miletインタビュー|移ろいゆく豊潤で複雑な感情を歌に、3rdアルバムが映し出す変化

miletが3rdアルバム「5am」を8月30日にリリースする。

本作には「コイコガレ」「Flare」といったアニメタイアップ曲、「Living My Life」「Walkin' In My Lane」といったドラマ主題歌や映画主題歌、CMソングなど話題を呼んだ既発曲を多数収録。新曲も幻想的な楽曲からダークなナンバーまで幅広い楽曲がそろった。

ニューアルバムのリリースを記念して、音楽ナタリーではmiletにインタビュー。新曲の制作エピソードや近況を聞き、さらに後半では本に囲まれているジャケットと「5am」というタイトルにちなんで、彼女が“5am”に読んでいる本を紹介してもらった。

取材・文 / 廿楽玲子撮影 / 映美

一番好きで、一番嫌いな時間

──前作「visions」から1年半の間は、ホールツアーやライブハウスツアー、初の日本武道館公演などがあり、濃い日々だったと思います。その中で多くの楽曲が生まれてきましたが、今回それらを「5am」というテーマでまとめた意図から伺えますか。

私にとって朝5時は一番好きで、一番嫌いな時間なんです。希望を感じる時間であり、朝なんて来なければいいと思ってしまう陰鬱な時間でもある。誰かに会いたくなる時間であり、誰にも会いたくない時間でもある。そういういろんな感情がごちゃまぜになって、でも色に例えたら黒にもなりきれないという時間。その複雑な感情を、いろんな曲たちを通して伝えられるのではないかと思ったんです。

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──朝5時に何をすることが多いですか?

本や絵本を読むか、映画を観ることが多いです。5時は私の“ミラータイム”、自分の中に自分自身を映し出す時間のような気がしているので、本を読むときは自分の内面と照らし合わせるようなものを選んでいますね。

──楽曲を制作していることもありますか?

あります。夜、お風呂上がりにピアノの前に行って、髪が乾くまでちょっとやろうと思ったらがっつり没入しちゃって、気付いたら朝みたいな。

──すごい集中力ですね。

集中力はあるかもしれない。その時間帯じゃないと出てこない感情というのもあるんですよね。寝不足で気持ち悪いからこそ思い描けるイメージもあるから、その感覚に敏感でいられれば、寝不足だろうが具合が悪かろうが幸せです。

──そういう感覚を歌にして残すことは、miletさんにとってどんな意味があるんでしょうか。

どうなのかな……私には歌があるから歌として残しているけど、もし歌がなかったらどうなっているんでしょうね。これは昔から変わらないところなんですけど、私は自分や人の気持ちの推移、どういうことをしたらどういう感情になっていくのかという軌跡がすごく気になるし、それを敏感に感じ取ってしまうんです。今はその動きを歌にしてみんなとシェアして、受け取ってもらえる場所があることがすごく心のよりどころになっています。

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歌い方の概念が変わった梶浦由記ディレクション

──さて、ここからはアルバムの収録曲についてお聞きします。まずは梶浦由記さんのプロデュースで、MAN WITH A MISSIONとコラボした「コイコガレ」について。テレビアニメ「『鬼滅の刃』刀鍛冶の里編」のエンディング主題歌として大きな話題になっていますね。

この曲は、レコーディングからだいぶ経った今でも歌うとドキドキします。梶浦さんの楽曲は和音の作りや拍の取り方が私とは全然違うので、その違和感がすごく気持ちよくて。一緒に制作する中で自分の価値観がすごく変わりました。

──それほど刺激的だったんですね。

はい。曲自体もそうですし、梶浦さんのディレクションが「これは全世界にシェアせねば」と思うほど素晴らしいもので。どんな発音と声量で、どんな思いを込めてどんな表情で歌うのか、歌詞の1文字単位ですべて解説してくださいました。それを意識した歌声は音の乗り方がまったく違う。感情や情景も細かく伝えてくださるし、母音の出し方で言うと“お”寄りの“あ”とか、“い”の口をした“あ”とか、声楽の音楽理論も的確に伝えてくださるので、譜面が書き込みだらけになって。それを自分の曲でも生かせるようになり、歌い方の概念が変わる感覚がありました。

──シンガーとして新たなツールをインプットしてもらうような。

そうですね。ホント「先生!」って感じで、今回だけと言わずもっとディレクションしていただきたいです。「コイコガレ」という“船”は乗りこなすのがすごく大変なんですけど、歌と一心同体になれた瞬間、曲に込められた登場人物の思いとともに景色がふわっと広がって、そのときの解放感ったらないんです。

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──楽曲から景色が広がるというのは、miletさんが作られた楽曲でも感じます。新曲の「Noёl In July」や「You made it」は音から季節感や色のイメージが伝わってきて、すごく映画的だなと思いました。

うれしい! どちらもまさにビジョンから描いた曲です。「You made it」は、デビュー前に「I Gotta Go」(2019年発表の1st EP「inside you EP」収録曲)と同じタイミングで作った懐かしい曲なんです。2曲とも歌が「Finally」で始まっていて。

──あ、ホントですね。

「I Gotta Go」のスピンオフ的な感じですね。歌詞は今の私が思うところにけっこう変えました。どちらも別れを告げる曲ですけど、「You made it」で歌っているのは「you made it right」、つまり「やっと正しい選択をしたね」ということ。あなたを手放すのは耐えがたいけれど、あなたの幸せを願うから私もその選択に賛成します、と歌っています。

──歌い方も少しルーズでアンニュイなムードがありますね。

珍しくギターも弾きました。練習してないからヘタなんですけど、それもまた許される曲調かなって。

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──「Noёl In July」は夏のクリスマスソングで、ロマンチックなムードです。

私はクリスマスが大好きで、夏からクリスマスソングを聴き始めて気持ちを作っていくんです。だから私のクリスマス本番は夏(笑)。この曲は絵を描くのが大好きな女の子が主人公で、彼女はどんな絵にも雪を降らせてしまうくらいクリスマスが大好きなんです。ずっと自分の世界の中に浸って描いていたけど、あるときその世界観がいろんな人に見つかって絵が買われるようになり、絵を溜めていたガレージが空っぽになるくらい人気が出てしまう。それは自分の世界が広く共感されたということで喜ばしいはずなのに、絵が自分のもとを離れてしまった寂しさもあり、絵に込めた思いが本当に伝わっているのかなという不安もあり、気持ちは孤独なままなんです。それは、私が自分の曲に抱く気持ちと似てるなと思って。

──なるほど。

私も自分のために作った曲を聴いてもらえることはすごくうれしいけど、もしその歌を私以上に愛してくれる人がいたとしたら、それはうれしくもあり、少し寂しくもあり。あとやっぱり“創る人”って頑固なこだわりがあって、自分の世界観を知ってもらいたいと思うと同時に、「わかってもらってたまるか」という思いも少なからずあるんですよね。「Noёl In July」の主人公もそうだったのかなと思って、その複雑な感情をクリスマスっぽい軽やかなメロディで歌ってみたら、逆に寂しさが際立ちました。

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──それはもしかしたら多くのクリエイターが持っている感情なのかもしれないですね。

そうですね。特に自分の中にグッと潜って作る人は、たぶんみんな持ってます。うれしさを感じながら切なさを感じることもあるし、この瞬間は永遠だと思いながらも絶対に終わってしまうとどこかで感じているし。その複雑な入り交じり方が、私が朝5時に抱く感情に似てるなと思います。