「TWENTY//NEXT」の推しポイント
──ここからはベストアルバム「TWENTY//NEXT」についてお話をうかがっていきます。今作ではプロデューサーに加藤裕介さんを迎え、過去の楽曲の多くにリアレンジを加え再レコーディングしています。どの曲を選ぶか、どうやって料理していくかのディスカッションはどのように進めていきましたか?
「20周年ありがとう、そしてその先へ」という思いを込めたアルバムにしたかったので、最初から過去の20曲に新曲1曲で“21”周年につなげようと決めていて。基本的にはシングル曲が中心なんですけど、May'nとして伝えたい思いを乗せた曲という意味で「Phonic Nation」や「未来ノート」のようなアルバムの曲も選んでいます。加藤さんとはここ最近よくご一緒しているんですけど、「加藤さんって私なのかな?」と思うくらい目指す音楽が一致していて。私が「こうしたいけど音楽的知識がなくて言語化できない」ときに「これですか?」と見せてくれるものがドンピシャで。加えて私のイメージ以上のものを提供してくださるので、「原曲の大事な部分は残しつつ今の私も届けたい、過去と未来が感じられるアレンジにしたい」という絶妙なバランス感を伴うリアレンジをお任せできるのは加藤さんしかいないと思って、今回もお願いしました。これは言い方が難しいんですけど……過去はもちろん大切にしているものの、あまりにも過去を振り返りながら音楽制作をしたくないなとは思っていて。今回のリアレンジも「原曲を壊したくない=過去をちゃんと大切にしている、過去に目を向けている」形ではありつつ、それと同時に「今にたどり着いている=過去の自分があったからこそだよね」という思いも大事にしたい。そういう気持ちを加藤さんに直接伝えたわけではないのですが、加藤さんは自然と私の考えを汲み取って「過去のことを振り返りながらリアレンジするわけじゃなくて、今のMay'nさんを表現しながら、未来へのエールを込めたアルバムにしたい」とおっしゃってくださったんです。そこで改めて「一心同体だ!」と実感できたので、結果的にすごく手応えのある作品になったと思います。
──僕はこのリアレンジに「過去も抱えて未来に向かいます」という前向きな姿勢が込められているんだろうなと、最初に聴いたときに感じたんです。
そう感じてもらえてうれしいです。実際、そうでありたいなと思っていましたから。
──にしても、中林芽依名義で発表したデビュー曲「Crazy Crazy Crazy」がオリジナル音源のまま収録されていることには驚きました。
そうですよね(笑)。20周年というのは「マクロスF」の前から数えてなので、どうしても本名のときの曲もちゃんと入れてアルバムを作りたいなとも思っていて。でも、10周年のときに出したベストアルバム「POWERS OF VOICE」で「Crazy Crazy Crazy」を“May'nバージョン”として再レコーディングしていたので(参照:May'n ベストアルバム「POWERS OF VOICE」インタビュー)、今回またリアレンジするのも変だし、10周年のときに作ったMay'nバージョンをまた入れるのもときめきがないなと思って、各所に掛け合っていただいてオリジナルバージョンを収録することができました。2005年当時は今のように配信が主流ではなかったので、オリジナルバージョンは今もサブスクなどでは聴くことができないんですけど、今回のリリースに伴って配信されることになる。たぶん、この曲だけアーティスト名が中林芽依と表記されることになるでしょうし、それってめっちゃエモいと思うんです。そういう意味でも、「Crazy Crazy Crazy」のオリジナルバージョンを収録できたことは本作の推しポイントの1つです。
──この曲だけ歌い方や声の質感が違いますし、そういう曲をボーナストラック扱いではなくアルバムの途中に置いて、そのあとにMay'nとしての最初の作品「メイン☆ストリート」のオープニングを飾った「May'n☆Space」のリアレンジバージョンが続くという構成も考えられているなと思いました。
この過去があるから「May'n☆Space」につながっていくんだという事実を再認識できる並びになりましたよね。もちろん、「Crazy Crazy Crazy」に関しては20年経った今のほうがもっとうまく歌えますし、今だったらこう歌いたいという思いもあるんですけど、未来はどうなるんだろうと不安を抱えていた20年前の思いも改めてこのアルバムに残しておきたくて。だからといって、「Crazy Crazy Crazy」で始まるアルバムにはしたくなかったんです。今回はリアレンジを大きく謳っているので、リアレンジしていて、かつMay'n名義での1stシングルでもある「キミシニタモウコトナカレ」で始めて、「Crazy Crazy Crazy」はDISC 1の最後から1つ前に置き、そのあとにMay'n名義での始まりの曲でありライブを通してみんなで育ててきた「May'n☆Space」でDISC 1を終えれば、「Crazy Crazy Crazy」もより映えるんじゃないかと思って。それに、ボーナストラックというわけではないですけど、今回は絶対に新曲で終わりたいと考えていたので、DISC 2の「the SEA has dreams」の前に「Crazy Crazy Crazy」があるのも違いますしね。
──なるほど。にしても、リアレンジではかなり遊びまくってますよね。「シンジテミル」あたりはその効果がかなり顕著に表れてますし。
私も「シンジテミル」はお気に入りです(笑)。もともとタイアップ(映画「インシテミル 7日間のデス・ゲーム」主題歌)ありきで怖い世界観になったんですけど、その要素をより深掘りしてもらったのが今回のアレンジで、Dメロでいきなりかわいくなるんです。ずっと真っ黒でドロドロ、ハマったら抜け出せない沼のような恐ろしい世界から急にお花畑みたいな世界になって、でも「これは夢でした!」と再び恐怖の世界に戻っていくという悪夢のような構成になっていて(笑)。こういう逆説的な表現は10代のときにはできなかったことかもしれませんし、キャリアを重ねた今だからこそ楽しむことができた曲だなと思います。
昔だったら無音に耐えられなかった
──「Belief」も完全アカペラによる歌い出しに変わっていて、より説得力が増したと思います。
「Belief」は当初、汗だくで顔をぐちゃぐちゃにしながらがむしゃらに歌っていましたが、ライブを重ねる中でどんどん変わっていった曲でもあって。ライブ感のあるアカペラから始めようというこだわりを取り入れてみました。
──ピアノのみをバックに歌う「アオゾラ」も素晴らしかったです。「Belief」のアカペラともども、20年の積み重ねによってMay'nさんがここまでさらけ出せるようになったという表れなのかなと。
確かに。「アオゾラ」は原曲よりも音数を減らして、普段ライブでお願いしてるピアニストの大坂孝之介さんと一緒に一発録りをしてみたんです。なので、テンポもちょっと揺れていますし、息を吸う音も吐く音もしっかり入っている。バラードにおいてはそういう呼吸の音も感情表現の1つだと思っているので、今回の「アオゾラ」ではそういう余白も楽しんでほしいです。
──May'nさん自身もそういう余白を楽しめるようになったと。
はい。きっと昔だったら無音に耐えられず、急にフェイクを入れたりしたと思うんですけど、余白を味わえるようになったのも20年の積み重ねがあってこそだなと実感しています。余白や無音という点に関しては、このアルバムでは曲間の秒数にもかなりこだわっていて、「ここは2秒だけど、この曲の間は3秒にしよう」とか、そういう聴き手への余韻の残し方も含めて楽しんでいただけたらなと思います。
──あと、個人的に一番やられたと思ったのが「Ready Go!」のアレンジなんですよ。かなりポップに振り切りましたよね。
ああ、うれしいです! 「Ready Go!」はもともとかわいい曲だったので、ポップな曲をよりポップにする作業はなかなか難しかったんですけど、もっと肩の力を抜いてみんなで遊んでいるような、「大丈夫だよ、そのままでいいんだよ」と言ってあげられるようなアレンジを目指しました。私はライブを“部活”と捉えていて、ステージにいる部長の私から客席にいる部員に向けて優しく声をかけてあげるような。なので、加藤さんにはまず「鼓笛隊のようなイメージで」とお伝えしたんですけど、実は鼓笛隊の解釈がいろいろあることが判明して、アレンジもこのアルバムの中で一番時間がかかってしまったんです。加藤さんと私の間でメールを7往復ぐらいして、それでも伝わらないから最終的には電話で2、3時間やりとりをしたうえで、私の中にある鼓笛隊のイメージがマーチングバンドだということがわかって。そこから軸を立て直して、今のアレンジに落ち着いたんです。
──それだけこだわりまくったアレンジなわけですね。
はい。これが新曲制作だったら「こういうアレンジもいいかも」とOKを出してしまったかもしれないけど、原曲があるうえでのリアレンジとなると目的やゴールをみんなが共有できていないと嫌だなと思って。加藤さんもそこをすごく大事にしてくださったし、私が悩んだら「なんでも言ってください。May'nさんが納得しないと今回のアルバムを作る意味がないので、何回でも直します」と言ってくださったおかげで、最後まで妥協することなく制作を進めることができました。
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