自分の嫌味な部分が出た歌詞を書いていなかったな
──「Ghost」も「cheers」も、歌詞はどこか明瞭さを排しているというか、単語の羅列のようで難解な部分がありますよね。でも、それゆえに怒りや苛立ち、それを乗り越えていく力強さ……そういった感情がにじみ出していることが強烈に伝わってくる歌詞だと思います。Asakuraさん自身を赤裸々に開示しているような歌詞でもありますが、Asakuraさんはこの2曲にどんな自分が表れていると思いますか?
Asakura 「Dungeon」が完成した頃はお客さんに向けた前向きな歌詞が多かったんですけど、最近「ブルーライト」みたいな、ちょっと自分の嫌味な部分が出た歌詞を書いていなかったなと気付いて。でも、私が思っている嫌味はけっこうな嫌味だから、それを直接的に書いちゃうと「うわっ、こんなヤツなんだ」と思われそうで(笑)。濁した感じで書いたのがこの2曲ですね。「cheers」は「The 1」と一緒に制作していたんですけど、「The 1」の歌詞がなかなか思い通りに書けない苛立ちがあって、それをぶつけたのが「cheers」なんです。
Kenichi 歌詞が書けない葛藤が歌詞になったんだ(笑)。
Asakura そう(笑)。「The 1」の制作を通して、「私の“らしさ”って、そんなふうに見られてるんだ」と知ることがあって。でも、その発見がちょっと邪魔になることもあったんですよね。その気持ちを「ここにぶつけたらあ!」と思って書いたのが「cheers」です。「Ghost」は、最初は音ハメを意識して歌詞を書いていたんですけど、ふと「当事者のことって、ほかの人から見ても本当のことはよくわからないよな」と思うことがあって。テレビやSNSを見ていても、勝手にいい人だと思われていた人が、急に「実は悪い人だった」と言われて盛り上がったりするじゃないですか。人の本当の性格なんて、周りの人からしたら全然見えていないはずのに……ということを、嫌味ったらしく書いたのが「Ghost」です。
takachi Asakura自身もそうだよね。ファンの人から見たAsakuraと、本当のAsakuraは……。
Asakura もしかしたら違うかもしれないですよ、って(笑)。
──“本当”と“イメージ”のズレみたいなものがある。それが気にかかっている視点が「cheers」と「Ghost」の根底にはあるんですね。
Asakura 「cheers」では自分に対して、「Ghost」ではほかの人に対してそう感じて「おもしれえ」と思っている(笑)。それを書きました。
──「ブルーライト」を書いた頃と、「cheers」や「Ghost」を書いた今を比べて、Asakuraさんが自分自身の“嫌味な部分”が出た歌詞を書くにあたって変化したことはありますか?
Asakura 「ブルーライト」は、韻とかをまったく気にせずに書いたんです。でも最近はそこもちゃんと意識しながら書いていますね。
──より音楽的になっているんですね。
Asakura そうですね。トラックに本当に寄り添ったほうがメロディも立つなと思って。
「カーニバル」で孤独を少しでも和らげることができたら
──そしてEPの4曲目「カーニバル」は、皆さんもレギュラー番組を持っているFM FUKUOKA開局55周年テーマソングですね。ポップで陽性なパワーポップ的楽曲ですが、どんなイメージから生まれましたか?
takachi この曲もリフから作ったんですけど、テーマとしては「王道だけど新しい」というのがありました。新しいものを作るのって、奇抜なことをすれば簡単ではあるんですよ。そうじゃなくて、一見王道でシンプルなのに、ほかじゃ聴けない音楽……そういうものを作ることのほうがすごく難しいんですよね。それをこの楽曲でやってやろうと思いました。なのでシンプルなリフとコードでトラックを作りつつ、音選びや質感の面で、ほかとかぶらない曲であることを意識しましたね。
──ものすごくポップで王道感があるけど、言語化しようとするととても難しい曲だと感じていたので、今の説明でなるほどと思いました。歌詞は「Ghost」や「cheers」とは質感が違い、この曲を受け取る人に向けての温かいメッセージを感じます。
Asakura FM FUKUOKAの開局55周年のテーマとして「聴けば、出会える。動き出す→ FM FUKUOKA」というコピーがあって、それをなぞって最初は書いていたんですけど、だんだんと「自分たちも同じような状況にいるな」と気付いたんです。この数年で各地のフェスやライブハウスに行かせてもらって、私たちの音楽を聴いてくれているいろいろな人たちと出会うことができた。そういうことを考えていたら、ラジオのことだけじゃなくて、muqueのファンのことも書きたいなと思えてきて。それですでに書いていたAメロや最後のサビの歌詞を読み返してみると、ラジオやファンクラブを通して私たちとつながっているお客さんたちの状況にも合っているなと思い始めました。それがわかったときに感情がダダ漏れてきましたね。いつの間にかラジオのためだけじゃなくて、「muqueのお客さん!」という感じの歌詞になりました。
──「The 1」にも「カーニバル」にも“孤独”というフレーズが歌詞に出てきますけど、人の前提には、孤独があると感じますか?
Asakura そうですね。たまにお客さんが「muque聴いたよ」とSNSに投稿してくれるのを見るんですけど、意外とみんな「pas seul」みたいに寄り添える曲をちゃんと聴いてくれていて。ステージから見えるお客さんたちの顔はニコニコしているけど、普段の生活ではきっとキツイこともあるし、悲しいこともあるんだろうなと思うので。自分も孤独を感じやすい人間だと思うし、みんなの孤独をどうにか少しでも和らげることができたらうれしいです。
──「つづけつづけ 君の言葉」というフレーズも、Asakuraさんらしいなと感じます。
Asakura 受験生のファンの子たちがDMで「合格しました!」と報告してくれたりするんですけど、そういう子たちが進学先でも止まらずに、やりたいことをがんばって続けてほしいなと思って。その気持ちをそのまま書きました。
LIQUIDROOMは「Dungeon」期の集大成を表すことができた
──そしてEPの5曲目は「"Later"(Rock ver.)」ですね。EP「Design」に収録されていた「"Later"」のロックアレンジですが、このバージョンを収録するアイデアはどのように生まれたんですか?
takachi 前回のツアーで「お客さんを裏切りたい」という思惑のもと、ロックからかけ離れたサウンドの「"Later"」をロックにして披露しようとやってみたら、思ったよりも評判がよくて。あのときのライブアレンジをそのままレコーディングしてみました。
Kenichi このEPの中ではボーナストラックのような立ち位置の曲ですけど、自分のプレイスタイルが前面的に出ているアレンジなので。聴いてほしいですね。
──改めて大充実のEPですよね。「The 1」はもちろん大きな存在感の1曲ですけど、「Ghost」や「cheers」のようにtakachiさんが好き勝手やった曲もあり、「カーニバル」のようなポップかつメッセージ性のある楽曲もあり、「"Later"(Rock ver.)」では遊び心とmuqueのアレンジの妙を感じることもできる。風通しがいい作品だなと感じます。
takachi 確かに、「The 1」や「cheers」があるからこそ「カーニバル」も際立つし、「カーニバル」を聴いてコピーしたくなってくれたらうれしいし、「"Later"(Rock ver.)」を最後に聴いた、サブスクや音源だけで聴いている人も「これ、ライブ面白そうじゃね?」となってくれたら、こっちとしてはニヤニヤだし(笑)。
Kenichi muqueは常に音楽性が変化していくバンドだし、この自由さは失いたくないんですよね。うちのトラックメイカーなら、きっと大丈夫だと思いますけど(takachiの肩を叩きながら)。
──初回生産限定盤には、先ほど少し話にも出た「muque 1st Oneman Tour "Dungeon"」のファイナル、LIQUIDROOM公演の模様を収めた映像が付属するそうですが、見どころはどんなところですか?
takachi “いびつさ”ですね。映像を自分で観返して、改めてmuqueはいびつなバンドだなと思いました。バンドっぽすぎないけどロックだし、服装やセットはおしゃれだし。やっぱりmuqueでしか体感できないものがあるなって、自画自賛したくなる(笑)。映像を観てそんな気持ちになりました。
Kenichi 例えばフェスだと持ち時間が短いので駆け抜けていくイメージですけど、ワンマンは自分たちだけの時間であり、自分たちだけの空間なので。時間をたっぷり使って、来てくれた人に曲を一心で届けられる。その世界観をこの映像でも体感できるんじゃないかなと思います。特にこの日は「Dungeon」期の集大成を表すことができたライブだと思うので。これを観てまたライブに足を運んでくれたらうれしいですね。
Lenon 僕が映像を観返して気付いたのは、メンバーの顔つきが曲ごとに違うんですよね。映像は視覚的にも印象に残るので、「このとき、このメンバーは何を思っているんだろう?」と思いながら観てみてほしいです。
Asakura ずっと「muqueは音源とライブが違うよ」と言い続けているので。ライブにまだ来たことがない人にも、その違いが映像を通して届けばいいなと思います。届いてほしい。
──Asakuraさんは、この日のライブで特に印象に残っている瞬間はありますか?
Asakura 歌詞を飛ばしたことです。テンションが上がりすぎて、「あれ? 違うこと歌ってない?」という瞬間があります(笑)。
──(笑)。「DOPE!」がリリースされて、この記事が公開される頃には、もう「MUQUE TOUR 2025 "RIDE ON ! "」も始まっていますね。
Kenichi 春からフェスシリーズがあって、ゴールデンウィークも怒涛の日々を過ごしてきましたけど、それと並行して僕らは自分たちの時間を捻出しながらワンマンツアーの準備をしてきて。去年の「Dungeon」ツアーのときとはまた違う、1つフェーズの上がった自分たちを見せることができるツアーになるんじゃないかと思います。前回は追加公演含めて5公演でしたけど、今回は日本国内で10公演、追加公演の台湾を含めたら11公演あるので。各地で今のmuqueの最上級の姿を見せたいです。
公演情報
MUQUE TOUR 2025 "RIDE ON !"
- 2025年5月30日(金)宮城県 仙台MACANA
- 2025年6月1日(日)福島県 郡山HIP SHOT JAPAN
- 2025年6月13日(金)福岡県 DRUM LOGOS
- 2025年6月14日(土)広島県 LIVE VANQUISH
- 2025年6月22日(日)北海道 SPiCE
- 2025年7月4日(金)石川県 Kanazawa AZ
- 2025年7月6日(日)愛知県 名古屋CLUB QUATTRO
- 2025年7月21日(月・祝)香川県 DIME
- 2025年7月26日(土)大阪府 BIGCAT
- 2025年7月31日(木)東京都 Zepp Shinjuku(TOKYO)
MUQUE TOUR 2025 "RIDE ON !" IN TAIPEI
2025年8月3日(日)台湾 台北 MOONDOG
プロフィール
muque(ムク)
2022年5月にAsakura(Vo, G)、Lenon(B)、takachi(Dr, Track make)、Kenichi(G)の4人が福岡で結成したバンド。“muque”はフランス語で“音楽”を表す「musique」と、日本語の「無垢」をかけた造語で、「穢れのない音楽(muque)=周りに影響されず、自分たちのやりたい音楽を作り続けたい」という意味が込められている。結成1カ月後の2022年6月には1stシングル「escape」を、同年12月には6曲入りのEP「tape」をリリースした。2024年10月に1stフルアルバム「Dungeon」を発表。2025年4月にテレビアニメ「ONE PIECE エッグヘッド編」エンディング主題歌の「The 1」を配信リリースした。6月には「The 1」や、FM FUKUOKA開局55周年テーマソングの「カーニバル」などを収録したEP「DOPE!」を発表。これに先駆け5月より新作を携えたライブツアー「MUQUE TOUR 2025 "RIDE ON!"」で全国を回っている。
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