ナタリー PowerPush - 百々和宏

タナカカツキと異色対談 初ソロアルバム「窓」

アルバムには「死んでる感」がすごいある(タナカ)

──百々さんは実際にタナカさんにお会いになってどうだったんですか?

百々 完全に「バカドリル」のイメージしかなかったんですよ。なので、どんだけ頓珍漢な人が来るんだろうと(笑)。ちゃんと会話になるのかな、と。いきなり不条理なことされたらどうしよう、と(笑)。

インタビュー写真

タナカ 迷ったんですけどね、しようかどうしようか(笑)。

百々 でも話をするうちに、こんなにゆる……。

タナカ 穏やかな、ね!(笑)

百々 (笑)今、さえぎるように言いましたね! ……いい感じのバイブレーションが出てたのでちょっと安心して。ポートレイトや肖像画といっても、音楽一切関係なしの奇天烈なキャラクターにされちゃったらどうしようと思ってたんですけど。

タナカ だから出会いなんですよ。私が百々さんのことが大好きで、百々さんのジャケットを描くために生まれてきました!とか言ったら、かえって気持ち悪いじゃないですか。だから、ここから広がるという意味で、お互い違う世界を持っているほうがいいかもしれない。

──百々さんの世界に密着したものというよりは、ちょっと距離を置いて……。

タナカ まあでも、自分にないものは描けなかったりするんで。だから曲を聴いたときはシンパシーを感じましたよ。

──どういう部分でですか?

タナカ 僕、お酒飲まないし飲めないんですが、でもこれは「お酒の世界」ではないなと思いました。小さい頃の体験やったり、もっと“中”にあるものなんでしょうね。

──具体的に共感できる部分は?

インタビュー写真

タナカ なんでしょう……僕が好きなのはねえ、失礼な言い方なんですが、すごく「死んでる」感じが……。

百々 わっははははは!(笑)

タナカ 「死んでる感」がすごいあるんですよね。全てが遺言というか。

百々 ああ、ああ。

タナカ もうひとつ扉の向こう、もうひとステージ上のほうから「もう終わりやぞ」と。(三途の川を)渡るところですよね。あの持っていかれ方が気持ちいいんですよね。

百々 死にたくないけどね(笑)。

タナカ なんか時間がありますよね。距離があるっていうか。現実世界で「今まさにここにいる」っていう感じじゃない。

絵を見てアルバムタイトルを「窓」にした(百々)

──そして出来上がってきたのが、このジャケットのイラスト。

百々 時間もない中で、結構な枚数を描いていただいて。

インタビュー写真

タナカ 数撃ちゃ当たるだろうと(笑)。最近はジャケットがちっちゃいアイコンになるじゃないですか。だから大きい顔のアップも描いて。それが採用されたんですけど、基本的には部屋の中に人がいる感じの絵。

百々 ちょっと殺風景な部屋に、大きな窓が描いてあるものがあって。ジャケットを開いたら、見開きで部屋の全景があって、俺が座ってる、みたいな絵なんです。タナカさんに話してはいないんですけど、シド・バレットの1stアルバム(「帽子が笑う…不気味に」)のジャケが好きで。それを意識したような、シュールなイメージもある絵だったんです。レコーディング中にスタジオで作業してるときにちょうどマネージャーにメールで送られてきて。……すぐに言葉が出てこなかったですね。なんでこんなにわかってるんだろこの人、って思った。

──具体的なイメージを話したわけでもないのに。

百々 そうですね。最終的にジャケに選ばれた顔のアップの、おでこにギターが刺さってるやつ。もう絶妙で、見た瞬間に「あ、この人わかってる!」って。音とか絵ってなかなか説明するのも難しいし、こうしてくれああしてくれって説明しすぎるのも野暮だし。もちろんタナカさんも表現者だから、そこはおまかせしてタナカさんのものを出してほしいと思ってたんですけど……これはもう、このアルバムを絵にしたらこれ、って思えたんですよね。奇天烈でシュールで……というよりは、すごい愛情を感じたんです。めちゃめちゃ感激しましたね、マネージャーと2人で。

──タナカさんはご自分で描かれていて手応えはあったんですか。

タナカ ウーン……まあでも、そうやって思ってもらえるのがプロなんじゃないですか!? やっぱプロなんじゃないですか!?

──おおおお。2度言いましたね。

百々 アハハハ!(笑) だから仮でアルバムタイトルをつけてたんですけど、タナカさんの絵を見た瞬間に捨てましたからね。部屋の中でまどろむ俺がいて、窓があって、窓から光が差し込んで……それを見た瞬間にタイトルを「窓」に変えようと思ったんです。

──ロックのアルバムタイトルにしては「窓」ってちょっと変わってるかもしれませんね。

百々 そう。だから最初の仮タイトルはカタカナのロックっぽいやつで、いわば安全策というか(笑)。

──じゃあ百々さん自身がうまいこと表現しきれなかったものを、タナカさんが見事に表現してくれたという。

百々 だからすごいコラボレーションですよ!

ニューアルバム「窓」2012年4月25日発売 2625円(税込)日本コロムビア COCP-37360

  • 窓 / Amazon.co.jpへ
CD収録曲
  1. バターのようだね
  2. クラクラ
  3. ながいおわかれ
  4. ロックンロールハート
  5. ポテトフォーピープル
  6. 悪女
  7. 高架下の幽霊
  8. 箱船
  9. Sad Vacation
  10. ニューシネマ
  11. 雨音はショパンの調べ

タナカカツキ「サ道」2011年11月28日発売 1260円(税込)パルコ

  • サ道
LIVE INFORMATION
百々和宏とテープエコーズ
「社会の窓ツアー」
  • 2012年5月18日(金)
    東京都 新宿風林会館ニュージャパン
    OPEN 18:30 / START 19:00
  • 2012年5月26日(土)
    大阪府 digmeout ART&DINER
    OPEN 18:30 / START 19:00
  • 2012年5月28日(月)
    福岡県 VOO DOO LOUNGE
    OPEN 18:30 / START 19:00
  • 2012年5月29日(火)
    愛知県 名古屋APOLLO THEATER
    OPEN 18:30 / START 19:00

チケット:前売3500円(税込 / ドリンク別)

オフィシャルサイト先行受付:
2012年4月25日(水)~ ※先着

一般発売:2012年4月28日(土)

百々和宏(ももかずひろ)

MO'SOME TONEBENDERのボーカル&ギターを担当。1997年の結成以来、バンドのフロントマンとして多くのロックファンを魅了する。無類の酒好きでも知られ、雑誌の連載コラムをまとめた「泥酔ジャーナル」「泥酔ジャーナル2」の著書もある。2012年4月、初のソロアルバム「窓」をリリース。

タナカカツキ

1966年大阪生まれのマンガ家、映像作家。マンガ家としての代表作に「バカドリル」「オッス!トン子ちゃん」「ブッチュくん全百科」などがある。その他映像作品やも多数手がけ、アーティストとして幅広いジャンルで活躍。音楽にも造詣が深く、クラムボンのビデオクリップやキリンジのアートディレクションなども担当。近作はサウナを題材にしたマンガ&エッセイ「サ道」。