Mr.Children|リスナーの人生に寄り添うサウンドトラック

歌の主人公は聴いてくれる人たち

──「SOUNDTRACKS」というアルバムタイトルについては?

「Mr.Children『Brand new planet』from "MINE"」より。 「Mr.Children『Brand new planet』from "MINE"」より。

これは以前から、ずっと言ってることなんですよ。Mr.Childrenは世の中に訴えたいことやメッセージを吐き出したいバンドではなくて、聴いてくれる人たちの人生のサウンドトラックになりたいという気持ちが強くて。僕は歌っているし、曲を作ってはいるけれど、主役は僕ではなくて、歌の主人公はあくまでもリスナー。その気持ちはけっこう前からあるし、さらに強くなってますね。特に今回のアルバムは、これまで以上に日常がベースになっていて。起伏のない日々が少しでもカラフルに見えるようなサウンドトラックになればいいなと思って、このタイトルを付けました。

──リスナーに対する思いも強くなっている?

そうですね。長くやればやるほど、僕らの曲を聴いてくれたり、ライブ会場に足を運んでくださる皆さんとの結びつきをすごく感じるようになって。僕らはリスナーの人たちがいてこそ存在できるバンドだなって思うんですよ、本当に。それがなかったら、続けられてるのかな?と思うくらいなので。

──キャリアを重ねるにつれてリスナーの幅も広がっていると思いますが、曲を書くとき、どこに向けて歌っていいか迷うことはないですか?

曲ができて、それを最初に聴かせるのは一番近しいメンバーやスタッフなので、リスナーとしての最初のイメージはそこにあるんです。だから相当、歳は取ってます(笑)。少なくとも10代、20代ではないし、そもそも若い人の気持ちはわからないので。

──年齢と共にソングライティングが変化するのは、自然なことですからね。

そう思います。それを悲しいこととして受け取ってはいるわけでもなくて。あとはなんだろうな……前作からの流れで言うと、前回の「重力と呼吸」というアルバムは、25周年が終わったあとに作ったんですよ。25周年のツアーというのは、それまで聴いてくれた人たちに感謝の気持ちを伝えたいという内容で、僕たちがやりたい音楽を鳴らすというより、それまでのヒット曲を軸に構成していて。そのツアーが終わって、「次は過去を振り返るのではなくて、『僕らにはまだ、これだけエネルギーがあるんだよ』というものを見せたい」という思いで作ったのが前作なんです。「重力と呼吸」を作って、アルバムを引っ提げたツアーをやり終えて(参照:Mr.Children、さらなる飛躍誓った「重力と呼吸」ツアー国内ファイナル)。だからこそ、ここまで力を抜けているというか、老いることだったり、エネルギーがパンパンに張りつめてない状態を表現できてるんじゃないかなと思いますね。

声に宿る感情を通訳していく

──前作「重力と呼吸」があったからこそ、今回の「SOUNDTRACKS」があると。そのつながりは、曲を書いている時点から感じていましたか?

いや、それはなかったかな。デモを作っていた段階では、ほかにも何曲か候補があって、それをアルバムに入れてたら、かなり印象が違ったと思うし。最初にも言いましたけど、歌詞も付いている状態でデモ音源を作っていたので、“歌はじまり”というところはあったかもしれないです。

──歌いたいことがあったということですか?

歌いたいことはないんですよ(笑)。歌は歌いたいんだけど、歌いたいことはなくて。僕の曲の作り方としては、まずメロディが頭の中で鳴って、それがどういう感じで声を発しているかをイメージするんです。声のイメージが優しければ優しい言葉が付くし、叫ぶ感じであれば、怒りなのか苦しみなのか、そういう感情を表現する言葉になっていく。メロディだけではなく、そのメロディを歌っている自分の声が鳴っていて、その中にある感情を通訳するような感じで歌詞を書いているんでしょうね。

──言葉を乗せるときは譜割り、フロウ、響きも意識しているんでしょうか?

たぶん意識しているんだと思います。よく「韻を踏んでる」と言われるんですけど、自分では韻を踏んでいるつもりはなくて。例えば「Brand new planet」の「静かに葬ろうとした」の「葬ろう」のところの語尾は、“お”の母音で伸ばしたかったし、それは死守したかったんです。自分にとっては、それが一番大事なことだから。メッセージを言葉で伝えたいというより、「この音は“お”の母音で引っ張りたい」っていう。それが韻を踏んだってことになるんでしょうね。そうやって言葉の響きに導かれるように歌詞を書いていくと、できあがったときに「確かにこういうことを思ってたな」と感じることもよくあって。

──歌詞を書き上げて初めて、自分自身の感情に気付く。

はい。よく夢に例えるんですけど、寝てるときに見る夢って、自分が見ようと思って見ているわけではなくて、潜在意識や深層心理が表れてると言われてますよね。僕にとってメロディは夢で、それを夢占いみたいに解析しているのが歌詞なのかなと。

──歌詞を通して、自分の深層心理を分析できるのは、いいことなのでは?

歌詞を書いたときに「いったいこれは何を言ってるんだ?」っていうこともありますけどね(笑)。ミュージックビデオの撮影で歌ったり、ライブでやることで、初めて「こういうことだったのか」と気付いたり。

Mr.Children

新たに欲しいものの正体は

──アルバムの収録曲の歌詞について、いくつか聞かせてください。まずは1曲目の「DANCING SHOES」の「流行り廃りがあると百も承知で そう あえて俺のやり方でいくんだって自分をけしかける」。音楽シーンのトレンドとMr.Childrenとしてやりたいことのバランスは、どうやって取っているんですか?

どういうふうに取ってるんだろう……? まあ、僕自身も流行りの音楽を聴いているリスナーの1人ですからね。いいなと思ったり、そうじゃないものもあるけど、それを自然と受け入れてるんじゃないかな。イントロが長いと「かったるいな」と思ったりしますからね、今は。サビが立ち上がるまでの時間が長いと「遅い」って思うし。集中力が少しずつなくなってるのかもしれないですね、僕を含めて。

──楽曲の尺も短くなってますからね。

そうですよね。自分で曲を作るときも、聴き手を飽きさせないようにしたいという気持ちはあります。サビまでの時間だったり、曲の途中の仕掛けだったり……なるべく早めに仕掛けていくというのかな。今回のアルバムでも、Bメロがない曲がいくつかあって。それは戦略ではなくて、そういう音楽が心地いいなと思ってるからでしょうね。流行ってるものを解析、分析してMr.Childrenの曲に反映させようと思っているわけではなく、この時代に生きているリスナーとしての感覚が自然に入ってるんだと思います。前作の反動も大きいですけどね、僕の場合は。

──「Brand new planet」には、「何処かでまた迷うだろう / でも今なら遅くはない」「新しい『欲しい』までもうすぐ」というラインがあって。桜井さん自身も常に新しい何かを欲していて、それがそのまま歌詞に現れているということでしょうか?

うん、そうだったと思います。「Brand new planet」のMVを作っているとき、「この曲を自分たちのテーマソングみたいにして、ロンドンに新しい可能性を探しに行こう」と歌っていたんだって気付いて。撮影のために歌ってるときに、そのことを実感したんですよね。ただ、新しい音って、もうわからないと思うんですよ。QueenとYOASOBIの曲を同じように楽しんで聴いてる人たちにとってどういうサウンドが新しいかなんて、もう誰にもわからないから。僕自身も何が新しいのかまったくわからないし、「SOUNDTRACKS」のサウンドが果たして新しいと言えるのか?って言ったら、全然そうじゃないかもしれない。

──なるほど。

1つだけ言えるのは、「SOUNDTRACKS」のサウンドが僕らにとって新しくて、今までにやったことがない音だということ。音楽なんてコンピューターでいくらでも作れるのに、わざわざロンドンに行って、向こうの弦の人たちに演奏してもらうなんて、「こんなことやってるバンド、なかなかいないよな」って思うしね(笑)。

──確かに(笑)。とても豊かだし、贅沢な作り方ですよね。

はい。CDが売れない時代、こんなに制作費をかける人たちはいないと思います(笑)。それはたぶん、僕らには今までの実績があるからでしょうね。売れたからできることかなと。

──その通りですね、本当に。

すみません(笑)。とは言いながら、内心ドキドキしてますけどね。レコーディング中も「これ、大丈夫なのかな?」と思ったし、今も採算が取れるかどうか心配で。でも採算が取れなくてもいいとも思ってるんです、実は。それくらい、いい音楽を作ることにピュアに向き合っているということですね。

──理想的ですね。

そうですね。とても恵まれてると思います。

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大切な曲になる予感