mol-74が3月3日に新作音源集「Answers」をリリースした。
mol-74はバンド結成10周年を迎えた昨年、さまざまな企画を予定していたが新型コロナウイルス感染拡大の影響によりスケジュールは白紙に。それでも歩みを止めず、1年3カ月ぶりの新作音源集「Answers」を完成させた。本作にはテレビ東京系で放送中のアニメ「BORUTO-ボルト- NARUTO NEXT GENERATIONS」のエンディングテーマである表題曲や、昨年公開の映画「サヨナラまでの30分」に提供した劇中曲「目を覚ましてよ」のセルフカバーなど全4曲が収録されている。
彼らは昨年の厳しい状況をどう乗り越えたのか。今回のインタビューでは、コロナ禍における新作「Answers」の制作エピソードについてmol-74に語ってもらった。
取材・文 / 金子厚武
コロナ禍でも挑戦
──2020年はバンドの結成10周年イヤーだったわけですが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で思うような活動ができず、もどかしい1年だったのではないかと思います。
武市和希(Vo, G, Key) そうですね。春に予定していたアコースティックツアーが延期になって。それに、実は秋に10周年のツアーを開催する予定もあったんですけど、告知をする前にキャンセルになってしまったんです。
──それは残念でしたね。
武市 悔しいことはたくさんありましたけど、僕らにとっては挑戦の1年でもあって。曲の作り方を大きく変えたんですよ。今までは基本的に僕が素材を持って行ってみんなで広げていくというやり方だったんですけど、去年の初めのミーティングで「楽曲の幅が固まってきているから打破しないといけないな」という話になったんです。そこからはメンバー全員がそれぞれネタを持ち寄ることになりました。
──ライブができない分の時間を曲作りに費やして、その結果作り方自体を変えるトライができたと。
武市 そうですね。メンバー各々が作るのは初めてのことで試行錯誤もあったので、当初の予定通りアコースティックツアーと並行してそれをやっていたと想像するとゾッとしますね。そういう意味では、コロナに助けられた部分もあるかもしれないです。
──「Answers」にはそうやって作られた曲も入ってるんですか?
武市 いえ、結果的に「Answers」の収録曲はこれまで通りのやり方で作った曲になりました。ただ、近いうちにほかのメンバーが大元を作った曲も出てくると思います。
自分自身を見つめ直した2020年
──楽しみにしています。井上さんは去年1年間でどんなことを感じましたか?
井上雄斗(G, Cho) 僕だけじゃなくて、みんなに当てはまることではあると思うんですけど、去年は自分を見つめ返す時間が多かったですね。その中で、自分がどれだけ周りの人に支えられているのかを改めて感じて、それに対する感謝の気持ちが強まった1年でもありました。作品は出せなかったですけど、バンドとしてこれから跳ねるためのバネをしっかり縮めることができた1年になったんじゃないかと思います。
──高橋さんはどうでしょうか?
髙橋涼馬(B, Cho) リリースも止まって、ライブもできなくなって、しかも、この状況がいつまで続くかもわからなかったので、かなり不安ではありました。自分のやっていることが、社会に対して何もいい影響を与えられない状態というか……。
──音楽をやることの意味、自分たちの存在価値を考えさせられたというか。
髙橋 そうですね。ただ、そうやって自分たちのことを見つめ直す時間がたくさんあって、最終的にプラスの方向に持って行けたからこそ、今回の作品にもつながったと思います。それに最近は少しずつライブも決まってきて、バンドとしての動きが活発になりつつあるので、気持ち的にも上向いてきてるんです。たくさん時間があった分、技術的にも普段だったらできなかったことに挑戦できたので、その点はプラスだったと思いますね。
坂東志洋(Dr) 曲作りに関して言うと、バンドの中で僕だけ一から曲を作るのが初めてだったんです。最初は楽しんでやっていたんですけど、なかなかうまくいかなくて葛藤もありました。そんな中で緊急事態宣言が出たので、「自分はなんのために音楽をやってるんだろう?」と、けっこう病んでしまった時期もあって。ただ、7月にオンラインライブ(mol-74が“モルカルの日”と謳う7月4日に行った「mol-74 presents "mol-7.4" online」)をやって、その頃から音楽に対するモチベーションがまた上がってきたんです。あの時期があったからこそ「Answers」が完成したわけですし、必要な1年だったんじゃないかと思います。
──去年はクラスターの報道で一時期ライブハウスが叩かれたり、歩みを止めざるを得なかったバンドもいたり、ミュージシャンの誰もが音楽をやる意味と向き合う1年でもありました。
武市 まさにそんな1年でした。ライブもなくなって、人と会う機会も減って、考えごとをする時間があまりにも長すぎたんですよね。緊急事態宣言が出て、テレワークになった人も、それでも会社に行ってた人も、遂行しなくちゃいけないタスクがあるという意味では変わらなかったと思うんです。もちろん、僕らには曲作りがありましたけど……でもどこか透明人間になったような感じもして、自分の存在価値についてすごく考えましたね。
──透明人間というのは、自分が存在している実感がなかなか得られないということですよね。
武市 今までだったら、ライブでお客さんの喜ぶ表情を見ることで、自分は音楽をやっている人間なんだと確認できたんです。CDやサブスクで曲を聴いてくれることももちろんうれしいですけど、でも表情は見れないじゃないですか。Twitterでエゴサをしても、それはできないから……本当に悩みましたね。
──そこからもう一度歩みを進めるにあたっては、何かきっかけがありましたか?
武市 坂東の話と被りますけど、7月のオンラインライブが半年ぶりくらいのライブで、あれをやったときに「やっぱりすげえ楽しいな」という気分になったんです。今まで自分たちを俯瞰で見ることがあんまりなかったんですけど、ホテルに帰って、その日のライブを振り返ったときに、すげえいいバンドだなと純粋に思えたんです。その気持ちは2020年の後半を過ごすうえですごく大事で、「このバンドを続けたい」と思えたから、7月4日はターニングポイントでしたね。
新たな一歩はアニメ「BORUTO」EDテーマ
──2020年を経ての新たな一歩となる楽曲「Answers」は、テレビアニメ「BORUTO-ボルト- NARUTO NEXT GENERATIONS」のエンディングテーマです。mol-74にとって初のタイアップ楽曲ですが、バンドの中でアニメやマンガが好きな人はいるんですか?
武市 僕は正直そんなにアニメやマンガを見るタイプではないんですけど、友達が「NARUTO-ナルト-」が大好きで、僕もマンガを読んでたんです。でも、僕以外の3人は車内でもずっとアニメとかマンガとかの話をしてますね。
──じゃあ、エンディングテーマに決まったときはかなりテンションが上がった?
髙橋 そりゃあもう(笑)。僕は中学生のときに「NARUTO-ナルト-」の単行本を誕生日プレゼントで親にねだったくらい好きだったので、感慨深いものがありますね。
坂東 僕はずっと「週刊少年ジャンプ」を読んでいたので、今回のタイアップが決まって、ちょっとですけど「ジャンプ」に僕らの記事が載ったときはめちゃくちゃうれしかったです。
井上 テレビ画面の中で、僕たちの音楽に合わせて絵が動いてるのを観るだけでもゾクッとするよね。
──逆に言えば、その分曲作りのハードルは高かったんじゃないかとも思いますが、制作はどんなふうに進んでいったんですか?
武市 もともとは去年の3月とか4月くらいに、それこそまだ僕も病んでるような時期に作った曲なんです。まずパソコンで僕が1コーラス作ったんですけど、そのときの記憶が全然なくて。作業をしたこと自体は覚えてるんですけど、どういう曲を作ろうとしてたのか、何を考えて作ってたのかは全然思い出せないんです。
──いろんなことを考えてしまう中、ただひたすら夢中に手を動かしている状態だったのかもしれませんね。
武市 そうですね。そうやってオケやメロディができあがっていく中で、最初になんとなく星空みたいなイメージが見えて、ちょっと落ち着いた夜に似合う曲にしようと決めました。それをフルコーラスにするにあたっては、メンバーみんなの力を借りて作っていったんですけど、それは「BORUTO」の話が決まってからでした。
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自分の中の何かを打破したい