中納良恵|6年ぶりのソロアルバムで追求した“歌の強さ”

EGO-WRAPPIN'の中納良恵が6月30日に3rdソロアルバム「あまい」をリリースする。

2020年の年明けから作業を始め、シンガーとしての自分自身と向き合いながら、じっくり時間をかけて制作を進めていったという本作。前2作に比べ静謐な雰囲気が作品全体を覆い、必要最小限の音数のみで構成されたミニマムなサウンドが、彼女の持ち味である表情豊かな歌声を際立たせている。GarageBandを使った曲作りに挑戦するなどコンポーザーとしても「新たな扉を開いた」と語る中納に話を聞いた。

取材・文 / 望月哲 撮影 / 笹原清明

今までの経験を無駄にしたらアカン

──コロナ禍が本格化してきた昨年の春頃、中納さんはEGO-WRAPPIN'のオフィシャルInstagramにピアノの弾き語り映像を立て続けにアップしていましたよね。

ええ。

──あれって今思えば、ソロアルバムに向けた肩慣らしみたいな意味合いもあったのかなと思って。

そうですね。ありました。やっぱりああいう状況のときって、やれることをやるって感じになっちゃうじゃないですか。試しに動画を上げてみたら、けっこう喜ばれたんで、肩慣らしも含めて、緊急事態宣言の間だけ弾き語り動画をアップして。

──5月29日には、今回のアルバムに収録されている「SA SO U」の弾き語り動画をアップしていましたが、あの時点で曲作りはけっこう進んでいたんですか?

進んでました。2020年の年明けくらいから少しずつ曲を作り始めていて。だから作業に取りかかったのはコロナ前なんですよね。「今年は絶対にソロを作ろう!」と思っていたから。変な話、自粛期間中も制作に集中することができて。

──図らずも。

そうそう。EGOを始めてから、あんなに長い間ライブができない時期ってなかったから。結果的に今までをゆっくり振り返ることができたし。何もやることがなくなったとき、こうしてピアノを弾くことができて本当によかったなって。ピアノを習わせてもらえたこととか親に感謝したし(笑)。今までの経験を無駄にしたらアカンなって改めて思いましたね。今できることをとにかくやろうって。それでひたすら曲を作って。

──コロナ禍が続いても制作のペースは変わらず? 中には、急激な環境の変化で制作がままならなくなってしまったアーティストもいたようですが。

そういうことはなかったですね。むしろどんどん作ったれみたいな(笑)。作り続けないといいものって生まれないから。もちろん駄作みたいなものも出てきたりするんですけど、作っては捨てみたいなことを繰り返して。

──陶芸家のように(笑)。

そうそう。あかん、バリーン!みたいな(笑)。スガちゃん(共同プロデューサーの菅沼雄太)に聴いてもらって、「やっぱやめとこう」ってなった曲もいっぱいあったし。

──そうしたやりとりを経て今回の10曲に落ち着いたわけですね。

そうですね。全体的なバランスとかも自分なりに考えて。気を抜くと、よく似た曲ができちゃうから、「こういう曲はあるし、もうやめておこう」とか。自分の傾向は、やっぱりよくわかるし。

──それは手癖みたいなことですか?

手癖ですね。手癖と、あとは自分が気持ちいいと思うメロディの流れというのがあって。まあ、それはそれでいいんですけど。

──自分の中から自然に出てくるものですもんね。

そうそう。ただ自分が面白がれない手癖というのがあるんですよ(笑)。やっぱり自分でもグッとくる感じの曲がいいから。

歌えないと曲は作れない

──今作もEGOやこれまでのソロ作品同様、特にコンセプトなどを決めずに制作を進めていったんですか?

はい。そこはいつも通り。ただ全体的にミニマムな雰囲気にしたいというのはありましたね。あんまり音を重ねないとか。地味でいいや、みたいな(笑)。派手になりすぎないように我慢、我慢とか思いながらやってましたけど、「入れたかったら入れたらいいんちゃう?」って言われて結局コーラスを重ねた曲もあったし。でも、いろいろやろうっていう感じではなかったですね。

──必要最小限の音数だけでサウンドが構築されていて、最初に聴いたとき、すごくパーソナルな色合いの強い作品だなと思いました。

静かな曲が多いし。なんか、そういうテンションだったんですよね。コロナの影響もあって、あまり心が晴れ晴れしくならなくて。あとは歌の強さみたいなものも自分の中で追求したかったんです。

──前作「窓景」以降、2018年には喉の不調で思うように歌えなくなってしまった時期がありましたよね。シンガーとしての危機を乗り越えたことによって、歌を歌うということに対する思いも、ご自身の中でさらに強まったんじゃないでしょうか。

そうですね。あの頃のことは、つらすぎてあんまり覚えてないんですけど……今にして思えば、なるべくしてなったんやろうなって感じです。歌を歌えない自分は、ホンマに何もできなくて。サイドビジネスで店をやろうかなとか、いろいろ考えたんですけど全然自分らしくないし(笑)。ほかのアーティストに楽曲提供しようにも、自分が歌われへんかったら曲も思い浮かばないんですよ。

中納良恵

──中納さんの中では歌を歌うことと曲を作ることが、分かちがたく結びついてるんですね。

歌えないと曲は作れないですね。こないだ吾妻光良 & The Swinging Boppersのライブにゲストで出て、ひさびさに人前で歌ったんですけど、やっぱりライブせなアカンなってすごく思いました。ミュージシャンは人前で演奏したり歌わんと怠けるから(笑)。ライブで自分の中にある何かを消化してたんでしょうね。それがなくなったから変に寝られへんかったりとか、バランスが取りづらくなったところはあるかもしれへんなって。体動かしたりしないと歌えへんし。だから制作中もなるべく体を動かすようにして。

──一時期ハードに水泳をやっていましたよね。

やってました。最近はストレッチをやるようにしていて。水泳は体が冷えるから、やめたほうがいいんちゃう?って言われたんです。泳ぐのは好きなんですけど。

──体を鍛えることで歌にも影響はあるんですか?

めちゃくちゃあります。フィジカルですもんね、結局、歌は。喉の不調が、そういうことを見つめ直すきっかけにもなりましたね。