ナタリー PowerPush - 百々和宏
タナカカツキと異色対談 初ソロアルバム「窓」
MO'SOME TONEBENDERのフロントマン、百々和宏の初ソロアルバム「窓」がリリースされる。中島みゆき、小林麻美、ジョニー・サンダーズといったアーティストのカバー曲を含む全11曲。虚実の皮膜を縫うような百々の内面世界が描かれ、まさしくモーサムとは全く異なる、ソロであることの必然性を感じさせる作品であり、これから先、聴き手として長い長い付き合いになることを予感させるような、味わい深く奥深い作品となっている。
そして本作のジャケットの印象的なイラストを描いているのが、「バカドリル」「オッス!トン子ちゃん」などで知られるマンガ家 / 映像作家のタナカカツキだ。ジャケットの図案を写真ではなくイラストにするというアイデアが出て、タナカの作品「サ道」が百々の所属事務所と同じ会社(PARCO)からの出版であることからスタッフが発案、実現したものだ。それまで2人は面識がなく、タナカはMO'SOME TONEBENDERを聴いたこともなかったという。だがそれが結果的に最高のコラボレーションとなったのである。
取材・文 / 小野島大 撮影 / 平沼久奈
「窓」は自分が作ったみたいなアルバム(タナカ)
──今回のアルバムを初めて聴かれたときの印象はいかがでしたか?
タナカ 自分が作ったみたいだなあと。
百々 おおおおおおお。
タナカ 失礼ですけど。
百々 いえいえ!
──それは、ご自分に近いものを感じたと。
タナカ ええ。こんなの作りたかったなと。「窓」ってタイトルで出したかったなと。僕もね、大好きなんですよ、音楽が!
百々 アハハハ!(笑)
タナカ それはもう、小さい頃から。幼稚園の頃からバイオリンや鍵盤をやり、バンドもこれまで21個組んできたんです。ほとんど人生、音楽です。それぐらい打ち込んだのに、全然実りがなかったんです。
百々 それ、夢の中の話じゃなくて?
タナカ いえいえ、本当なんですよ。僕が高校のときに組んでたバンドのメンバーが、元ソウル・フラワー・ユニオンの河村(博司)やったりね。
百々 へえ! 河村さんは知ってます。
タナカ だから僕は人生、音楽なんですよ、基本的に。ずっとやってきて、ちゃんとデモテープも作って、レコード会社に送ったりしてたんですよ。美大に行って絵を描くことになるんですが、美大生って、みんなバンドやってるんですよ。時代的にもイカ天ブームだったりして。当時僕は演劇もやってたんで、演劇と音楽はすごいくっついてた時代だったし、仲間がイカ天に出てたりしてましたね。
百々 へえ……。
──じゃあチャンスがあればプロのミュージシャンとしてやっていこうと。
タナカ かなり本格的に思ってましたねえ。ただ河村にはかなわんなと。こいつがおるとアカンなと。
百々 あははは!(笑)
タナカ それで自然とマンガ描くようになりました。河村もマンガ描いてたんですけど、河村はだんだんマンガを描かなくなり、音楽一本になったんですよ(笑)。
ジャケット依頼は賭けだった(百々)
──百々さんは実際にお会いになる前に、タナカさんのことは。
百々 そりゃあもう「バカドリル」ですねえ。で、いきなり失礼な話なんですけど、今回のジャケットでタナカさんに肖像画っぽいものを描いてもらう話が出て「描けるのか?」と(笑)。
タナカ 失礼だよ!!(笑)
百々 いやいや、肖像画と……。
タナカ 合わない、と。
百々 全くイメージできなかったんですよ、自分の顔がタナカさんにどういうふうに描かれるのか。で、最近のタナカさんの作品を送ってもらって、それでもイメージできず。だから結構な賭け……(笑)。
タナカ そうですよね。アルバムって、人生に何枚かじゃないですか。大事ですよね。賭けたなあ、と思いましたよ(笑)。止めたほうがいいんじゃないの、と思いましたね(笑)。で、結果やっぱり止めたほうが良かったな、と。
──いやいや、そんなことないでしょう。
タナカ 楽曲は素晴らしいんですよ。だから売れなかったら僕のせい……。
百々 ワハハハ!(笑)
──タナカさんは百々和宏という人間も、MO'SOME TONEBENDERの音楽もよく知らない状況でこのアルバムをお聴きになって、どういうものを受け取られたんですか?
タナカ 今回(採用されたのは)顔のアップになりましたけど、いただいたお題としては、部屋で百々さんがギターを弾いてる感じ、というものだったんです。それがよくつかめなかったんです、最初は。
百々 事前に1回お会いして、お話をしたんですけど。
──どんな話を?
百々 お酒が好きですとか、ギターを弾いてますとか……。
タナカ ギター弾いててお酒好きとか、ミュージシャンとしては普通じゃないですか(笑)。
──参考にならない!
タナカ 全然スペシャルな情報じゃないですよね(笑)。
LIVE INFORMATION
百々和宏とテープエコーズ
「社会の窓ツアー」
- 2012年5月18日(金)
東京都 新宿風林会館ニュージャパン
OPEN 18:30 / START 19:00 - 2012年5月26日(土)
大阪府 digmeout ART&DINER
OPEN 18:30 / START 19:00 - 2012年5月28日(月)
福岡県 VOO DOO LOUNGE
OPEN 18:30 / START 19:00 - 2012年5月29日(火)
愛知県 名古屋APOLLO THEATER
OPEN 18:30 / START 19:00
チケット:前売3500円(税込 / ドリンク別)
オフィシャルサイト先行受付:
2012年4月25日(水)~ ※先着
一般発売:2012年4月28日(土)
百々和宏(ももかずひろ)
MO'SOME TONEBENDERのボーカル&ギターを担当。1997年の結成以来、バンドのフロントマンとして多くのロックファンを魅了する。無類の酒好きでも知られ、雑誌の連載コラムをまとめた「泥酔ジャーナル」「泥酔ジャーナル2」の著書もある。2012年4月、初のソロアルバム「窓」をリリース。
タナカカツキ
1966年大阪生まれのマンガ家、映像作家。マンガ家としての代表作に「バカドリル」「オッス!トン子ちゃん」「ブッチュくん全百科」などがある。その他映像作品やも多数手がけ、アーティストとして幅広いジャンルで活躍。音楽にも造詣が深く、クラムボンのビデオクリップやキリンジのアートディレクションなども担当。近作はサウナを題材にしたマンガ&エッセイ「サ道」。