真摯な大将・佐野元春
──弾き語りのオールタイムベストというのは、ご自身の発案で?
小谷 ううん、スタッフが「そういえば弾き語りアーティストなのに、ピアノと歌だけのアルバムが1枚もないね」って。
中村 弾き語りツアーもやってるのに(笑)。
小谷 Trioをずっとやってると、弾き語りも観たいってお客さんが言ってくれるので、ここで1回ピアノだけでやってみようかなと思って。
中村 いや、カッコよかった。「嘆きの雪」ってあんなに完璧なんだなって再確認した。Bメロのコード進行のダイナミズムと言うかさ。グワーッといって、そっからまたスコーンとサビいくっていう。尺も何もかも完璧だね!
小谷 どうしよう、褒められてるー(笑)。
中村 デビューから非の打ち所がないし、今の作品のほうがいいんだもん。「Who」にしても「正体」にしても。
小谷 「正体」! ありがとうございます!うれしい。
中村 「ねえねえ」のところとか、みーちゃんの生かしどころ知ってるなあって。僕らの大将に佐野元春さんがいるけど、佐野さんもそういうところを見てると思うんだよね。直接何か言ってくれるわけじゃないけど、僕らがライブやってるとずっと袖で観てくれてたり。
小谷 うんうん。真摯!
中村 僕らも佐野さんと同じように日本語の響きにこだわる系統なので。
「金字塔」から続く冒険の旅
──中村さんもセルフカバーベスト「最高築」でこれまでの代表曲を再構築されました。
中村 20周年にそろってセルフカバーアルバムを出すっていうのは偶然でしたね。僕の場合は今のバンドで昔の曲を鳴らすって感じで。ソロ時代に「金字塔」という風変わりなイカダみたいなのを作って「やった! すげえイカダできた!」みたいな感じから始まって。それで旅をしながら、次は100sで船の作り方を知った。ああ、こういうのを作れば航海できるんだ。で、今は海賊として冒険の旅に出てる感じ。
小谷 うまいこと言う!
中村 そうすか? 姐さん(笑)。100sでもずっと一緒にいるとたまに問題が起きるんです。そうすると最後は毎回みーちゃんの言葉で一件落着になるんです。「ええもんはええ。悪いもんは悪い」「はいっ!」って(笑)。みーちゃんは100sにとってお母さんみたいな存在だったよね。特にベースのヒロは甘えん坊だったから。Trioだとどうなの?
小谷 ヒロくんは100sのときのほうがちゃんとしてる。Trioのときは自分の家みたいな感じ。
中村 人数が少ないと、そのほうがいいね。豊夢くんは?
小谷 一緒。とにかくずっとトントントンって叩いてる。
中村 大工さんみたいに?(笑) 豊夢くん、実家が印刷屋さんだから紙がいっぱいあって、ちっちゃい頃それでドラムを作ったそうなんです。だから叩くのが好きなんだよね。
小谷 豊夢くんも田舎育ちだから仕方なく自分で作ってね。シティボーイと違って。
中村 俺も割り箸と輪ゴムでカポ作ってたよ?(笑)
「最高築」はお客さんにとって宝物になると思う
──小谷さんは「最高築」を聴かれていかがでした?
小谷 すごくよかったです。やっぱり作り手の気持ちがわかるんですよね。私、たぶん中村くんから20年ぐらい音楽の知識が遅れてると思うんです。デビューしたときすでにドラムもベースもギターも全部自分でやって、歌もやって、録音できる環境も確立してて。私は最近ようやくちょっとずつPro Toolsを使い始めたばかりなので。
中村 おおっ、すごい。姐さん、事件です!(笑)
小谷 初Pro Toolsは安藤裕子ちゃんの「Silk Road」(参照:安藤裕子「頂き物」提供者最終発表で峯田和伸、大塚愛、小谷美紗子)。その2カ月前にPro Toolsを買って勉強し始めたときに、「楽曲提供とアレンジをお願いします」って言われて。
中村 ももいろクローバーZの有安杏果さんにも曲提供してるもんね(参照:ももクロ有安ソロ作に多保孝一、アレキ川上洋平、小谷美紗子、武部聡志ら)。
小谷 有安さんのお母さんが私の曲を聴いてくださっていたみたいで、うれしかったです。そうやってほかのアーティストの楽曲のアレンジャーとしての仕事をやると、改めて中村くんのすごさを目の当たりにしてしまって。これをデビューのときに生楽器で自分でやってたんだって。私、20年ぐらい遅れてるって、そのとき思ったんです。今ベースとかドラムも全部打ち込んでるんですけど、中村くんを見る目が尊敬に変わってしまった部分もあって。
中村 いやいや、何をおっしゃいます。
小谷 だから「最高築」の曲とオリジナル曲に、両方のすごさがあるなって。あと、もう1回アレンジして「今の中村一義で何かやりたい、やらなきゃ」って気持ちとか、自分のことのように全部身にしみるんですよね。「最高築」を聴いたら前のアルバムもまた聴きたくなる。
中村 ありがたいです。
小谷 で、今の中村くんの曲も聴けるっていうのが、お客さんにとってはすごい宝物になると思います。佐内正史さんの写真集もすごいよかったし(参照:中村一義を20年追い続ける佐内正史、写真集「中義」を語る)。私もここ最近パッケージもこだわって木の箱にしたりしてるんですけど、「うわ、これやられたな」みたいな。これは本当にお客さんにとって宝物になるなと思いました。
中村 デビューから聴いてくれてる方はみんなも同じときを過ごしてきてるから。今回のアルバムはみんなから僕へのプレゼントだと思ってるんです。ライブのアレンジにしても自分1人で決められるものじゃないし。
小谷 うんうん。
中村 そのときのフィーリングで体の中に入ってくるフレーズの積み重ねで今のライブバージョンができてると思ってて。それを記念に1枚のアルバムにしたいって思いがあった。だから俺、今回そんなにプロデュースしてないんだよね。いつものライブ通り一発録りでやってるから。この数年間ずっと作ってた集大成っていう感じ。
小谷 その喜びがいいね。昔は自分1人でバラバラに録ってたのが、今はせーのでできちゃうっていう。
中村 ようやく正常になった感じ(笑)。
次のページ »
20年続くと思ってた?
- La.mama 35th anniversary
「正しさの価値観に共感する。中村一義×小谷美紗子」 -
2017年8月3日(木)東京都 渋谷La.mama
<出演者>
中村一義(Acoustic set) / 小谷美紗子(弾き語り)
- 中村一義「最高築」
- 2017年5月24日発売 / Victor Entertainment
-
初回限定プレミアム盤 [CD+ブックレット+缶バッジ]
5940円 / VIZL-1163 -
通常盤 [CD]
3240円 / VICL-64788
- 収録曲
-
- 犬と猫
- 永遠なるもの
- 魂の本
- 笑顔
- 1,2,3
- ロザリオ
- 素晴らしき世界
- キャノンボール
- いつだってそうさ
- Honeycom.ware
- ワンリルキス
- ビクターズ
-bonus track-
- 世界は変わる
- 初回限定プレミアム盤特典
-
- 写真集(撮影 佐内正史)約60ページ
- 全アルバムジャケットスペシャル缶バッジ(10個)
- 中村一義
「ERA最高築 ~エドガワQ 2017~」 - 2017年5月24日発売 / Victor Entertainment
-
[DVD]
5940円 / VIBL-852
- 収録内容
-
第一部
- イーラ
- 1,2,3
- ロザリオ
- メロウ
- スヌーズ・ラグ
- ピーナッツ
- ショートホープ
- 威風堂々(Part1)
- 威風堂々(Part2)
- 虹の戦士
- ジュビリー・ジャム
- ジュビリー
- ゲルニカ
- グレゴリオ
- 君ノ声
- ハレルヤ
- バイ・CDJ
- ロックンロール
- 21秒間の沈黙
- 素晴らしき世界
第二部
- 犬と猫
- ワンリルキス
- スカイライン
- 永遠なるもの
- キャノンボール
-bonus track-
- キャノンボール(Music Video)
- 小谷美紗子「MONSTER」
- 2017年4月15日発売 / Music For Life
-
特別「木の箱」仕様盤 [CD]
5400円 / MFLR-1001 - 2017年5月20日発売 / Music For Life
-
通常盤 [CD]
2700円 / MFLR-1002
- 小谷美紗子20周年記念弾き語りツアー2017「旱に雨」
-
- 2017年6月23日(金)東京都 Mt.RAINIER HALL SHIBUYA PLEASURE PLEASURE
- 2017年6月29日(木)京都府 高台寺
- 2017年6月30日(金)京都府 高台寺
- 中村一義(ナカムラカズヨシ)
- 1975年、東京都江戸川区出身のシンガーソングライター。1997年1月にシングル「犬と猫 / ここにいる」でデビューし「金字塔」「太陽」「ERA」というオリジナルアルバム3枚をリリースする。2001年「ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2001」に出演した際のバンドメンバーが集結し、2002年にアルバム「100s」を発表。2004年には同メンバーでバンド・100sとしての活動を開始し、3枚のフルアルバムをリリースした。2012年2月に約10年ぶりとなるソロ名義での新作CD「運命 / ウソを暴け!」を、7月にアルバム「対音楽」を発表。同年12月にはデビュー15周年記念ライブ「博愛博 2012」を東京・日本武道館で実施した。2014年には盟友・町田昌弘(100s)とのトーク&弾き語りライブツアー「まちなかオンリー!2014」、自身初となる地元・江戸川区での特別公演「エドガワQ」、約12年振りとなるソロ名義のバンドツアー「RockでなしRockn'Roll」を開催する。2016年3月にはビクターエンタテインメント移籍後初のアルバム「海賊盤」、ライブDVD「金字塔完成記念日~エドガワQ 2015~」を発売。2017年5月にはセルフカバーベストアルバム「最高築」と、2月に東京・江戸川区総合文化センターで行われたライブ「エドガワQ2017~ERA最構築~」の様子を完全収録したDVD「ERA最高築 ~エドガワQ 2017~」を同時リリースした。
- 小谷美紗子(オダニミサコ)
- 1976年京都生まれ。ピアノ弾き語りによる情感あふれる歌声が注目を集め、1996年リリースのデビューシングル「嘆きの雪」がスマッシュヒットを記録。以後コンスタントに作品を発表し、多彩な音楽性を見せつけながらその存在感を確立していく。2003年には彼女をリスペクトするミュージシャンが集まり「odani misako・ta-ta」名義でアルバムを発表するなど、他アーティストからの支持も厚い。近年は玉田豊夢(Dr)、山口寛雄(B)とともにトリオ編成のバンドでライブやレコーディングを実施。2013年12月に通算12枚目となるオリジナルアルバム「us」を発表。2016年4月にはデビュー20周年プロジェクトの第1弾として弾き語りベストアルバム「MONSTER」をリリースした。