ナタリー PowerPush - MIYAVI

感情至上主義で生み出された海外デビュー作

EDMのビートでBOBOくんのドラムを超合金化させる

──これまでもMIYAVIは、「俺は理想を歌う。堂々とキレイごとを歌っていく」と宣言してきたと思います。ストリートからの視点で正義の不在を問う1曲目の「Justice」から最後の「Free World」まで、このアルバムにはMIYAVIから見た“世界”の光景と理想が投影されていて、それに則ったメッセージやアジテーションが歌われていますね。

今回は本当にいろいろなことを歌っていると思います。未来や明日を感じられるような楽曲のほかにも人間の本能や、震災を受けて感じたことや、セックスの歌も初めて書きました。毎日誰しもいろいろなことが起きる。それはもちろん俺自身もそうだし、そもそも俺は聖人君子なんかじゃないけど、もがいている人たちに対して歌いたいという気持ちも根幹にあるし、「MIYAVIを聴いて受験勉強をがんばりました」とか「就職面接、乗り切りました」でもなんでもいいけど、本当にそういう日常の細かいことのパワーになれたらうれしいなって。

MIYAVI

──そういう意味で、このアルバムはMIYAVIがようやくボーカリストとしての宣言を果たしたアルバムであり、もっと言えば2010年にマネジメントやレーベルなど活動環境を一新させて、再スタートを切ってから今日までの集大成であり、さらにここから世界発信に打って出るという起点であるという3つの意味合いを持った、MIYAVIの“1stアルバム”なのだとすら感じました。

そうかもしれない。歌は本当に、コンプレックスにすら感じた時期もあったくらいで。でももうコンプレックスとか言ってる場合じゃないよなみたいな(笑)。俺は今までもこれからも、ずっと歌っていくし、叫んでいく。「No One Knows My Name(Slap It)」という曲で歌っている歌詞がまさにそうですけど、ここからさらにどう殻をブチ破って、自分の魂を解放できるのか。そこは自分でもかなり楽しみですね。

──今回はアレンジにEDMサウンドを導入したというのがトピックの1つとなっていますが、これは世界照準という意味合いからのジャッジだったのでしょうか?

アナウンスしやすいのでそういう説明になっているけど、ぶっちゃけ時代の流れとかムーブメントで言えば、今EDMを導入するのって、別にクールな話でもないじゃないですか、タイミング的に。もちろんEDMというかフレンチエレクトロの時代から、JUSTICEなんかも聴いていたし、ドカンとDAFT PUNKもBASEMENT JAXXもFATBOY SLIMも好きでした。でも今回はEDM云々というよりも、ともかく、ただただより強いビートを求めたかった……それだけなんです。

──ああ、つまりBOBOくんとのリズムでありビートに、EDMサウンドというロケットエンジンを積み込んだ、みたいな?

そうそう。もう武器というか兵器みたいなモンですよ。BOBOくんのドラムを超合金化させることで、より表現の自由度を上げたという意識です。たぶんライブで再現するときにはクリックを使ったりと、いろんな制約も出てくると思うけど、それでお客さんがもっと楽しくなって、踊ってくれるんだったらなんでもないですよ。メッセージの1つひとつをちゃんと伝えようと極力シンプルにしたワードとメロディを、どう効果的にお客さんに届けて、みんなで1つになってステージを作れるかを考えた。その結果として、打ち込みを取り入れた。そんな感じです。だから多重録音もしていますし、ギターでハモって桜の花びらが散るようなイメージのプレイをしたり、いろいろなトライをしています。

MIYAVIは突然変異だから保護しないと

──なるほど。ちなみに、ここ1年は自分のライブとレコーディングに加えて、客演やテレビ出演もメチャクチャ多かったようで……。

MIYAVI

しかも飲みにも出かけてね(笑)。

──そうそう(笑)。だからEDMに限らず、普段音楽ってどのくらい聴いているのかなって。

正直あんまり聴けてないし、そこまで聴こうともしていないですね。まあ家で子供が寝静まってからチェックしたりはするけど(笑)。あとはクラブやライブに行って踊るのが好きだから、現場でチェックするほうが多いのかな。

──思えばMIYAVIというアーティストは、別に誰か特定のギターヒーローがいたわけでもなく、かつてはサッカー少年で、Jリーグチームのジュニアユースに所属していた。それがやがて自己解放のためにギターを持って、独学でここまできた。つまりある種の“突然変異”だったわけですが……。

それ、BOBOくんにも雑誌の取材で言われたな。「突然変異だから保護しないと」って(笑)。

──やっぱり(笑)。自分の歌謡性であり叙情性のルーツって、何か思い当たりますか?

それ、たまに聞かれるけどすごく困るんだよな……。

──いい意味でルーツが見えづらい人だなって。

そうですよね。最近はさすがに自分でも不思議なポジションだと思いますもん。国内外でライブして、クラブでDJやって、テレビでは玉置浩二さんや和田アキ子さんとセッションして(笑)。

──でもMIYAVIのメロディには確実にものすごい刹那があるじゃない?

うん。ああ……でもやっぱりわからん!!(笑) ギターを弾いているときも、“なんでこのペンタトニックスケールで1音じゃなくて半音しか動かさないのか”とか、それに理由はなくて。直感でしかない。さすがにそろそろ結構な数の曲を作ってきたので、自分の中である程度はジャッジできるし、スキルも持ててはいると思うんですよ。でも、やっぱりテクニックではなくて、どのメロディがもっとも感情とフィットするかという、“感情至上主義”で曲を作っていますね。だからそのぶん、喜怒哀楽が人一倍激しいのかも(笑)。

ニューアルバム「MIYAVI」 / 2013年6月19日発売 / EMI Records Japan
初回限定盤 [CD+DVD] / 4800円 / TOCT-29144
通常盤 [CD] / 1980円 / TOCT-29145
CD収録曲
  1. Justice
  2. Horizon
  3. Chase It
  4. Secret
  5. Cry LikeThis
  6. Guard You
  7. No One Knows My Name (Slap It)
  8. Hell No
  9. Ahead Of The Light
  10. Day 1 (Album Version)
  11. Free World
初回限定盤DVD収録内容

2013年4月5日赤坂BLITZにて行われた「“Ahead Of The Light” TOUR 2013」東京公演のライブ映像やオフショット映像などを収録

MIYAVI(みやゔぃ)

1981年大阪府出身のソロアーティスト / ギタリスト。エレクトリックギターをピックを使わずにすべて指で弾くという、独自のスラップ奏法でギタリストとして世界中から注目を集めている。これまでに北米、南米、ヨーロッパ、アジア、オーストラリアなど約30カ国で200公演以上のライブを行い、3度のワールドツアーを成功させている。2010年10月リリースの最新アルバム「WHAT'S MY NAME?」では、ギターとドラムのみの編成でロック、ファンク、ヒップホップ、ダンスなどジャンルを超越したオリジナルなサウンドを確立。2012年11月にさまざまなジャンルの“サムライアーティスト”とのコラボレーションアルバム「SAMURAI SESSIONS vol.1」を発表した。アーティストやクリエイターからも高い評価を受けており、CMへの楽曲提供や、布袋寅泰、野宮真貴、GOOD CHARLOTTEらの作品への参加など、精力的な活動を続けている。2013年6月には、自身の名を冠した海外デビューアルバム「MIYAVI」をリリース。