Matt Cabが語るプロデュース業の流儀と新プロジェクトに込めた思い、目指すはカルチャーの架け橋

2021年1月にリリースしたMIYACHIとのコラボ曲「Famima Rap」や、同年11月にリリースした「超チルなラッパー(feat. とびばこ)」などがSNSを中心にバズり、大きく注目されているプロデューサー・Matt Cab。彼はオモチャの効果音や駅の構内放送など、身近にある音をサンプリングして新たな楽曲を生み出す企画・PLAYSOUNDでも話題を集め、トヨタ自動車やJAL、NIKEといった企業ともコラボを展開している。もともとR&Bシンガーとしてデビューした彼は、どのようないきさつでプロデュース業に軸足を移すことになったのか。日頃の楽曲制作の裏側やPLAYSOUNDを始めたきっかけ、さらに最近スタートさせた新プロジェクト・UBER BEATSの意図など、仕事の流儀やこだわりについて大いに語ってもらった。

取材・文 / 猪又孝撮影 / NORBERTO RUBEN

シンガーからプロデューサーへ

──Matt Cabさんは2010年にR&Bシンガーとしてデビューされましたが、近年はプロデュース業や楽曲提供が目立ちます。まずは、シンガーとしての活動からプロデュース業へと軸足を移すようになった経緯から教えてください。

R&Bシンガーになる前からものづくり全般が好きで、デビューしたときも「R&Bにハマってるから作ってみよう」という感覚だったんです。だから、もともとシンガーというよりはクリエイター志向だったんですよね。

Matt Cab

Matt Cab

──2013年にJ-POPの英語カバーを中心に収録したアルバム「ONGAKU」をリリースし話題を呼びましたが、この頃からシンガーよりもクリエイターとしての志向が強かったんですか?

当時は日本語の曲をリミックスする感覚で歌っていたんです。今はトラックで日本の曲をサンプリングしたりしているんですけど、自分としては同じことをやっている感覚で。モノを進化させることが好きなので、プロデュースという形でやっていったほうが面白いと思ったし、自然な流れでもともと自分がやりたいことに戻ってきた感じですね。

──2018年にはアメリカ出身のソングライターであるTOMAさんとTHE BACKCOURTというプロデュースチームを結成し、EP「$WISH $WISH」を発表しました。その活動がプロデュース業の転機の1つになったのでは?

振り返ると自分にとって重要なステップだったと思います。THE BACKCOURTでは、基本的に僕がトラックメイクを担当して、TOMAがソングライティング担当という役割でした。1日1曲作ることを目標にしていたんですけど、いい練習と研究になりましたね。

──プロデューサーとして影響を受けた人物はどなたですか?

昔から好きなのはカニエ・ウェストと、ファレル・ウィリアムスがいるThe Neptunesですね。カリフォルニア出身なので、もちろんドクター・ドレーとかも聴いていて影響を受けました。

──カニエはどんな部分に惹かれたんですか?

最初はサンプリングセンスにやられました。定番のソウルミュージックのピッチを上げて使ったり。チャカ・カーンの「Through the Fire」を使った「Through The Wire」を初めて聴いたときは大きな刺激を受けましたね。

──ファレルやThe Neptunesは?

ジャスティン・ティンバーレイクとかブリトニー・スピアーズとか、ポップスのアーティストを数多く手がける部分に惹かれました。ポップスのアーティストがヒップホップのアーティストとコラボする環境を作ったのはThe Neptunesだと思うんです。一見、遠い関係に思えるものでも意外とマッチするよ、という考え方には影響を受けていると思います。

アーティストに見えていない部分を作り出す

──BTS、BE:FIRST、AI、Awich、和田アキ子など、多種多様なアーティストの作品を手がけていますが、プロデュースする際はどのようなことを意識していますか?

相手のソウルな部分ですね。コアとなるところ。音楽ジャンルは洋服のファッションと同じで、あくまで表層的な部分だと思っていて。その人のコアとなる、本当の人間的な部分にポイントを置いて作るようにしています。

──プロデュース作業では、まず初めにマットさんが歌う人物をイメージしてトラックを作ることが多いんですか?

わりとラフなアイデアを最初に作ることが多いです。ただ、そのときに仕上げすぎると僕の音楽になってしまうから、音数は少ない状態で作って、相手のコアな部分を入れられるように余白を作っておくんです。

──最初にいくつくらいトラックを用意するんですか?

SKY-HIの「One More Day feat. REIKO」のときは、最初に3曲持っていきました。そこから「これもいいね」「こっちもいいね」となったので、全部を混ぜて作ったんです。相手のイメージにフォーカスして作ったものと、そのイメージを壊すために手を加えたものを同時に用意することが多いです。なぜなら、新しいものを作ることが目的だから。相手からのオーダーはもちろん大事にするんですけど、そのアーティストには見えていない部分を作り出すことも大切だと思うので。最終的に僕もアーティストも予想できなかったものを作れることが理想です。

──その観点で印象に残っているプロデュース作品は?

最近では、藤田織也やRei©hiですね。2人とも自分のアイデアが明確にあって、スムーズにセッションが進むんです。「こういうのもいいんじゃない?」「これはどう?」と僕が引っ張る感じで作業が進んでいくんですけど、2人ともチャレンジ精神があったので、ベストなものが作れたと思います。

Matt Cab

Matt Cab

──Rei©hiの「JINGI」では、「仁義なき戦いのテーマ」をサンプリングしていましたね。

最初は全然違うビートで作っていたんですけど、制作途中でお互いにしっくりこない雰囲気を感じて。新しくビートを用意してスタジオに入ったら、Rei©hiが「これをサンプリングするのはどうですか?」と、「仁義なき戦いのテーマ」のアイデアを出してくれたんです。それを新しく用意したビートに合わせてみたらバッチリで。それであの曲ができたんです。

──お互いのアイデアをハイブリッドさせることが大事だと。

そうですね。あとは、自分が納得するまで諦めない気持ちが大事だと思います。音楽はアートだから時間をかけることも大切だと思うんです。自分の感情を深く見つめなきゃならないので。藤田織也も急いで作るタイプじゃなくて、一度作ったものを持ち帰ってたくさん聴いて、いろんな気付きを得たうえで「こっちの方がいいんじゃない?」ともう1回トライする。そのトライが大事だと思います。

──マットさんは、BE:FIRSTが生まれたSKY-HI主催のオーディション「THE FIRST」のクリエイティブ審査にトラックを提供されました。審査用の課題曲を作るのは、日頃のプロデュース業と感覚が違ったのでは?

ちょっと違いました。最初はいつものように候補曲をいくつか作って、「もうちょっとエッジのあるものがいいんじゃない?」とSKY-HIと話していたんです。だけど、メンバーが制作部屋に来たときに、シンプルなトラックがみんなに響いていて。全員ソングライティングの経験はそんなにないのに、しっかりしたビジョンを持っていたのが印象的だったし、普段とは違うプロデュース作業で面白い経験でした。

息子にもたらされた再発見

──プロデュース業と平行して展開しているプロジェクト・PLAYSOUNDはどのようなきっかけで始められたんですか?

これは息子が生まれたことがきっかけですね。4歳になる息子がいるんですが、一緒に遊んでいるときに息子のリアクションを見て、改めて日常の音に気付かされたんです。例えば鳥の鳴き声を聞いたときに「今のはなんの音?」と反応するんですよ。「確かに初めて耳にしたら『なんの音?』と思うだろうな」って。

──身近にある音を再発見した、と。

そう。息子が生まれるまでは自分の見方がズームインしすぎていたのかもしれないです。それが少しズームアウトできるようになって、大袈裟に言うと、「世の中はこうなんだ」とか「人生はこうなんだ」と思うようになったんです。今目の前にあるこの木製テーブルもズームインして寄りすぎちゃうと、ただの木に見えて、テーブルだと気付かないじゃないですか。でもズームアウトすればテーブルだとわかる。そういう再発見がありました。

──「アンパンマン」のおもちゃの効果音をサンプリングしたものがPLAYSOUNDの第一弾ですか?

そうなります。ただ、THE BACKCOURTの頃から、「もっと音で遊ばないといけない」と思って、少しずつ作ってはいました。

──PLAYSOUNDで、使いやすい音 / 使いづらい音というのはあるんですか?

ドラムやパーカッションになる音は使いやすいんですけど、メロディがあるものはちょっと難しいですね。そういうときは1つの音程を拾って、それを鍵盤で振り分けてコードを作っていきます。

──メロディがあるものは、ビートメイクというより、アレンジとかマッシュアップに近い感覚ですか?

そうですね。さっきも言ったように、僕は音楽ジャンルやアレンジというのはファッションのようなものだと思っていて。だから、「この山手線の音にヒップホップっぽい洋服を着せたらこうなるんですよ」というような気持ちで作っているんです。さっき話したズームイン / アウトの話にもつながるんですけど、そういう発見をみんなにシェアしたいと思っています。

──PLAYSOUNDを始めて2年程経ちますが、日頃から周囲の音が気になって仕方なくなりそうですよね。

基本的にスイッチのオン / オフはないですね。常に身近な音が音楽にならないか試してるので、周りにいる人には少しうるさいと思われているかもしれません(笑)。例えば、今もほら(偶然、「夕焼け小焼け」のチャイムが部屋の外から聞こえ出す)。こういうのが聞こえてくると、すぐサンプリングしたくなるんです(笑)。

──あはは。やっぱり気になりますよね(笑)。

あと、テクノロジーの影響も大きいと思います。最近、BandLabというスマホのアプリを使っていて、iPhoneがあればすぐに音を録れる。録音した音は、どこで録ったどの音かわかるようにメモして、ライブラリに保存しているんですが、いっぱい溜まりすぎて容量がだんだんなくなってきました(笑)。