アジカンのライブDVDを観ていた頃の自分に
──これまでのmol-74の曲作りは、武市さんの弾き語りをベースに季節感や時間帯のイメージを共有しながら作るというのがベーシックだったんですよね。今回はどうだったのでしょうか?
武市 おっしゃる通り、僕らこれまでずっと弾き語りから曲を作っていて、パソコンとかは使ってせんでした。でも去年の6月くらいにソニーと出会って「まずは8月末までに10曲くらい作ってみようか」って話になったんですね。それでディレクターの方が8月末にスタジオに来たときに、僕らはiPhoneとかでパッと録ればいいかと思ってたんですけど「これはデモとしてはまずいよね」という話になって(笑)。そこで、いよいよ僕がこれまで避けてきたDTMをやるしかないということになり、去年の9月くらいにパソコンと機材を買ってやり始めたら……すごく楽でした(笑)。
──でも「Teenager」は弾き語りからなんですよね?
武市 青臭い感じの曲にしたくて。“夏のイメージで、空が高くて”みたいな設定を共有して作りました。今はだいぶDTMに移行してきているんですけど、これまでなぜDTMを避けていたかと言うと、パソコンで構築していく感じがどこか作業っぽくなっちゃう気がしていたからだったんです。今でも作りやすいのはメンバー全員で作るやり方で、季節感や時間帯の共有は今も大事にしているところではあります。
──「Teenager」という歌詞のテーマも最初から見えていたのでしょうか?
武市 「思い描いて 思い焦がして」というサビの歌詞とメロディが一緒に降りてきたんです。1stアルバムは実質インディーズベストみたいな形だったから、ある意味今回がメジャー1発目の作品やと思ったときに、何を歌おうかって考えると、メジャーデビューを夢見ていた頃の自分を歌うのが一番説得力あるかなと思ったんです。16歳とか17歳のときにアジカン(ASIAN KUNG-FU GENERATION)のライブDVDを観て、いつかメジャーデビューしようと夢見ていたときの自分に向けて歌うっていうのが一番合点がいったというか。
──なるほど。
武市 今はすごく充実した日々を送ってますけど、これまで何度も辞めようと思ったし、メンバーの脱退の話とかもいろいろあって。もっとさかのぼれば、10代の頃にはパティシエになる夢もあって、いろいろ葛藤しながら音楽を続けてきたんです。でも納得したうえで諦めたものはあとに残らないというか、むしろプラスになるんですよね。納得しないまま諦めたものは、もう取り返しがつかない。そういうことを過去の自分に対して歌おうと思って書いた歌詞です。
──「Teenager」というタイトルだけど、ただキラキラしてるだけじゃなくて、むしろ強い葛藤が感じられます。でも最終的には「走り出せ 心が叫ぶ方へ」というラストに至っているのが、今の10代の背中を押してくれるだろうなって。
武市 「それで間違ってないぞ」と言ってあげたかったんですよね。今は時代的にもいろんな可能性が広がっているようだけど、「どうせ自分には無理だ」と思っちゃう社会の空気みたいなものもある気がして。でも「そんなことないよ」と言えるものが作りたかったんです。ここまで前向きな歌詞は自分の中で珍しいと思います。
──そういう歌詞を、長いインディーズ活動を経てようやくメジャーに辿り着いたmol-74が歌うのは説得力がありますよね。
武市 まだまだこれからだとは思うんですけどね。もっともっとティーンエイジャーに自信を与えられるような自分たちにならないとなって思います。
自分たちらしさをグレードアップ
──2曲目の「Couverture」というタイトルはチョコレートのことですよね?
武市 これは初めての感覚だったんですけど、曲を作っていて、季節感や時間帯じゃなくて、チョコレートのイメージが浮かんだんです(笑)。なので実際にチョコレートを食べながら曲を作ればインスピレーションが湧くかなと思ったんですけど……そんなに変わらなかったですね(笑)。
──「Teenager」ができて、パティシエを目指していた10代の頃を思い出して作ったのかなと思ったのですが……。
武市 そういうことだったら美しいんですけど……まったく関係なくて、なぜかチョコレートが思い浮かんだんです。
──この曲はmol-74らしい繊細な仕上がりですね。
武市 mol-74らしい要素も盛り込みつつ、これまでよりグレードアップした感じにしたくて、今回初めてピアノのアレンジの方とお仕事をさせていただきました。自分たちだけじゃできないことをたくさん教えてもらって、そこに自分たちらしさ、ギターのボウイングだったりを加えて形にしていきました。
井上 これまでボウイングを使った曲が2曲あって、ライブでよくやってるのは「Saisei」なんですけど、ほかにも欲しくなったんです。ただボウイングを使うと雰囲気ががっつりボウイングに寄っちゃって、悪い意味で世界観がガラッと変わるので、入れるのが難しいんですよね。でもこの曲はバッチリハマりました。
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デスキャブ大好きなんで