音楽ナタリー Power Push - 中村一義
ジョン・レノンの享年を超えて完成させた“優しい”アルバム
38歳から先は未知の領域だった
──「海賊盤」を聴かせていただいて、今までの印象から変わった感じがしました。それで「この抜けた明るさはなんだろう?」と思って振り返ってみると、魂と出会った2013年あたりを境にして、中村さん自身が大きく変わっていったような気がするんですよね。
2012年にリリースした「対音楽」で自分のキャリアを総括したと思っていて。「金字塔」(1997年に発売された中村の1stアルバム)からやってきたものが1つ終わったってことをずっと思ってたんですけど、なんのために終わったのかと言ったら「『海賊盤』で新しく始めるためだったんだなあ」って。そこでようやく、幼少の頃の中村くんは消えたのかなって。浄化されたというか。
──中村さんは以前「自分は38歳ぐらいで死ぬと思っていた」っていうことをおっしゃってましたけど、まさに「対音楽」を出されたのが37歳で。
そうなんです。だから「対音楽」ぐらいまでは青写真があったっていうことなんですよね。38歳から先は本当に未知の領域だったんです。でも逆に言ったら38歳までに自分を作り上げないと前には進めないとも思っていましたね。「対音楽」までをやり終えたっていうところで、自分のキャパにスッポリ空きができたんじゃないのかな、と思うんですよね。その部分に入ってきたのが魂であり、新しい活動だったんです。まっちぃ(町田昌弘 / 100s)と全国を回ったツアー「まちなかオンリー!」も始まり、一緒にバンドツアーを回ることになる“海賊”のメンバーたちとも出会って。そういうのがもう、スポンスポンと「テトリス」みたいに入ってきたって思うんですよね。
──海賊のメンバーとは、いろんな出会い方をされてると思うんですけど、Hermann H.&The Pacemakersの場合は共演されて、そのまま一緒にやるようになったんですか?
彼らの川崎でのイベント(2013年11月に神奈川・CLUB CITTA'で行われた「ダンス・ドント・ラン! presented by Hermann H.&The Pacemakers」)のオファーが来たんですよ。僕はもともとヘルマンが好きで、そのとき自分のバンドがなかったっていうのもあって「だったら一緒にやっちゃおうよ」ということになって「じゃあ、まずは会って話そうか」って。彼らも再結成したときで、僕も「対音楽」までを終えて「これからライブやっていくぞ」っていうタイミングだったから、すごく波長が合ったんですよね。初めて会ったような気は全然しなくて、「それぞれの音楽性は違っても目指す場所は一緒」みたいな感覚があったんですよ。
──いきなり意気投合したわけですね。
それでみんなで飲んでるときに、ダンサーのウルフ(若井悠樹 / Hermann H.&The Pacemakers)が枝豆を食べようと思ったら、その枝豆がまっちぃのオデコにパーンってぶつかったりして(笑)。それで「おめーら海賊かよ!」って突っ込んでたら、そのままバンドの名前も「海賊」になったっていう。
──あはははは(笑)。
“族”なんですよね、あの人たちは(笑)。素行が悪いというか。まあ、僕もそうだから、メンバーにちょうどいいなあっていう。そんな感じで海賊に関しては、みんな、ズラズラっと集まってきてくれた感覚があるんですよね。いつの間にか、こう……民族みたいになってきたという(笑)。11人ぐらいいるんですよ、総勢。だから「その民族でアルバムを作ろうぜ」「どうせだったら全員の音を入れたいね」ってことになって、「海賊盤」のレコーディングに突入していったんです。
ビクターズとビクター、魂とニッパー
──レコーディング自体は、どれくらいの期間だったんですか?
2015年に入ってから数本ですけどツアーがあったり、年末に「エドガワQ」もあったんで、レコーディングをやりつつ、ライブの準備をして、リハやって、ライブやって、またレコーディングっていう感じで、ずっとギッタンバッコンやってましたね。
──その「エドガワQ」のときに楽屋でお会いして「レコーディング終わりました?」ってお聞きしたら「明日から、またやります」っておっしゃってましたよね(笑)。
そうそう(笑)。だから、去年の12月がヘビーでした。ホントに「エドガワQ」の翌日に詞を書いたりしていて。「こうでこうでこう」なんか、歌入れの日に書いてますからね。その場で書き上げて、さあ、歌おうっていう。
──僕は「こうでこうでこう」っていうタイトルが中村さんから出てきたっていうのがすごいなって思って。
あはははは(笑)。
──構えてないというか、開けっぴろげというか。中村さんが「突っ込み上等!」みたいな境地に至ったのがすごいなあ、と思ってて。「こうでこうでこう」なんて「タイトルで何も言ってないじゃん!」みたいな(笑)。あと、ビクター移籍後初の作品に「ビクターズ」が収録されるっていうのは「さすがは中村さん、なかなか気が利いてるなあ」と思ってたんですけど。
それも縁だなあ、と思うんですけど「ビクター」という言葉は「苦難を超えて勝った勝利者」っていう意味なんですよ。ただの勝利者ではなくて。一見すると「ビクトリー」的なタイトルではあるんですけど、「ビクトリー」だと“ピースサインを浮かべている勝利者”を連想するだろうなあ、と思って。「ビクター」を「ビクターズ」にしたら、なんとなく人の姿も見えてきて。それで今回、ご縁があってビクターさんでアルバムをリリースできることになったときに、パッと見で「ビクターに行ったからだろうな」って思われるだろうし、これはいいわと思って(笑)。
──じゃあ、ビクターに移籍される前から「ビクターズ」というタイトルだったんですか?
そうですね。曲のほうが先だったんですよ。その頃事務所で会議してるときに「ビクターさん、行きたいよね」みたいなことも話していて。
──ジャケットには魂とビクター犬・ニッパーが登場してますよね。
ビクターといえばニッパーですから。やっぱり縁だなあって思います。ありがたいですよね。
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- ニューアルバム「海賊盤」 / 2016年3月2日発売 / Victor Entertainment
- 初回限定盤 [CD+DVD] / 3780円 / VIZL-927
- 通常盤 [CD] / 3240円 / VICL-64514
CD収録曲
Side. A
- スカイライン
- アドワン
- MAD / MUD
- GTR.
- 世界は笑う
- 我燦々
Side. B
- こうでこうでこう
- 大海賊時代
- ビクターズ
- あれやこれや
- 魂の子守唄
ほか
初回限定盤DVD収録内容
- 「スカイライン」(Music Video)
- Documentary of 「海賊盤」収録
- DVD「金字塔完成記念日~エドガワQ 2015~」 / 2016年3月2日発売 / 5940円 / Victor Entertainment / VIBL-793
- DVD「金字塔完成記念日~エドガワQ 2015~」
収録内容
第1部
- 始まりとは
- 犬と猫
- 街の灯
- 天才とは
- 瞬間で
- 魔法を信じ続けるかい?
- どこにいる
- ここにいる
- まる・さんかく・しかく
- 天才たち
- いっせーのせっ!
- 謎
- いつか
- 永遠なるもの
- 犬と猫 再び
- シークレット(おまけ)
第2部
- グレゴリオ
- 君ノ声
- ジュビリー
- ショートホープ
- 1,2,3
- キャノンボール
- スカイライン
- ロックンロール
中村一義 Live Tour 2016
- 2016年4月15日(金)
- 埼玉県 HEAVEN'S ROCK さいたま新都心 VJ-3
- 2016年4月17日(日)
- 茨城県 club SONIC mito
- 2016年4月22日(金)
- 宮城県 仙台MACANA
- 2016年4月28日(木)
- 愛知県 名古屋CLUB QUATTRO
- 2016年4月30日(土)
- 岡山県 IMAGE
- 2016年5月15日(日)
- 北海道 札幌KRAPS HALL
- 2016年5月20日(金)
- 大阪府 梅田CLUB QUATTRO
- 2016年5月22日(日)
- 福岡県 BEAT STATION
- 2016年5月31日(火)
- 東京都 赤坂BLITZ
中村一義(ナカムラカズヨシ)
1975年、東京都江戸川区出身のシンガーソングライター。1997年1月にシングル「犬と猫 / ここにいる」でデビューし「金字塔」「太陽」「ERA」というオリジナルアルバム3枚をリリースする。2001年「ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2001」に出演した際のバンドメンバーが集結し、2002年にアルバム「100s」を発表。2004年には同メンバーでバンド・100sとしての活動を開始し、3枚のフルアルバムをリリースした。2012年2月に約10年ぶりとなるソロ名義での新作CD「運命 / ウソを暴け!」を、7月にアルバム「対音楽」を発表。同年12月にはデビュー15周年記念ライブ「博愛博 2012」を東京・日本武道館で実施した。2014年には盟友・町田昌弘(100s)とのトーク&弾き語りライブツアー「まちなかオンリー!2014」、自身初となる地元・江戸川区での特別公演「エドガワQ」、約12年振りとなるソロ名義のバンドツアー「RockでなしRockn'Roll」を開催。2016年3月にはビクターエンタテインメント移籍後初のアルバム「海賊盤」、ライブDVD「金字塔完成記念日~エドガワQ 2015~」を発売した。