milet|「偽装不倫」主題歌で挑んだ新境地

今年デビューしたシンガーソングライターのmiletが、早くも3作目の作品となる「us」を完成させた。

今作には、杏が主演するドラマ「偽装不倫」の主題歌を収録。杏とmiletによる“キャスト×主題歌”のタッグは、映画「バースデー・ワンダーランド」に続き二度目となる。音楽ナタリーではmiletにインタビューを実施し、楽曲制作の経緯について聞いた。

取材・文 / 廿楽玲子

私で大丈夫かな?

──タイトル曲「us」は杏さん主演ドラマ「偽装不倫」の主題歌で、杏さんとは映画「バースデー・ワンダーランド」に続いてのタッグですね。

はい、「バースデー・ワンダーランド」の舞台挨拶のときには、杏さんと「次の作品も一緒だね」という話をしていました。楽曲の制作に入ったのもそのあたりでしたね。

──杏さんとは普段から交流が?

そうなんです、杏さんってとっても気さくな方なんです。「偽装不倫」でキャッチーなキャラクターを演じられているけど、ホントにあんな感じ。制作中はLINEで何度も励ましの言葉をくださって、完成後もすぐに連絡がきて、「すごくいい曲で、ドラマにもぴったり! ずっと口ずさんでます」とうれしい言葉をいただきました。曲を作るうえでかなりパワーをもらっています。

──私もドラマとぴったりの曲だと思います。今回のドラマは東村アキコさんのマンガが原作ですね。

主題歌のお話をいただいて、すぐに原作を読みました。面白かった! 私、マンガをほとんど読まないので読むのにすごく時間がかかるんですけど、集中して1日で読んじゃいました。でも、主題歌を作ると思うとちょっと不安もありましたね。コメディタッチのラブストーリーなので私で大丈夫かな?って。

──過去のドラマ主題歌で参考にしたものとかありました?

それがないんです。私、日本のドラマをほとんど観てこなかったので。

──となると、恋愛ドラマの主題歌ってこんな感じ、というイメージもなく?

ないんですよ、全然。海外ドラマは観てたんですけど、日本のドラマは数えるくらいしか観たことがなくて。「GTO」とか……。

──「GTO」は恋愛ものじゃないですしね(笑)。

そう(笑)、だから日本の恋愛ドラマは観たことがないんです。それで事前に、「偽装不倫」と同じく東村さんのマンガが原作で、スタッフチームもほぼ同じという「東京タラレバ娘」を観ました。主題歌がPerfumeの「TOKYO GIRL」で、かなりエッジの効いた曲だったので、「ああ、こんな感じもあるんだ」「この路線なら私もいけるかも」と思って作り始めたんですけど……そこからが長かった(笑)。

──「TOKYO GIRL」は恋愛ドラマの主題歌としては異色でしたね。ビートの際立ったダンスミュージックで、劇中でも斬新な使われ方をしていました。

これまで通り洋楽的なサウンドを取り入れつつ作るのではなく、「偽装不倫」という作品が持ち合わせた雰囲気に合うような曲を作ることが求められていたので、そこがすごく難しくて。これがクラシカルな恋愛ストーリーなら、バラードとかをスムーズに作れたと思うんですけど、今回はそうじゃなかった。ドラマの世界に寄り添いつつ、一方でドラマから離れたときにも生きる曲として、私の思いも歌わなきゃいけない。明るくしようとは思ったけど、ただ明るいのは私らしくないので、サビ以外は落ち着いたAメロとBメロを付けて、miletとしての匂い付けができるようにと思って作りました。

milet

完成したときには「これだ!」

──アレンジ面ではギターがフィーチャーされているのが新鮮で、コーラスが華やかな印象を残しますね。

声を重ねると曲としての派手さが出るし、迫力も出る。音楽的にいうと私は、コーラスよりもトラックを重ねたいほうなんです。でもこの曲はテレビで聴いた人の耳にどれだけ残るかが大事なポイントだったので、自分のこだわりは1回捨てました。コーラスも二声か三声か、ハーモニーのメロディラインを上に入れるか下に入れるか、それによって聞こえ方が全然違う。いろんなパターンを試して、結果的にけっこう盛り盛りになりましたね。

──コーラスの作りが一定じゃないのが、miletさんらしいなあと思います。フレーズの途中でふわっと増えたりもするし。

私はいつも引き算形式で曲を作るんです。いらないものを排除してシンプルに力強くと思ってるんですけど、「us」はその逆で、どんどん足していった。こんなに足し算しかしない曲作りは初めてでした。

──新しい挑戦だったんですね。

もうホント、挑戦でしかないというくらいすごい挑戦でした。考えてみれば連続ドラマの主題歌ってすごく難しいんです。ドラマって1クールで10話くらいあるじゃないですか。それでラブストーリーの定番プロットとして、誰かと出会ってワクワクして、途中で不安になったり、ブルーになったりする時期があって、最終回で1つの結末を迎える。そうやってドラマのテンションは毎週どんどん変わっていくわけで、主題歌はそのすべての回に寄り添うものじゃないといけないんですよね。

──確かにそうですね。主題歌は毎週変わらずに流れるものだから。

だからアップテンポな曲でも、どこかセンチメンタルに感じられる部分がないといけないなと思って。恋愛という1つのテーマの中にいろんなドラマがあるから、曲の中にもそのすべてが入ってなきゃいけない。必要なときにはピアノやアコギ1本でバラードにも変えられる曲調じゃないと。だからこの「us」は歌うときも曲の中でどんどん気持ちが変化して、いろんな感情になるんですよ。

──なるほど、これまで何気なく聴いてきたドラマ主題歌の奥深さを改めて知るような。

私も今回のタイアップをいただいて、初めて気付いたことがたくさんあります。メロディがキャッチーだとどんなアレンジでも生きるから、今回はサビのメロディ先行で作ろうとか。歌詞にも胸をくすぐるような言葉が欲しいから、“好き”という言葉を初めて使ってみたり。普段そんなふうに作ることがないので制作中は違和感があったけど、完成したときには「これだ!」と思いました。

──超キャッチーなサビになりましたね。しかも「好きだと言ってしまえば 何かが変わるかな」という歌詞がドラマのテーマをズバリ言い当ててる。

パンチがあるし、フレーズが耳に残りますよね。私はここで質問を投げかけてるんですけど、皆さん実際どうなのか、ぜひ聞いてみたいです。好きな人に好きって言ったら、何か変わるのかな?……って、歌詞と同じこと言ってますけど(笑)。