ナタリー PowerPush - 中村 中

ニューシングル「家出少女」で新しい一歩を踏み出す

今はまるで1stアルバムを作っているような気持ち

──今回はプロデューサーを、前回のアルバム(2009年2月リリースの3rdアルバム「あしたは晴れますように」)で何曲か制作された根岸さんが務めていらっしゃいますね。それは、この曲が呼んだ感じなんでしょうか?

前回はすごく実験的なアルバムで、いろんな人にお世話になって作りました。だから今回は、そこで得たものを具現化しようと思ったんです。実は今、根岸さんと引き続きアルバムを作っているのですが、そんな思いで作っている曲たちが根岸さんとの制作を引き寄せたのかもしれないですね。忙しい人なのでスケジュールが合うかどうかわからなかったけど、うまくできたのは、引っ張り合うものがあったのかな、とは思います。

──じゃあ、シングルだからというより、アルバムに向かうモードがこの曲に象徴されてるんですね。

そうですね。すごく生命力を感じます。「生きよう」と思っている、いちばんそういうものが強いアルバムになると思います。1stアルバムを作っているような気持ちなんですね。1stもこう……あふれてきてしまう、走り出したい衝動みたいなことが詰まったアルバムだったな、と思うんですけれど、あのときはもうすでに出てきてしまっていたものを集めたような形で作っていたから、今のほうが“作ろうとして作っている”感覚があります。

──再スタートのような気持ちですか。

ギアチェンジとかそういうことだと思うんです。具体的に何速に入れたとかはわからないですけど、ギアが多分「歌を歌って生きていきたいんだ」っていうほうにより深く入った。

──それは舞台に立たれたり、他のアーティストに作品を提供された経験を経て気づかれたことですか?

そういうものとは全く違うことだと思います。この曲を書く前に、「歌を続けられるかわからないなぁ」と思っていた時期があったんです、1年か2年ぐらい。ちょっと言葉を選んでしまうんですけど、その後、かかっていた靄が晴れたような気持ちになって、がぜんやる気が出て……やる気とかって言葉では片づけられないんですけど、今はまだうまく語れないので……。あえて言うなら、私が作る音楽を良いと言ってくれて、一緒に歩んでくれる人を見つけたからというのも大きいと思います。

知らない街に繰り出していくための「阿漕な旅」

──そして「家出少女」のカップリング曲のタイトルが「帰れる場所なんて、ない」。強烈なタイトルですね。

以前、デビュー曲の「汚れた下着」のカップリングになった「風の街を捨てて」という曲で、デビューするときの決意みたいなものを歌いました。デビュー曲の「汚れた下着」がそういう歌ではなかったので、なんかもうちょっと、これから飛び出していくっていう気持ちをもっと自分で自覚したいと思って「風の街を捨てて」を書いたんです。それと同じ形で、今回新しく始まるのならば、カップリングにはそういう曲を入れようと思いました。「これから前に進んでいくんだ。どの道帰れる場所なんてない」みたいなことを入れておきたかったんです。

──そしてリリース後には、ユニークなタイトルのツアー「阿漕な旅」を行いますね。

このタイトルはアコースティックギターと、ずるいとか厚かましいという意味の「阿漕」のダブルミーニングで。阿漕という漢字を調べたときに例文が出てきたんです。阿漕ケ浦っていう漁が盛んな村があって、そこで自分の領地を越えてまで漁をするズルい様子。それを阿漕っていうんです。それがこのツアーにぴったりだと思ったんです。

──……というと?

バンドでライブをしていると、なかなか回れない街があって、大都市でやって終わってしまう。じゃあ、遠くまで行ける工夫をしようと思って、編成を減らしてアコースティックツアーにしたんです。知らない街に繰り出していく感じが、阿漕ケ浦の話に似てるなぁと思って。図々しくどんどん広がっていって最終的にはその街でバンドでライブができるようになりたい、そんな考えを持っています。

──耕しにいく感じですね。

はい。種まき。自己紹介をしに行く感じ。10年ぐらいかけて。

──ある種のライフワークですね。

そうですね。「阿漕な旅」を行うのはこれで2回目なんですけど、今年は去年の倍にあたる数の街を回るので、目に見えて広がってる感じがしてうれしいですね。しかも初日がシングルの発売日で、私にとっても来てくれる人にとっても、「家出少女」が頼もしい存在になるんじゃないかなと思います。

家出少女(Music Video) / 中村 中

ニューシングル「家出少女」 / 2010年6月2日発売 / 1000円(税込) / YAMAHA MUSIC COMMUNICATIONS / YCCW-30025

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CD収録曲
  1. 家出少女
  2. 帰れる場所なんて、ない
  • レコチョク 着うた® 着うたフル®
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中村 中(なかむらあたる)

アーティスト写真

歌手、作詞作曲家。10代の初めからピアノを独学で習得し、高校時代からストリートでのライブ活動を展開する。2005年、インディーズからシングル「友達の詩」をリリースし、2006年に同曲を岩崎宏美のアルバム「Natural」に提供。同年6月にシングル「汚れた下着」でメジャーデビュー。同年9月には「友達の詩」をメジャー2ndシングルとして改めてリリースした。その後同年11月に3rdシングル「私の中の『いい女』」、翌2007年に1stアルバム「天までとどけ」を発表。2010年にレーベルを移籍し、6月にシングル「家出少女」をリリース。また、多くのアーティストに楽曲を提供しているほか、2009年10月上演の「ガス人間第1号」をはじめさまざまな舞台演劇にも参加している。