「もうどうしたらいいかわからない」
──1曲目の「Deep Down」はシングル「MISSION」のカップリング曲です。「この場所だけは譲れない」というフレーズが印象的なミディアムバラードですが、この歌詞を書いたときはどんな状況だったんですか?
この歌詞のままだったんじゃないかなあ。ときどきあるんですよね、「コントロールしないで」「もうどうしたらいいかわからない」という時期が。そういう経験を何度もしているし、怖いと思うことがいまだにあって……。そこまでいかなくても、「いや、これは無理でしょ」と感じることだったり、もどかしいことだったりはいっぱいあります。
──そういう気持ちを歌詞にするとラクになる?
なりません(笑)。ラクにはならないけど、ライブで歌うと、そのときのことを思い出せるじゃないですか。それはつらい反面、ちょっと気分がいいんですよね。聴いてくれる人の中には「わかる!」と思ってくれる人もいるだろうし、私もこういう歌詞は自分らしいなと思っていて。みんなで立ち上がるぞ!という歌も好きだけど、「Deep Down」みたいな歌詞はいろんな人に共感してもらえるんじゃないかと思います。
──2曲目の「Winner」はレコードのノイズと「逆風に立ち向かい / 盾で身を守った」という歌詞で始まるバラードです。憂いと力強さを併せ持ったメロディが素晴らしいですね。
この曲、大好きです。メロディもそうだし、全体的なサウンド、独特なバッキングコーラスもすべてよくて。Loriがこの曲のデモを送ってきてくれた瞬間、やっぱりこの人は天才なんだなと思いましたね。ずっと家で歌っていたし、歌詞も迷わず書けて。この曲も3年半くらい前からあったんですけど、ずっと「何かに使えないかな?」と言っていたんですよ(笑)。ようやく出せてうれしいです。
──「あなたはあなたとの勝負」というフレーズも印象的です。
これは自分自身への言葉でもあるし、聴いてくれた方も自分に言い聞かせてほしいなと思ってます。
ひさびさの恋愛モノ
──「Rule」はファンキーなグルーヴの楽曲です。恋愛の駆け引きが描かれていますが、これも中島さんが好きなテーマでは?
そうなんですけど、こういう系の歌詞はかなりひさしぶりかも。やっぱり年齢を重ねると、恋愛モノはあまり書かなくなっています。愛の表現が恋愛だけじゃなくなって、家族を含めもっと大きい愛に目が向くことが増えてきているんですよ。なので恋愛系はちょっとお休みしていたんだけど(笑)、この曲を聴いたときに「書こう!」と思って。「Rule」は恋愛というより、遊びの要素が強くて、ちょっとゲーム感覚なんですけどね。
──女性が主導権を握っているのも中島さんらしいなと。
そうかも。女の人を主人公にすると強気な言葉になって、“僕”が主人公になると優しい感じになる。それが私の歌詞の理想なのかもしれないです。
──「Murder」はスカ系のビートを押し出したダンサブルな楽曲です。スカも好きですよね?
好きなんですけど、この曲はなかなかリリースできなかったんですよ。今回は自分が大好きな曲だけを入れると決めたし、「Murder」もぜひ収録したくて。初めてデモを聴いたときから「ヤバい曲が来た!」と思いました。
──この歌詞、冒頭からすごいですよね。楽しく買い物をしているのに、主人公は想像の中で“君”を撃ってしまうという。
ヤバいですよね(笑)。「Murder」というタイトルはデモの段階から付いていて。意味としては殺人なんですけど、Loriによると「好きすぎてどうにかなりそうな状態」という意味で使われることもあるみたいで。この歌詞はその意味合いをヒントにしています。もちろん殺したりはしないけど、好きすぎてヤバいことをしちゃう人っているじゃないですか。相手の携帯を見ちゃうのもそうだと思うし。
──確かに。SNSで元カレ、元カノのアカウントを探しちゃうのもそうかも。
見ないほうがいいこと、知らないことがいいことってたくさんありますからね。「Murder」の歌詞は私の想像だし、ドラマとして書いてますけど、現実のほうがよっぽど怖い気がする(笑)。
──「Pray」はラヴァーズロックの要素を取り入れたミディアムチューンです。
リズムが「Murder」とちょっと似てるから、アルバムに入れるか迷っていたんですよ。でも、好きな曲を入れるって決めたので収録しました。
──本当に中島さんの嗜好が反映されているんですね。「真面目にやってりゃ / つけあがる」という歌詞、中島さんしか書かないと思います。
そうかも(笑)。でも、こういうことって意外と多いんですよ。真面目にやってる人、一生懸命やってる人に対する周りの反応って、大きく言うと2つだと思っていて。「この人はちゃんとやってくれるから、自分たちもやらなきゃ」もしくは「この人がやってくれるから、任せればいいや」。嫌なのは「任せればいいや」で。そうなると「私、バカみたい」と思って、クジけそうになることもあります。
──ここまでがんばってるのに……みたいな?
そうは言いたくないけど、できれば同じくらいの愛情を持ってほしいし、そうじゃないと同じ方向に進んでいけないと思うんです。そこで差が出てくるのはつらいですよね。
四半世紀ってすごいな
──「Pray」は怒りをぶつける曲ではなくて、どちらかと言うと柔らかい印象があります。いい意味で聴きやすい曲だなと。
「Pray」もデモの段階で付いていたタイトルなんですけど、曲調と合ってないのがいいなと思って。そこにユーモアを感じたし、楽しい曲にしたかった。こういう内容の歌詞を真面目に歌うと重くなっちゃうし、みんなで笑いながら楽しめたらいいなって。
──それも音楽のいいところですよね。そして「Look In My Eyes」もこのアルバムの聴きどころだと思います。
いいですよね。メロディやサウンドもそうだし、歌詞もすごくいい感じで書けました。完璧な曲だと思ってます。Loriに「どういう気持ちで書いたの?」と聞いたら、「“私の目を見て”というだけだよ」と言われて。彼女は私に余計な情報を入れないようにしてくれるんですよ、いつも。
──いなくなってしまった“君”への思いをつづった曲ですが、中島さんはどんな気持ちでこの歌詞を書いたんですか?
今言ってくれた通り、いなくなった存在に向けて書きました。私の場合は猫なんですけど、聴いてくれる方それぞれに思い浮かべる存在がいるんじゃないかな。
──中島さん自身は、大切な存在がいなくなってしまったとき、喪失感や悲しみをどうやって受け止めるんですか?
付き合っていくしかないと思ってますね。また猫の話になっちゃうけど、家の中には歴代の猫たちが使っていたものがいっぱい残っていて。もちろん今いてくれる猫たちもかわいがってるけど、心の中には、いなくなってしまった子たちのことが常にあるんです。罪悪感やうれしさ、「いつか戻ってきてくれるかな」という思い……いろんな気持ちを抱えています。
──「The Moment」はピアノと弦によるアレンジが素敵ですね。
ありがとうございます。ピアノは河野伸さんに弾いてもらって、アレンジもお願いしたんですけど、デモをお渡ししたら、こういうサウンドになっていて。何も言わなくても理想の音にしてくれるので、本当にありがたいです。歌詞は、結婚式で使ってもらえるようなものにしたくて。以前から周りに「結婚式で流せる曲がない」って言われていたんですよ。「STARS」「WILL」なんかはキラキラしてていいんじゃないかなと思うんだけど、声が暗いのかな。
──そんなことないと思いますよ(笑)。この曲では、「健やかな時も 病める時も 死が2人を分かつまで」という誓いの言葉が引用されているのも印象的です。
死ぬまで一緒にいなさいって、すごい言葉ですよね。でも、それが一番の理想だなと思います。
──アルバムリリース後は、東京と大阪でバンドとストリングスによるライブ「MIKA NAKASHIMA THE ACOUSTIC 2026」が開催されます。さらに5月からは「MIKA NAKASHIMA ASIA TOUR 2026」が始まりますね。2026年はデビュー25周年ですが、中島さんはこのことをどう捉えていますか?
今までは周年をあまり気にしていなかったんですけど、四半世紀ってすごいなと思っていて。さらに25年後って、50周年じゃないですか。もちろんそこまで続けられる方はいらっしゃいますけど、いろんなタイミングや縁、ご自身の努力がすべて重ならないとそこまで行けないと思うんですよ。先のことはわからないし、せっかく25周年を迎えられるんだから、皆さんと一緒にお祝いできたらなと。今いろいろ計画しているところなんですけど、私もすごく楽しみです。
公演情報
MIKA NAKASHIMA THE ACOUSTIC 2026
- 2026年1月30日(金)東京都 かつしかシンフォニーヒルズ モーツァルトホール
- 2026年2月6日(金)大阪府 ザ・シンフォニーホール
MIKA NAKASHIMA ASIA TOUR 2026
- 2026年5月9日(土)バンコク THUNDERDOME
- 2026年5月16日(土)台北 Taipei Music Center
- 2026年5月17日(日)台北 Taipei Music Center
- 2026年6月6日(土)クアラルンプール Idea Live Arena
- 2026年6月13日(土)ソウル KINTEX
- 2026年6月21日(日)大阪府 NHK大阪ホール
- 2026年7月17日(金)シンガポール The Star Theatre
- 2026年9月26日(土)東京都 LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)
プロフィール
中島美嘉(ナカシマミカ)
1983年鹿児島県生まれ。2001年にドラマ「傷だらけのラブソング」のヒロインに抜擢され、シングル「STARS」で歌手デビュー。2002年リリースの1stアルバム「TRUE」はミリオンセラーを記録した。以降も「雪の華」「愛してる」「桜色舞うころ」などヒット曲を連発。これまでに9回「NHK紅白歌合戦」に出場するほか、2005年公開の映画「NANA」をはじめ女優としても活躍するなど、多岐にわたり活動している。近年はアジア各国での単独公演を成功に収めるなど海外にも活躍の場を広げており、2026年5月からはソウルやバンコクを含む全8公演のアジアツアーを開催する。
中島美嘉 (@mikanakashima_official) | Instagram




