームシュガーライフ / なんとかなるくない? / 愛の歌なんて」でメジャーデビュー。同年10月に1stフルアルバム「フライングベスト~知らないの?巷で噂のダメ天使~」をリリースした。これまでに動画投稿サイトで公開した映像の再生回数は累計3000万再生を突破している。また2016年1月からはテレビ東京系「ロック兄弟」のMCを務め、2017年上演の舞台「Fate/Grand Order THE STAGE -神聖円卓領域 キャメロット-」ではマシュ・キリエライト役を演じるなど、音楽活動以外にも活躍の場を広げている。
- Neru「CYNICISM」
- 2018年3月28日発売 / NBCユニバーサル・エンターテイメントジャパン
-
初回限定盤 [CD2枚組+DVD]
3240円 / GNCL-1277 -
通常盤 [CD]
2160円 / GNCL-1278
- Neru(ネル)
- Vocaloidプロデューサー。2009年に作曲活動を開始し、2011年、18歳のときにニコニコ動画に投稿した「アブストラクト・ナンセンス」「東京テディベア」が瞬く間に人気を集める。主に鏡音リン・レンを用いて楽曲制作をしており、「ロストワンの号哭」「命のユースティティア」など100万回以上の再生数を誇る楽曲を多数投稿してきた。2013年3月には初の全国流通アルバム「世界征服」を、2015年9月にはフルアルバム「マイネームイズラヴソング」を発表。2018年3月には「脱法ロック」「病名は愛だった」といった人気曲を収録したフルアルバム「CYNICISM」をリリースした。
- 和田たけあき「かおなしスタンプ」
- 2018年9月26日発売 / U&R records
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[CD]
1620円 / DUED-1253
- 和田たけあき(ワダタケアキ)
- 初音ミクを使用したVocaloid楽曲「くらげ」を2010年4月にニコニコ動画に投稿して以降、「くらげP」「和田たけあき(くらげP)」といった名義でオリジナル曲を発表し続ける。またギタリストとして古川本舗やこゑだなど、さまざまなアーティストのライブやレコーディングに参加。2016年2月に公開した楽曲「チュルリラ・チュルリラ・ダッダッダ!」はYouTubeで1千万再生を突破している。2018年3月にはVocaloid曲で構成されたオリジナルアルバム「わたしの未成年観測」を、9月にはセルフボーカルアルバム「かおなしスタンプ」をリリースした。
- キタニタツヤ「I DO (NOT) LOVE YOU.」
- 2018年9月26日発売 / Emo, Alternative & Cool.
-
[CD]
2300円 / EAC-0004
- キタニタツヤ
- 2014年5月に「こんにちは谷田さん」名義でニコニコ動画にVocaloid楽曲「鯨と水星」を投稿し、音楽活動を開始。以降多数の楽曲を発表して注目を集めている。キタニタツヤ名義でもベーシストや作曲家、編曲家として活躍しており、2018年からはバンド形式でのライブ活動も開始。同年9月に初の全国流通盤となる1stアルバム「I DO (NOT) LOVE YOU.」をリリースした。