mol-74「OOORDER」インタビュー|“変わらないmol-74”と“新しいmol-74”が詰まった充実作 (2/2)

「OOORDER」というタイトルに込めた意味

──「OOORDER」というタイトルについても聞いていいですか?

武市 1st EPの「Teenager」をリリースしたあたりで、アルバムのことをぼんやり考え始めてたんですよ。挑戦を始めた当時から、フランス語で“水”を意味する「eau(オー)」というタイトルが頭に浮かんでいて。水って、冷たくなったら氷になる、温かくなったら蒸気になるみたいな、変化も循環もできるイメージがあるじゃないですか。そこで「eau(オー)」をアルファベットのOに置き換えて「次のアルバムタイトルはOにしたい!」と、車を運転していた髙橋に言ったのを覚えているんだけど。

髙橋 そうでしたね。

武市 でもまあ、最終的に「ちょっとシンプルすぎるんじゃない?」となりまして。で、ソニーのスタジオで「O」を軸にどうしようかなと考えていたときに、「ooparts」(「場違いな人工物」を意味する「out of place artifacts」の略称)という言葉が引っかかったんです。「O」の響きも残しつつ、「out of 〇〇」っていいかもなと。そこからさらにディスカッションして「order」にたどり着きました。調べてみたら、注文とか以外に“規律”“体制”の意味もあって、めっちゃええやんと思ったんですよね。話を戻せば、これまでのmol-74の規律みたいなものからはみ出ることを意識して作ってきたアルバムなので。

──「out of order」の略で「OOORDER」だったんですね。

武市 そうなんです。いい感じにまとまったなと思ってたんですけど、タイトルを決めた2週間後くらいかな。スタジオに行ったとき、トゥンさんが「『out of order』は“故障中”っていう意味の熟語らしいぞ」と言ってきて。ヤバいタイトルにしてしまったなって(笑)。

全員 あはははは!

井上 海外の友人が教えてくれたんですよ。どうやら、動かなくなった自動販売機とかに貼ってあったりする言葉らしくて。

武市 僕らが意図したのは「規律をはみ出して挑戦するぞ」ということなので、故障中と言いたいわけではないんですけどね。

井上 でも、その友達は「イカしてるタイトルだな」みたいに言ってくれたよ(笑)。

武市 故障中なのに、リード曲が「Renew」ってブッ飛んでるよね。

井上 それこそ「常軌を逸している」という意味もあるらしくて。

髙橋 あっ、それいいじゃないですか。

坂東 そのくらい大胆な作品ができたわけだしね。

坂東志洋(Dr)

坂東志洋(Dr)

試行錯誤の末に生まれた新たな表現を感じてほしい

──自分たちで新鮮に感じる部分って、具体的にどのあたりですか?

武市 さっきの話と重なっちゃうんですけど、やっぱり僕の中では曲作りを分担できたことが一番新鮮ですね。最初からはうまくいかなかったにしろ、試行錯誤の末に新しいmol-74を打ち出せましたし。本当にやれてよかったなと思っているので、そこが聴いてほしいポイントかな。

井上 僕は曲を作るようになって、ギタリストとしての表現の仕方も変わった点ですかね。自分を前に出すことを意識したというか。今まではすごくきっちり弾くタイプだったんですよ。

武市 規律を守るタイプだったもんね、それこそ。インディーズの頃は「俺は後ろでいいねん、風景でいいねん」と言ってたくらいなので。

井上 そういう人間だったのが、もっと貪欲にプレイするようになって。今回は相当踏み出せたと思います。レコーディングのときも、あえてフレーズを固めないでアドリブで臨んだり。現場で本能的に弾いてみて、いいテイクを狙う試みもやってみました。

武市 「更進曲」のラスサビ前のフレーズとか唸りまくっていて、まさに“out of order”でしたね(笑)。「Renew」のソロもカッコいいし、どの曲もすごくギター然としていると思います。

──坂東さんはどうでしょう?

坂東 武市が作ってきてくれた「ニクタロピア」で、ドラマーが思いつかないようなフレーズがサビにあって。セッティングを変えたりしないと叩けない感じだったんですけど、そういう複雑なアプローチにチャレンジできたのが面白かったですね。叩いてみたら、予想以上にカッコよくなったんで。

武市 以前は俺がざっくりと曲を持ってきて、4人のセッションで進める形だったもんね。それだと、大胆なフレーズは生まれにくかったのかも。

坂東 そうそう。今回は作曲者がひと通り作ってくる感じというか。打ち込みありのデモを1回聴いたうえでアレンジしていったのは、いい効果が生まれていると思う。

──コーラスやクラップがいい感じに入った、シンプルにノリやすい曲も増えましたよね。

坂東 そうですね。アップテンポの曲が多くて楽しいです。僕もコーラスに参加するようになって、今めっちゃ練習してるんですよ。特に「更進曲」とか。「演奏しながら歌うのはこんなに体力を使うものなのか!」と驚くばかりで。

武市 坂東が叩きながら歌うのも新鮮です。だいぶ苦戦してるみたいだけど。

坂東 気付いたら曲が終わってる感じ(笑)。そのくらい必死にやってます。

──髙橋さんは?

髙橋 和音とか音の重なりを生かしたアレンジが好きで、「こういう響きをmol-74で試してもいいんじゃない?」という感じで「鱗」を持っていけたのがよかったですね。自分だけでは表現できないアプローチも、じわじわ提案できるようになってきました。あとはシンセベースも弾いていたり、密かにいろいろやってます。

髙橋涼馬(B, Cho)

髙橋涼馬(B, Cho)

武市 僕は「Replica」のベースが好きですね。「Renew」の激しくうねってるところ、「Halation」の2番の入り方もいい感じだし。それぞれが鳴らす音もちゃんと立ったアルバムになっているんじゃないかなと。

──リード曲「Renew」は作曲が髙橋さんで、作詞が武市さんですね。

武市 そうです。去年の夏頃、トゥンさんの家でピザを食べながら「アルバムを出す頃にはコロナの終わりも見え始めているかもしれないし、リード曲は解放感があるものがいいよね」という話をしていたのが最初だっけ?

髙橋 はい。で、1週間後くらいにそのイメージにハマる曲ができたので、僕が持っていった感じですね。前へと進んでいこうとする意志が表現できたと思います。

武市 コロナ禍で僕らは本当にいろいろな影響を受けてきたじゃないですか。今後もまだどうなっていくかは正直わからないけれど、バンドを含めて、自分が大切にしているものや人とはぐれないようにしたいなと思って。歌詞はそんな希望を込めながら書きました。

“変わらないmol-74らしさ”に見るバンドの信念

──アルバムを締めくくる「白光」(びゃっこう)で「僕らが僕らであるために 何もかもを失くさないように 生きていく」と歌っているように、挑戦や新しさを意識する一方で、mol-74らしさというものについて改めて考えることもあったのかなと思うんですけど。

武市 最近もメンバーで話しました。やっぱり大切にしているのは、景色が浮かぶ音楽であること。描きたい景色のイメージを共有しながら作ること。あとは、どんなときに聴いてほしい曲なのかとか。そういう点をしっかり詰めるようにしてますね。ここは変わりたくない部分だから、mol-74らしさなんだろうなって。

──変わりたい思いがありながらも、譲れないポイントはありますよね?

武市 なんでもOKには絶対にしたくないです。実を言うと、僕自身が昔から変化をものすごく拒む体質なんですよ。作詞に関してはスッと馴染むことや響きばかりを大切にしてきた人間だったので、内面を出すことがとんでもなく難しくて苦労しました。表現の幅を広げたくて、短歌の本を読むようになったり、メンバーにも歌詞について「どう思う?」と初めて聞くようになったり。だいぶ助けてもらいましたね。

──変化を拒む体質だったんですね。じゃあ、今回のアルバムはなおさらすごいじゃないですか。

井上髙橋坂東 あはははは!

武市 そうですね。本当はめっちゃ“現状維持人間”なのに、挑戦をテーマに取り組んでちゃんとこうして具現化できたわけですからね。

──1stフルアルバムの「mol-74」はインディーズの楽曲の再録が中心だったので、今作はまったく違う実感や達成感があるでしょうし。

井上 これが実質的な1stと言ってもいいくらいです。

武市 でも、まだまだここからです。海に沈んだジャケットの先に見える、白い光の向こうへバッと出ていくことを僕らは描いていきたいので。EPのときは具体的な人や物が登場するジャケが多かったんですけど、アルバムにおいては統一感を意識して、1stのトーンを受け継いだデザインにしました。そういうアートワークひとつ取っても、mol-74らしさがあると思います。

──随所でこだわりが見えますね。

武市 「白光」で終わるのにもこだわりました。今回のアルバムはたくさん挑戦をしたことによって、シンセやギターを重ねるとか、どうしてもメンバー以外の音が増えてしまったので、4人だけで鳴らす生々しいバンドサウンドの曲が最後にあったほうが絶対にいいなと思ったんです。「いろんな曲を提示したけど、ちゃんと4人はここにいますよ」と伝えられれば人間味も見えやすいし、なおかつ希望を歌っていたら素敵かなって。「このまま 何処へ向かうのだろう」と始まる「深青」の歌詞を、「何処へも行かないよ」と「白光」で受ける形で、ポジティブなアウトプットができた気もしています。

mol-74

mol-74

──そうした点で、mol-74が掲げてきた“変わらずに変わっていく”という姿勢を示せたアルバムでもあると思います。4月からはリリースツアーも始まる予定ですが、昨今のライブはどんなことを考えながらやっていますか?

坂東 コロナ禍が始まったばかりの時期は配信が中心でしたけど、最近は有観客でライブをやれるようになってきているので、キャパいっぱいではできないにしろ、それでもうれしいですよね。お客さんが目の前にいる状態で演奏できると、自分の居場所があるのがわかってありがたい気持ちになります。

髙橋 そうですよね。お客さんの反応を直に観る機会が今は少なくなってしまったから、ライブハウスとかで演奏できたときは「やっぱりいいなあ」と思う瞬間が多いです。

井上 生のライブのありがたみがわかった一方で、配信ライブができる環境もだいぶ整ったじゃないですか。なので、これまでmol-74のライブを観られなかった人が観てくれるようになったケースもあるはずなんですよね。コロナの状況にかかわらず、職業柄とかご家庭の事情とかでどうしても会場に行けない方はいらっしゃって。そういう人たちに観てもらえる可能性が増えたと考えれば、すべてがマイナスの方向に進んでいるわけでもないのかなと。そのメリットも意識して活動しないといけないなと思ってます。

──人それぞれいろいろな事情はありますが、この状況下でライブ会場に足を運んでくれる方もいて。

武市 ありがたいですよね。「無理はしないでね」とも言ってあげたい。コロナ前なら「ぜひ来てください!」と普通に言えていたのが、今はそうもいかないから。

井上 でも、お客さんいなかったらめっちゃ困るよね。

武市 もどかしいけど、ミュージシャンだけじゃなくて飲食店とかも同じ状況なんじゃないかな。そんな中でmol-74を必要としてくれる人は本当にね……「あなたのおかげでやれてます」という感じですね。その気持ちを音楽に還元していきたいです。

──ツアーも楽しみですね。

武市 おそらくセットリストがガラッと変わるので、僕らもワクワクしてますよ。「OOORDER」で表現した変化、成長を遂げたバンドの姿を見せられると思います。

──クラップが入った曲もたくさんありますし。

武市 意外と多くなりましたね。そういえば、これまでも「%」(パーセント)や「ノーベル」という曲でクラップを入れたことがあったんですけど、そもそもはお客さんが叩いてくれるのを期待していたわけじゃなかったんですよ。

──そうだったんですね。

武市 あくまで曲に対するアプローチの一環だったんです。そしたら、ライブで演奏しているうちに「あんなに速いクラップできないよ」とか言いながらもお客さんがやり始めてくれて。僕らとしては思わぬリアクションだったというか、「すんません、ありがとうございます!」という感じでした(笑)。

坂東 ありがたかったよね。

武市 そういう意味では、「Renew」「更進曲」とかクラップありの曲がけっこうあるので、入っている箇所を予習してツアーに臨んでもらえたらうれしいです。

──お客さんはライブ会場で声が出せない状況ですけど、クラップなら積極的に参加できますから。

武市 わっ! いいこと言ってくれましたね。

井上 確かに、すごく大事な要素になってくる気がします。

武市 mol-74のライブって、みんなで歌ったり暴れたりする感じではもちろんないんですけど、クラップがコミュニケーションのひとつになるのはいいかもね。つながりにくい状況でつながれる手段だし、今の世の中っぽい。

髙橋 いろいろ不安な方も多いと思いますけど、ライブに関しては僕らめちゃめちゃ“規律”を守ってるんで。

坂東 最後にうまいこと言ってきた(笑)。

武市 締まりましたねー!

髙橋 アルバムは規律を崩した“out of order”ですけど、ライブは安心して遊びに来てください。

ツアー情報

mol-74「OOORDER」release tour

  • 2022年4月9日(土)北海道 SPiCE
  • 2022年4月16日(土)宮城県 darwin
  • 2022年4月17日(日)新潟県 CLUB RIVERST
  • 2022年4月24日(日)香川県 DIME
  • 2022年5月6日(金)愛知県 名古屋CLUB QUATTRO
  • 2022年5月8日(日)福岡県 THE Voodoo Lounge
  • 2022年5月22日(日)大阪府 梅田CLUB QUATTRO
  • 2022年5月27日(金)東京都 Spotify O-EAST

プロフィール

mol-74(モルカルマイナスナナジュウヨン)

武市和希(Vo, G, Key)、井上雄斗(G, Cho)、坂東志洋(Dr)の3名で2010年に京都で結成。2017年に髙橋涼馬(B, Cho)が加入し現在の4人体制になる。日常にある身近な感情を歌う武市の透き通るようなファルセットボイスを軸に、北欧ポストロックを思わせる繊細な音作りで注目される。インディーズで計5枚のミニアルバムをリリースしたのち、2019年4月に1stアルバム「mol-74」でメジャーデビュー。2021年1月からテレビアニメ「BORUTO-ボルト- NARUTO NEXT GENERATIONS」のエンディングテーマとして「Answers」、10月からテレビアニメ「ブルーピリオド」のエンディングテーマとして「Replica」を提供した。2022年3月に2ndフルアルバム「OOORDER」を発表。4月から全国ワンマンツアーを開催する。