音楽ナタリー Power Push - 宮野真守

挑戦と経験の先にある“最前線”

シビアな状況で挑んだワンカットMV撮影

──このリード曲「FRONTIER」についてはもう1つ、ミュージックビデオについても聞いておきたいです。MV公開前から宮野さん自身もブログで「MVについて話したいことがたくさんある」とおっしゃってましたよね。

ご覧になりました? そういうことなんですよ。

──驚きました。あの壮大な荒野で、ワンカット撮影という。

リード曲「FRONTIER」ミュージックビデオのワンシーン。

そうなんです。楽曲を作っていたときに思い描いていたのが、まさにこういう景色だったんですね。ただイメージはしていたものの、実際にMVを撮影するには現実的ではないロケーションで。いろんな資料をあたって、つたないながらも監督にイメージを伝えたんですけど、その時点で「この曲を映像で表現するにはワンカットで撮りたい」という思いが自分の中にあって。今までにないチャレンジという意味でもそうしたかったし、失敗できない緊張感の中に身を置きたいというか(笑)。思い切らないとできないことに挑戦したかったんです。

──そのイメージと手法を優先するならば、おそらく国内で条件を満たしそうなロケーションは見つからないでしょうし。

ええ。いろんな兼ね合いで難しいだろうなと思っていたところ、ある日「アメリカでそれが撮れるぞ」ということになったんですよ。それはもうやるしかないなと急いで計画を立てて。

──撮影は順調にいきましたか?

自分が想像していた以上の、予想外の困難が多かったですね。一発撮りで間違っちゃいけないというのはもちろん、夕暮れのマジックタイムでの撮影ということで、限られた短い時間で勝負しないといけない。そこまではもちろん覚悟して向かったんですけど……なにしろ本当に広大な場所だったので、当日現場に着いてみたらスタッフが「ロケハンした場所が見つからない!」と(笑)。同じような景色が続いているんだけど、地面のちょっとした表情が違ったりするんですよ。見つけ出すまでにかなり時間がかかりました(笑)。ワンカットの撮影準備が整った頃にはマジックタイムが迫っていて。結果リハもできないまま、ぶっつけに近い状態だったので、イメージトレーニングを繰り返して、今までにない気持ちの高め方で集中していきました。すごくシビアな状況でしたね。

──でもその苦労の甲斐あって、ものすごく美しい映像が撮れましたね。

リード曲「FRONTIER」ミュージックビデオのワンシーン。

本当にやってよかったなって心底思いました。この映像美を追究できたうれしさもあるし、そこに至るまでにいろんなことがあったなという思いがこみあげてきて、本当によかったなって。

──曲に合わせた身振りは宮野さん自身がその場で考えながら?

はい。ただ、事前にこういうことをやろうかなというプランニングはあったものの、その場のカメラマンさんとのやり取りもあるし、基本的には流れに身を任せるしかない。そうなったときに、自分で瞬時に未来の自分をディレクションするみたいな瞬間もあって、よくよく考えると「わ、俺今すごいことになったな」と(笑)。新たな境地に達しましたね。

──すごくシンプルな映像なのに、「あれ? 急に空撮みたいになったけどこれはどうやって?」とかテクニカルな部分も気になるんですよね。

不思議ですよね。実は、途中でカメラマンさんがクレーンに乗るんです。でも、ずっとグルグル回ったりしながらもクレーンは映ってない。映らないよう、計算しながら動いているんですよ。

──はー。場所、時間、天候、コンディション……いろんなことがうまく噛み合ないと成功しないですよね、これは。

そうなんです! 自分との戦いだって思っていたけど、そこにいたみんなが総力を上げて一緒に戦っているんですよね。信頼できるスタッフと一緒だったからこそ、素敵なMVになったと思います。本当にいい経験になりました。

バンドネオンの音色が導き出す異国情緒

──アルバムは「FRONTIER」で幕を開け、シングル曲「BREAK IT!」、Jin Nakamuraさんによる新曲「Evolve」と続きます。最前線に立ち、未来を切り開き、そして進化するという。

どこまで行くんだ!みたいな(笑)。「Evolve」もやっぱりアルバムコンセプトを踏まえて作った楽曲で、この曲における“FRONTIER”と言える部分は、Jin Nakamuraさんと一からロックを制作したことですね。Jinさんはデビューのときからずっとお世話になっていますけど、Jinさんと一緒にやる曲はダンスナンバーもしくはバラードやミディアムが中心だったので、あえてJinさんとロックをやるというのが今回果たしたかった新境地の1つです。デビュー曲の「Discovery」(2008年6月発売の1stシングル)はJinさんアレンジのロックだったので、作曲も含めてお願いしても素晴らしいものになるという確信はあって。

──Jinさんとしても新しい挑戦がしたいというオーダーが来たら、ちょっと腕をまくるでしょうね。

そう思ってもらえていたらうれしいですね。こちらの想像のはるか上を行く楽曲を作ってくださいました。ソリッドで重厚なロックサウンドでありながら、ストリングスが美しいんですよね。Jinさんはどんな曲でも必ず上品な美しさが伴うんです。

──前半3曲がものすごく高揚感を高める流れになっていますが、4曲目の「Naked Tango」では大きく場面転換して。こういう急展開はアルバムのだいご味ですね。バンドネオンをフィーチャーした妖艶なワルツで、しかもここまでメッセージ色の強い歌詞が続いたところで突然物語の中に巻き込まれるような。この展開はすごく好きです。

ありがとうございます。やった! まさにそういうふうになればと思って作ったので狙い通りです(笑)。いろんな展開ができるのがアルバムのいいところだし、世界観を一気に変える力を持つ楽曲はライブにも反映されるのでそこは意識しましたね。ジャズのテイストを入れたいと思って、いつも素敵なジャズを書いてくださる市川淳さんにお願いしました。でも違うアプローチでいきたいなと思って、最初はアコーディオンを使ったものでとお話ししていて。アコーディオンの音色は素敵だし、よりファンタジックなものにしたいと伝えたら、市川さんは「バンドネオンがいいんじゃないか」と提案してくださったんです。それでバンドネオンが使われた音楽を聴いてみたら、すごく情熱的で。大人な方向に振り切った、熱いアルゼンチンタンゴのような世界観を取り入れたら、また新しい道が開けるんじゃないかなと思い方向性を決めました。

──表面的な温度はむしろひんやりしているんだけど、内面が情熱的に燃え上がっているような。

情熱が渦巻いた情念の世界というか(笑)、そういう熱さですね。バンドネオンの音色が導き出す異国情緒あふれる景色が自然と目に浮かぶので、歌詞も必然的に物語性の強いものにしたいなと。すごくドラマチックな楽曲になりました。

宮野真守 ニューアルバム「FRONTIER」2015年9月16日発売 / KING RECORDS
Blu-ray付き初回限定盤 [CD+Blu-ray+フォトブック] / 3888円 / KICS-93258
DVD付き初回限定盤 [CD+DVD+フォトブック] / 3888円 / KICS-93259
初回特典:スペシャルケース仕様&フォトブック(32P)封入
通常盤 [CD] / 3240円 / KICS-3258
CD収録曲
  1. FRONTIER
    [作詞:宮野真守、STY / 作曲・編曲:STY]
  2. BREAK IT!
    [作詞・作曲・編曲:STY]
  3. Evolve
    [作詞:Amon Hayashi / 作曲・編曲:Jin Nakamura]
  4. Naked Tango
    [作詞:由潮 / 作曲・編曲:市川淳]
  5. Fight for love
    [作詞・作曲・編曲:SHOW]
  6. NEW ORDER
    [作詞・作曲・編曲:STY]
  7. TRUST ME
    [作詞:WISE / 作曲:TSUGE、Jae / 編曲:TSUGE]
  8. Can't Ever Let You Go
    [作詞・作曲:marhy / 編曲:久保田光太郎]
  9. Magic(WEST LA REMIX)
    [作詞:Amon Hayashi / 作曲・編曲:Jin Nakamura]
  10. DON'T STOP!
    [作詞:宮野真守、Amon Hayashi / 作曲・編曲:高橋浩一郎]
  11. シャイン
    [作詞:宮野真守 / 作曲:上松範康(Elements Garden) / 編曲:藤田淳平(Elements Garden)]
  12. ただ、そばにいて
    [作詞・作曲:由潮 / 編曲:菊池達也]
DVD / Blu-ray収録内容
  • BREAK IT!(Music Video)
  • シャイン(Music Video)
  • FRONTIER(Music Video)
  • MAKING
  • MAMO in L.A.2014
  • NEW ORDER -Another Edition-
宮野真守 ライブDVD / Blu-ray「MAMORU MIYANO LIVE TOUR 2015 ~AMAZING!~」2015年11月18日発売 / KING RECORDS
Blu-ray Disc / 7344円 / KIXM-210~1
DVD / 7344円 / KIBM-526~7
宮野真守(ミヤノマモル)

1983年6月8日、埼玉県生まれの声優、俳優、歌手。7歳から劇団ひまわりに所属し、子役として活動を始める。声優としてのデビューは2001年放送のNHK海外ドラマ「私はケイトリン」グリフェン役。以降はアニメ、ゲーム、洋画吹替など幅広く活躍し、2003年にはミュージカル「『テニスの王子様』 Remarkable 1st Match 不動峰」でも高い評価を集めた。ミュージカルや出演アニメのキャラクターソングで歌手としての実力も発揮し、2008年にシングル「Discovery」でアーティストデビュー。2009年3月には1stアルバム「BREAK」を発表した。ライブ活動も積極的に行っており、2013年10月には初の日本武道館公演「MAMORU MIYANO SPECIAL LIVE 2013 ~TRAVELING!~」を大成功に収め、2015年2~3月に開催された全国ツアー「MAMORU MIYANO LIVE TOUR 2015 ~AMAZING!~」では最終公演として日本武道館2DAYSを行った。同年9月には通算5枚目となるオリジナルアルバム「FRONTIER」をリリース。11月18日には前述の日本武道館2DAYSからツアー千秋楽となった2日目の模様を収めたライブBlu-ray / DVD「MAMORU MIYANO LIVE TOUR 2015 ~AMAZING!~」が発売される。