奇跡的なコネクトがたくさん
──「Wonderland」はオーケストラの音と一緒に、というのが監督の希望だったんですね。
そうなんです、そう言われたときは本当にうれしくて! いつかオーケストラの曲を作るというのが私の1つの夢だったので、まさかこんなに早く叶うとは。
──壮大なオーケストレーションで、このスケール感は映画音楽ならではだと思います。
ですよね。そこはもう躊躇なく、できる限りのことをやっちゃいました。
──オーケストラのレコーディングには立ち合いました?
はい、それはもうすごかったです! 読売(日本交響楽団)の定期公演に行ったことがあるんですけど、そこで演奏されていた、私の憧れの方たちが集まってくださって。名前を聞くだけで「えー!」って驚くような方々なんですよ。レコーディングは1つひとつのやりとりがすごく音楽的で、自分が想像していたよりもはるかに素晴らしい経験でした。
──具体的にはどんなやり取りを?
オーケストラの皆さんはまだ映画の映像を観ていなくて、でも私の頭の中には絵コンテに基づく映像イメージがあったので、それを伝えていきました。最初はやっぱり、私の考える音と、プロの演奏者が考える「この曲に合うのはこの音」というものと、実際の映画に合う音っていうのがちょっとずつ違ったりするんです。その差を埋めるのに言葉で説明するのはすごく難しくて。
──絵としてはこういうイメージで、と伝えるんですか?
いえ、皆さん楽譜を読んで音を再現するプロなので、具体的な音楽用語で伝えました。ブレス1つの長さとか、すごく細かいところなんですけど。私もフルートをやっていたし、クラシックが好きなので血が騒ぐというか(笑)。それで不思議だったのは、私が伝えたのは映像イメージじゃなくて、音の拍数とか譜面的なことなのに、返ってくる音が私のイメージした映像そのものなんですよ。
──もしかするとそれって指揮者のやっていることに近いのかも。
そうかもしれないですね。ただ私は指揮も編曲も未経験だから、まだニュアンスでしか伝えられないんですけど。音楽をやっている同士でわかるところがあって、そこで通じ合えたことがすごく幸せでした。
──子供たちのコーラスもいいですね。
「主人公のアカネちゃんと同年代の子たちの声が欲しい」という監督のアイデアがあったので、小中学生の子たちにお願いしました。私もアカネちゃんの目線に立って歌うということを意識してたんですけど、やっぱり今このときを生きてる子供たちの声って、すごく素直で透き通っていて純度が高い。そこをクリアにダイレクトに聴いてもらいたいと思ったので、あえて私の歌とは重ならないところに入れようと思いました。
──サビのここぞというタイミングに決め打ちで入っていて、それがすごく生きていると思います。
ああ、うれしいです。みんなちっちゃくてかわいくて、レコーディングはすごく楽しかったです。合唱団の子たちなんですけど、みんなめちゃくちゃ上手で、普通の子供には歌えない高さとかも軽々出しちゃうので、逆に「そこはちょっとギリギリの感じで出してほしい」ってリクエストしたくらい(笑)。でもみんなプロなので、「はい!」って、すぐに応えてくれるんです。それがすごいなあと。
──この「Wonderland」は映画とコラボしたミュージックビデオも作られましたが、音楽と映像が完全に調和していて。「それでも鳥は夢を見る」というフレーズで鳥の絵が重なるところとか、なんとも言えない感動があります。
実はそういうところって、曲を作るときには意識してなかったりするんですよ。あんなふうに鳥が出てくるのも知らなかったし、「霧を抜け 雨の向こう」というフレーズで、水しぶきが上がって雨のように降り注ぐシーンと重なったり、あとから観たら奇跡的なコネクトがたくさん起こっていて。初めから意識して作れよっていう話なんですけど(笑)、でもそれを意識したらこんな形にはならなかったかもしれない。
──関わる人たち全員の目指すものが合致していたということなんでしょうね。
「Wonderland」は最初のデモの時点で原監督が「素晴らしいですね」と言ってくださって、私のこの映画に対する音楽的なイメージと原監督のイメージの方向性が合ってることがわかりましたし、それがすごくうれしかったです。本当にいろんな夢が一気に叶って、私にとって宝物になりました。
ロシアは曲ができる
──今回の新作は5曲入りで、タイプの異なる曲が詰まってますね。
全体としては「旅」というテーマがあって、どの曲も飛び立ったり、進んでいくようなイメージで作りました。私にとってはこの「Wonderland EP」がスタートという思いがあるんです。
──このジャケットはどこで撮影を?
ロシアです。街並みもどこか幻想的なんだけど、初めて行ったのに落ち着くというか。すごくいいところでした。旅がテーマなので、駅で電車を待ってどこかへ行くというイメージで撮ったんですよ。
──すごく雰囲気のある景観ですよね。
ロシアには4日間くらいしかいなかったんですけど、ホテルというかアパートのようなところに泊まって、そのお部屋の雰囲気もすごくよくて。窓から廃墟みたいな建物が見えて、どこからか煙が立っていて、何かが燃えるような独特な匂いもして。
──ミヒャエル・エンデの「モモ」に出てくる街みたいですね。
そうそう、まさに絵本とかに出てきそうな幻想的な感じで初めて見る景色でした。それにインスパイアされて、どんどん曲もできたんです。小さいキーボードを持って行ってたので、窓際にそれを置いて景色を眺めながら曲を書いて。「ロシアは曲ができる。また来よう」と思いました(笑)。
──miletさんの話を聞いていると、なんでも曲になっちゃうんだなという驚きがあります。
でも自分では、そこがちょっと怖かったりもします。ミュージシャンの友達と話したことがあるんですけど、例えば人の死に直面して、ものすごく悲しいときでも、「これが曲になるかも」とか思っちゃったらどうしよう。怖いなあと思って。
──俳優さんのエピソードでもよく聞きますよね、悲しんでいる頭の片隅で「今、自分はどんな表情をしてるんだろう」と考えるとか。
それはある種の職業病なのかも。私もうれしいときはうれしいっていう曲ができるし、それが自然と出てくるものならいいと思うんです。ただ曲にするときは、ちゃんと自分の気持ちというフィルターを通して作らなきゃと思います。
──ところでmiletさんは今、すごく注目されてると思うんです。
いえいえ、そんなことないですよ(笑)。街で声をかけられたこととか、今まで一度もないですし。
──デビュー作もヒットして、注目されてますよ。ご自身ではあんまり自覚ないですか?
まったくないです。でもこの間、ビルボードでライブをして、聴いてくれる人たちが本当にいてくれるんだって初めて実感しました。
──Twitterで「曲が渋滞」って書かれてましたよね。ああいうつぶやきも、ちょっと天然な感じがしていいなあと。
またみなさんに聴いてほしい曲ができました。とても良いです。曲が渋滞。安全第一。夜は寝る。おやすみなさい。
— milet(ミレイ) (@milet_music) 2019年4月3日
ホントですか? 真面目に書いてるんですけど、いまいちTwitterのやり方がよくわからなくて。どうしたらいいんですかね(笑)。Twitterってなぜか、相手とつながるほど距離を感じてしまうというか。私はみんなと友達になりたいんだけどなあって。
──じゃあやっぱりライブとかで直接つながらないと。
実感が湧かないんですよね。なので今のところ、これまで通り曲を作って歌っています。
──ロシアで作った曲も楽しみにしています。
はい。場所によって曲の感じが変わるっていうのもすごく面白くて、これからもいろんな国を旅して、曲を作ってみたいです。