ナオトさんは常に明るく、春畑さんは物静か
──「Continue Acoustic Version with 春畑道哉」は、2019年に春畑さんが発表したアルバム「Continue」の表題曲のアコースティックバージョンになります。
「Continue」はレコーディングだけでなく、ライブでも何度か春畑さんと披露したことのある曲です。演奏するたびに壮大かつ多様な風景が浮かび、旅をした気分にさせてくれるので、とても大好きなんです。今回バイオリンを中心にアレンジしてみたいと思い、春畑さんも快くご協力してくださりました。オリジナルの壮大な雰囲気がよりキラキラしたものになったと思います。
──春畑さんとの制作では、どんなところに影響を受けましたか?
春畑さんの奏でるギターはまるでボーカルのような音色で。私もそんな演奏を目指しているので、とても刺激を受けましたね。
──ナオトさんとは異なる刺激がありそうで。
はい(笑)。スタジオでのムードもおのずと異なりますね。ナオトさんは常に明るくて、そこにいる人全員を巻き込んで楽しくレコーディングする雰囲気なんですけど、春畑さんは物静か。楽器に対する深い愛情が感じられる、寡黙な人というイメージです。でも、演奏するときはガラリと雰囲気を変えて、華麗なテクニックを披露してくださる。春畑さんは私と同じくゆったりとした話し方なので、スタジオにはずっと落ち着いた空気が流れていたかもしれないです(笑)。
──続く「Bitter Love」はナオトさんがプロデュースした曲ですが、タイトル通り胸を切なくさせるようなメロディが印象的ですね。
こういうメロディをずっと作りたかったんですけど、今までどうやって書けばいいのかわからず。ナオトさんは「このコードを使うと切なく響く」など理論的に教えてくださり、「音楽的なボキャブラリーが豊富で、しっかり研究されているんだな」と実感しました。制作のヒントをたくさんレクチャーしてくれましたね。
──「Bitter Love」にはナオトさんの表現テクニックはもちろん、宮本さんご自身のほろ苦い経験も反映されているような雰囲気を感じました。
なるほど。これまでうれしくて幸せな気分に浸れる時間もあれば、落ち込んでくじけそうになることもありました。どんな方も、同じような経験をお持ちなのではないでしょうか。でも何かのきっかけで、そんなほろ苦さや悔しさから救われたこともあったはず。私は音楽でそういう気分にさせてもらったことが多いんです。この楽曲ではつらい経験をしている人に、ちょっとだけでも明るい兆しや温かみを感じてもらいたいです。
まだ見ぬ青の洞窟に思いを馳せて
──4曲目の「Marina Grande Acoustic Version」は、2010年に発表された同名曲をアコースティックで再構築したものですね。
オリジナルバージョンはコーラスが入っていたり、かなり壮大な仕上がりになっているんですけど、今回収録されたバージョンは弦の音1つひとつを生かしたクラシカルな雰囲気を表現していて、新しい魅力が吹き込まれていると思います。このバージョンはクラシックだけでなく、ポップスシーンでもご活躍されているバイオリニスト・吉田翔平さんに再構築していただきました。吉田さんの持ち味である透明感あふれるサウンドを生かし、オリジナルよりクラシカルでありつつ、ポップ感も残した仕上がりになっています。
──「Marina Grande」はもともと、マリアナ諸島にある青の洞窟をイメージした楽曲だそうですね。宮本さんの音楽では、どのようにして情景を表現しているのでしょうか?
今まで訪れた場所を思い出しながら演奏することが多いですね。例えば以前暮らしていたドイツの自然あふれる風景を思い浮かべることもありますし。「Marina Grande」では石垣島や沖縄で見た景色を参考に、まだ行ったことのない青の洞窟を想像しながら作曲しました。
──この旅情感は「Life」のラストナンバー「Landscape」でも表されている気がしました。
「Landscape」は聴いていてうれしくなるような楽曲にしたかったですし、応援歌のように「明日からがんばろう!」と思っていただけるようなものにもしたかったんです。冒頭には時計の音が入っているんですけど、ここは時間にとらわれがちな現代を表現しています。振り返るとモーツァルトやベートーベンは、電車やバスなど時刻表に沿った交通機関がない状況で作曲していたんですよね。でも「時間を意識しがちな現代だからこそ作れる音楽もあるのではないか?」と考えて制作したのが「Landscape」なんです。
──とてもポップなメロディで、思わず口ずさみたくなりますね。
声に出して歌える、頭の中でずっと響き続けるメロディを意識しました。
──こういった旋律はナオトさんや春畑さんなど、さまざまな方との交流で導き出されたものだったりするのでしょうか?
そうですね。皆さん本気で音楽に向き合っていらっしゃるので、かなり刺激を受けました。いろんな方にお会いすることで見えてくるものって、たくさんあると思うんです。この経験を踏まえて、今後もステップアップできたらいいですね。
皆さんの前で演奏できたことが本当に奇跡だった
──今回オリジナル曲と向き合ったことで、ご自身の表現方法に変化はありましたか?
クラシックとポップス、両方ともいろんな表現に挑戦したい、という気分になりましたね。どちらのシーンでも大切に演奏していきたいですし、オリジナル曲はこれからも精力的に作り続けたいです。今は時間がたくさん与えられていますから。
──「Life」は新型コロナウイルスの感染拡大によって先行きが見えない現代に、希望を与えてくれる作品のように感じました。
皆さんの前で演奏できたことが本当に奇跡だったんだなと感じています。これまで当たり前だったことができなくなり、戸惑っていらっしゃる方も多いかもしれませんが、「Life」が皆さんにとって、この状況も人生の貴重な機会なんだとプラスに考えられる、希望の光のような作品になってくれたらうれしいですね。全部とまではいかないですが、日々を積み重ねていく中で、背中をそっと押してくれる音楽になってほしいです。
──「Life」を通じて、クラシックとポップスの垣根が徐々に取り払えるような気もしますね。
実はポップスの楽曲でも、クラシックのコードを使っているものは多いんです。何百年も前に作られた音楽が現代にどんな影響を与えているのか、「Life」で興味を持っていただけるきっかけを与えられたらうれしいですね。
今、この状況下でさまざまな不安やストレスを抱えている方が多いと思いますが、
ぜひ、一度このバイオリンの音色を聴いてほしいです。
気がついたら、穏やかになっていたり、やる気が出たり、
人のココロにそっとすっと寄り添ってくれる5曲。
曲が生まれていった瞬間というのは、
創らなきゃ、じゃなくて、一緒にセッションして遊んでたら、
なんかいいモノできちゃったんですよねーっていう。。
数時間の中でこの2曲ばばっと生まれて、ばばっとデモ録って。
そこからの妥協なく細部までこだわっていく姿に感銘を受け、刺激をいただきました。
プロデュース、アレンジをさせていただくに当たっては、
ぬくもりもありながらも、トラップのビートを入れたり、世界基準のトレンドも混ぜ合わせて
どこにもない新しい宮本サウンドを創り上げたくアプローチしていきました。
ご自身の作曲モノを集めた作品ということでは「初」と言うことで、
そういった大切な作品に携わらせていただき、光栄でした。
ナオト・インティライミ