mol-74|逆境を乗り越えて見つけた“音楽を楽しむ”という答え

自分の中の何かを打破したい

──ど頭のシンセからmol-74の曲としては新鮮な印象を受けました。

武市 ギターやピアノといった従来のmol-74サウンドではなく、自分の中で新しいものを作りたいという思いがあったんです。でも、ちゃんとmol-74の曲として聴ける馴染みのいいサウンドを求めた結果というか。去年の3、4月頃は、自分の中の何かを打破したい、今までの自分と同じでは嫌だという気持ちがあったんだと思います。

井上 ギターもmol-74にしては珍しくギャンギャンに歪んでいて、僕にとっても自分の気持ちをぶつけられるような曲になっています。

──歪んではいるんだけど、サビで全面に出るわけではなく、背景として鳴っているような立体的なミックスも印象的でした。

井上 サビはギターを壁みたいな感じにしたいというイメージがもともとあって。

武市 途中で言った“夜”とか“星”のイメージを大事にしつつ、派手にするためにシンセをいっぱい足しちゃった分、ギターの配置に悩みました。基本的にリフはギターが前にあって、サビではちょっと後ろにいてもらってます。トータルバランスとして、いつものトゥン(井上)さんとは若干違う立ち位置みたいな。

井上 でもラスサビは自分の好きなように弾いているし、要所要所に自分のやりたいことを組み込めているので、いいバランスになったのかなって。

──リズム隊に関してはどうでしょうか?

坂東 最初は生じゃなくて、打ち込みが合うんじゃないかという話をしてたんです。でも途中で「やっぱり生のほうがいい」となって生で録ったんですけど、フレーズ自体は打ち込み寄りなので体に馴染ませるまでかなり苦労しました。

──2020年はリモートでの制作が増えて、バンドでも打ち込みを使うことが以前にも増して一般的になったように思いますが、あえて生にこだわったわけですか?

武市 こういうサウンド感で打ち込みでっていうのはけっこうあるから、生ドラムのほうが逆に新鮮なんじゃないかなって。あとフレージングは今までのmol-74とちょっと違うから、そういう意味での新しさもあると思います。

髙橋 ベースも最初はシンベっぽい感じだったんですけど、生ドラムに変えたタイミングでベースのフレーズもガラッと変えて。でも質感的にはシンベのロー感が合ってたから、「フレーズは生っぽいけど、サウンドはところどころシンベっぽい要素もありつつ」みたいなハイブリッドを目指しました。

武市 ボーカルで言うと、ファルセットに頼らないというのは意識しました。ファルからの脱却とかではなく、ファルはファルで使うんですけど、やっぱり歌いやすさも大事だから、もうちょっと地の部分も出していきたいなって。なので僕たちの曲の中ではかなり歌いやすい曲になったと思います。

坂東志洋(Dr)

メンバーの脱退を想像した「Answers」

──歌詞はアニメのキャラクターやストーリーを意識しながら書いたのでしょうか?

武市 ネガティブな時期に作った曲なので、世の中が沈みがちなときに、もしもメンバーの誰かが脱退すると言い出したらどうなるんだろうと考えて書き始めました。その後に「BORUTO」のお話をいただいたんですけど、歌詞をまるっきり変えるんじゃなくて、アニメと自分の思いが重なるところはないかなと原作を読み直したんです。そうしたら、ムギノというキャラクターがみんなをかばう場面があって、その瞬間を切り取って今の歌詞になったんです。

──「Answers」=「それぞれが出した答え」というのは、もともとメンバーの脱退を想定していたと。

武市 もちろん実際にそんな話が出たわけではないんですけど、去年はバンドマンだけじゃなくて、飲食店でもなんでも続けたくても続けられない人が多かったと思うんです。でも、例え違う道を行ったとしても、それをポジティブに捉えられるような、希望を持たせられるような曲にしたかったというか。もしもメンバーの誰かが脱退しても、その人の幸せを祈れるような気持ちでいたいと、そんなことを思いながら作りました。

──2020年はウイルスという未知の脅威により、それぞれがどう自分の活動を続けていくのか模索した1年でしたよね。

武市 何かを続けたくても続けられない人が増えて、自殺者も増えたりしましたけど、僕がいつも信条として思っているのは、「今の最悪が明日の最悪ではない」ということで。そのときは最悪でも、「結果的にはあれがあってよかった」と思える未来が絶対にあるはずだと思うんです。バンドで言えば誰か1人が犠牲になりながら続けるのは絶対によくないと思うから、そういう意味でも誰かがバンドを抜けるとなったとき背中を押してあげたいなって。

──1月に皆さんとほぼ同期のHalo at 四畳半が活動休止を発表したじゃないですか? もちろん曲は先にできていたわけで、直接関連があるわけではないにしろ、それぞれの自主企画に呼び合う関係なので何か思うところはあっただろうなと。

武市 まさしく、そうですね。彼らのコメントを読むとなんとも言えない気持ちになって……でも、それを悲しいと思うのも違うのかなって。それぞれの道を行くのは決して悪いことではないし、4人が幸せになるのであればその決断を尊重したいなと。

──そうですよね。

武市 まあ、もう対バンできないのかと思うと悲しい気持ちにもなりますし、活動休止すると知ったときになんて連絡したらいいのかわからなかったんですよね。しばらく競演もなかったから、会ってない分なんとなく距離ができていて、渡井(翔汰)ちゃんに連絡しようにも、どんな心情なのかもわからないし。そう考えると、バンドマン同士にも変なソーシャルディスタンスができちゃいましたね。

──でも、「Answers」自体が何よりのメッセージになるんじゃないでしょうか。

武市 そうだといいですね。僕らとしても去年を振り返ったときに「2020年に作った曲」として記憶に残る曲になったと思います。

武市和希は春が好き

──ほかの収録曲3曲についても聞かせてください。「春は、魔法だ」はアップテンポなナンバーで、春がモチーフという意味では「エイプリル」を連想しました。

武市 2018年10月にはできていた曲で、テーマとしてはまさに「エイプリル」の続編みたいな曲を作ろうと思ったんです。なので、実はBPMも「エイプリル」と一緒なんですよ。最初は今回の音源に高橋くんやトゥンさんが作った曲も入れようという話もあったんですけど、リリースが3月に決まったからどうせなら春の曲を入れたかったんですよね。

──「Strawberry March」も春の曲ですね。

武市 これもメジャーデビュー前の2019年2月くらいに作っていて、やっぱり自分はすごく春が好きなんです(笑)。三寒四温を経て、冬を抜けて、暖かくなってくるあの感じ、虫たちがうごめき始める季節がすごく好きなんですよ。花粉症の人にはしんどい時期だと思うんですけど(笑)、希望にあふれる感じやもうすぐ春だっていうあの感覚を音にしたいというのは常日頃からあって、「Strawberry March」もそういう1曲ですね。

──初期のmol-74はむしろ冬のイメージが強かったですけどね。

髙橋涼馬(B, Cho)

武市 変わってきたのかもしれないです。2015年に出した「越冬のマーチ」は冬のアルバムで、あの頃は冬が一番好きだったんですけど……どんどん春が好きになっていって(笑)。僕が一番季節を感じるのが春なんですよ。人生に希望が欲しいのかな。冬より春の方がどんどん好きになってる自分がいます。

井上 でも「越冬のマーチ」も、その前に「ルリタテハ」という春をテーマにしたアルバムがあって、それにつなげるための作品だったからね。

武市 確かに。冬も好きですけど、やっぱり春は僕の中で特別なんです。

──「Strawberry March」はリズムのアレンジが面白いですよね。

坂東 最初の1コーラスは武市が作っていて、そこからのアプローチ、2番のスネアのロールみたいな部分とかは自分で考えました。

武市 序盤はSigur Rosやジム・オルークの「ユリイカ」とか、「こんな感じの希望感が欲しい」という僕の中での明確なリファレンスがありました。シンプルなリズムで春の希望感を出して、2番以降はセッションするという。

髙橋 この曲のベースは実はめちゃくちゃ攻めていて、8割くらいスラップとタッピングなんです。タッピングは派手なフレーズとして使われがちですけど、意外と温かい音が出るなとずっと思っていて、こういう曲調でタッピングをする人はあんまりいないから、取り入れてみました。パッと聴きはわからないかもしれないけど、気付いてもらえたらうれしいです。

武市 Cメロ明けのトゥンさんのフレーズは、今までのmol-74の曲の中でも一番好きなフレーズかもしれない。あのフレーズだけで春を感じるんですよね。今回のレコーディングの中でも一番気にした部分で、アンプを通さない方が絶対春っぽいと思ったからラインで録りました。あの部分への思い入れは半端ないです。

楽しむことを忘れない1年に

──ラストの「目を覚ましてよ」はセルフカバーで、映画「サヨナラまでの30分」に出てくる劇中バンドECHOLLに提供した楽曲ですね。

武市 映画の劇中歌を書き下ろしたのは初めての経験で、本当にゼロから作ったんです。映画の監督さんと「この主人公はどういう音楽を聴いて、どういう考えを持っているのか?」と、台本プラスアルファのことを打ち合わせしたりして。主人公が影響を受けた音楽と、自分たちが実際に影響を受けた音楽が近かったのはうれしかったですね。それに基づいて「こういうコードで、こういうメロディで」と話し合いながら作ったので思い入れも強いです。裏話をすると、最初はリバーブの感じとかも完全に僕らっぽく作ったんですけど、それは採用されなかった(笑)。そういう意味でも、セルフカバーをしたかったというか、それこそ「越冬のマーチ」に入っていてもおかしくないような初期のmol-74っぽいサウンドだなと思います。

──ECHOLLのバージョンと聴き比べるのも楽しいですよね。

武市 主演の北村匠海くんがすごくうまく歌ってくれたから、自分が書いた曲なのに、自分で歌うとなるとすごく緊張するっていう(笑)。でも自分のカラーで歌おうとレコーディングして、それもすごくいい経験でした。

──「Answers」自体が、2020年を経たmol-74が出した1つの答えだと言っていいと思うし、この作品を出したことによって今後の進むべき道もよりはっきりしたのではないかと思います。2021年の活動について、どんな展望を持っていますか?

武市 2020年はお客さんの前でライブをすることがほぼなかったので、今年はお客さんの前で演奏することがとても楽しみです。あと個人的には、何より楽しむことを忘れない年にしたいと思います。続けたくても続けられない人がたくさんいた中で、自分たちはありがたいことに音楽を続けさせてもらっていて、苦しい時期を乗り越えたからこそ、「音楽を楽しむ」という初歩の部分を、改めて大事にしたいですね。

ライブ情報

mol-74「Answers」release tour
  • 2021年5月14日(金)大阪府 BananaHall
  • 2021年5月18日(火)愛知県 名古屋CLUB QUATTRO
  • 2021年5月27日(木)東京都 Zepp DiverCity(TOKYO)