音楽ナタリー Power Push - May'n

“声の力”と歩んだ10年

リリース順に並べた曲順へのこだわり

──ベストアルバム「POWERS OF VOICE」はシングル曲を中心に10年間の軌跡をたどる内容となっていますが、改めて楽曲で10年間を振り返ったとき、ご自身としてはどのような思いがありますか?

今回はこれまでの楽曲をリリース順に並べているのが1つのこだわりなんです。私は毎回新曲をリリースするたびに、その後のライブを経て次の制作へのインスピレーションを皆さんからいただくので、一緒に過ごしてきた時間を応援してきた皆さんにも感じてもらえる流れにしたくて。自分で改めて聴き返してみると、後半になるにつれ音楽的なジャンルの幅がどんどん広がっていると感じました。ライブではミュージカルのように、曲ごとにいろんな表情の私が観られるものにしたいと考えているので、ライブを重ねるうちに自然と表現の幅が広がってきたんだと思います。

──May'nさんの場合、シングル曲はアニメや映画などのテーマソングとして制作されることが多く、映像に寄り添った楽曲を作る中でどんどん幅が広がっている印象があります。バリエーションに富んだ楽曲が、ライブを経てさらに新しい変化を生むきっかけになっていると。

はい。あとはどんどんレコーディング自体に慣れてきているなとも思いました。小さな頃からステージで歌っていたので、初めはハンドマイクで歌うほうが絶対的に慣れていたんです。だからレコーディングではスタンドマイクで棒立ちの状態で歌わなくちゃいけないというのが、最初のうちはなかなか慣れなくて。どうやったらレコーディングでもライブ感が出せるのかをずっと模索していたんですけど、1カ月に何度もワンマンライブがあるようなスケジュールをこなしていく中で、その熱量を体の中にしみ込ませた状態でレコーディングに挑んだりしているうちに、だんだんレコーディングでも自然とライブ感が出せるようになってきた気がします。順に聴いていくと、後半に行くにつれそう感じますね。

──それは時間軸に沿って並べたからこその気付きかもしれないですね。作ったときはそのときどきの新しいものを100%の力で表現しているだけなんでしょうけど、成長曲線と変化がつぶさにわかる。となると、初期の音源を聴き返すと「ここ今ならこう歌えるな」と気になるところもある?

そうですね。確かに「射手座☆午後九時Don't be late」や「ダイアモンド クレバス」は当時の私にとって新たなチャレンジで、「こんなのライブで絶対歌えない!」って言いながらレコーディングしてたんですけど(笑)、今では余裕を持って歌えているので、その分成長はしているのかなと思います。

10年ぶりのセルフカバー、10年ぶりの対面

──歴史順に25曲を並べたあとに、本名名義でリリースされた3曲のセルフカバー“May'n ver.”が収められているのも今作の大きなトピックです。これはどういう意図で?

10周年はMay'nとして以前の活動を含めてのものではあるものの、なかなか当時の音源を聴いてもらう機会はなくて。あの頃の曲をいつかライブでも歌えたらいいなという思いがあったんです。今回はせっかくの10周年アルバムだし、ということで改めてこの3曲をMay'nとして歌うことができて、ようやく10年が1つにつながったというか。47都道府県のツアー(2014年2月より約1年かけて行われたツアー「May'n Road to 10th Anniversary Japan & World Tour 2014-2015『dots and lines』」)でも、10周年とは言いながらもMay'nとしての曲しか歌っていなかったので、このあとのライブでは本名時代の曲も一緒に歌う機会があれば、これでやっと本当に10年歌ってきたんだなと実感できるんじゃないかなって。

──この3曲、編曲はそれぞれオリジナルを手がけたアレンジャーにもう1度お願いしてるんですよね。

May'n

そうなんです。デビュー曲の「Crazy Crazy Crazy」(オリジナルは2005年6月発売)は中学生のときにレコーディングをしたものなので、何もかもがわからなくて。まず大人の人にちゃんとした敬語で話すことにも緊張しているような時期だったので(笑)、現場ではほとんど発言をしなかったんです。本当に無口な子だと思われていたので、歌録りをもう1回やり直したいと思っても言えなかった。「もう1回やってみる?」って言われて初めて「はい」って答えられるみたいな。「はい」と「いいえ」でしか会話していないぐらいの感じだったんです(笑)。

──いくら子供の頃から歌っていたとはいえ、中学生が突然レコーディングの現場に放り込まれたら誰だってそうなりますよね。

そもそも「とにかく歌いたい!」という気持ちだけで歌ってきていたから、どんな歌が歌いたいか、どんな音楽がやりたいかなんて明確に言葉にできなかったし、オリジナル曲というものに対する正解がわからないんですよね。だから「どうしたい?」って言われても答えられなかったんです。でも今回こうして10年ぶりにお会いして、「こういうふうに歌ってみたいんですけど」とか「こっち試してみてもいいですか?」とディスカッションをしていたら、みんな「……大人になったねえー」って(笑)。10年やってきた実感というのもそんなになかったんですけど、10年ぶりにお会いした人と現場を共にすると「こんなこと10年前ならやってなかったかも」みたいな発見がたくさんありました。10年という時の流れが感じられるレコーディングでした。

──なるほど。ちなみに「大人になったね」以外で何か言われたことはありますか?

私は今でも人見知りだし、当時は大人の人と話すなんてできなかったから、自分から話しかけるようなことは本当になかったんです。それでスタジオではひたすらアメを食べてたんです(笑)。ひさしぶりに会ったアレンジャーさんに「あの頃めっちゃアメ食べてたよね」って言われて、「恥ずかしくてすることがないからアメなめてたんです」って10年越しで告白しました(笑)。

──10年経って変わったのは、アメをあまり食べなくなったこと(笑)。

そうです(笑)。あと最近は大人になったから周りの目も気にしなくなっちゃって、好きなアメばっかり取っちゃうようになりました(笑)。

“私のターニングポイント”を集めた自選集

──初回限定盤Bには、May'nさん自身が選りすぐった楽曲を収めた「May'n Selection Special CD」が付属します。これはどのような意図で?

10年分だからそもそも曲がたくさんありすぎて(笑)。通常盤の2枚はシングル曲(シェリル・ノーム starring May'n名義の楽曲を含む)と配信限定曲、アルバムリード曲に絞ったんですけど、それ以外にもライブでおなじみの曲や、ファンのみんなが好きだと言ってくれる曲がたくさんあるんです。もっともっとMay'nのことを知ってほしいという気持ちもありましたし、今後もたくさんライブを重ねていきたいと思ったときに、これまで私の音楽を知らなかった人にも「May'nはこんな人です」と知ってもらうにはぜひアルバム曲やシングルのカップリングも一緒に聴いてほしかったんです。

──聴いてほしい曲はたくさんあったと思うんですけど、セレクトは難航しました?

May'n

最初は「この曲を聴いておけば、今度の武道館やこれからのライブは間違いなし!」という1枚にしようと思ってたんですけど、それだとやっぱり、とてもCD1枚には収まりきれなくて。そう気付いたときに、じゃあ「私のターニングポイントになった曲」を厳選しようと思ったんです。例えば、ライブでは一緒に振り付けをしたりタオルを振り回したりしながら騒ぐタイプのナンバーがいくつかありますけど、その始まりは「Get Ready」だったんですね。ロックバラードも最近増えてきましたけど、その入口となった「Swan」だったり……そうやって数々の曲の中でも入口を作ってくれた曲を選んでいます。あとはライブでみんなと一緒に作った曲ということで、ライブのタイトルにもなった、私自身が作詞・作曲した3曲を入れました。

──最近のターニングポイントとしては、2014年リリースの4thアルバム「NEW WORLD」から、矢野博康さんが作詞・作曲・編曲を手がけた「わたしのしるし」が選ばれています。この曲はそれまでのMay'nさんにあまりなかった、さわやかな疾走感のあるポップソングですよね。

「わたしのしるし」は10周年に向けて動き始めた中で、10周年を象徴する楽曲を作っていただけたなと思っていたので、記念のアルバムだからこそ絶対に入れたいと思っていました。このCDに入っている曲を聴いて「こんな曲もあるんだ」と興味を持ってくださった方には、ぜひ過去のアルバムもさかのぼって聴いてほしいです。アルバムごとに違ったテーマを設けて作ってきたので、オリジナルアルバムで聴くとまた違った印象を感じてもらえると思います。

ベストアルバム「POWERS OF VOICE」 / 2015年8月26日発売 / FlyingDog
初回限定盤A [CD2枚組+Blu-ray] / 5400円 / VTZL-110
初回限定盤B [CD3枚組] / 4320円 / VTZL-111
通常盤 [CD2枚組] / 3240円 / VTCL-60410~1
CD収録曲
DISC 1
  1. 射手座☆午後九時Don't be late
  2. ダイアモンド クレバス
  3. ノーザンクロス
  4. May'n☆Space
  5. キミシニタモウコトナカレ
  6. Ready Go!
  7. pink monsoon
  8. ユニバーサル・バニー
  9. Grand Piano
  10. my teens, my tears
  11. 愛は降る星のごとく
  12. シンジテミル
  13. Deep Breathing
DISC 2
  1. Scarlet Ballet
  2. Brain Diver
  3. もしも君が願うのなら
  4. Chase the world
  5. アオゾラ
  6. Mr. Super Future Star
  7. HEAT of the moment
  8. Run Real Run
  9. ViViD
  10. 今日に恋色
  11. Lose My Illusions
  12. Re:REMEMBER

<Bonus Track ~May'n self-cover>

  1. Crazy Crazy Crazy -May'n ver.-
  2. Sympathy -May'n ver.-
  3. Fallin'in or Not -May'n ver.-
DISC 3「May'n Selection Special CD」
(※初回限定盤Bのみ同梱)
  1. ROCK YOUR BEATS
  2. Get Ready
  3. 誰がために
  4. standing bird
  5. Swan
  6. Phonic Nation
  7. ユズレナイ想ヒ
  8. BLUE
  9. リーベ~幻の光
  10. WHY?
  11. わたしのしるし
  12. WE ARE
Blu-ray DISC「May'n MUSIC CLIPS」収録内容
(※初回限定盤Aのみ同梱)
  1. May'n☆Space
  2. キミシニタモウコトナカレ
  3. Ready Go!
  4. シンジテミル
  5. Deep Breathing
  6. Scarlet Ballet
  7. Brain Diver
  8. もしも君が願うのなら
  9. Chase the world
  10. Mr.Super Future Star
  11. HEAT of the moment
  12. Run Real Run
  13. ViViD
  14. 今日に恋色
  15. Lose My Illusions
  16. Re:REMEMBER
10周年記念ライブ
May'n 10th Anniversary
Special Concert at Budokan
「POWERS OF VOICE」
2015年8月26日(水)東京都 日本武道館
OPEN 17:30 / START 18:30
料金:7000円
May'n(メイン)

May'n

1989年10月21日、愛知県名古屋市生まれ。幼い頃から歌手を目指し、中学生のときに「ホリプロタレントスカウトキャラバン」のファイナリストに残りデビューのきっかけをつかむ。2008年に本名から「May'n」へと改名し、同年4月より放送されたアニメ「マクロスF」で作中に登場する歌姫シェリル・ノームの歌声を担当。「シェリル・ノーム starring May'n」名義によるシングル「ダイアモンド クレバス / 射手座☆午後九時 Don't be late」が大ヒットを記録した。2010年1月には初となる日本武道館単独コンサートを開催。同年3月には初のアジアツアーを大成功に収めた。2014年2月からは2015年のデビュー10周年に向けて世界規模のツアー「May'n Road to 10th Anniversary Japan & World Tour 2014-2015『dots and lines』」を行い、日本では本人の念願だった全国47都道府県でのライブを完遂した。2015年8月に10周年記念ベスト「POWERS OF VOICE」を発表し、同タイトルの10周年記念公演「May'n 10th Anniversary Special Concert at Budokan『POWERS OF VOICE』」を東京・日本武道館で開催する。