ナタリー PowerPush - 宮崎薫

“今までの私”から卒業 輝く22歳の挑戦

自分のドロドロしたところが昇華されて曲になってくれた

──今作でプロデューサーの松岡モトキさんや作詞作曲を手がけている矢野まきさんに出会うまでは、どんな音楽活動をされていたんですか?

松岡さんと出会うまでは、本当に手探りで。自分で録ったデモのようなものを、いろんなところに送ってはみたんですけど、なんの反応もなくて。やる気満々で、気合だけはあって、なんとかなるんじゃないかと思ってたんですけど、何も起こらなかった。とにかく自信喪失しましたね。結局、数年間は孤独に耐えながら、しこしこ曲を作ってはデモを送るってことを続けてたんです。なんだかその頃は、誰かに助けを求めるのが負けを認めるような気がしちゃって、余計意固地になって、ますます孤独になって、つらかったですね(笑)。

──そんな状況から抜け出すきっかけは?

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FM802の「MINAMI WHEEL」のエントリーを通過して、それが初めてのリアクションでした。うれしかったですね! 正直、涙出ました。それがきっかけで松岡さんを紹介してもらって、たまたま松岡さんの家がご近所だったんで、家にお邪魔して、一緒に曲を聴いたり、作ったりさせてもらうようになって。1人じゃないってこんなにも素晴らしいんだ、と。元々は歌を歌うことが楽しかったんですけど、松岡さんに曲を作る楽しさも教えてもらいましたね。

──一方、矢野さんとはどうやって出会ったんですか?

まきさんのアルバムを松岡さんがプロデュースしてて、松岡さんが、悩んでる私に、良き先輩として紹介してくれたと思うんですけど、いつの間にかまきさんも制作に加わってたんですよね。で、曲作りのはずなんですけど、ああだこうだって話してるうちに、いっつも私の悩み話大会になっちゃって、悩みっていうかコンプレックスとか見果てぬ夢とか、とにかくぶちまけてて(笑)。一時期は毎日のように話してたんですけど、そんなときに、まきさんが「これ、今の薫ちゃんにぴったりだから」って言って「君と空」を持ってきてくれた。なんかこの曲が、すごく今の私の感じを表してたんで、3人の中で「今『宮﨑薫』が何を歌えばいいのか」ってのが見えたような気がして。そしたら、まきさんが2曲目の「Graduation from me」と3曲目の「さよなら」を瞬間的に書いてくれた。この気持ちを自分の手で形にできなかったことは悔しいんですけど、でもすっごくスッキリしました。まさに、自分の書きたくて書きたくて、なかなか形にできなかった歌がそこにあったんで、自分のドロドロしたところが昇華されて曲になってくれたなって。

答えの出てない私、そのままでいいんだ

──歌詞を読んでいて、思考がぐるぐるしてしまったり、ひねくれてしまったりする20代前半の女性の気持ちを如実に表していると思ったんですが、世代感を歌いたい気持ちもあるんですか?

それは一番のテーマですね。同世代っていうと大げさかなって思うんですけど、ま、同学年、もっと言うと同級生かも。小さなコミュニティで育った世間知らずなんで、変に大人びたことは歌えないというか……実感のないことは歌えない自分がいるんですよね。器用じゃないのもあるんですけど。

──そういうところも含めて、本当に自然体だと思えるアーティストですね、宮崎さんって。

曲を作り始めたときは、歌に答えがないといけないと思っていたんですよね。応援ソングだったら元気を出させなきゃいけない、導かなきゃいけないとか。でも、そういうことを考えていたら煮詰まって、全然書けなくなった。何もかもウソっぽく思えてきて、曲を作る意味がわかんなくなっちゃって、歌にも自信がなくなっちゃった。そのときにまきさんや松岡さんに出会って気持ちをぶちまけたら、「そのままでいいじゃん!」って軽く言われて、「そっか」ってなって(笑)。答えの出てない私、そのままでいいんだと。解放されましたね。だから今は、答えのない曲っていうか「私悩んでるんですけど、ねえ?」みたいな形こそが私の歌だと思ってるんです。

「もう いい大人よ」「本当何してんだろ、私」

──宮崎さんは、よく悩む性格ですか?

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ああ、くだらないことでもぐるぐるぐるぐるなりますね(笑)。

──じゃあ矢野さんは宮崎さんをよく見てらっしゃいますね(笑)。

そうなんですよ! だから歌詞を見たときに、びっくりしました。私の核心を突いてる。逆に、私自身ではここまで書けなかっただろうなって思います。

──「Graduation from me」の「もう いい大人よ」「本当何してんだろ、私」っていう歌詞なんか、特にリアルですよね。

毎日思いますよ、「何やってんだろ私」って。レコーディングのブースの中でも、歌いながら悲しくなったり悔しくなったりして、ホロッと涙ぐむくらい。

──「もう いい大人よ」というのは、大人になる上での葛藤も含まれてますか?

そうですね……今年、大学を卒業して就職する年なんですよね。だから大人にならなきゃいけない。でも、ある種隔離された環境で16年間も学生をやってきて、ほかの人よりもずっと守られてたと思いますし、甘やかされてきたと思うんですね。その私が1カ月やそこらで大人になんかなれるわけなくて(笑)。だいたい「大人」ってなんだかわかんないし、ものすごくもやもやしてて、でもあえて「もう いい大人よ」って言ってみるっていう。この気持ちをきっとどっかで感じてる、同い年の子がいるんじゃないかなって思って歌ってます。「それ、わかる!」って思ってくれる人がいるんじゃないかなって。

タワーレコード限定ミニアルバム「Graduation from me」2012年6月6日発売 1500円(税込)TOWER RECORDS TRJC-1005

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収録曲
  1. 君と空
  2. Graduation from me
  3. さよなら
  4. 革命(andymori)
  5. ネイティブダンサー(サカナクション)
  6. サテライト([Champagne])

※カッコ内はオリジナルアーティスト

宮崎薫(みやざきかおる)

1989年生まれ。東京出身。幼少の頃をロンドンで過ごし、親の影響で常に音楽が身近にある環境で育ち、自然と人前で歌うようになる。学生時代はクラシックバレエとピアノ、トランペットを学びつつ、手伝いで友人のバンドに参加。都内のライブハウスで活動するも「自分で歌いたい」という気持ちが強くなり、ボーカリストとしての自分を再認識する。19歳のとき、音楽の仕事をすることを改めて決意。楽曲制作と同時にデモテープの作成を始める。2011年には地道に送り続けたデモテープが業界関係者の耳に止まり、イベント出演をきっかけに出会ったスタッフとともに楽曲制作を開始する。2012年、大学卒業と同時に音楽活動を本格的にスタートさせた。同年6月、タワーレコード限定にてインディーズデビュー盤「Graduation from me」をリリース。