ナタリー PowerPush - MIYAVI

感情至上主義で生み出された海外デビュー作

MIYAVIが待望のニューアルバム「MIYAVI」をリリースした。これまでに世界30カ国以上で200公演以上のライブを行い、3度のワールドツアーを成功させてきたサムライギタリストが、このアルバムで満を持して世界デビューを果たす。アーティストが作品タイトルにシグネチャー(記名)を冠するのは、いうまでもなく“勝負時”だ。プロデューサーにジャネット・ジャクソンやテイラー・スウィフトらを手がけたディーン・ジラードを起用して、ロンドンでレコーディングされた本作。その制作エピソードから、ギター+ダンス+パッションという化学変化の背景について包括的に聞いた。

なぜMIYAVIは類い稀なるオリジナリティをもって爆発し続けることができるのか? 先に答えを言ってしまえば“覚悟が違う”のだ。その思いの深度を読み解くインタビューをここに届ける。

取材・文 / 内田正樹 インタビュー撮影 / 上山陽介

ああ、もう全員抱きしめたいな

──さあ、気合の入ったアルバムが完成しました。これは手応えアリでしょ。あるよね?

ある。アリです(笑)。でもね、そこは手応えが凌駕してくれているだけであって、正直不安もかなりあって。まあ毎回のことだけど、不安は絶対につきまとう。逃れるための絶対的な法則はないから。でも、だから面白いし、燃えるし、希望が湧く。ともかく今回は「俺は全力でギターを弾く。みんなが歌える歌だけを用意して歌う。より強いビートを弾き出す。以上!!」という気持ちで作りました。

MIYAVI

──まさにその言葉通り、このアルバムはMIYAVI史上、もっとも屈強かつ繊細な楽曲至上主義が貫かれています。特性の違いこそあれ、「SAMURAI SESSIONS vol.1」に比べると、伝家の宝刀であるバッチバチのスラップ奏法のインパクトよりも、1曲ごとのメッセージや世界観の伝達を重視していますね。

そこはスタッフみんなで話し合って決めました。プロデューサーのディーン(・ジラード)ともかなり話し合った。正直これまでは、自分のプライオリティとしても、ライブのミックスでも、歌の位置ってギターとドラムのもうちょっとうしろにあったんですよ。だから歌い叫んでても、パッと耳に入ってくるのはやっぱりギターのリフだったと思う。でも今回は自分の思いを歌でキッチリ伝えたいと思った。MIYAVIとして、自分の衝動を響かせたい、自分のメッセージや思いを届けたいという気持ちまで、俺自身がようやくたどり着いたというか。

──そういう心境に至った具体的な要因は?

まずはなんといってもツアーでしたね。実は俺、「WHAT'S MY NAME?」を出した直後に、あのアルバムの続編を作ろうと思っていたんです。でもドラムのBOBOくん……あのTシャツ短パン男と2人で(笑)、ある種のデラシネ(根なし草)感を武器に海外のいろんな場所を回って、2人のパッションで火花を散らして、お客さんをぶった切り続けてきて(笑)。すると、どの国のお客さんも「ウォー!!」って盛り上がってくれた。でも結局は人って、ぶった切られるだけじゃなくて、プラスそこで抱きしめられたいんじゃないのかなって思えてきて。そしたら、俺もそんなお客さんを「ああ、もう全員抱きしめたいな」と思えてきて。

──そのためには、単にそこでバラードを歌うのではなく、楽曲自体のクオリティこそが重要だと悟った?

うん。極めてシンプルに、「そもそも俺が伝えたいことって、なんだろう?」と。これまではお客さんがこっちにノッてくれた。その渦がさらに人を巻き込んで大きくなった。じゃあ今度はそのみんなが全員乗っかれるような器を作ろうと。みんなで歌えて、踊れて、これまで以上に楽しめる楽曲で全員を抱きしめてやろうと思った。何より、さまざまなテーマやメッセージをどう響かせるかを考えたときに、当の俺がスタイルだけに固執するのは違うよなって。あとは「SAMURAI SESSIONS vol.1」も大きかった。プロデューサーだった亀田(誠治)さんからは、ある種の“思いやり”を学んだんです。ポピュラリティのあるメロディの作り方や、リスナーの気持ちをどうイメージするか。それを勉強させてもらいましたね。

欧米のカルチャーの上に、日本人である俺が何をどう乗せるか

MIYAVI

──シングルとして発売した「Ahead Of The Light」や「DAY 1」以外の、このアルバムで初レコーディングされた曲はどのくらいの期間でそろえたのですか?

厳密に言えば長かったです。「WHAT'S MY NAME?」の頃には書き上げていた曲もちらほらあって。例えば「Guard You」は、震災の後に書いた曲だし「Hell No」や「Chase It」とか、ライブではすでにやっていたし。

──レコーディングとミックスのためにロンドンまで飛んでいましたね。

そう、ロンドンの晴れわたる空の下で仕上げました。どういうわけかムチャクチャ天気よくて(笑)。でも俺は朝から晩まで、スタジオでずーっと英語漬け(笑)。発音のチェックに没頭していた。正直メチャクチャつらかった。

──ディーンとの作業はどのように進めていきましたか?

かなり会話を重ねながら。楽曲や打ち込みなど根幹のインプット自体は日本で仕上げてから行ったので、ロンドンでは主にプロデューサーとしてディーンがいて、エンジニアとボーカルコーチと日本から一緒にわたったスタッフがチームを組んだ感じで。それでミックスをするにあたって、最後にギターや歌のバランスを詰めたという感じで。ただし全部英語でのやり取りだから、ぶっちゃけ、細かいニュアンスなんかが十二分に伝えられない場面もあった。でも、みんなMIYAVIのストロングポイントをとても理解してくれていたし、それが徐々にアルバムのシグネチャーへと形を変えていく過程は、ものすごくスリリングでしたね。

──そして無事ロンドンですべての工程をフィニッシュしました。感想は?

いろいろな発見があったと思う。俺は日本人として、日本の音楽を世界で鳴り響かせたいと思っている。ただ、そのために必要なさまざまなことを学ぶ余地が、海外にはまだまだたくさんあるなって。言葉のフロウひとつを取ってもそうだし、リズムやメロディに対しての感覚が、改めて日本人とは違うんだと感じました。邦楽、洋楽と分けて話すつもりなんてサラサラないけど、あくまで実感として。だからロックやダンスミュージックという欧米のカルチャーの上に、魂、自分の思い、スタイルも含めて、日本人である俺が何をどう乗せるか。それこそが和魂洋才だと思うし、勝負どころでもあると思っているので。

ニューアルバム「MIYAVI」 / 2013年6月19日発売 / EMI Records Japan
初回限定盤 [CD+DVD] / 4800円 / TOCT-29144
通常盤 [CD] / 1980円 / TOCT-29145
CD収録曲
  1. Justice
  2. Horizon
  3. Chase It
  4. Secret
  5. Cry LikeThis
  6. Guard You
  7. No One Knows My Name (Slap It)
  8. Hell No
  9. Ahead Of The Light
  10. Day 1 (Album Version)
  11. Free World
初回限定盤DVD収録内容

2013年4月5日赤坂BLITZにて行われた「“Ahead Of The Light” TOUR 2013」東京公演のライブ映像やオフショット映像などを収録

MIYAVI(みやゔぃ)

1981年大阪府出身のソロアーティスト / ギタリスト。エレクトリックギターをピックを使わずにすべて指で弾くという、独自のスラップ奏法でギタリストとして世界中から注目を集めている。これまでに北米、南米、ヨーロッパ、アジア、オーストラリアなど約30カ国で200公演以上のライブを行い、3度のワールドツアーを成功させている。2010年10月リリースの最新アルバム「WHAT'S MY NAME?」では、ギターとドラムのみの編成でロック、ファンク、ヒップホップ、ダンスなどジャンルを超越したオリジナルなサウンドを確立。2012年11月にさまざまなジャンルの“サムライアーティスト”とのコラボレーションアルバム「SAMURAI SESSIONS vol.1」を発表した。アーティストやクリエイターからも高い評価を受けており、CMへの楽曲提供や、布袋寅泰、野宮真貴、GOOD CHARLOTTEらの作品への参加など、精力的な活動を続けている。2013年6月には、自身の名を冠した海外デビューアルバム「MIYAVI」をリリース。