リーダー・ミヤの趣味嗜好が反映される音楽性
──ここから「カルマ」「シャングリラ」時代のMUCCを振り返っていきたいのですが、当時はリーダーがクラブ通いをしたり、DJイベントを主催したりするようになった時期で。
ミヤ もっと前からクラブには行ってたけどね。確か2004年くらいから。あの……そこまで「カルマ」って四つ打ち中心のエレクトロアルバムじゃないから。当時、そういう情報にみんな翻弄されすぎじゃね?とは思った。
逹瑯 当時のリーダーは交友関係がいろんなところに広がってる印象があったかな。いろんなジャンルの人と仲よくなって、アンテナが伸びてる印象。そこで受けた刺激がそのまま音楽に直結してるイメージでしたね。でもそれは昔から同じで、例えば「志恩」とか「球体」のときも、「リーダーは今こういう音楽に興味あるんだ」と振り切ったアルバムだったし。だから「カルマ」もそう。で、そうやっていろんなジャンルに振り切ってきたバンドのエッセンスを1枚にギュッと落とし込んだのが「シャングリラ」だと思うんですよ。どんなジャンルでもウチらがやるとこうなるんだ、ということがその頃ちょうどわかってきて、それをバンドとしてちゃんと扱えるようになった、みたいな。
YUKKE 逹瑯が言った通り、「カルマ」を作る頃からリーダーの交友関係とかクラブとか現場で知り合った人たちからのフィードバックがアルバムに入ってきたと思います。で、やったことないジャンルだからレコーディングがすごく大変で。今まで以上に正確にプレイしないと、という意識がありましたね。ちょっとリズムがヨレるとグルーヴって変わっちゃうから。
ミヤ 好きな音楽がその時々のアルバムに反映されるのは当然のことで、「カルマ」もそう。「球体」のときに、メタルバンドとアメリカでツアーしたからメタルをやりたくなったのと一緒。
──「カルマ」以降、楽曲にメンバーそれぞれの個性が出るようになった印象もあります。
ミヤ 単純にこの頃から作曲をマニピュレーターと一緒にやるようになったからというのもあると思う。スタジオに集まって作るよりも、個々の個性を出す方向にシフトしたんで。
逹瑯 あの頃から、自分の好みをちゃんと反映させたデモを持ち寄るようになった。
──それまでのMUCCはリーダー以外、曲作りと言ってもメロディやフレーズだけの曲の断片を持ち寄るレベルだったけど、メンバーそれぞれがマニピュレーターにイメージを伝えてデモを作るようになったと。
ミヤ 「球体」のときはそれをL'Arc-en-CielのKenさんがやってくれたんですけど、「カルマ」はセルフプロデュースだった。
──マニピュレーターとの作業はどうでしたか?
逹瑯 当時は自分の頭の中にあるイメージを人に伝えることの難しさを感じてたな。「A.」の間奏とか、頭の中に「こんな感じ」みたいな映像はあるんだけど、それをマニピュレーターに言葉で伝えるのが大変で。「青空の大草原でギターを1人で弾き倒してる感じ」とか(笑)。
ミヤ その頃からSATOち曲の採用が減ったんだよね。あいつの場合、人に任せるとうまく形にならないみたいで。たぶんマニピュレーターだとあいつのイメージを解釈できなかったんじゃないかな。
YUKKE 俺の場合、スタジオでリーダーに説明するときもうまく言えなかったんですよ。だからそれをマニピュレーターと時間をかけてゆっくりやれたのはよかったと思う。
ミヤ で、俺はギタリストとして自分以外の人が考えたフレーズを弾くことが多くなって。それで難しいギターフレーズに苦戦したこともあった。
──「カルマ」以降のMUCCは、ライブの雰囲気も変わった記憶があります。暴れたり叫んだりするだけじゃなくて、そこに享楽的なムードも生まれて。
逹瑯 「カルマ」って音源で聴いてると、同期の音がめっちゃ入ってるし、今までのMUCCとは違う印象があると思うけど、いざライブでやるとそんなに変わらないんですよ。「暴れる」が「踊れる」に変換されたところはあったけど、ウチららしさは変わらないと思ったな。「アイアムコンピュータ」とか音源とライブとでは全然違ってたし。そこが面白いですね。
ミヤ 「カルマ」はライブでやるとき、「こういう音楽の楽しみ方もあるんだよ」って提示する感じだった。音源だけ聴いて「もうMUCCはいいや」と思った人もいるだろうけど、ライブに来たお客さんはたぶんそうじゃなかったと思う。
逹瑯 だからあの頃音源だけ聴いてライブに来なかった人たちが、今のMUCCに触れてくれるといいかもね。どう感じるのかこっちも知りたいし。
やっぱり歌詞は重要
──「シャングリラ」はどういうアルバムですか?
ミヤ 俺からするとシングル曲ばっかであんまり面白くねえアルバムっていうイメージ。でも、「夜空のクレパス」とか「Marry You」とか、シングル以外にもいい曲があるかな。
──「Marry You」は一聴しただけで逹瑯さんが書いたとわかるような個性的な曲で。
逹瑯 「Marry You」は最初アルバムに入れる予定がなかったんです。でも俺の中に歌詞も含めて明確なイメージがあったんですよ。で、選曲会が終わったあとギリギリでワンコーラスだけ歌詞を付けた仮歌をメンバーに聴いてもらったら採用されて。
ミヤ 最初聴いたときはまったく響かなくて「なんだこの曲、カッコ悪い」と思ったのに、歌詞が入った瞬間に「ああ、こういうことがやりたかったのか」と理解できて。やっぱり歌詞って重要なんだなと感じたな。
逹瑯 すごく気に入ってた曲だから、もしお蔵入りになったらいつかソロでもやるときまでとっておこうと思ってましたね。
ミヤ あと「ピュアブラック」もいいよね。
──これはYUKKEさんが書いた曲ですね。
YUKKE 当時はまだジャジーなテイストの曲を作ったことなくて。どっちかっていうと逹瑯が書きそうじゃないですか、そういうのは。
逹瑯 でも俺が作るジャズっぽい曲って、しみったれて暗いんだけど、これはおしゃれなテイストだから。
──この2枚のアルバムの再現ツアーのリハーサルがこれから本格的に始まるそうで。
ミヤ リハはまだ「カルマ」しかやってない。
逹瑯 「シャングリラ」の曲はとにかく緊張しそう。
ミヤ 俺は「志恩」「球体」が思った以上にシリアスなライブだったから、やっと次のツアーでリラックスしてやれるかな。たぶん今度のツアーが一番今のMUCCらしさが出るんじゃないかと思う。決めごととかに縛られず、自由にやれる感じ。
逹瑯 1つ前のツアーは新曲の「99」もわりとカチっとした曲だったけど、次の新曲は遊べそうな気がする。
YUKKE 俺の場合、とにかく当時に比べたらはるかに余裕があるんで、たぶん曲が持ってるポテンシャルをちゃんと出せると思う。あの頃自分に余裕がなくてできなかったステージパフォーマンスも、今度のツアーで披露するつもりでいます。
いい感じなんで、たぶん大丈夫
──今回の会場限定発売シングルについてもお伺いします。「under the moonlight」は、今までのMUCCにはありそうでなかった80年代テイストの曲で。
ミヤ これは逹瑯が元ネタを持ってきて。
逹瑯 最初はデジタル色の強いメタルっていうイメージで持っていったら、リーダーのところでニューウェイブっぽい感じになり、しかもそれに合わせてサビも変わって。すごく好きな1曲になりました。
ミヤ とか言っておきながら、逹瑯が「BOØWYがやりたい」って言うからこうなったんだよ。
──ビートロックですね。これを聴いてすぐにPetit Brabanconでリーダーが書いた「孤動」を思い出したんですよ。どちらもニューウェイブ風で、今までのMUCCにはないアプローチだったので。
ミヤ 「孤動」よりこっちが先にあったけどね。もちろんBOØWYとかビートロックは通ってる世代だけど、これまでMUCCではやってこなかった。でもそれを今やったら面白いし、カッコいいんじゃないかと思って。シティポップが再燃してるのと同じ感覚。
──こういうテイストの曲が「カルマ」とか「シャングリラ」に入ってても違和感がなさそうだと思いました。
ミヤ そう思ったから今回出すことにしたの。もし今「カルマ」を作るんだったらこの曲は絶対入れると思うけど、2010年代はまだ早いというか、カッコいいとは思えなかった。
──表題曲の「サイレン」も「カルマ」「シャングリラ」をイメージして書いた?
ミヤ これは今の俺にとっての踊れるロックですね。だから当時と今とでは解釈も違うしアプローチも違ってて……土着的?
──エレクトロではなく?
ミヤ Måneskin(イタリア出身の平均年齢22歳のロックバンド)みたいなビート感。今はああいうのに興味があるんで。
──ツアーでお披露目されるのが楽しみです。12月28日には東京国際フォーラムで、25周年アニバーサリーの千秋楽となる「MUCC 25th Anniversary TOUR Grand Final Bring the End to『Timeless』&『WORLD』」が開催されます。
逹瑯 「Grand Final」なんで、派手になったらいいなーって。小屋も小屋だし。にぎやかで豪華なライブにしたいです。
──国際フォーラムはMUCCが初めてライブをする会場ですが、どんなイメージがありますか?
ミヤ 客席の椅子がデカい(笑)。
YUKKE フォーラムって写真で見ると客席がすごく広い印象があって。ステージよりも客席のイメージが強いです。
逹瑯 ずっと前からやりたかったんだけど、ウチの社長がやらせてくれなくて。でも気付いたらシドがやってて「なんでシドはやってて俺らはダメなの!?」っていうイメージの小屋(笑)。
──再現ツアーを総括することになりそうですか?
ミヤ 「Timeless」の集大成にしたいし、いろんな時代のいろんなMUCCをまとめてギュッと見せたいと思います。
──ちなみに来年の予定は?
ミヤ ちょっとだけ休んですぐ次の準備に入ります。でもライブはしばらくないですね。
──これからもMUCCは続いていくのでしょうか?
ミヤ 今のところはそのつもり。
YUKKE いい感じなんで、たぶん大丈夫。
逹瑯 Allenが音を上げなければ(笑)。
──(笑)。
逹瑯 Allenがここで音を上げちゃったらもう1回曲を覚えてもらうサポートを探すの大変だからね(笑)。
ライブ情報
MUCC 25th Anniversary TOUR「Timeless」~カルマ・シャングリラ~
- 2023年10月1日(日)宮城県 SENDAI GIGS
- 2023年10月4日(水)東京都 渋谷CLUB QUATTRO
- 2023年10月7日(土)愛媛県 WStudioRED
- 2023年10月9日(月・祝)広島県 広島CLUB QUATTRO
- 2023年10月14日(土)長野県 NAGANO CLUB JUNK BOX
- 2023年10月15日(日)石川県 金沢EIGHT HALL
- 2023年10月21日(土)北海道 札幌PENNY LANE24
- 2023年10月22日(日)北海道 札幌PENNY LANE24
- 2023年10月24日(火)青森県 青森Quarter
- 2023年10月28日(土)福岡県 BEAT STATION
- 2023年10月29日(日)福岡県 BEAT STATION
- 2023年11月4日(土)愛知県 THE BOTTOM LINE
- 2023年11月5日(日)愛知県 THE BOTTOM LINE
- 2023年11月11日(土)大阪府 なんばHatch
MUCC 25th Anniversary TOUR Grand Final Bring the End to「Timeless」&「WORLD」
- 2023年12月28日(木)東京都 東京国際フォーラム ホールA
プロフィール
MUCC(ムック)
1997年に茨城で結成された、逹瑯(Vo)、ミヤ(G)、YUKKE(B)からなるロックバンド。日本語にこだわった文学性の強い歌詞と、ヘヴィロックやラウドロックの影響をミックスさせた音楽性が国内外で評価されている。2002年にデンジャークルー・レコード内に自主レーベル・朱を設立。2003年にシングル「我、在ルベキ場所」でメジャーデビューし、2005年にはドイツで初の海外公演を行うなど活動の場を広げた。結成15周年を迎えた2012年には千葉・幕張メッセにてワンマンライブを開催。2019年2月には期間限定メンバーとして吉田トオルを迎えたアルバム「壊れたピアノとリビングデッド」を発表する。2021年10月をもってSATOち(Dr)が脱退し現体制に。2022年6月に現体制初のフルアルバム「新世界」を発表し、同年10月から過去のアルバムを中心とした再現ライブツアーシリーズ「Timeless」を開催中。2023年12月に東京・東京国際フォーラム ホールAで結成25周年を締めくくるワンマンライブ「MUCC 25th Anniversary TOUR Grand Final Bring the End to『Timeless』&『WORLD』」を行う。6月9日を「ムックの日」とし、毎年さまざまなイベントや企画を実施している。