Mia REGINAがニューシングル「月海の揺り籠」をリリースした。表題曲はテレビアニメ「白い砂のアクアトープ」のエンディングテーマとして制作され、作詞・作曲を草野華余子、編曲を中山真斗が担当。流麗なストリングスとピアノ、繊細なウィスパーボイスで紡がれる幻想的なシンフォニックバラードは、彼女たちの新たな魅力を引き出す挑戦的な1曲に仕上がっている。
音楽ナタリーでは霧島若歌、上花楓裏、ささかまリス子の3人にインタビューを行い、この難曲にどう立ち向かっていったのかを聞いた。
取材・文 / ナカニシキュウ 撮影 / 須田卓馬
感情をまっすぐ伝えられる曲
──まず、昨年9月発売のアルバム「MIAUSEUM -キュレーション-」リリース以降のことを教えてください。当時すでにコロナ禍の真っただ中で、今もあまり状況は変わっていないので、なかなか思うように活動できていないんじゃないかと思いますが。
ささかまリス子 この期間は、本当に数えるほどしか人前に立ってないですね。今年3月に1回だけ有観客でライブができたんですけど、1月に出演した「ANIMAX MUSIX 2021 ONLINE supported by U-NEXT」も無観客開催でしたし。
──やはりこの状況はもどかしい?
リス子 もちろんもどかしい思いはありますが……シングル「I got it!」(2020年4月リリース)を出したときはまだコロナ禍が始まりたての頃だったので、リリースイベントなどについてもまだ手探り状態で、全然できていなかったんです。それを考えたら、「MIAUSEUM」のときはオンラインサイン会など比較的いろんなことができたなって。今回もこういう状況ではあるけど、また新しい形のエンタメを作り出していけるんじゃないかと楽しみな面もありますね。
霧島若歌 あまり悪く考えずに、明るく捉えてます。あとは、今回の新曲「月海の揺り籠」がわりと早い段階から動き始めていたので、その制作期間がけっこう長かったイメージですね。
──その「月海の揺り籠」は、今をときめく草野華余子さんが作詞・作曲を手がけていますね。
リス子 はい。アニメ「白い砂のアクアトープ」のエンディングテーマになっております。オープニング(ARCANA PROJECT「たゆたえ、七色」)も含めて華余子さんがプロデュースしてくださることが最初に決まっていて。
霧島 先に「バラードっぽい感じになる」とか「陰と陽で言ったら、陰の部分を担当することになると思うよ」というお話は伺っていたので、「陰すぎなければいいなあ」と思ってました(笑)。アニメ自体にもすごく力が入っているし、華余子さんが「エンディングは自分で作詞も作曲もする」と自ら申し出たというお話も聞いていたので、プレッシャーがすごかったです。
──実際に楽曲が上がってきたときの第一印象はどうでした?
リス子 今までMia REGINAが歌ったことがないような、聴く人に感情をまっすぐ伝えられる曲だなと感じました。なので、本当にまっすぐ歌わなきゃいけないなと。私はビブラートやしゃくりといったクセをすぐ入れちゃうところがあるんですけど、そういうものがあるとまっすぐ伝わらない気がしたので、「クセを排除しつつミアレジらしさも出して、さらに上手に歌うっていったいどうやるんだろうな?」とドキドキしてましたね。
霧島 ここまで“バラードバラード”した楽曲は今までのMia REGINAにはなかったので、「大丈夫かな?」と。既存の曲で言うと「無謬の花」が一番バラードっぽい感じではあったんですけど、今回はそれ以上にゆったりとした優しい楽曲だったので。
上花楓裏 バラード曲になるとは聞いてたんですけど、実際にデモが届いたら予想以上にバラードで。今までで一番ぐらいに難しいメロディラインだなと思ったし、なかなか覚えるのも難しくて……けっこう練習が必要でしたね。
霧島 ただ、“陰のイメージ”と言われていたわりにはそこまで暗く冷たい感じでもなくて、温かいバラードだなって。柔らかい印象だったので安心しました。歌詞の内容的にも、主人公が夢を諦めてしまった「白い砂のアクアトープ」の物語に沿っていたりして、私たち自身に通じるところもあるので、感情的にはすごく入っていきやすかったです。
──サウンド的には、ピアノと弦楽器が主体のシンフォニックなものになっています。確か前回のインタビュー(参照:Mia REGINA「MIAUSEUM -キュレーション-」インタビュー)でリス子さんが「次は弦楽器を入れてみたい」とおっしゃってたんですけど……。
リス子 言ったかも(笑)。でもこれは本当にたまたまで、私が「今回は弦で行きましょう!」と言ったわけではないです(笑)。
──「ミアレジは新曲を出すたびに新境地に行っているので、ちょっとやそっとでは新しいチャレンジだと思ってもらいにくい」というお話もありましたが、まさに「月海の揺り籠」は“ちょっとやそっとではない曲”ですね。
霧島 そうですね(笑)。「難しい曲、来たな!」って思いました。
歌を聴いて「誰?」って思った
──レコーディングにはどんなプランを持って臨みましたか?
リス子 私は練習をするときにiPadの画像編集アプリで歌詞を表示して、その上にレイヤーを重ねて気になるポイントを色分けしながら書き込んでいくやり方をしているんですけど、それがもう、すごい色になっちゃったんですよ(笑)。歌ってみて、つまずいたところやダメだなと思ったところが多すぎて。
──具体的にはどういうポイントを?
リス子 何度歌っても、自分のクセが気になるんですよね。2019年のカバーアルバム「RE!RE!!RE!!!」で歌ったソロ曲「少年よ我に帰れ」ではクセを排除した歌い方をしたんですけど、それを今回もやりたくて。そういえばあのときもめちゃくちゃ大変だったなと思い出しました。
──実際できあがったものを聴くと、確かにほとんど声を張らずに“抜いた”歌声がベースになっていますよね。それでもやっぱり、リス子さんはアクが強いなと感じました(笑)。
リス子 ええー?(笑)
──それは極限までそぎ落としたからこそ見えてくる、リス子さんが本来持っている味ということなんじゃないかなと。
リス子 確かに、“何か言いたげ”な声ではあるんですよね。それが3人いるおかげでしつこくならずに、ちょうどいいバランスにできたなと私も完成版を聴いて思いました。これが全部私だったらキツいかもしれないです(笑)。1人ミュージカルをずっと見せられてるみたいな気持ちになっちゃうかなって。
──楓裏さんはどうでした?
上花 自分なりに「きれいに歌えるように」と考えて臨んだんですけど、いざレコーディングになったら「用意してきたものでは全然足りない!」となって(笑)。もっと考えるべきだったと思いました。想定の何十倍も上の感じがあって……。
──要求されるものが、ということですか?
上花 それもありますし、レコーディングは私が最後だったんですけど、スタジオに入って2人の歌を聴いたときに「誰?」って思ったんですよ。
リス子 あははは(笑)。
霧島 実は私も、録り終えた自分の歌声を聴いたときに「誰だろう?」ってすごい思いました(笑)。
上花 「あ、思ってたのと全然違うんだ」とびっくりして。それで「抑揚をちゃんと付けよう」と思ってレコーディングしたんですけど、最初に1回歌ってみたときに「口角を上げずに歌って」って言われて、そのクセを抑えるのがけっこう大変でしたね。抑揚を付けようと思うと、その分クセも出ちゃうんで。
──落ちサビ頭の楓裏さんパートがすごく印象的だったんですけど、あそこだけものすごく淡々と平坦に歌ってますよね。今の「抑揚を付ける」というお話とは逆の印象があるんですが……。
上花 そこに関しては、ぴったりな歌い方をすることで結果的に抑揚がなくなったのかなと思います。歌っていく中で「暗めに淡々と歌ってください」みたいな流れになっていって。
──なるほど。若歌さんはいかがですか?
霧島 レコーディングは私が一番手で、とりあえず「素直に歌おう」という気持ちで入りました。華余子さんからは事前に「いろいろ要求しちゃうと思うけど」と申し訳なさそうに言われたんですけど、私としては「むしろどんどん言ってください、お願いします!」と思ってて。かなり華余子さんに導いてもらいましたね。おかげで今までとはだいぶ違う歌い方の自分と出会えたし、すごくためになるレコーディングでした。
──具体的にはどんなディレクションがあったんですか?
霧島 すごく言われたのが、「寝ている人の耳元で歌っているような感じで」という指示ですね。何度やっても私の地声が大きくて、「これじゃ起きちゃう」みたいな(笑)。淡々と歌っていく中にも少し気持ちを織り交ぜるんですけど、気持ちを込めるとどうしてもブワッと大きく出てしまうので、けっこう難しかったです。あと、言葉の意味をしっかりと歌声に乗せて、丁寧に歌うこともすごく意識しました。
リス子 華余子さんが「レコーディング前と後で一番変わったのが若歌ちゃんだった」と言ってました。本当に歌い方が全然違うなと感動しましたし、次にレコーディングした私としては大いにテンションが上がりましたね。
──3人が3人とも、ものすごく細いロープの上を綱渡りしながら正解をたどっていくような感じだったんですね。
リス子 それが三つ編みされて完成、みたいな感じです(笑)。
──リズムに関してはどうですか? ドラムもベースも鳴っていないという、ミアレジ的にはかなり特殊なアレンジですし、まずノリをつかむのが難しかったんじゃないかと想像したんですけども。
リス子 ピアノしか指針がないのでちょっと不安ではあったけど、そのことによって波間に揺れるイメージが出せたように思いますね。満ちては引いていくピアノの音を一生懸命つかんでいく、みたいな感じが逆によかったのかも。
霧島 ストリングスのレコーディングも初めて見学させてもらったんですけど、そのときに「このまま劇伴にも使えるぐらいの楽曲になってます」というお話を聞いたんですよ。「だから、歌も劇伴みたいな感じで」と言われて、「自分をなくさなければ!」とすごく考えた覚えがあります。その気持ちがあったので、あまりリズムのことにはとらわれずに流れるように歌えたかなと思いますね。
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息ぴったりでした