milet「visions」全曲解説インタビュー|充実の2ndアルバムで描いた新しい景色

miletの2ndアルバム「visions」が2月2日にリリースされた。

1stアルバム「eyes」のリリースから約1年半。その間、世界は新型コロナウイルスによるダメージを受け続け、miletもまた1stツアーが2度延期されるなど影響を受けた。それでも彼女は立ち止まることなく、リモート制作やオンラインライブなどの試みを重ねながら、時代に即した力強い歌を生み出していった。2020年末には「NHK紅白歌合戦」に初出場し、2021年はオリンピック閉会式でのパフォーマンス、「FUJI ROCK FESTIVAL」といったフェスへの参加など、数々の大舞台にも立った。そうした経験を1つひとつ重ねながら成長していった彼女の軌跡が、このアルバムに刻まれている。

今回音楽ナタリーではmiletに、全曲紹介というスタイルでアルバムに込めた思いをじっくりと聞いた。

取材・文 / 廿楽玲子撮影 / 岩澤高雄

「visions」はみんなに寄り添うアルバム

──前作から1年半ぶりのアルバムですが、今回も15曲というボリュームのある作品となりました。制作を終えて、今どんなことを感じていますか?

「visions」は聴いてくれるみんなに寄り添うアルバムになったと思います。1stアルバムの「eyes」は自分のことを知ってほしくて歌っていた曲が多かったけど、今回はもっとみんなのそばにいて、そっと背中をさすったりするイメージで作った曲が多いので。

──コロナの影響で外出もままならない時期があったり、制作も大変だったと思います。

緊急事態宣言中はスタジオに行けず、家の制作環境を整えたりしていました。でもけっこう途中から吹っ切れて、暗いままなのも疲れるし、下ばかりも向いていられないから、いろんなことに挑戦しようと思って。結果、コロナ前と変わらないペースで制作していました。止まるとダメになっちゃいそうなので、曲を作ってるほうがエンジンがかかるというか。今もアルバムができたのに、なぜかどんどん新曲作ってます(笑)。

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1. SEVENTH HEAVEN

──ではさっそく1曲ずつお話を伺います。アルバムの幕明けを飾る「SEVENTH HEAVEN」は、2度の延期を経て、2021年夏についに開催された初ツアーと同じタイトルですね。

はい、この曲はツアー中に作りました。ツアー中もスタジオにはコンスタントに入っていたんですけど、ライブが楽しすぎてほかの曲が作れない感じになっちゃって。でもこの思いを形にしておこうと思って、そのときの気持ちを凝縮して作った曲です。

──バウンシーなビートで舞い上がるような歌声から、ライブの楽しさが伝わってきます。

最初は澄み渡った空みたいにさわやかなツアーを想像していたんですけど、実際にやってみたらもっとお祭りな感じで、エネルギーにあふれていて。緑が生い茂ってジャングルのようになっていくイメージがあり、その感じを歌にしたいと思ったんです。みんなと一緒に歌いたくて、コーラスも多めに入れてます。

2. Fly High

このアルバムの中では一番新しく、できたてホヤホヤの曲です。応援ソングはあんまり書いたことがなかったんですけど、NHKのウインタースポーツテーマソングということで、冬の冷たさを音で描きながら、燃えたぎる闘志のような青い炎が見えるようなイメージで作りました。

──後半に向かうにつれてアレンジがドラマチックに盛り上がっていきますね。

コーラスやストリングスの音色もふんだんに入れました。このアルバムの制作期間中にプロデューサーのTomoLowくんと作り方をちょっと変えて、お互い新しいパターンでやってみることに挑戦していたんです。この曲もいつも使うようなビートとかを鳴らさずに、歌のメッセージに寄り添う音を選んでいきました。その分時間もかかったけど、すごく世界が広がりました。

──ちなみにmiletさんは何かスポーツをしていますか?

昔は水泳や剣道、器械体操をやっていました。今続けてるのは長距離ラン。スタミナを付けるために家にランニングマシンを置いて、ライブのセットリストを歌いながら走ってます。おかげで少しずつ歌が強くなっていってる感じがします。

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3. Outsider

4曲目の「checkmate」と同時期に作った曲で、アグレッシブな歌詞も、エッジの効いた音のテイストもちょっと似ています。私は“イキリソング”と呼んでるんですけど。

──“イキリソング”ってネーミング、いいですね。日々の生活の中でイキリソングが必要なときってけっこうあります。

私も自暴自棄になりたい瞬間があったりするけど、なかなかそうもいかないし(笑)、明日の朝は早く起きてお仕事に行かないと、ってスイッチ切り替えなきゃいけないこともある。そんなとき、ちょっと現実逃避をして気分を変えるために音楽を聴くことがたくさんあって、そういうときに力をくれる曲になればいいなと思って。

──miletさんの中で真っ先に思い浮かぶイキリソングといえば?

M.I.A.の「Bad Girls」。聴くとテンションが上がって「道開けてくれない?」みたいなテンションになれます(笑)。イキリソングは無敵感が大事ですよね。

4. checkmate

──この曲は「映画 賭ケグルイ 絶体絶命ロシアンルーレット」の主題歌として、2021年春に配信されました。

私が世に出した初めてのイキリソングです。もともとこういう曲はけっこう作ってたんですけど、ようやく出せて、新しい一面見せることができました。映画サイドから「強めのをお願いします」と言っていただいて、こういう一面も求めてもらえたことがうれしかったです。

──こういうハードなテイストもお好きだったんですね。

そうなんです。臆病なところがある人間だったので、音楽の鎧を着けて強く見せたいという思いがあって。メタルとかもよく聴いていました。こうして作る側になったからには私も聴いて強くなれる曲を作りたいと思っているし、この曲をライブで歌うとホントに無敵な気持ちになれるんですよ。

5. Who I Am

──ドラマ「七人の秘書」の主題歌として書き下ろされた楽曲です。リリース時にお話を伺いましたが、制作はステイホーム期間の大変な時期でした(参照:milet「Who I Am」インタビュー)。

プロデューサーのToruさん(ONE OK ROCK)と初めてのリモート制作ということで、どうやっていいのかわからない手探り状態だったんですけど、でもその状況が新鮮でもあり、途中からはお互いに楽しみながらできました。

──新しい扉を開けて進んでいくという意思が歌われています。

このメッセージはあの状況下だからこそ書けたものだと思っています。自分の声がどこに届いているのかわからないけど、こうして曲を作って歌ってを繰り返していけば、どこかで誰かが私の声を聞いてくれるだろう、聴いてほしいと願って作っていました。だからこんなにパワーのある強い曲になったのかなと思うし、新しい可能性も生まれました。

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6. Loved By You

──miletさんの音楽的なルーツの1つ、クラシックの影響を感じるナンバーです。

ストリングスのアレンジが特徴的で、これまでよく使っていた歯切れのよい音ではなく、流れるような音色が大きな動きを生んでくれています。クラシック的な響きがあるし、メロディもドラマチックなんです。この曲はけっこう前にできていたんですけど、なかなかはまる場所がなくて、今回こういう形で出せてよかったなと思います。

──失った恋について歌う大人っぽいラブソングですね。

自分をさらけ出してますね。私が自分の恋愛話を曲にするのはそこそこ珍しくて、未練がましい一面が入ってます。デビューした頃は内面を見せるのが恥ずかしいと思うこともあったけど、今は逆に自分のポジティブじゃない部分も見せることで、聴いている人といろんな気持ちを共有できたらなと思ってます。

7. On the Edge

──この曲はゲーム「WAR OF THE VISIONS ファイナルファンタジーブレイブエクスヴィアス幻影戦争」のCMソングに使われました。

これも「Who I Am」と同様にToruさんとリモートで作りました。ちょっと苦戦しながらも「Who I Am」を作り上げて自信が付いて、リモート制作を楽しめるようになってきて。Toruさんからトラックが送られてきたので、それに合ういいメロディを作って驚かせちゃおうと思えるくらい、ちょっと心に余裕が出てきた頃ですね。

──映画のテーマソングのような壮大なアレンジですね。

Toruさんの手がけるアレンジはスタジアムに合う音の広がりを感じます。この曲は「SEVENTH HEAVEN」ツアーで初披露したんですけど、歌っていると会場の照明も相まってうわーっと景色が広がっていく感じがして、涙が出るときもありました。歌詞の「光を待ってる」というフレーズは私にとって聴いてくれるみんなのことで、ツアーでは歌いながらようやく会えた、届けられたという思いでいっぱいでした。