宮本笑里|先の見えない今に希望の光を

宮本笑里の新たなミニアルバム「Life」が4月8日にリリースされた。

これまでクラシックからポップスまで幅広いジャンルの楽曲を制作し、多くのミュージシャンとコラボしてきた宮本。バイオリニストとして数多くの実績を残しつつ、ドラマ「のだめカンタービレ」にオーケストラメンバーとして出演したり、ニュース番組のキャスターを務めたことでも話題を呼んだ。オリジナル曲を中心に構成された作品「Life」には、ナオト・インティライミと共作した「Delight」、ギタリストの春畑道哉(TUBE)をプロデューサーに迎えた「Continue」など5曲が収められている。音楽ナタリーでは「Life」の発売を記念し、宮本に各収録曲のコンセプト、ナオトや春畑との制作エピソードを語ってもらった。さらに特集の後半ではナオトからのコメントも紹介する。

取材・文 / 松永尚久

今までとこれからの人生を表現したオリジナル曲

──宮本さんは2007年にデビューアルバム「smile」をリリースしてから今年で13年になりますが、これまでクラシックからポップスまで幅広いジャンルの楽曲を制作し、多くのミュージシャンともコラボしてきました。

デビューは私にとって大きかったですね。当時はプロとして真剣に音楽と向き合わなくてはいけないという気持ちになり、その思いを忘れずに経験を積み重ねてきたという感じです。この13年間多くのミュージシャンと触れ合うことができましたし、音楽以外にもニュース番組のキャスターを担当させていただいたり、とても濃密な時間を過ごしました。

宮本笑里

──そしてこのたび完成した「Life」は宮本さんにとって珍しい、オリジナル曲を中心に構成されたミニアルバムとなりましたが、なぜこのような作品にしようと思われたのでしょうか?

今回の作品では今までとこれからの人生を投影した作品を作りたい、と思ったんです。そしてどの曲も、聴いてくださる方々が共感していただけるものにしたかった。それぞれの人生を投影していただける、いろんな想像を与える作品になればいいなと思って。

──なるほど。

それから前作「classique」がクラシック楽曲のみの作品だったので、「Life」ではポップスで自分自身を表現してみたかったんです。今までの経験をもとに、どうやって自分の思いをバイオリンを通じて伝えられるか追求したい気持ちも強くありました。そこでナオト・インティライミさんや春畑道哉さんにご協力いただき、皆さんの個性を加えることによって、私だけでは表現できなかった新しい世界を作ることができたと思います。

たった数秒でも大きく変わる世界観

──クラシックとポップスでは、バイオリンの演奏方法やモチベーションに違いはありますか?

2019年11月に行われた「宮本笑里 リサイタルツアー2019」東京・紀尾井ホール公演の様子。(撮影:上飯坂一)

極端に気持ちを変えることはありませんが、演奏方法は若干異なりますね。クラシックはシンプルな音ゆえ繊細で、微妙な音の揺れに対しても気を付けなければいけないのですが、ポップスではリズムにかき消されてしまうことがあります。だからクラシックではあまり用いないアタックの強い音、あえてガリっとした音色を鳴らすこともありますね。でも基本的には、聴いてくださる方が息苦しくならないもの、音色にあわせて思わず口ずさんでしまいたくなるような演奏を心がけるようにしています。

──ポップスの演奏において、影響を受けたミュージシャンはいらっしゃいますか?

ナオトさんや春畑さんはもちろん、平原綾香さんやMay J.さんなど、これまで共演させていただいた方からの影響が大きいですね。皆さん音源で聴くものも素晴らしいんですけど、ライブで発せられるエネルギーというか、歌や演奏以外の部分でも圧倒させられるものがあって。私もそういった力を放てるようになりたいです。ライブ後に感想をメモしておいて、自分の楽曲を制作する際、そのメモを参考にすることもありますね。

──「Life」に収められている5曲は、さまざまなミュージシャンとの共演で受けた刺激を吸収し、完成させた作品になっているように思います。ミニアルバム全体の構成や展開でこだわった部分は?

5曲というコンパクトな作品ですが、どの曲もシングルカットできるくらい完成度の高いものになったので、曲順選びは本当に悩みましたね。ナオトさんも相談に乗ってくださって、最終的に曲間も含め細部までこだわることができ、バランスの整った構成になりました。

──Instagramでは、曲間の0.1秒にまでこだわったと投稿されていましたよね(参照:宮本笑里 (@emirimiyamoto) | Instagram)。

そこまで細かく聴いてくださる方は多くないかもしれないですが、数秒の違いで作品全体の世界観が変わってくるので。

クラシック×ラテンの折衷

──そんな「Life」の冒頭を飾るのが「Delight feat. ナオト・インティライミ」です。オープニングにふさわしい華やかで心が踊る楽曲ですね。

「Delight」は私がこれまで発表してきた楽曲とは少し異なる雰囲気になった気がします。ナオトさんらしさが伝わると思うのですが、こういうテイストにも挑戦してみたかったんです。

左から宮本笑里、ナオト・インティライミ。(写真提供:ソニー・ミュージックレーベルズ)

──ナオトさんとは10年ほど前に音楽番組で共演したことをきっかけに知り合い、2018年に発表されたナオトさんのアルバム「『7』」(※二重カギカッコはカギカッコが正式表記)に参加されるなど、これまで数々の交流をされていますが、今回なぜコラボすることになったのでしょう?

オリジナル曲をたくさん作りたかったのですが、先生に師事して作曲を学んだことがなかったので、完成させることに不安を感じていたんです。それに1人だけで制作すると、時間が止まってしまうような感覚があったので。そこでポップスの世界で活躍しているナオトさんに相談したところ、「音楽を駆使して遊ぶような感覚で取り組んでみたら、自然といいアイデアが浮かぶのでは?」という話になって、一緒にスタジオでセッションしました。そしてナオトさんがピアノでコードを弾くと、私もそれに合わせて自然とメロディが思い浮かんだんです。クラシック音楽で培ってきた感覚とナオトさんのポップセンス、お互い刺激し合える部分が多かったですね。

──「Delight」はナオトさんらしいラテンのリズムが印象的です。これもセッションを経て生まれたものなのでしょうか?

そうですね。スタジオ内で南米やアフリカの映像を流しながらレコーディングしたんですけど、今までそういう方法で制作したことがなかったので新鮮でした。「雰囲気作りも大切なんだな」と勉強になりましたね。

──ラテンの情熱的なリズムに乗せて、軽やかな旋律を響かせるバイオリンの音色が印象的です。またエレクトロニックなアレンジも加わっていて、ラテンEDMと言えるようなサウンドになっています。

とにかく覚えやすくて、世界中のいろんな人々が楽しんでもらえる。レベルの高い“今の音”を作りたいと話し合いながら完成させましたね。それから多くの人に「バイオリンはこういう表現もできる」と知っていただけるような楽曲にしたかったんです。

──「Delight」というタイトル通り、明るい未来や光が見えてくる楽曲ですよね。このタイトルはどのようにして決まったのですか?

この曲は1時間くらいで完成したんですけど、まず“黄色”というイメージが浮かんで、そこから「Delight」という言葉をすぐに思い付いたんです。楽曲同様、タイトルもスピーディに決まりました。