音楽ナタリー Power Push - 森恵×河野圭×ASA-CHANG

2人のプロデューサーと語る成長の姿

あえてポジティブ、もっとポップに

──3曲目は河野さんがプロデュースした「Hello Smile!」。こちらは事前にいただいた資料によれば、森さんがネガティブな時期にあえてポジティブな内容で作った曲だそうで。

 そうなんですよ。それこそ音楽を辞めようかと思うくらいの時期があって。

ASA-CHANG 森さんにもあるんだ、そんな時期が。

 でもアルバムを作ることは決まっているから曲を作らないといけなくて、「みんなが求めてる曲はなんだ」とか「こういうときに私はどんな曲が聴きたいか」って思ってがんばって作ったもので。編曲も河野さんに「ポップにしてください。でも中高生っぽさというか幼くキャッキャしてる感じではないポップさで」って。ちょっと大ざっぱですけど、そんなお願いをしました。

河野圭

河野 そうですね。それで僕なりの考えでこの曲はリフものにしようって決めて。いろいろ乗っけてポップな曲ができたと思って聴いてもらったら「願わくはもうちょっとポップに」って返事が来た(笑)。

 はははは(笑)。

河野 まあポップさにもいろんな種類があるので、やっぱ現場で一緒に作っていくのがいいなと思ったんです。会ってみたら実際はイメージが共有できていたので、それからはスムーズにいきましたね。

 はい。今回はプロデューサーの方とのやり取りが一番楽しかったです。「ああ、自分の意志はこういうふうに受け取ってもらえるんだ」っていう驚きとか。自分の想像にないものが返ってきたときの楽しさというか。

言葉でも初挑戦

 「Hello Smile!」に関しては歌詞でもチャレンジをしていて。短いながらも森恵が英語で歌うのって初めてなんです。英語で主メロを歌うってことが今までになかった。

ASA-CHANG

ASA-CHANG へえ、そうだったんですね。

 実は前作で英語のコーラスがあったんです。それがすごく楽しくて新鮮で。自分の中で主メロを英語で歌うっていうのに今まで抵抗があったんですけど、曲作りをしていたら「Hello Smile! Hello Smile!」って歌うサビのメロディと歌詞が出てきちゃったので。

河野 タイトルですしね。

 そう。もうこれはこう歌えってことだなと思って、そこは変えないようにしようと決めました。自分の中では新しいことだからいいかなと思って貫き通したところです。

──前作のASA-CHANGさんのプロデュースによって出せた新しい一面がより広がったと。

 はい。

ASA-CHANG ああ、なんかすみません(笑)。

意外なモチーフ

──ほかに歌詞の面で挑戦した楽曲はありますか?

 「せんたくもの」は作詞家の松井五郎さんと歌詞を一緒に作ったのですが、この曲は初めて歌詞先行で作ったんです。今までは私がもともと書いていた歌詞に松井先生が「ここの表現はこんな感じがいいんじゃない」ってアドバイスしながら直していくことが多かったんですけど、この曲は「せんたくもの」っていうキーワードから関連される言葉というか、数珠つなぎにイメージした言葉をバーッと何百個も書いて。それを松井先生にお渡しして、「これで言葉をつなげてください」とお願いして作ってもらったのがこの歌詞です。

──1人暮らしのサラリーマンを思い描いたとか。

 そうですね、私の中で「せんたくもの」は単身赴任で東京にいる父のことを書いてて。

ASA-CHANG えっ、そうなの? 知らなかった。今日は来てよかった(笑)。

河野 僕も知らなかった……。

森恵

 あははは(笑)。言ったことなかったでしたっけ? 東京で大きなライブがあるときは母が遊びに来て泊まっていくみたいなんですけど、母が帰ったあとのちょっと寂しそうな父の背中や2人がそれぞれ洗濯物を干すときの雰囲気の違いとか、そういうのを思い出して。それで松井さんに投げた言葉にもそんなイメージを詰め込んだんですよね。そしたら「OLさんのことかと思ってた」っていう感想をいただいて。っていうことはいろんな目線でいろんな方に受け入れてもらえる曲なんだ、私が考える範囲以上に曲が広がっていくんだって思ってすごいうれしくて。今はそういう、幅広く聴いてもらえる曲になったかなって思ってます。

河野 OLの曲だと思ってました(笑)。編曲をするときはデモと歌詞から膨らんだイメージを「じゃあここでこうしたほうがもっとグッとくるんじゃないかな」みたいな思い付きを形にしていって。今回はOLだと思ってたんで(笑)。寂しさっていうか、絶望的な毎日の中で、救いになるようなホワッとした穏やかな気持ちも生まれるんじゃないかとか大げさに考えてて。まさかお父さんのことだとは……。

 あははは(笑)。でも聴いてみたら私自身にも当てはまるような曲に仕上がっていて、それが不思議。女性と男性で目線は違うし、そんな中でもイメージというか、主人公は違っても音が向かっていくところは一緒なんだと思ってすごい面白かったです。

ASA-CHANG 僕ね、これすごい好きなんですよ。お父さんっていうのはわかんなかったけど(笑)。

 わからなくてもいいかなって思ってます(笑)。

ASA-CHANG そうだね。テーマ当てクイズじゃないもんね(笑)。

 そうですね。でもそこが松井さんの言葉のマジックじゃないですけど、さまざまな捉え方ができて、それでいて景色がはっきり見えるっていうところが松井さんのすごいところだなって思います。

森恵 ミニアルバム「small world」2015年8月19日発売 / 2052円 / cutting edge / CTCR-14822
「small world」
収録曲
  1. せんたくもの
  2. ハンターグリーン
  3. Hello Smile!
  4. ひまわりの街
  5. 闘いの時
  6. ユメオイビト
  7. 輝く日々
森恵(モリメグミ)

森恵広島県出身、1985年生まれの女性シンガーソングライター。高校生時代に地元を拠点としたストリートライブでファンを増やし続け、2010年にcutting edgeからメジャーデビュー。2012年にメジャー1stフルアルバム「いろんなおと」をリリースする。2014年には2ndアルバム「10年後この木の下で」を発表。またギターメーカーのギルドスターズと日本人アーティストとして初のエンドースメント契約を結んだ。2014年10月にプロデューサーにASA-CHANGを迎えたミニアルバム「オーバールック」をリリース。自身のキャリア10周年でありメジャーデビュー5周年となる2015年には、5月に単独公演「森恵 MORI FESTIVAL 2015 1人弾き語りフェス!」を開催し、6月から全国ツアーを展開。8月にミニアルバム「small world」を発表した。

ASA-CHANG(アサチャン)

ドラマー、パーカッショニスト。1985~1993年に東京スカパラダイスオーケストラの創始者として活動。脱退後は多数のアーティストのサポートメンバーとして活躍する一方でChara、小泉今日子、UA、一十三十一などの楽曲プロデュースも担当。1998年にはASA-CHANG&巡礼を結成し、トライバルかつアブストラクトな楽曲で話題を集める。2014年2月には自身のプロデュース作品集「ASA-CHANG & 蒐集」をリリース。9月にはASA-CHANG&巡礼名義でライブシリーズ「アウフヘーベン」を始動させた。2015年はTOWA TEI、グループ魂、片平里菜らの作品への参加やASA-CHANG&巡礼として映画「合葬」の劇伴を担当。

河野圭(カワノケイ)

東京都出身の作・編曲家、プロデューサー。大学生の頃にキーボーディスト、アレンジャーとして活動をスタート。宇多田ヒカル、EXILE、絢香、大黒摩季、今井美樹などさまざまなアーティストの楽曲アレンジやプロデュースを手掛ける。またキーボーディストとしてもライブのサポートメンバーとして数多く参加している。