水瀬いのり|日本武道館へ向け、新しい扉開いた3rdアルバム

水瀬いのりが4月10日にニューアルバム「Catch the Rainbow!」をリリースする。

昨年6月に初のライブツアーを行うなど、着実にソロアーティストとしてのキャリアを重ねている水瀬にとって通算3枚目のアルバムとなる「Catch the Rainbow!」。本作には初の作詞曲である表題曲をはじめ、明るく前向きなナンバー全12曲が並んでいる。音楽ナタリーでは水瀬にインタビューを行い、昨年のツアーを通して得た思いや作詞に挑戦した心境、6月にスタートする東京・日本武道館での2DAYS公演を含む2度目のライブツアーへの意気込みを聞いた。

取材・文 / 近藤隼人 撮影 / 曽我美芽

ダメなところをみんなに見せていいんだ

──昨年5月発表の2ndアルバム「BLUE COMPASS」から約1年後の今年4月10日に3rdアルバム「Catch the Rainbow!」がリリースされますが、水瀬さんにとってこの1年はどんな期間でしたか?(参照:水瀬いのり「BLUE COMPASS」インタビュー

去年は、「BLUE COMPASS」のリリースに合わせて初めてツアーをやらせていただいたのが大きい出来事でした。それを経た思いを次のシングル制作に取り入れていったので、本当にツアーありきの1年だったと思います。単発のワンマンライブとはまた違った緊張感があり、公演を重ねていくごとにファンの皆さんと絆を深めていくようなツアーで。成功して終えられたのがとてもうれしくて、新しい目標が自分に芽生えました。

──特にどこの公演が思い出深いですか?

水瀬いのり

千秋楽もそれぞれの公演も思い出深いんですけど、特に初日の愛知公演が思い出に残っています。実際にお客さんが会場に入っているのを生で見て感動して、一生懸命練習してきたものを届けられることがうれしくて感極まり、涙が出そうになりました。その後の公演はバンドメンバーとゆるくMCをしたり、その土地ならではのトークをしたりと、小さい旅行をしているみたいにみんなと思い出作りができたと思います。

──ツアーを通して気付いたことや、成長できたことはありましたか?

今までは自分らしさを探すことに必死だったんですけど、それよりもいろいろと新しいことに挑戦していったほうがいいのかなと思うようになりました。私はダンスが苦手なんですけど、ツアー中にスキップができるようになったんです!

──それまではできなかったんですね。

恥ずかしながらそうなんです(笑)。でもダメなところをみんなに見せていいんだなと思えるようになって。ファンの皆さんが親みたいな気持ちで見守ってくれて、私の1つひとつの成長を一緒に喜んでくれますし、挑戦してみてスキルが足りなくてもやること自体に意味があるんじゃないかなと。

──演出やセットリストに対して水瀬さんが意見を出すこともあるんですか?

私はもともと表に出ることが得意ではなくて、自分で夢をつかんできたというよりは、皆さんが応援して支えてくれているからステージに立てているという気持ちで。ライブでも最初は用意していただいた構成やセットリストを表現する形だったのですが、ツアーを通して自分で表現していきたいものがだんだんと見えてきたんです。

──ツアーは約1カ月間行われましたが、声優の仕事との両立は大変ではなかったですか?

バランスが取れなくて納得のいかないこともあったんですけど、そういうことも含めてライブなんだなと痛感しました。どんなコンディションでもみんなに楽しんでもらわなくちゃいけないですし、つらいときもありましたが、精神的に強くなれたと思います。「Catch the Rainbow!」で幸せなことや美しいものだけではなく、挫折や苦しんだりもがいたりしていることを表現しているのはその経験があったからだと思います。

──ツアーの経験が今回のアルバムに生きているんですね。

はい。それに、これまでのアルバム以上に歌詞の方向性などを自分からスタッフさんに伝えるようになりました。

水瀬いのり

ここで作詞をしないとダメだ

──「Catch the Rainbow!」には新曲が10曲収められていて、明るくポップで前向きなことを歌ったナンバーが多い印象です。今回はどういった構想のもとアルバムの制作を進めていったんですか?

実はアルバムのコンセプトを決めないまま収録曲をセレクトしていったんです。でも、これまでのアルバムの最後の楽曲がバラードやメッセージ性の強い壮大な曲だったのに対し、今回は明るく終わりたいなと思っていて。ラスト12曲目のタイトル曲「Catch the Rainbow!」を基準にして、前半に春らしいウキウキするポップな曲を、後半に熱い曲を並べてきました。

──「Catch the Rainbow!」では初めて作詞を手がけていますね。どういう経緯で作詞に挑戦することになったんですか?

水瀬いのり

以前にもプロデューサーさんから作詞を提案していただいたことがあったんですけど、自分が書いたものを歌うことが恥ずかしくて。Twitterもあまり投稿しないくらい自己発信するタイプではなくて、その分、歌やお芝居で自分を表現しているつもりなんです。ですがソロ活動していくからには、それ以外の部分でも表現していかないと、と思う部分もありまして……。葛藤もありましたが、1stアルバム「Innocent flower」で自分らしさを表現して、「BLUE COMPASS」はそれをちょっと崩すようなアルバムになって、そんな中3枚目で何に挑戦しようか考えたときに、ここで作詞をしないとダメだと思ったんです。

──なるほど。

とはいえ、「どうしよう」という戸惑いの気持ちがやっぱりありました。できることなら書いた歌詞をレコーディングまで温めておきたいところなんですけど、スタッフさんに見せなきゃいけないのが自分にとってかなりのハードルで。日記を人に読んでもらうことに少し近いじゃないですか。プロデューサーさんには「ありのままの気持ちを素直に書いていいんだよ」と言っていただいたんですが、こちらが一方的に投げるのではなく、何かしらのリアクションが返ってくることが怖くて。小さい頃から人から評価されることが苦手で、昔受けたオーディションのこととかいろいろ思い出してしまいました。歌詞をデータで送って、相手がどんな表情で読んでいるのかわからないのも嫌で、自分の目で反応を確かめないと気持ちが整理できないので、直接プロデューサーさんに会って歌詞を見ていただくことにしたんです。初作詞ということでハードルが低かったのかもしれないですけど、思っていたより好感触だったのでホッとしました。

──自分の思いを詞に落とし込む作業は大変でしたか?

大変だったんですけど、何かと向き合いながらこもって作業するのは昔から好きなんです。私は楽器も弾けないですし、アニメのお仕事ではすでに作られた作品の中でお芝居をしていて、これまで何かを生み出すことをしてこなかったので、自分が書いている言葉が曲になるのが不思議でした。詞を書くことに対してはマイナスな気持ちはなく、すごく前向きでしたね。

──そうだったんですね。「Catch the Rainbow!」では、ステージに立つことの幸せやファンへの感謝がつづられています。

歌手デビューした当時は、私らしく歌おうと思っていてもどこか取り繕ってしまう部分があって、本当の自分の歌ってなんなんだろうと悩んでいたんです。たくさんの方が私の曲を聴いてくださっていることにギャップも感じていて。そんな中、どうして私はこの仕事をやっているんだろうと考えたときに、自分が歌いたいだけではなく、ファンの皆さんに「勇気をもらいました」とか「元気が出ました」とか言ってもらえるからなんだと気付いたんです。自分1人には何かを表現する力はなく、皆さんに届いていることを実感して初めて歌う喜びを得るんだなと思ったら、この歌詞が心の中に浮かびました。